魔道具は希望と共に

小鳥遊怜那

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七つの大罪 憤怒編

悪いのは

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 "お礼"が終わったアマントは赤ん坊を連れて、ごみ集めを開始した。
 主に集めるのはアルミ缶。他にも金属類は、リサイクル屋などの回収業者が買ってくれる。この子たちのためにも頑張らないと。
 彼女はひたすら集めた。時折赤子が泣くので、その対応のために手を止めた。
 あと2時間で日が暮れる。夜は手元が見えないし、集めた物を売るために、そろそろ移動しないと。
 彼女は三十分かけて回収業者の元へ歩いた。

「アルミ1キロで150円ね。他にもステンレスや銅が500グラムで……」
 店員が集めたものを確認する。
「合計3000ゼニ―ね」
「3000ですか……」
 言葉が出なかった。一日動き回って、その結果が3000ゼニー。宮仕えしていた頃の何分の一かも分からない。
「君、新人でしょ? 金属集なんてこんなものだよ」
「そう、なんですね」
 
 彼女はお金を受け取り店を出た。意気消沈していたが、赤子が彼女に元気を与えてくれる。
「そうだよね。へこたれてる場合じゃないよね」
 ベビーカーは分けてもらった。オムツも一週間くらい持つ。スタンプは隠れて打ち込んできたから、医療等は問題ない。他には遊具や本も用意したい。それに、出来る事なら父親も。
「……。やるしかないよね」
 彼女は覚悟を決めた。

 彼女は翌日、中心地へと向かった。
「ボスはいらっしゃいますか?」
「貴様何の用だ?」
 門番がガンを飛ばす。
「ボスと契りを結びたく、参りました」
「何? ボスの知り合い?」
「いえ、まだお会いしたこともございません」
「なら無理だ。帰れ」
「そうはいきません」
 そう言う彼女の顔は、確かに子を守る母のものだった。
「は? ぶん殴るよ?」
「それで会わせていただけるのなら、何発でも殴られます」
「舐めやがって」
 と、門番が彼女を殴ろうとしたときだった。
「待て、俺がやる」
 奥から大男がやってきた。
「ボス!」
「その目を見れば分かる。ちゃんと覚悟してきた奴の目だ」
 大男は愉快だと言いたげな顔をする。
「一発で分かる。覚悟してきた奴かどうかは」
 大男はフフフと笑いながら肩を回す。そして
「ふん!」
 アマントの鼻をめがけて思いっきりぶん殴った。
 ボキっと骨の折れる音がする。
 だが彼女は倒れない。涙を浮かべつつも、その目に宿った覚悟は寸分ブレることはなかった。
「気に入った。お前、俺と結婚したいんだって? いいぜ。大歓迎だ。」
「ありがとうございます」
 こうして彼女はボス、ディレクと結婚することになった。
 それから彼女は子育てに専念できた。ディレクは麻薬を売っていた。その金で彼女たちは、ゴミ捨て場に居ながら、それなりに余裕のある暮らしをしていた。
 
 そして10年の月日が経った。
 マルサとショシーロは10歳になり、元気にゴミ山を駆け回っていた。
「はぁはぁはぁ。おりゃー」
 ガラガラと音を立て、ゴミ山が崩れる。
「へへ。俺の勝ち」
 マルサの手には、金が入った時計があった。
「あー、悔しいー」
 兄妹はディレクの子という扱いになっており、ゴミ捨て場中を遊び場として自由に使っていた。今日は金を先に見つけた方の勝ち、という遊びをしていた。
「これで100勝90敗だな」
 マルサはニヤニヤする。
「11勝くらいすぐだもん」
 ショシーロは頬を膨らませる。
「ここに居たのか」
「ディレクの部下が二人を見つける」
「聞いてよ俺また勝ったよ」
「はいはい。良かったな。それより帰るぞ。ボスが呼んでる」
「そう……」
 二人の表情は明らかに沈んだ。
 
「お前たちがここに来て、10年だ。そろそろ麻薬の取引を学んでもらうぞ」
「ヤだよ。私たちはそんな汚い仕事したくない」
「その汚ねー金で育ったのは誰だ?」
「……」
 ショシーロは言い返せなかった。
「育ててくれなんて頼んでない」
 マルサは言い返した。
「お前の母親は頼んだんだよ」
「それでも他に仕事はあるだろ?」
「あまり口答えするなよ。お前の母親が今どうなってるのか、分かってんだろ?」
「……」
 マルサも言い返せなかった。
「それで、どうすればいいんだ?」
「他の奴らみたいに、ゴミと一緒に国へ持っていく。その後は――」
 ディレクは説明をした。
「それで客に売ればオーケーだ」
「分かった」
「この後すぐ仕事が入ってる。すっぽかすなよ」
「分かってらー」

 二人はボスの部屋を後にする。
「兄ちゃん。やっぱりやめようよ」
「ダメだ。母さんには治療費が必要だ」
「やっぱりこの場所が悪いのかな」
「だろうな。俺たちは生まれてからここに居るから、免疫も強くなったけど、母さんはそうじゃない」
「早くここから抜け出したいよ」
「そのためには金を稼がないとな」

「まいどあり」
 マルサは問題なく薬を売った。
 さて、ショシーロは。
 ショシーロの様子を見ると、彼女は警察に取り押さえられていた。
「ショシーロ!」
「兄ちゃん!」
「ショシーロを離せ!」
 マルサは炎魔法を使った。
「うわー!」
 警察は死んだ。マルサが殺した。
「……ちゃん! 兄ちゃん!」
 マルサは我を失っていた。
「ショシーロ……」
 茫然としたまま、彼女の方を見る。
「とりあえず逃げないと! サツが来る」
「あぁ」
 ゴミ捨て場に戻るまで、彼は逡巡した。
 やってしまった。ディレクに反発してたのに、こんなことを。ていうかなんて言おう。あいつは部下の失敗を許さない。初めてだからとか関係ない。殺される。
 マルサの顔色がどんどん悪くなる。
「兄ちゃんごめん。私がサツに捕まらなかったらこんなことには」
「お前は悪くない! そうだよ! ディレクが悪いんだ! あいつが麻薬売買なんてやらせなかったら、こんなことにはならなかった!」
 マルサの顔が晴れていく。
「ショシーロ、後は俺に任せろ」
 その顔は笑っていたが、ショシーロには、どこか無理をしているように見えた。
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