真実は手紙と共に

小鳥遊怜那

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サトウキビ編

本心

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 予定よりも早く売り終わったナザトとサトウキビは、祭を見て回ることにした。
「こういう祭は初めてなので、ちょっとドキドキします」
 ナザトは少し楽しそうに言う。
「私も」
「え?」
「実はここに来たのって数か月前でして。それまでずっと放浪してたんですよ」
「それは大変でしたね」
「ええ。まあ」
「なら思いっきり楽しんで、良い思い出を作りましょう」
 陽気な音楽が流れ、派手な格好をした人が踊り、行列を成している。
 知らぬ踊りに音楽。故にそれに乗ることはしなかったが、見ているだけでも十分楽しめた。

 二日目以降も売り上げは好調だった。1週間ちょっと続いた祭りも終わりを迎えた。
「売上の10パーセントは、マウセさんをはじめとする貴族に広告費として納めるとして。その他経費を除いた純利益は大体500万ゼニー。家賃替わりにカイさんに納めるのが300万ゼニー。残った200万ゼニーはサトウキビさんが自由に使っていいですよ」
「いいんですか?」
「路銀には困っていませんから」
「そうですか。ならこのお金でちょっとやりたいことをやります」
「やりたいこと?」
「そうです。植物に戻る前に遺しいものがあるんです」
「分かりました。ではそれが終わったら教えてください」

 それから3日が経った。しかしサトウキビからの報告はない。
 ――何を遺すのかは聞かないと決めた。だけど3日経っても中間報告すらない。一体何をしているのだろうか。
 翌日。
「サトウキビさん。遺したいものについての進捗はどうですか?」
「順調ですよ」
「それは良かったです。差し支えなければ拝見してもよろしいでしょうか?」
「口出ししないって、約束してくれますか?」
「約束します」
「じゃあ、着いてきてください」

 彼女に連れられて畑に着いた。
 ――そういえばこの島で畑は見たことなかったな。
「あの200万で土地を買ったんです」
「土地を」
「そこでサトウキビを植えて、育てているんですよ」
「貴方達は畑なんて使わなくても、育てられるはずですが?」
「今回は小分けにしてそうしましたけど、次からはそうはいきません。なぜなら私が消えるから」
「……そうですね」
「そこで私は考えました。砂糖およびサトウキビを根付かせるなら、島の人に育てさせればいいと」
「だからマウセさんとの交渉で、畑を作ると言ったんですね」
「この畑はそれとは別です」
「わざわざ2つ用意したんですか?」
「そろそろ来るはずですよ」
「来るって、誰が……」
 農場にやってきたのは、島の子どもたちだった。そして子どもたちは、挨拶をすると半分はすぐ、サトウキビの収穫を始めた。まず収穫に邪魔な葉を刈り取る。次に硝頭部(上の部分)を刈り取る。地際を確認し切る。残った葉を刈り取る。
 長さ3メートルにもなるサトウキビを、1メートル強の子どもたちが収穫するのはとても時間と労力がかかる。
 残った半分の子どもたちは、サトウキビが収穫されるそばから隣の建物に運んでいく。収穫されたサトウキビの茎を細かく砕いて汁を搾る。汁の中の不純物を取り除く。煮詰めて結晶を作る。結晶と結晶にならなかった溶液(糖蜜)を高速で回して糖蜜を振り分ける。こうして砂糖ができあがる。
 こちらもこちらで重労働だ。

 半日を掛けて畑1つ分の収穫、砂糖の精製が終了した。
「自然に育てる分の種も蒔いていますが、需要がある限りこちらも並行して行います」
「貴女には悪いですけど、私は旅人です。まだ行かなければならない場所があります。種を蒔いたなら後は手を引いてもらいます」
「良いんですかねぇ?」
 ――揺さぶり? 何をネタに?
「ここで働いているのは子どもだけです。それは畑作業が新しすぎて、労働として認められていないから」
「!! まさか無賃労働!?」
「大正解です」
「なんてことを!」
「言っておきますけど私は文無しです。それに仮にお金があっても払わなかったでしょうね。どうせ消えるから」
「つまりサトウキビさんは、私にこの島に農業を労働として認めさせたいということですね」
「そうとは言っていませんが、そう捉えたいならご自由に」
 ――厄介なことを押し付ける。でもきっとこれこそが彼女の本心。自分が消えてもその影響が残ること。つまり命以外の不死を目指している。さらにそのために動いてくれる存在が欲しい。そうまでしないと自信を持てないのか?
「分かりました。勝手な解釈で話を進めます。農作業をこの島に定着させてみましょう」
「期待してます」
 かくしてナザトの真の戦いが始まった。
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