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ハーピー編
親殺し
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それからさらに9年が経った。そのころにはナザトも山での生活に慣れ、魔道具によって半分人間化した動物たちも20を超えていた。
その日もナザトは狩りをしていた。迷彩服を着、化粧をし、矢を持ちじっと待ち構える。
待つこと20分。一匹の鹿がやってきた。矢を番え構える。そして放つ。矢が脳天に刺さる。しかしまだ生きている。二発目を構える。撃つ。だが二発目は鹿には当たらなかった。アコンプリスの胸に当たった。
「アコ母さん!」
「ナザト、これは私がやったことだ。だから気にするな」
「いや気にするよ! てかそれより手当しないと!」
家に運ぶため彼女を背負う。
「いいんだ。私はこのまま死ぬ。死なせてくれ」
「嫌だよ。絶対治す」
歩く度、胸から血がポタポタと零れ落ちる。家まではまだ10分は歩かないといけない。その間も揺らされ血は落ちる。
溢れ出る血がナザトの足に付着する。その温もりとは反対に、背中に伝わる温度は徐々に冷たくなっていく。
「はぁ、はぁ」
アコンプリスを刺してしまったことによる動揺、後悔、不安。諸々のストレスと肉体的な疲労によって呼吸が乱れる。
家にたどり着いた。血の匂いを嗅ぎつけた家族が駆け寄る。
「何があった⁉」
「狩りをしてたらアコ母さんが飛び出してきて」
「何?」
「インゴクニートを、はぁ、呼んでくれ」
息も絶え絶えになりながら、アコはインゴクニートを呼ぶ。
「喋らないで」
半動物が制止する。
「頼む」
最後の頼みと言わんばかりの視線に気圧される。
「分かった」
半動物が呼びに行く。
「アコ母さん、ごめん。オレが周囲に気を配っていれば」
「謝るな。お前の集中力は武器だ。私がそれを利用しただけだ」
「でも」
インゴクニートがやって来る。
「アコ」
彼女は何かを悟ったような、落ち着いた表情をしていた。
「インゴクニート。すまん。先に逝く。お前を1人にして済まない」
「元の種族が違うんだ。こうなることは分かってた」
「そうか。お前は私より綺麗な最期を迎えてくれ」
アコは息を引き取った。
「イゴニ母さん。オレ、どうすればいいんだ? アコ母さんを殺しちゃった」
顔には汗をかき、鬼気迫る表情で問う。
「弔おう。人間には死者を埋葬する文化があると聞いた」
「分かった」
ナザトはまだ混乱しているようだったが、弔うという指針を貰ったことで少し落ち着く。
半獣たちがナザトに声を掛ける。
「お姉ちゃん。これは悲しい事故だよ。だから気に病まないで」
「そうだよ。アコの奴。狩場に飛び出すなんて、何考えてんだ」
草食動物たちはナザトのフォローに回る。
一方肉食動物たちはというと。
「あいつの生を終わらせたのがお前なら、あいつも本望だろう」
「逃げたか。まあ無理もない」
とアコのフォローに回った。
この反応の違いが、彼らの関係の溝を深めることになった。
埋葬するために遺体を動かそうとしたとき。アコの体が半獣から、元の狼の姿に戻った。
「⁉」
「そうか。死ぬと魔道具の効果は切れるのか。儚いな」
イゴニは冷静に分析する。
「ねえ。イゴニは何でそんなに冷静なの?」
「未来の自分を見ているようでな。悲しみもあるがそれ以上に、覚悟を決めねばという思いが強い」
「どういうこと?」
「まだ知らなくていいことだ。それよりアコを埋めるぞ」
アコを土に埋めているときだった。
「オレ、この魔道具埋めるよ」
「なぜ?」
「もう人にはなれないかもしれないけど家族だ。証拠を残したい」
「そうか」
ナザトは墓穴に魔道具を入れた。
その日もナザトは狩りをしていた。迷彩服を着、化粧をし、矢を持ちじっと待ち構える。
待つこと20分。一匹の鹿がやってきた。矢を番え構える。そして放つ。矢が脳天に刺さる。しかしまだ生きている。二発目を構える。撃つ。だが二発目は鹿には当たらなかった。アコンプリスの胸に当たった。
「アコ母さん!」
「ナザト、これは私がやったことだ。だから気にするな」
「いや気にするよ! てかそれより手当しないと!」
家に運ぶため彼女を背負う。
「いいんだ。私はこのまま死ぬ。死なせてくれ」
「嫌だよ。絶対治す」
歩く度、胸から血がポタポタと零れ落ちる。家まではまだ10分は歩かないといけない。その間も揺らされ血は落ちる。
溢れ出る血がナザトの足に付着する。その温もりとは反対に、背中に伝わる温度は徐々に冷たくなっていく。
「はぁ、はぁ」
アコンプリスを刺してしまったことによる動揺、後悔、不安。諸々のストレスと肉体的な疲労によって呼吸が乱れる。
家にたどり着いた。血の匂いを嗅ぎつけた家族が駆け寄る。
「何があった⁉」
「狩りをしてたらアコ母さんが飛び出してきて」
「何?」
「インゴクニートを、はぁ、呼んでくれ」
息も絶え絶えになりながら、アコはインゴクニートを呼ぶ。
「喋らないで」
半動物が制止する。
「頼む」
最後の頼みと言わんばかりの視線に気圧される。
「分かった」
半動物が呼びに行く。
「アコ母さん、ごめん。オレが周囲に気を配っていれば」
「謝るな。お前の集中力は武器だ。私がそれを利用しただけだ」
「でも」
インゴクニートがやって来る。
「アコ」
彼女は何かを悟ったような、落ち着いた表情をしていた。
「インゴクニート。すまん。先に逝く。お前を1人にして済まない」
「元の種族が違うんだ。こうなることは分かってた」
「そうか。お前は私より綺麗な最期を迎えてくれ」
アコは息を引き取った。
「イゴニ母さん。オレ、どうすればいいんだ? アコ母さんを殺しちゃった」
顔には汗をかき、鬼気迫る表情で問う。
「弔おう。人間には死者を埋葬する文化があると聞いた」
「分かった」
ナザトはまだ混乱しているようだったが、弔うという指針を貰ったことで少し落ち着く。
半獣たちがナザトに声を掛ける。
「お姉ちゃん。これは悲しい事故だよ。だから気に病まないで」
「そうだよ。アコの奴。狩場に飛び出すなんて、何考えてんだ」
草食動物たちはナザトのフォローに回る。
一方肉食動物たちはというと。
「あいつの生を終わらせたのがお前なら、あいつも本望だろう」
「逃げたか。まあ無理もない」
とアコのフォローに回った。
この反応の違いが、彼らの関係の溝を深めることになった。
埋葬するために遺体を動かそうとしたとき。アコの体が半獣から、元の狼の姿に戻った。
「⁉」
「そうか。死ぬと魔道具の効果は切れるのか。儚いな」
イゴニは冷静に分析する。
「ねえ。イゴニは何でそんなに冷静なの?」
「未来の自分を見ているようでな。悲しみもあるがそれ以上に、覚悟を決めねばという思いが強い」
「どういうこと?」
「まだ知らなくていいことだ。それよりアコを埋めるぞ」
アコを土に埋めているときだった。
「オレ、この魔道具埋めるよ」
「なぜ?」
「もう人にはなれないかもしれないけど家族だ。証拠を残したい」
「そうか」
ナザトは墓穴に魔道具を入れた。
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