6 / 35
トウガラシ編
死闘
しおりを挟む
酒場から出たナザトは思案する。
――大物がいそうな場所は見当がついた。問題はどうやって船に乗るか。信頼を得るのが一番だけど、それには時間がかかる。でも今は時間がない。金で乗せてくれるところを探すしかないか。
彼女はいくつかの船乗りに声をかけた。一件を除き、全ての水夫は断った。
「娘っ子よ。船に乗るのは構わねーが、安くはねーぞ」
「50万でどうですか?」
「ハハッ。金もそうだが、命の話さ。こっちは十分なチームワークがある。そこによそ者が入ろうってんだ。足を引っ張るのは目に見えてる。何かあっても俺たちは俺たちのことを優先する。テメーの命はテメーで守れってことだぜ」
「問題ありません」
「なら明日23時に港へ来い。遅刻したら料金割り増しだからな」
現在時間は13時。あと10時間。ナザトは昼食を摂り、準備を整えたらすぐに寝ることにした。
そして来る23時。彼女は船に乗っている。
「よくぞ来た。ここからは自己責任の時間だ。準備は万端か?」
「ええ」
魚用の銛、海中探索用の水着、ゴーグル、空気を入れた筒etc。速攻で釣って探索に入る。
そう思いながら船に揺られること約2時間。目的のイレズ海峡に着いた。
「今から網を張る。いつでも引き上げられるように気ぃ引き締めろ」
「おう!」
船員たちは配置に着く。ナザトは丁度いい場所を探す。しかし見つからない。
「おい、そこの。あんまりウロチョロするんじゃねー」
「すみません。場所を探していて」
「じゃあもうそこで大人しくしてろ」
そう言われてしまっては大人しくするしか他にない。
待つことおよそ1時間。網を引き揚げる。その時、グッと船が揺れる。大物がかかったのだ。まだ生きている。魚は網から逃れようと藻掻く。
「こっちだ! 皆集まれ!」
水夫たちが集まり、大人数で網を引っ張る。ナザトも協力する。
魚影はまだ見えない。深くにいるのだ。
「この重さ。5メートルはあるぞ」
男の一人がそう言う。
――酒場で聞いていたのが3メートル。それが300キロほどの重さと言っていた。5メートルならば何キロだ? 数百キロもある獲物なんて引き揚げられるのか?
なんて考えている余裕はない。網が徐々に水中へ引っ張られている。
「おら気合入れろ!」
船長が発破をかける。それでも現状は変わらない。魔法を使えば簡単に止めを刺せるが、それでは魚は売り物にはならない。ならば身体強化の魔法だ。
「魔法を使って皆さんを強化します! 一度手を離しますが耐えてください!」
ナザトは魔法を使い、全員を強化する。
「おー。力がみなぎってくる」
乗組員が感心する。
丁度魚が力を緩めた。
「そーれ、引っ張れ!」
グゥゥッと引っ張る。大物の姿が見えた。巨大なエイだ。
「見えた! おい嬢ちゃん! 銛で奴の腹を突け!」
「はい!」
ソォラ!と腹を突く。魚の腹から血が流れる。
「手ぇ離すなよ!」
「分かってます!」
引き揚げ始めて1時間。午前3時。エイとの死闘は人間の勝利で幕を閉じた。
「あ”ー。終わったー」
漁師たちは息をつく。しかし一瞬だ。ここからは海賊の時間だ。ナザトにとってもここからが本番。気を引き締める。
「金属探知の魔法に反応はありましたか?」
「ああ、あるぜ。だが深いぞ。約115メートルだ」
「大丈夫です。空気を入れた筒があるので、息の方は問題ありません」
「だが安心は出来んぞ。こんな巨大な魚がいた領域だ。他にもデカいのが泳いでるかもしれん」
「釣りが目的じゃないなら魔法は使い放題です。むしろ楽勝ですよ」
そういって彼女は海に潜る。
――ちょっと濁ってるな。当然か。あんな大きいのが暴れた後だもんね。
10メートル、20、50と順調に潜っていく。そして110メートルに到達したところで問題が発生した。
暗い視界の横から水生の魔物が襲ってきた。
――しまった!
直撃は避けられた。しかし筒が壊れた。
――まずい。私の呼吸は1分半弱しか持たない。速攻でこいつを倒して急いで財宝を回収しなきゃ。視界が悪い。けどかろうじて魔力は感じる。
ナザトは手元の水を氷魔法で槍状にし、魔力を感じる方へ発射する。
遠くの方で水の青に、血の赤が混ざるのが確認できた。そしてそれがこちらに近づいてくるのも分かった。
――炎は出せなくても熱は出る。プチ氷炎。
魔物に刺さった氷は奴の体内の空気を冷やした。そこに熱を送り空気を膨張させ、小さな爆発を起こした。
――魔物は狩った。急いで潜らないと。
急いで潜る。そこには輝きを失っていない、槍があった。
――これが財宝と呼べるかは分からない。でも何か持って帰らないと。
100メートル、90、70、50。息が持たない。意識が薄れていく。腕に何かが巻き付く。そこで意識が途切れた。
――大物がいそうな場所は見当がついた。問題はどうやって船に乗るか。信頼を得るのが一番だけど、それには時間がかかる。でも今は時間がない。金で乗せてくれるところを探すしかないか。
彼女はいくつかの船乗りに声をかけた。一件を除き、全ての水夫は断った。
「娘っ子よ。船に乗るのは構わねーが、安くはねーぞ」
「50万でどうですか?」
「ハハッ。金もそうだが、命の話さ。こっちは十分なチームワークがある。そこによそ者が入ろうってんだ。足を引っ張るのは目に見えてる。何かあっても俺たちは俺たちのことを優先する。テメーの命はテメーで守れってことだぜ」
「問題ありません」
「なら明日23時に港へ来い。遅刻したら料金割り増しだからな」
現在時間は13時。あと10時間。ナザトは昼食を摂り、準備を整えたらすぐに寝ることにした。
そして来る23時。彼女は船に乗っている。
「よくぞ来た。ここからは自己責任の時間だ。準備は万端か?」
「ええ」
魚用の銛、海中探索用の水着、ゴーグル、空気を入れた筒etc。速攻で釣って探索に入る。
そう思いながら船に揺られること約2時間。目的のイレズ海峡に着いた。
「今から網を張る。いつでも引き上げられるように気ぃ引き締めろ」
「おう!」
船員たちは配置に着く。ナザトは丁度いい場所を探す。しかし見つからない。
「おい、そこの。あんまりウロチョロするんじゃねー」
「すみません。場所を探していて」
「じゃあもうそこで大人しくしてろ」
そう言われてしまっては大人しくするしか他にない。
待つことおよそ1時間。網を引き揚げる。その時、グッと船が揺れる。大物がかかったのだ。まだ生きている。魚は網から逃れようと藻掻く。
「こっちだ! 皆集まれ!」
水夫たちが集まり、大人数で網を引っ張る。ナザトも協力する。
魚影はまだ見えない。深くにいるのだ。
「この重さ。5メートルはあるぞ」
男の一人がそう言う。
――酒場で聞いていたのが3メートル。それが300キロほどの重さと言っていた。5メートルならば何キロだ? 数百キロもある獲物なんて引き揚げられるのか?
なんて考えている余裕はない。網が徐々に水中へ引っ張られている。
「おら気合入れろ!」
船長が発破をかける。それでも現状は変わらない。魔法を使えば簡単に止めを刺せるが、それでは魚は売り物にはならない。ならば身体強化の魔法だ。
「魔法を使って皆さんを強化します! 一度手を離しますが耐えてください!」
ナザトは魔法を使い、全員を強化する。
「おー。力がみなぎってくる」
乗組員が感心する。
丁度魚が力を緩めた。
「そーれ、引っ張れ!」
グゥゥッと引っ張る。大物の姿が見えた。巨大なエイだ。
「見えた! おい嬢ちゃん! 銛で奴の腹を突け!」
「はい!」
ソォラ!と腹を突く。魚の腹から血が流れる。
「手ぇ離すなよ!」
「分かってます!」
引き揚げ始めて1時間。午前3時。エイとの死闘は人間の勝利で幕を閉じた。
「あ”ー。終わったー」
漁師たちは息をつく。しかし一瞬だ。ここからは海賊の時間だ。ナザトにとってもここからが本番。気を引き締める。
「金属探知の魔法に反応はありましたか?」
「ああ、あるぜ。だが深いぞ。約115メートルだ」
「大丈夫です。空気を入れた筒があるので、息の方は問題ありません」
「だが安心は出来んぞ。こんな巨大な魚がいた領域だ。他にもデカいのが泳いでるかもしれん」
「釣りが目的じゃないなら魔法は使い放題です。むしろ楽勝ですよ」
そういって彼女は海に潜る。
――ちょっと濁ってるな。当然か。あんな大きいのが暴れた後だもんね。
10メートル、20、50と順調に潜っていく。そして110メートルに到達したところで問題が発生した。
暗い視界の横から水生の魔物が襲ってきた。
――しまった!
直撃は避けられた。しかし筒が壊れた。
――まずい。私の呼吸は1分半弱しか持たない。速攻でこいつを倒して急いで財宝を回収しなきゃ。視界が悪い。けどかろうじて魔力は感じる。
ナザトは手元の水を氷魔法で槍状にし、魔力を感じる方へ発射する。
遠くの方で水の青に、血の赤が混ざるのが確認できた。そしてそれがこちらに近づいてくるのも分かった。
――炎は出せなくても熱は出る。プチ氷炎。
魔物に刺さった氷は奴の体内の空気を冷やした。そこに熱を送り空気を膨張させ、小さな爆発を起こした。
――魔物は狩った。急いで潜らないと。
急いで潜る。そこには輝きを失っていない、槍があった。
――これが財宝と呼べるかは分からない。でも何か持って帰らないと。
100メートル、90、70、50。息が持たない。意識が薄れていく。腕に何かが巻き付く。そこで意識が途切れた。
1
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる