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タマネギ編
閃き
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ナザトは一度宿に戻った。
――何を抱えているのか。他人に興味がないと言っていたから、人間関係ではないのかな? でも彼女は観光地で働いてる。人と接する機会は多いはず。まさかその中で人を嫌いになったのか? それにしても自分に関する噂すらどうでもいいと感じるのは少し変だ。
「あ」
――私の傷には、自ら消毒をしてくれた。優しさはちゃんとあるんだ。そして彼女は最初に会ったとき、サボリの注意かと勘ぐっていた。さらに、仕事中にも関らず手紙を読み始めた。優しさとサボリ。この2つは鍵になりそうだ。
ナザトは右腕に傷をつけて再びタマネギの元へ向かった。
「数時間ぶりですね」
「今度は何ですか」
ジト目でナザトを見る。
「いえね、ちょっと怪我をしてしまいまして、消毒をお願いしようかと」
「はぁ、そこまでして話をしたいんですか?」
「はて、何のことでしょう?」
「まぁ別にいいですけど」
彼女は傷を消毒する。治療者に被治療者は話しかける。
「お仕事、嫌いなんですか?」
「そういう貴方はどうなんですか?」
――はぐらかした。
「やりがいを感じていれば、嫌いにはならないとおもうんですよ。まして、サボりたくなるのは余程合わないのかと勘ぐってしまいます」
「適性で言えば、私は向いている方だと思いますし、同業者にも言われます」
「なら真面目にすればいいじゃないですか」
「適性があるのと、やりがいを感じるのは別なんですよ」
「それでも仕事には責任が生じるのですから、やはり真剣にやるべきだと思いますよ」
「説教するなら帰ってくれます?」
手当はとっくに終わっている。
「今日はそうします」
「もう来なくていいです」
――しくじったー。距離感を掴み損ねた。でも収穫が全くないわけではない。仕事が嫌いな理由こそが、彼女の抱える問題なんだ。だからはぐらかしたんだ。だったら、ミイラ作成師の仕事について調べよう。
翌日。
ミイラ作りの見学に行くことにした。
「本日はよろしくお願いします」
「はい、よろしく」
以下、見学の流れ。
⒈まず死体を洗う。⒉腹部を切り開いて内臓を取り出す。内臓は壺に入れて防腐処理をする。⒊塩や樹脂を使って脱水。⒋乾燥した体が崩れないように、布やおがくず、樹脂などを体の中に詰め、元の形に整える。⒌包帯で巻く⒍装飾品を棺に入れて埋葬。
「この仕事をやるうえでのポイントとかってありますか?」
「とにかく防腐作業を徹底することかな。腐っちゃうと魂が肉体に戻ったとき、すぐに動けなくなっちゃうからね」
「それは確かに慎重になりますね」
「タマネギさんは防腐の能力を持っているから、ウチのエースだよ」
「防腐の能力?」
「うん。彼女、消毒と防腐の能力を持ってるんだよ。死んでから比較的時間が経ったものや、遺体に損傷があるときは彼女に任せているんだ」
「そうなんですね。でも彼女はこの仕事をあまり好いてはいないようですけど」
「あー。それねー。彼女も最初はやる気に満ちてたんだけどねー。やっぱあの事故が関係してるのかなー」
「あの事故とは?」
「前にね、建設中のピラミッドが崩壊したことがあるんだよ」
「ピラミッドが」
「そう。石の固定が甘かったみたいでね。その時作業してた人は、彼女を除いて死んだんだよ」
「それは、辛いでしょうね」
「それでも給料は貰っているんだから、ちゃんと働いてほしいよね」
「はは。そうですね」
見学が終わりピラミッドから出る。
――職場の仲間の死か。確かに心に傷を残すだろうけど、それがあの仕事を嫌う理由にはならない気がする。それでもあの続けているからだ。もっと深い絶望があるはず。
ナザトは考える。
魂は戻って来る。防腐した肉体が必要。ピラミッド崩壊の事故。助かったのは彼女だけ。
「そうか」
――予想は出来た。答えてくれるとは思わないけど、今から彼女に聞きに行こう。
――何を抱えているのか。他人に興味がないと言っていたから、人間関係ではないのかな? でも彼女は観光地で働いてる。人と接する機会は多いはず。まさかその中で人を嫌いになったのか? それにしても自分に関する噂すらどうでもいいと感じるのは少し変だ。
「あ」
――私の傷には、自ら消毒をしてくれた。優しさはちゃんとあるんだ。そして彼女は最初に会ったとき、サボリの注意かと勘ぐっていた。さらに、仕事中にも関らず手紙を読み始めた。優しさとサボリ。この2つは鍵になりそうだ。
ナザトは右腕に傷をつけて再びタマネギの元へ向かった。
「数時間ぶりですね」
「今度は何ですか」
ジト目でナザトを見る。
「いえね、ちょっと怪我をしてしまいまして、消毒をお願いしようかと」
「はぁ、そこまでして話をしたいんですか?」
「はて、何のことでしょう?」
「まぁ別にいいですけど」
彼女は傷を消毒する。治療者に被治療者は話しかける。
「お仕事、嫌いなんですか?」
「そういう貴方はどうなんですか?」
――はぐらかした。
「やりがいを感じていれば、嫌いにはならないとおもうんですよ。まして、サボりたくなるのは余程合わないのかと勘ぐってしまいます」
「適性で言えば、私は向いている方だと思いますし、同業者にも言われます」
「なら真面目にすればいいじゃないですか」
「適性があるのと、やりがいを感じるのは別なんですよ」
「それでも仕事には責任が生じるのですから、やはり真剣にやるべきだと思いますよ」
「説教するなら帰ってくれます?」
手当はとっくに終わっている。
「今日はそうします」
「もう来なくていいです」
――しくじったー。距離感を掴み損ねた。でも収穫が全くないわけではない。仕事が嫌いな理由こそが、彼女の抱える問題なんだ。だからはぐらかしたんだ。だったら、ミイラ作成師の仕事について調べよう。
翌日。
ミイラ作りの見学に行くことにした。
「本日はよろしくお願いします」
「はい、よろしく」
以下、見学の流れ。
⒈まず死体を洗う。⒉腹部を切り開いて内臓を取り出す。内臓は壺に入れて防腐処理をする。⒊塩や樹脂を使って脱水。⒋乾燥した体が崩れないように、布やおがくず、樹脂などを体の中に詰め、元の形に整える。⒌包帯で巻く⒍装飾品を棺に入れて埋葬。
「この仕事をやるうえでのポイントとかってありますか?」
「とにかく防腐作業を徹底することかな。腐っちゃうと魂が肉体に戻ったとき、すぐに動けなくなっちゃうからね」
「それは確かに慎重になりますね」
「タマネギさんは防腐の能力を持っているから、ウチのエースだよ」
「防腐の能力?」
「うん。彼女、消毒と防腐の能力を持ってるんだよ。死んでから比較的時間が経ったものや、遺体に損傷があるときは彼女に任せているんだ」
「そうなんですね。でも彼女はこの仕事をあまり好いてはいないようですけど」
「あー。それねー。彼女も最初はやる気に満ちてたんだけどねー。やっぱあの事故が関係してるのかなー」
「あの事故とは?」
「前にね、建設中のピラミッドが崩壊したことがあるんだよ」
「ピラミッドが」
「そう。石の固定が甘かったみたいでね。その時作業してた人は、彼女を除いて死んだんだよ」
「それは、辛いでしょうね」
「それでも給料は貰っているんだから、ちゃんと働いてほしいよね」
「はは。そうですね」
見学が終わりピラミッドから出る。
――職場の仲間の死か。確かに心に傷を残すだろうけど、それがあの仕事を嫌う理由にはならない気がする。それでもあの続けているからだ。もっと深い絶望があるはず。
ナザトは考える。
魂は戻って来る。防腐した肉体が必要。ピラミッド崩壊の事故。助かったのは彼女だけ。
「そうか」
――予想は出来た。答えてくれるとは思わないけど、今から彼女に聞きに行こう。
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