真実は手紙と共に

小鳥遊怜那

文字の大きさ
上 下
5 / 35
トウガラシ編

画策

しおりを挟む
 ダイズを畑に埋めた後、ナザトはダイズ宛の手紙と彼女の服を回収した。
 ダイズの部屋に行き、物を置いた時だった。食器を回収しに来たオーナーテツと鉢合わせてしまった。
「誰⁉」
「この宿に泊まってるナザトです」
「ああ、お客様ですか。いや、なんでここに居るんですか? 従業員用の部屋ですよ」
「この部屋の住人の荷物を届けに来たんです」
「意味が分かりませんが」
「とりあえず、ダイズさんからの手紙を読んでください」
 机には彼女からの手紙が置いてあった。オーナーはそれを読む。
 彼は泣いた。
「バカ野郎。俺は畑のこととか分かんねーっての」
「彼女の遺したものはこの町を支え続けます。そうしたいと思えるほど愛に満ちたこの町を、私は羨ましく思います。どうかこれからも愛情の輪を繋ぎとめてください」
「勿論だ」

 昼食を食べて、ナザトはこの宿を出る。
 まさか10日ほどここに滞在することになるとは思わなかった。でもそれだけの価値はあった。これからも彼女たちの満足の支えにならなきゃと認識出来た。まあ、宿泊費で7万ゼニーかかるとは思わなかったけど。といってもお金は十分にある。金より彼女たちの満足だ。その意識は忘れずいよう。
 さて、次はさらに南。南アニサ海付近、ネニスが近い。相手はトウガラシ。どんな人だか。

 4日後早朝、彼女はネニスに着いた。
 ――まずはトウガラシの情報を集めよう。
 よそ者は情報が手に入りそうな場所を探す。手始めにさかな市場に行ってみる。鯛、マグロ、蛸、鮫etc。新鮮な魚が安価で売られている。
 ――おお、凄い。山育ちだから川魚以外は初めて見るなぁ。活気に満ちているし、楽しい町だな。
「お嬢ちゃん、見ない顔だね。旅人かい?」
「そんなところです」
「捌いてあげるから買っていってよ」
「じゃあ、このブリってやつを一尾ください」
「まいどあり」
 ナザトは店主の厚意を受け、捌きたての刺身を食べる。
「うわ美味しい」
「だろ?」
「コリっとした弾力があって、噛むたびに甘味とうまみがにじみ出てくる」
「いい反応してくれるねぇ」
「ここでは、いつもこんなに美味しいものが食べられるんですか?」
「まあな。それもトウガラシさんのお陰だよ」
「トウガラシ⁉ 今その人何処にいるか分かりますか?」
「うん? さっき海から戻ってきたから、近くの酒場にいると思うぞ」
「ありがとうございます。私行きますね。魚、ご馳走さまでした」
 彼女は市場を後にする。
 
 酒場に入る。そこには粗暴な男たちが酒盛りをしていた。
 ――声デッカ。さっきのとこより煩い。
 そんなことを考えながら店を見渡していると、店主が声をかける。
「嬢ちゃん、まだ飲める年じゃないだろ。さっさと帰んな」
「トウガラシさんに用があって来ました」
「姐御に? お前みたいなガキが?」
 どうやらトウガラシは姐御と呼ばれているらしい。それだけ慕われているということだ。
「駄目ですか?」
「いや、会うのは自由だぜ。ただ、お前みたいな小便臭いガキが会ったところで、まともに取り合ってはくれないだろうなぁ」
 意地悪な笑みを浮かべる。
「その人はそんなに狭量なのですか?」
 店主の煽りにカウンターを食らわせる。
「おっと、そいつは聞き捨てならないな」
 背後から声をかけられる。振り向くと赤髪で筋肉質でやや大柄な女性が立っていた。
「私は人を選ぶが、選ばなかった相手だって丁重に向き合うさ」
 トウガラシ本人だ。
「私とて、本気でそう思ったわけではありませんよ」
 ナザトは鞄から手紙を取り出す。
「これは?」
「セレカレスさんからの手紙です。皆さんにお届けしています」
「そりゃご苦労だったな。あとでちゃんと読ませてもらうよ」
 トウガラシは立ち去ろうとした。その背後から、引き留めるように声をかける。
「それと! 貴女達を本来の姿に戻すようにとも、仰せつかっています」
「ほぅ。私を香辛料に戻そうってのかい」
「何も知らずに戻そうとは思いません。皆さんはそれぞれ問題を抱えていると、コムギさんから聞きました。私はそれの解決に協力したい。だから話を聞かせてください」
「私に協力したいというなら力を示してみな」
「力の示し方は自由ですか?」
「海から財宝を集めてきてもらう。方法と人数は自由だ。だが必ず、お前さんが中心になって財宝を獲ってくること。じゃ、楽しみにしてるよ」
 彼女は席に戻り、酒盛りを再開する。

「で、どうするよ? 嬢ちゃん」
「とにもかくにも情報です。財宝がありそうな場所の情報を聞き出します」
「どうやって?」
「酒場を転々とし、大人にお酒を奢ることで情報を聞き出します」
「払えるのか?」
「問題ありません。私こう見えてもお金持ちなんですよ。手始めに――」
 彼女は息を大きく吸った。
「皆の者聞け! ここは私が奢る! 好きなだけ飲むといい!」
 「うおおおお」と盛り上がる。
 海の男たちが酒をあおる合間を縫って、ナザトは情報を聞き出す。

「ねえ、おじさんたちは漁師なの?」
 雰囲気に合わせて、少し砕けた口調で質問する。
「それも兼任してるが、俺たちは海賊だぜ」
「海賊なんだ。格好いいね」
「分かるかい? 俺たちは命がけで海と戦ってる。波に揺られながら、屈強な魚たちと戦う。魔法を使えば楽に獲れるが、売り物にはならなくなる。鍛えた肉体と釣り具、そして仲間。この3つが頼りだ」
「凄いね。私は魔法に頼ってばっかだから、憧れちゃうなー」
 嘘である。彼女も狩りをする際は魔法は使わなかった。だが、相手をおだてるために話を合わせる。
「そうだろうそうだろう」
「そんなおじさんの一番の戦績を教えてよ」
「俺の最大の釣果は3メートルを超える巨大鮫だな」
「3メートル⁉ 大きいね」
「これくらいになると、重さ300キロにもなる。引っ張られないようにするだけでも一苦労よ。それを人力で引き上げようってんだから、死闘もんだぜ」
「どうやって釣り上げたの?」
「銛で突いて体力を奪いながら、他の奴が網を引っ張るんだ。それと、船が獲物に持っていかれないように操縦するやつも必要だな。全員が一丸となって、何時間もかけて釣り上げるんだ」
「チームワークがないと出来ないんだね」
「そうだ。トウガラシの姐御が人を選ぶのもそれが理由だろうよ」
「なるほどねー」
「話の続きなんだがな、鮫のいた所から金属の反応があったんだよ。それで潜ってみたら宝箱があったんだ。あいつはきっと守ってたんだなー」
「じゃあおじさんたちは、門番を倒しちゃったんだね。流石海の男だね」
「まあな」
「お話聞かせてくれてありがとう」
 と、こんな感じで何人かに話を聞いて回った。

 円もたけなわ。客の殆どは帰っていった。
 ――話を聞く限り、大物がいるところと財宝があるところは被っているみたいだね。だったら、今日聞いた話を総合して、大物がいる場所を特定する。どうやって船にのるかだなぁ。まぁとりあえず宿に泊まってゆっくり考えよう。
「マスター、お代は?」
「30万」
 お酒って高いんですね。そう言いながらも、ポンと出す。
「へぇ。本当に金持ってたんだ」
「まぁ、それに見合うだけの情報は手に入ったので、満足です」
「そうか。じゃあ頑張れや」
 マスターとトウガラシは、店を背にするナザトを見送った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

処理中です...