真実は手紙と共に

小鳥遊怜那

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トウガラシ編

死闘

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 酒場から出たナザトは思案する。
 ――大物がいそうな場所は見当がついた。問題はどうやって船に乗るか。信頼を得るのが一番だけど、それには時間がかかる。でも今は時間がない。金で乗せてくれるところを探すしかないか。
 彼女はいくつかの船乗りに声をかけた。一件を除き、全ての水夫は断った。
「娘っ子よ。船に乗るのは構わねーが、安くはねーぞ」
50万これでどうですか?」
「ハハッ。金もそうだが、命の話さ。こっちは十分なチームワークがある。そこによそ者が入ろうってんだ。足を引っ張るのは目に見えてる。何かあっても俺たちは俺たちのことを優先する。テメーの命はテメーで守れってことだぜ」
「問題ありません」
「なら明日23時に港へ来い。遅刻したら料金割り増しだからな」

 現在時間は13時。あと10時間。ナザトは昼食を摂り、準備を整えたらすぐに寝ることにした。
 そして来る23時。彼女は船に乗っている。
「よくぞ来た。ここからは自己責任の時間だ。準備は万端か?」
「ええ」
 魚用の銛、海中探索用の水着、ゴーグル、空気を入れた筒etc。速攻で釣って探索に入る。
 そう思いながら船に揺られること約2時間。目的のイレズ海峡に着いた。
「今から網を張る。いつでも引き上げられるように気ぃ引き締めろ」
「おう!」
 船員たちは配置に着く。ナザトは丁度いい場所を探す。しかし見つからない。
「おい、そこの。あんまりウロチョロするんじゃねー」
「すみません。場所を探していて」
「じゃあもうそこで大人しくしてろ」
 そう言われてしまっては大人しくするしか他にない。

 待つことおよそ1時間。網を引き揚げる。その時、グッと船が揺れる。大物がかかったのだ。まだ生きている。魚は網から逃れようと藻掻く。
「こっちだ! 皆集まれ!」
 水夫たちが集まり、大人数で網を引っ張る。ナザトも協力する。
 魚影はまだ見えない。深くにいるのだ。
「この重さ。5メートルはあるぞ」
 男の一人がそう言う。
 ――酒場で聞いていたのが3メートル。それが300キロほどの重さと言っていた。5メートルならば何キロだ? 数百キロもある獲物なんて引き揚げられるのか?
 なんて考えている余裕はない。網が徐々に水中へ引っ張られている。
「おら気合入れろ!」
 船長が発破をかける。それでも現状は変わらない。魔法を使えば簡単に止めを刺せるが、それでは魚は売り物にはならない。ならば身体強化の魔法だ。
「魔法を使って皆さんを強化します! 一度手を離しますが耐えてください!」
 ナザトは魔法を使い、全員を強化する。
「おー。力がみなぎってくる」
 乗組員が感心する。
 丁度魚が力を緩めた。
「そーれ、引っ張れ!」
 グゥゥッと引っ張る。大物の姿が見えた。巨大なエイだ。
「見えた! おい嬢ちゃん! 銛で奴の腹を突け!」
「はい!」
 ソォラ!と腹を突く。魚の腹から血が流れる。
「手ぇ離すなよ!」
「分かってます!」

 引き揚げ始めて1時間。午前3時。エイとの死闘は人間の勝利で幕を閉じた。
「あ”ー。終わったー」
 漁師たちは息をつく。しかし一瞬だ。ここからは海賊の時間だ。ナザトにとってもここからが本番。気を引き締める。
「金属探知の魔法に反応はありましたか?」
「ああ、あるぜ。だが深いぞ。約115メートルだ」
「大丈夫です。空気を入れた筒があるので、息の方は問題ありません」
「だが安心は出来んぞ。こんな巨大な魚がいた領域だ。他にもデカいのが泳いでるかもしれん」
「釣りが目的じゃないなら魔法は使い放題です。むしろ楽勝ですよ」
 そういって彼女は海に潜る。
 ――ちょっと濁ってるな。当然か。あんな大きいのが暴れた後だもんね。
 10メートル、20、50と順調に潜っていく。そして110メートルに到達したところで問題が発生した。

 暗い視界の横から水生の魔物が襲ってきた。
 ――しまった!
 直撃は避けられた。しかし筒が壊れた。
 ――まずい。私の呼吸は1分半弱しか持たない。速攻でこいつを倒して急いで財宝を回収しなきゃ。視界が悪い。けどかろうじて魔力は感じる。
 ナザトは手元の水を氷魔法で槍状にし、魔力を感じる方へ発射する。
 遠くの方で水の青に、血の赤が混ざるのが確認できた。そしてそれがこちらに近づいてくるのも分かった。
 ――炎は出せなくても熱は出る。プチ氷炎。
 魔物に刺さった氷は奴の体内の空気を冷やした。そこに熱を送り空気を膨張させ、小さな爆発を起こした。
 ――魔物は狩った。急いで潜らないと。
 急いで潜る。そこには輝きを失っていない、槍があった。
 ――これが財宝と呼べるかは分からない。でも何か持って帰らないと。
 100メートル、90、70、50。息が持たない。意識が薄れていく。腕に何かが巻き付く。そこで意識が途切れた。
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