真実は手紙と共に

小鳥遊怜那

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トウガラシ編

出港

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「姐御ぉ!」
 海賊たちは海に落ちたトウガラシを探す。船に着いた火は鎮火済みである。だが、穴が開いていることに変わりないので、ゆっくりしか移動できない。
「クソッ、じれってーな」
「これ以上早めれば穴が広がる。仕方ねーだろ」
 水面に泡が湧く。
「あそこ、きっとトウガラシさんがいるのでは?」
 ナザトが発見する。
「でかした」
 船が近づくと、トウガラシが顔を出した。その手には財宝が抱えられていた。

 彼女を船に乗せる。
「ふー。死ぬかと思ったぜ」
「それはこっちのセリフですよ」
「何で財宝なんか集めてたんですか。姐御」
「ああ。これはな、私がネニスに来るときの船に乗せていた貿易品なんだよ」
「⁉」
「私が船員を集めるとき、海中の財宝を見つけるように課題をだすだろ? それはこの貿易品を少しでも回収したかったからなんだ」
「そうだったんですね。私が見つけた錆びない刀は、貿易品でしたか?」
「いや、それは違った。だからあれはお前の物にしてくれ」
「分かりました」
「よし。じゃあ神父。鎮魂の祈りを頼む」
「かしこまりました」
 トウガラシは海を眺めている。
 ――船長。皆。やっと終わったよ。あの時の貿易品も回収出来た。私も町に戻ったら、皆のところに行くよ。もうちょい待っててくれ。
 祈りが終わった。

 海賊団はネニスに帰ってきた。酒場で祝杯を挙げる。
「ここは私の奢りだ! じゃんじゃん飲め! 乾杯!」
「「乾杯!」」
「それにしても、船長が烏賊の口ん中入ってったときはヒヤッとしたぜ」
「ああ。仮に口内で防御魔法が砕けても、私は食われないから安心しろ」
「なんで奴は船長は食わなかったんでしょうね?」
「私が魔道具由来の生き物だからだろ。同種なんて食らいたくはないんだろうよ」
「同族だなんてとんでもない。姐さんは俺たちの船長で仲間だ。そうだろ? お前ら」
「当り前よ」
「そうだぜ。姐御は俺たち側の人間だぜ」
 そんなこんなで盛り上がった。円もたけなわ。海賊たちは解散した。

「ナザト。改めて例を言うよ。私たちの船に来てくれて、魔物と戦ってくれて、本当にありがとう。お陰で本懐を遂げられた」
「こちらこそ、いい経験が出来ました。ありがとうございます」
「もう思い残すことはない。やってくれ」
「はい」
 彼女はトウガラシに魔道具を被せ、元の植物に戻した。
 ――4人目。ここに来てから約6日。思ったより早く済んだ。でもまだ先は長い。あと10人。彼女たちはどんな問題を抱えているのだろうか。まあ何であれ、1人1人真剣に向き合うだけだ。

 翌日。ナザトは港に来ていた。
 ――海町に来たんだから、船で移動しないと勿体ないよね。
 彼女は船で次の目的地に向かっている。そこはオツピジェ。数時間で着く。
「おーい!」
「トウガラシ海賊団の皆さん」
「船長はもういない」
「そこであんたに船長の座を譲ろうって話になったんだが……」
「ごめんなさい。私にはやることがありますから」
「ありゃー。断られたかー」
 海賊たちは緩い反応をする。
「何というか。平時は緩いんですね」
「仲間の前だからだよ」
「仲間……。そうですね。私たちは仲間ですもんね」
「おうよ。だから困ったことがあったらいつでもここに来い」
「頭の片隅にでも入れておきます」
 汽笛が鳴る。
「引き留めて悪かったな。じゃあ元気でな」
「皆さんも」
 手を振って分かれる。姿が見えなくなるまで手を振る。それは彼らの、分かれたくない気持ちの表れだ。しかし分かれなければならない。彼らには別々の生活があるのだから。
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