真実は手紙と共に

小鳥遊怜那

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サトウキビ編

順風満帆

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 サトウキビの家。
「ただいま」
「おかえり。ってお客さんもいるのね」
 中年の女性が出迎える。
「お邪魔します。ナザトと申します。少しお話よろしいでしょうか」
「立ち話も何だし、上がってちょうだい」
「失礼します」

「お茶をどうぞ」
 出されたのは紅茶だった。
「ありがとうございます」
 一口飲む。苦い。表情に出さないようにこらえる。
「ナザトさん。砂糖無くても大丈夫?」
 サトウキビが心配する。
「ええ。大丈夫ですよ」
 声が少し上ずる。
「あら、苦いのはお好きではなかったかしら?」
「いえ、大丈夫です。それより本題に入りましょう」
「まあ貴女が大丈夫なら、いいですけど。サトウキビちゃん。ちょっと席を外してくれる?」
「はーい」
 彼女は自室に戻る。
 
「サトウキビさんは、普段ぼうっと過ごしているとお聞きしましたが、保護者からみてもそうなのですか?」
「そうですね。確かにぼうっとしてるように見えますけど、その内側はとても忙しいようですよ」
「と、言いますと?」
「昔のことを思いだして「うわああ」ってなってたり、懐かしさに殺されそうになったり、思い出し笑いしたり。顔にこそ出さないけど、心の中は表情豊かなんですよ」
「心の中……。もしかして魔道具持ってます?」
「いいえ、これは読心の魔法です」
「面白い魔法ですね。では質問しますが、彼女が一番よく考えていることを教えてください」
「家族のことですね。あの子、実家にいたころは自分にも役割があって自身を持てたみたいなんですけど、こっちに来てからは誰かに求められることが無くなって辛いみたいなんですよ」
「役割ですか」
「一応ここでは、家事の手伝いをしてもらってますが、それでは足りないみたいで」
「そうでしたか。では私に任せていただけませんか?」
「当てがあるのですか?」
「あります」
「じゃあ、お願いしようかしら」
「ありがとうございます」

 ナザトはサトウキビの部屋に入る。
「確認したいことがあります」
「確認したいこと?」
「貴女はあの時、砂糖を持ち運んでいましたが、この島に甘味の類はほぼないと言っていましたよね?」
「そうですね」
「ほぼ無いということは貴重なものであり、価値が高いはずです。しかし貴女はお金持ちという訳ではないでしょう? 何故砂糖を持っていたのですか?」
「私はサトウキビですよ。自分で生成したに決まっているじゃないですか」
「そうでしたか。ではそれを使いましょう」
「?」

 台所に立つ。
「砂糖を持っているなら飲み物に入れる以外にも、お菓子を作ることもできます。それをコーヒーや紅茶のお供にすることや、小腹が空いたときの栄養補給にもできます。この方向で貴女の存在をアピールしましょう」
「分かりました」
「今回はベイクドチーズケーキを作ります」
 まずはチーズを温め柔らかくする。薄力粉を振るっておく。窯を温めておく。
 ボウルにクリームチーズを入れ、木べらやゴムべらでよく練り、なめらかになったら砂糖を加え、泡立て器で混ぜる。
 卵を溶き、数回に分けて加え、そのつど混ぜてなじませる。
 バターを湯せんにかけて溶かし、熱いうちに加え混ぜる。
 オーブンシートを敷いた型に生地を流し、180℃の窯で約40分焼く。
 焼き上がったら型ごと常温に置いて充分粗熱をとり、約2~3時間冷やす。
 
「美味しいですね」
 サトウキビはあまり表情を変えないが、よく聞くとワントーン声が高かった。
 ――なるほど、意識してみると確かに表情豊かだ。
「半年だけですけど、一応喫茶店で働いていましたからね。作るのも慣れたものです」
「して、これを使ってどうやって存在をアピールするんですか?」
「つかぬことをお聞きしますが、この島でお祭りを開催する予定はありますか?」
「確か1か月後くらいに、島の神の生誕祭があるはずです」
「それに便乗しましょう」
「なるほど、お祭りに屋台は付き物ですもんね」
「そこでの成功を確実な物にするために、先行販売をしたいと思います」
「先行販売?」
「貴族や王族などと繋がれたらよいのですが……」
「貴族? なぜ?」
「権威を借ります。偉い人たちがよく食べてるものが、祭りでお手頃価格で売られていたら、手に取りたくなるはずです」
「なるほど。因みにこの家は、貴族の家の建築や修繕をしてますよ」
「……怖いくらいに順調ですね。では、家主が帰ってきたら貴族と会えないか聞いてみましょうか」
「はい」
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