魔道具は希望と共に

小鳥遊怜那

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七つの大罪 怠惰編

頑固者

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「君たちか。堕ちた人たちと話し合いたくはないんだが」
「聞いてください。私たちは堕ちてなんかいません」
「あれだけの魔道具を持っていながら、それは無理があるだろう」
「魔道具を持っているからといって、必ずしも楽が出来るわけではないんです」
「嘘をつけ」
「とある少年は力を求め魔道具を手にしても、制御が出来ず飲み込まれかけました。とある少女は適性がなく、魔道具を使えないせいで村の制度からあぶれました。とある作家は、魔道具のせいで楽しみを奪われました。とある王は魔道具のせいで傲慢になり、家臣に裏切られました。とある青年は魔道具と共に家を追いだされました。とある女性は魔道具に依存し、身を滅ぼしかねない状況でした。とある国は魔道具のせいで病気が蔓延しました」
 それは今までの旅で見てきたものだった。

「魔道具は暮らしを便利で豊かにしますが、決してそれだけではないんです」
 オーメンはスプリアの目をまっすぐ見つめる。
「その者たちにとっては、よい薬になったのではないか?」
「良薬は口に苦しと言いますが、そもそも薬を必要としない生活の方がいいんです。この子リコは幼くして両親を亡くしました」
「なんと!」
「母親の友人が世話をしてくれましたが、それでも両親がいれば悩まずにすんだことも多いのです」
「艱難汝を玉にすともいうし、悩むことは悪いことじゃないだろ」
「それは始まりがゼロ以上のときです。マイナスからスタートするなら、苦労はない方がいいんです」
「確かにそうだが、魔道具を使うときの開始地は、ゼロ以上ではないかね?」
「そうとも限りません。マイナスをゼロにしてくれるものもあります」
「例えば?」
「魔道具を手にし、制御が出来ず飲み込まれかけた少年は、自分の扱える力を超える力が必要だと勘違いしていたのです。しかし今は改心し、無理せず出来る範囲で頑張ってくれています」
 アマナスは照れて顔をそらす。それをスプリアが見る。
「しかし、それは個人単位の話だろ? 伝統はそうもいかん」
「同じです。今まで積み上げてきたものは失われません。一部必要なくなるものや、改変するものもあるでしょう。しかし完全になくなることはないのです。新技術とうまく合わさり、形を変えて生き残っていくのです」
「その保障などどこにある」
「スタンプ制度がまさにそうです。スタンプが出来る前は、数年に一度国内を調査し、紙で管理していました。スタンプ制度ができてからも、詳細なことを調査するときは以前の技術と知識が使われています。それでもまだ魔道具の使用は駄目だと思いますか?」
 スプリアは口をパクパクさせていた。
「それでも、やっぱり受け入れられない。すまないが今日はもう帰ってくれないか」
 彼は意気消沈していた。
「分かりました」
「えっ、でも」
「帰ろう。アマナス君」
 
 宿に戻るとアマナスはオーメンに話しかけた。
「結局だめでしたね」
「多分。頭では分かってたと思うよ。だから多分、何を言うかより、誰が言うかだったんだろうね」
「なんか悔しいです。オーメンさんは間違ってなかったのに」
「それほど信頼とか積み重ねてきたものは大事ってこと」
「なら積み重ねてきたものがある人に頼みましょうよ」
「例えば?」
「それはこれからアプレさんに聞いてきます」
 そう言ってアマナスは宿を出ていった。
「追わなくていいのか?」
「納得できるまでやらせてあげようよ」

 そもそもスプリアさんがあんな頑固なのが悪いんだ。もっと柔軟に新技術を受け入れればいいのに!
「失礼します!」
 アマナスはセーフハーバーに入る。
「お客様⁉」
「アプレさん。さっきの俺たちの話聞いてましたよね?」
「ええ、まあ」
「ならアプレさんからも言ってやってくださいよ」
「無茶言わないでくださいよ。僕は師匠とギクシャクしたくありません」
「なら、だれならあの人を説得できそうか教えてくださいよ!」
「……師匠の師匠。グレマさんならあるいは」
「その人今どこにいますか?」
「もう亡くなってます」
「ッ」
「そういうわけですので、誰も師匠を説得することはできませんよ」
「分かりました。だったら、死者を蘇らせる魔道具を見つけてやりますよ! 絶対になんとかしますからね!」
 アマナスは店を出る。
 絶対に見つけてやる! そしてオーメンさんが間違ってないって証明するんだ!
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