66 / 104
SC編
エンプティチェア
しおりを挟む
「……」
ジレマは神妙な面持ちをしたまま、椅子に座っていた。
「どうなりたいのか分からない」そう書かれた紙を前に押し黙っていた。「第三者目線で質問やアドバイスをします」だったっけ? じゃあ、質問からかな。
「どうもクマさん。どうなりたいのか分からないとのことですけど、何かきっかけとかあったんですか?」
「僕はね、子どものころからずっと、お父さんのフォローをしてきたの。だから自分のことは後回しにしてきたの。そしたら自分のやりたいことが分からなくなっちちゃった」
「そっか。頑張ってきたんだね。大変だったでしょ?」
「うん。本当に大変だった。お父さんがお酒を買うように言わなければ、お母さんは死ななかった。あれからお父さんは一層、お酒を飲むようになっちゃったし」
「多分ね、お父さんも辛かったんだと思うよ。お父さんも責任は感じてるみたいだし、妻を亡くした悲しみはあったはず」
「本当に?」
「だってあの日、お父さんは泣いてた」
「そうなんだ。お父さんも悲しかったんだ」
「さて、そんな大変な人生を送った君だけど、これからは自分の人生を歩かなきゃいけないみたいなんだ。どうなりたいかを考えるにあたって、好きなこと……は分からないかもしれないから、出来る事を考えようか」
「料理は出来るよ」
「それ以外は?」
「謝ることは慣れてるよ」
「今まで沢山謝ってきたもんね」
「うん」
「尻拭いも無駄じゃなかったね」
「だね」
「うーん。この感じだと料理屋を続けるくらいしか思いつかないなー」
「でももうお父さんとは別々に働きたいなー」
「そうだよね。もういっそのこと、別の業種にでも行っちゃう?」
「いいね。何にしよう」
「それはオーサーさんと相談して決めていこうか」
「分かった」
「今日はこれくらいにして寝よう。お休み」
「お休み」
そのころ宿では。
「ふー」
アマナスはトイレから部屋に戻る途中だった。
「~~」
オーメンの部屋から声が聞こえる。
「ん?」
何を言っているのかは聞き取れないが、オーメンの声が聞こえる。
気が付かれないように、ゆっくりと戸を開ける。
「分かってくれるよ」
「きっとそうだよね」
彼女は人形と対面していた。
「オーメンさん?」
オーメンがバッとこちらを振り向く。
「アマナス君? 聞いてた?」
「いえ。何も」
「そう。なら良いけど。今見たのは忘れてね」
目と口は薄ら笑いで、声は少し低いトーンで、彼女はアマナスの耳元で呟いた。
ジレマは神妙な面持ちをしたまま、椅子に座っていた。
「どうなりたいのか分からない」そう書かれた紙を前に押し黙っていた。「第三者目線で質問やアドバイスをします」だったっけ? じゃあ、質問からかな。
「どうもクマさん。どうなりたいのか分からないとのことですけど、何かきっかけとかあったんですか?」
「僕はね、子どものころからずっと、お父さんのフォローをしてきたの。だから自分のことは後回しにしてきたの。そしたら自分のやりたいことが分からなくなっちちゃった」
「そっか。頑張ってきたんだね。大変だったでしょ?」
「うん。本当に大変だった。お父さんがお酒を買うように言わなければ、お母さんは死ななかった。あれからお父さんは一層、お酒を飲むようになっちゃったし」
「多分ね、お父さんも辛かったんだと思うよ。お父さんも責任は感じてるみたいだし、妻を亡くした悲しみはあったはず」
「本当に?」
「だってあの日、お父さんは泣いてた」
「そうなんだ。お父さんも悲しかったんだ」
「さて、そんな大変な人生を送った君だけど、これからは自分の人生を歩かなきゃいけないみたいなんだ。どうなりたいかを考えるにあたって、好きなこと……は分からないかもしれないから、出来る事を考えようか」
「料理は出来るよ」
「それ以外は?」
「謝ることは慣れてるよ」
「今まで沢山謝ってきたもんね」
「うん」
「尻拭いも無駄じゃなかったね」
「だね」
「うーん。この感じだと料理屋を続けるくらいしか思いつかないなー」
「でももうお父さんとは別々に働きたいなー」
「そうだよね。もういっそのこと、別の業種にでも行っちゃう?」
「いいね。何にしよう」
「それはオーサーさんと相談して決めていこうか」
「分かった」
「今日はこれくらいにして寝よう。お休み」
「お休み」
そのころ宿では。
「ふー」
アマナスはトイレから部屋に戻る途中だった。
「~~」
オーメンの部屋から声が聞こえる。
「ん?」
何を言っているのかは聞き取れないが、オーメンの声が聞こえる。
気が付かれないように、ゆっくりと戸を開ける。
「分かってくれるよ」
「きっとそうだよね」
彼女は人形と対面していた。
「オーメンさん?」
オーメンがバッとこちらを振り向く。
「アマナス君? 聞いてた?」
「いえ。何も」
「そう。なら良いけど。今見たのは忘れてね」
目と口は薄ら笑いで、声は少し低いトーンで、彼女はアマナスの耳元で呟いた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる