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SC編
シルバークリーク
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「すっかり暖かくなったね」
次の町へ向かう途中、オーメンは呟いた。
「そういえば俺とオーメンさんが出会ってから1年が経つんですね」
「へー、そりゃめでたい。じゃあ次の町で、ちょっと奮発して祝うか」
オーサーが提案する。
「いいね。私もそうしたい」
リコが賛同する。
「そうだね。倉庫代は浮いたし、働いてお金も手に入れた。少しくらいなら奮発してもいいかな」
オーメンの許可がおり、4人は小さな祝賀会を開くことになった。
「着きましたねー」とアマナスが言うとすかさず、「酒の匂いだ」とオーサーが喜ぶ。
「お魚さんが沢山売ってるね」
リコは魚に興味津々だ。
「シルバークリーク。この町に接する河口は、ミネラルが少なく酒造りに適している。それ故に魚にとっては住み辛い。それでも、その河口を銀色に染めるほど強い生命力を持った魚たちが住んでいる。それに感銘を受けた当時の人々は、この町をシルバークリークと名付けた」
「それがこの町。なんだか凄いですね」
「酒と魚が多いのは河口があるからだね」
そんな薀蓄を聞いたあと、彼らは飲食店へ入った。
特別豪華というわけではないが、小綺麗でそこそこ広い店だった。
「では、冒険の1年間を祝して、乾杯!」
「乾杯!」
「この魚、プリッとしてて、脂も乗ってて美味しいです」
「この酒も美味ーな。甘みの中にほんのり感じる辛味が魚とぴったりだ」
「お刺身だけじゃなくて、このムニエルっていうのも美味しいね」
「トマトと煮込んだこれも、味は濃いのに重たくない。シェフの腕が良いんだろうね」
そんな歓談をしながら、箸を進める。
「それにしても、もう1年ですか。あっという間だった気がします」
「この1年で色んな魔道具を見て、集めてきたけど、死者蘇生の魔道具は見つからなかった。どこにあるんだか」
オーメンはグラスを傾ける。
店の奥からガタンと音が鳴った。少しすると若い店員が出てきて、こう言った。
「お客様は魔道具を集めていらっしゃるんですよね? でしたら、気付効果のある物はありませんか?」
「ごめんなさい。手持ちには、鎮静効果のあるものくらいしかないんです」
「そうでしたか。無理を言って申し訳ございませんでした」
「あの、何があったんですか?」
アマナスが質問する。
「店長が倒れました」
「ええー! 大丈夫ですか?」
「意識はあるのですが、眠ってしまっていて」
「眠るって、どうしてですか?」
「誠に申し上げにくいのですが、お酒の飲み過ぎによるものです」
「え? お酒?」
「仕事中もずっと飲んでしまって……。誠に申し訳ございません」
「とりあえず起こしに行ってあげてください」
オーメンは促す。
「それが、一度寝るとなかなか起きてくれなくて……」
「仕方がありませんね」
そう言いながら彼女は、店の奥へ向かう。そして、バチッという音が鳴る。
「起こしてきました」
「ありがとうございます」
彼は奥へ戻った。
「また雷撃か?」
「ちゃんと加減はしましたよ」
「本当に便利だよな」
「基礎的な魔法なのだから、貴方も使えばいいんですよ」
「お前ほど器用に調整できる奴は少ねーの」
トラブルもあったが、祝賀会は終了した。
そして会計のとき。
「先ほどはありがとうございました」
「どういたしまして」
「その、差し出がましいことを言うようなのですが……」
「?」
「鎮静作用のある魔道具を、父に譲ってはいただけませんか?」
この時オーメンは仲間には見られないよう、一瞬、部屋の隅に溜まったゴミでも見るかのような視線を店員に向けた。
しかしすぐに表情を戻し、こう返した。
「なぜそのようなことを?」
「今回は居眠りでしたけど、気が大きくなって暴言を吐くことや、暴力を振るうこともあるんです。それをどうにしたくて」
「へえ、そうねんですね」
棒読みではないが、冷たさを感じる口調だった。
「オーメンさん。譲ってあげませんか?」
アマナスがそう言った。
「アマナス君?」
冷たい視線を向けないよう、顔を店員に向けたまま話す。
「困っている人がいて、助けてほしいと言ってきたなら、助けるべきですよね? 今までオーメンさんはそうしてきましたもんね?」
「そうだね。でも今回は本当に魔道具を渡してもいいのかな?」
「え?」
「要はお酒を飲まなければいいわけでしょ? それなら魔道具は関係ないよね?」
「それはそうですけど……」
アマナスは言いよどむ。
「なんだ、魔道具を手放したくないのか?」
オーサーがぶっこむ。
「まさか! そんなふうに見える?」
オーメンは薄っすらと口だけを笑わせながら、手を広げる。
「見えるから聞いた」
「……」
口角を下げる。
「安心してよ。そんなつもりはないから」
「そうか」
「ただね、何でもかんでも魔道具に頼って、そっちに依存したら意味がないでしょ?」
「それもそうだな。疑って悪かった」
「というわけだから、これを譲る前にやるだけのことはやってもらいますよ」
「はい。ありがとうございます」
「この近くに宿をとります。明日午前10時にお父さんを連れてきてください」
そう言って彼女たちは店を出た。
「オーサーさんありがとうございました」
「別にー。あの秘密主義者の鼻っ柱を折りたかっただけだよ。失敗したけど」
「はは」
思えば、今まで集めることはあっても、与えることはなかった。あの人にとって魔道具を与えることはどんな意味を持つんだろう。
次の町へ向かう途中、オーメンは呟いた。
「そういえば俺とオーメンさんが出会ってから1年が経つんですね」
「へー、そりゃめでたい。じゃあ次の町で、ちょっと奮発して祝うか」
オーサーが提案する。
「いいね。私もそうしたい」
リコが賛同する。
「そうだね。倉庫代は浮いたし、働いてお金も手に入れた。少しくらいなら奮発してもいいかな」
オーメンの許可がおり、4人は小さな祝賀会を開くことになった。
「着きましたねー」とアマナスが言うとすかさず、「酒の匂いだ」とオーサーが喜ぶ。
「お魚さんが沢山売ってるね」
リコは魚に興味津々だ。
「シルバークリーク。この町に接する河口は、ミネラルが少なく酒造りに適している。それ故に魚にとっては住み辛い。それでも、その河口を銀色に染めるほど強い生命力を持った魚たちが住んでいる。それに感銘を受けた当時の人々は、この町をシルバークリークと名付けた」
「それがこの町。なんだか凄いですね」
「酒と魚が多いのは河口があるからだね」
そんな薀蓄を聞いたあと、彼らは飲食店へ入った。
特別豪華というわけではないが、小綺麗でそこそこ広い店だった。
「では、冒険の1年間を祝して、乾杯!」
「乾杯!」
「この魚、プリッとしてて、脂も乗ってて美味しいです」
「この酒も美味ーな。甘みの中にほんのり感じる辛味が魚とぴったりだ」
「お刺身だけじゃなくて、このムニエルっていうのも美味しいね」
「トマトと煮込んだこれも、味は濃いのに重たくない。シェフの腕が良いんだろうね」
そんな歓談をしながら、箸を進める。
「それにしても、もう1年ですか。あっという間だった気がします」
「この1年で色んな魔道具を見て、集めてきたけど、死者蘇生の魔道具は見つからなかった。どこにあるんだか」
オーメンはグラスを傾ける。
店の奥からガタンと音が鳴った。少しすると若い店員が出てきて、こう言った。
「お客様は魔道具を集めていらっしゃるんですよね? でしたら、気付効果のある物はありませんか?」
「ごめんなさい。手持ちには、鎮静効果のあるものくらいしかないんです」
「そうでしたか。無理を言って申し訳ございませんでした」
「あの、何があったんですか?」
アマナスが質問する。
「店長が倒れました」
「ええー! 大丈夫ですか?」
「意識はあるのですが、眠ってしまっていて」
「眠るって、どうしてですか?」
「誠に申し上げにくいのですが、お酒の飲み過ぎによるものです」
「え? お酒?」
「仕事中もずっと飲んでしまって……。誠に申し訳ございません」
「とりあえず起こしに行ってあげてください」
オーメンは促す。
「それが、一度寝るとなかなか起きてくれなくて……」
「仕方がありませんね」
そう言いながら彼女は、店の奥へ向かう。そして、バチッという音が鳴る。
「起こしてきました」
「ありがとうございます」
彼は奥へ戻った。
「また雷撃か?」
「ちゃんと加減はしましたよ」
「本当に便利だよな」
「基礎的な魔法なのだから、貴方も使えばいいんですよ」
「お前ほど器用に調整できる奴は少ねーの」
トラブルもあったが、祝賀会は終了した。
そして会計のとき。
「先ほどはありがとうございました」
「どういたしまして」
「その、差し出がましいことを言うようなのですが……」
「?」
「鎮静作用のある魔道具を、父に譲ってはいただけませんか?」
この時オーメンは仲間には見られないよう、一瞬、部屋の隅に溜まったゴミでも見るかのような視線を店員に向けた。
しかしすぐに表情を戻し、こう返した。
「なぜそのようなことを?」
「今回は居眠りでしたけど、気が大きくなって暴言を吐くことや、暴力を振るうこともあるんです。それをどうにしたくて」
「へえ、そうねんですね」
棒読みではないが、冷たさを感じる口調だった。
「オーメンさん。譲ってあげませんか?」
アマナスがそう言った。
「アマナス君?」
冷たい視線を向けないよう、顔を店員に向けたまま話す。
「困っている人がいて、助けてほしいと言ってきたなら、助けるべきですよね? 今までオーメンさんはそうしてきましたもんね?」
「そうだね。でも今回は本当に魔道具を渡してもいいのかな?」
「え?」
「要はお酒を飲まなければいいわけでしょ? それなら魔道具は関係ないよね?」
「それはそうですけど……」
アマナスは言いよどむ。
「なんだ、魔道具を手放したくないのか?」
オーサーがぶっこむ。
「まさか! そんなふうに見える?」
オーメンは薄っすらと口だけを笑わせながら、手を広げる。
「見えるから聞いた」
「……」
口角を下げる。
「安心してよ。そんなつもりはないから」
「そうか」
「ただね、何でもかんでも魔道具に頼って、そっちに依存したら意味がないでしょ?」
「それもそうだな。疑って悪かった」
「というわけだから、これを譲る前にやるだけのことはやってもらいますよ」
「はい。ありがとうございます」
「この近くに宿をとります。明日午前10時にお父さんを連れてきてください」
そう言って彼女たちは店を出た。
「オーサーさんありがとうございました」
「別にー。あの秘密主義者の鼻っ柱を折りたかっただけだよ。失敗したけど」
「はは」
思えば、今まで集めることはあっても、与えることはなかった。あの人にとって魔道具を与えることはどんな意味を持つんだろう。
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