9 / 35
トウガラシ編
出港
しおりを挟む
「姐御ぉ!」
海賊たちは海に落ちたトウガラシを探す。船に着いた火は鎮火済みである。だが、穴が開いていることに変わりないので、ゆっくりしか移動できない。
「クソッ、じれってーな」
「これ以上早めれば穴が広がる。仕方ねーだろ」
水面に泡が湧く。
「あそこ、きっとトウガラシさんがいるのでは?」
ナザトが発見する。
「でかした」
船が近づくと、トウガラシが顔を出した。その手には財宝が抱えられていた。
彼女を船に乗せる。
「ふー。死ぬかと思ったぜ」
「それはこっちのセリフですよ」
「何で財宝なんか集めてたんですか。姐御」
「ああ。これはな、私がネニスに来るときの船に乗せていた貿易品なんだよ」
「⁉」
「私が船員を集めるとき、海中の財宝を見つけるように課題をだすだろ? それはこの貿易品を少しでも回収したかったからなんだ」
「そうだったんですね。私が見つけた錆びない刀は、貿易品でしたか?」
「いや、それは違った。だからあれはお前の物にしてくれ」
「分かりました」
「よし。じゃあ神父。鎮魂の祈りを頼む」
「かしこまりました」
トウガラシは海を眺めている。
――船長。皆。やっと終わったよ。あの時の貿易品も回収出来た。私も町に戻ったら、皆のところに行くよ。もうちょい待っててくれ。
祈りが終わった。
海賊団はネニスに帰ってきた。酒場で祝杯を挙げる。
「ここは私の奢りだ! じゃんじゃん飲め! 乾杯!」
「「乾杯!」」
「それにしても、船長が烏賊の口ん中入ってったときはヒヤッとしたぜ」
「ああ。仮に口内で防御魔法が砕けても、私は食われないから安心しろ」
「なんで奴は船長は食わなかったんでしょうね?」
「私が魔道具由来の生き物だからだろ。同種なんて食らいたくはないんだろうよ」
「同族だなんてとんでもない。姐さんは俺たちの船長で仲間だ。そうだろ? お前ら」
「当り前よ」
「そうだぜ。姐御は俺たち側の人間だぜ」
そんなこんなで盛り上がった。円もたけなわ。海賊たちは解散した。
「ナザト。改めて例を言うよ。私たちの船に来てくれて、魔物と戦ってくれて、本当にありがとう。お陰で本懐を遂げられた」
「こちらこそ、いい経験が出来ました。ありがとうございます」
「もう思い残すことはない。やってくれ」
「はい」
彼女はトウガラシに魔道具を被せ、元の植物に戻した。
――4人目。ここに来てから約6日。思ったより早く済んだ。でもまだ先は長い。あと10人。彼女たちはどんな問題を抱えているのだろうか。まあ何であれ、1人1人真剣に向き合うだけだ。
翌日。ナザトは港に来ていた。
――海町に来たんだから、船で移動しないと勿体ないよね。
彼女は船で次の目的地に向かっている。そこはオツピジェ。数時間で着く。
「おーい!」
「トウガラシ海賊団の皆さん」
「船長はもういない」
「そこであんたに船長の座を譲ろうって話になったんだが……」
「ごめんなさい。私にはやることがありますから」
「ありゃー。断られたかー」
海賊たちは緩い反応をする。
「何というか。平時は緩いんですね」
「仲間の前だからだよ」
「仲間……。そうですね。私たちは仲間ですもんね」
「おうよ。だから困ったことがあったらいつでもここに来い」
「頭の片隅にでも入れておきます」
汽笛が鳴る。
「引き留めて悪かったな。じゃあ元気でな」
「皆さんも」
手を振って分かれる。姿が見えなくなるまで手を振る。それは彼らの、分かれたくない気持ちの表れだ。しかし分かれなければならない。彼らには別々の生活があるのだから。
海賊たちは海に落ちたトウガラシを探す。船に着いた火は鎮火済みである。だが、穴が開いていることに変わりないので、ゆっくりしか移動できない。
「クソッ、じれってーな」
「これ以上早めれば穴が広がる。仕方ねーだろ」
水面に泡が湧く。
「あそこ、きっとトウガラシさんがいるのでは?」
ナザトが発見する。
「でかした」
船が近づくと、トウガラシが顔を出した。その手には財宝が抱えられていた。
彼女を船に乗せる。
「ふー。死ぬかと思ったぜ」
「それはこっちのセリフですよ」
「何で財宝なんか集めてたんですか。姐御」
「ああ。これはな、私がネニスに来るときの船に乗せていた貿易品なんだよ」
「⁉」
「私が船員を集めるとき、海中の財宝を見つけるように課題をだすだろ? それはこの貿易品を少しでも回収したかったからなんだ」
「そうだったんですね。私が見つけた錆びない刀は、貿易品でしたか?」
「いや、それは違った。だからあれはお前の物にしてくれ」
「分かりました」
「よし。じゃあ神父。鎮魂の祈りを頼む」
「かしこまりました」
トウガラシは海を眺めている。
――船長。皆。やっと終わったよ。あの時の貿易品も回収出来た。私も町に戻ったら、皆のところに行くよ。もうちょい待っててくれ。
祈りが終わった。
海賊団はネニスに帰ってきた。酒場で祝杯を挙げる。
「ここは私の奢りだ! じゃんじゃん飲め! 乾杯!」
「「乾杯!」」
「それにしても、船長が烏賊の口ん中入ってったときはヒヤッとしたぜ」
「ああ。仮に口内で防御魔法が砕けても、私は食われないから安心しろ」
「なんで奴は船長は食わなかったんでしょうね?」
「私が魔道具由来の生き物だからだろ。同種なんて食らいたくはないんだろうよ」
「同族だなんてとんでもない。姐さんは俺たちの船長で仲間だ。そうだろ? お前ら」
「当り前よ」
「そうだぜ。姐御は俺たち側の人間だぜ」
そんなこんなで盛り上がった。円もたけなわ。海賊たちは解散した。
「ナザト。改めて例を言うよ。私たちの船に来てくれて、魔物と戦ってくれて、本当にありがとう。お陰で本懐を遂げられた」
「こちらこそ、いい経験が出来ました。ありがとうございます」
「もう思い残すことはない。やってくれ」
「はい」
彼女はトウガラシに魔道具を被せ、元の植物に戻した。
――4人目。ここに来てから約6日。思ったより早く済んだ。でもまだ先は長い。あと10人。彼女たちはどんな問題を抱えているのだろうか。まあ何であれ、1人1人真剣に向き合うだけだ。
翌日。ナザトは港に来ていた。
――海町に来たんだから、船で移動しないと勿体ないよね。
彼女は船で次の目的地に向かっている。そこはオツピジェ。数時間で着く。
「おーい!」
「トウガラシ海賊団の皆さん」
「船長はもういない」
「そこであんたに船長の座を譲ろうって話になったんだが……」
「ごめんなさい。私にはやることがありますから」
「ありゃー。断られたかー」
海賊たちは緩い反応をする。
「何というか。平時は緩いんですね」
「仲間の前だからだよ」
「仲間……。そうですね。私たちは仲間ですもんね」
「おうよ。だから困ったことがあったらいつでもここに来い」
「頭の片隅にでも入れておきます」
汽笛が鳴る。
「引き留めて悪かったな。じゃあ元気でな」
「皆さんも」
手を振って分かれる。姿が見えなくなるまで手を振る。それは彼らの、分かれたくない気持ちの表れだ。しかし分かれなければならない。彼らには別々の生活があるのだから。
1
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる