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七つの大罪 傲慢編
狂いだした歯車
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「一週間後、野生動物たちが夜中に畑を荒らす。撃退の準備をしろ!」
予言通り野生動物達が畑に来、村人たちは各々撃退した。
ある家庭は野生動物を殺さず、逃がした。それを知ったモナクはその家庭に行き、逃がした理由を問いただした。
「なぜ殺さなかった?」
「無闇に殺すのは可哀想でしたし、生態系への影響も心配でしたから」
「お前のその考えが、他の畑への被害に繋がるとは考えなかったのか?」
「しかし、来ても無駄だと皆で学習させれば、殺さなくてもいいはずです」
「その考えが既に迷惑だ」
彼は村人の考えをばっさり切り捨てる。
「いいか、次に野生動物が来たら迷わず殺せよ。分かったか」
「……はい」
モナクは村人の話を聞かなくなっていった。不満があっても、魔道具に頼ることを覚えた村人達は、彼には逆らえなかった。
ある日モナクは村を出ると言い出した。
「隣のブリテー国に行って王になる」
「そんな、この村を捨てるのですか?」
「捨てるも何も、俺は元より、王になるためにこの村で経験を積んでいたのだ」
「そんな」
「喜べ諸君! この俺の、王道への踏み台になれたことを!」
「それ以降、この村にたびたび子どもが逃げてきた。学習の機会を提供すると言われて王国へ来たものの、働かされてばかり。騙されたという者ばかりじゃった」
「それが奴隷」
オーメンが呟く。
「あいつは、捜索隊を送り込んでくることもあった。差し出さねば、代わりの者を連れて帰ると言ってきた」
「酷すぎます」
アマナスはリコを抱き寄せる。
「今回君らが来たのも、そういうことかと思ったのじゃよ」
「逃げましょうよ」
アマナスが提案する。
「どこへ?」
「どこか遠くへ」
「そんな曖昧な案には乗れんな。第一あいつには魔道具がある。逃げることを見られたら終わりじゃ」
「なら戦いましょうよ。ここは既に狙われているんですよ! 逃げないなら戦わないと!」
「それも無理じゃろう。未来視には勝てん」
先程の魔法の撃ち合いで、この老人が強いことは分かっている。その彼がこう言うのなら、不可能なのだろう。
「でもこのままなんて……」
と、そこで戸が叩かれた。
「アマナスさん。いますか? アントラです」
「アントラさん!」
アマナスがガラっと戸を開け、出迎える。
「おぬしか」
老人はアントラを知っているようだった。
「ご無沙汰しております」
「知り合いなんですか?」
「さっきの話に出てきた農家の子どもじゃ」
「そうだったんですね」
「それと、捜索隊もやっておる」
「なんでですか!?」
「落ち着きなさい」
老人がたしなめる。
「彼は国から逃げてきた子どもを、捜索隊から逃がしていたのじゃよ」
「そうなんですね」
良かったと、胸をなでおろす。
「のう、アントラ。話はこの子らから聞いたが、おぬしはどう考えておる?」
「大丈夫です。私とこの方たちがいれば、王を出し抜くことは可能です」
「そうか」
老人はあっさり受け入れた。
「俺たちがですか?」
アマナスが問う。
「皆さんは魔道具をお持ちですよね?」
「そうですけど、それがどういう……」
「王の魔道具は、魔道具を所持している人の未来視は、精度が著しく落ちるのです」
「そうなんですか!?」
「だから私がここにいるのです。皆さんの荷物も運んでありますので、決着が着くまでは魔道具を離さないでくださいね」
四人は廊下に置いてある荷物を受けとる。
アントラは話を切り替える。
「彼は魔道具を手にするまでは、他者を犠牲にするような人ではなかったんです。私は彼を救いたい! 昔のように、皆と同じ視点に立てる人になってほしい! だから協力してください。お願いします」
彼は頭を下げてアマナス達に頼み込む。
「勿論、協力いたしますよ」
オーメンは微笑みをたたえ、肩に手を置く。
「俺も協力します」
「私も!」
「ネタになりそうだしな」
三人も同意した。
「ありがとうございます」
アントラは涙を流しながら感謝した。
かくして、モナク王との戦いの火蓋が切って落とされた。
予言通り野生動物達が畑に来、村人たちは各々撃退した。
ある家庭は野生動物を殺さず、逃がした。それを知ったモナクはその家庭に行き、逃がした理由を問いただした。
「なぜ殺さなかった?」
「無闇に殺すのは可哀想でしたし、生態系への影響も心配でしたから」
「お前のその考えが、他の畑への被害に繋がるとは考えなかったのか?」
「しかし、来ても無駄だと皆で学習させれば、殺さなくてもいいはずです」
「その考えが既に迷惑だ」
彼は村人の考えをばっさり切り捨てる。
「いいか、次に野生動物が来たら迷わず殺せよ。分かったか」
「……はい」
モナクは村人の話を聞かなくなっていった。不満があっても、魔道具に頼ることを覚えた村人達は、彼には逆らえなかった。
ある日モナクは村を出ると言い出した。
「隣のブリテー国に行って王になる」
「そんな、この村を捨てるのですか?」
「捨てるも何も、俺は元より、王になるためにこの村で経験を積んでいたのだ」
「そんな」
「喜べ諸君! この俺の、王道への踏み台になれたことを!」
「それ以降、この村にたびたび子どもが逃げてきた。学習の機会を提供すると言われて王国へ来たものの、働かされてばかり。騙されたという者ばかりじゃった」
「それが奴隷」
オーメンが呟く。
「あいつは、捜索隊を送り込んでくることもあった。差し出さねば、代わりの者を連れて帰ると言ってきた」
「酷すぎます」
アマナスはリコを抱き寄せる。
「今回君らが来たのも、そういうことかと思ったのじゃよ」
「逃げましょうよ」
アマナスが提案する。
「どこへ?」
「どこか遠くへ」
「そんな曖昧な案には乗れんな。第一あいつには魔道具がある。逃げることを見られたら終わりじゃ」
「なら戦いましょうよ。ここは既に狙われているんですよ! 逃げないなら戦わないと!」
「それも無理じゃろう。未来視には勝てん」
先程の魔法の撃ち合いで、この老人が強いことは分かっている。その彼がこう言うのなら、不可能なのだろう。
「でもこのままなんて……」
と、そこで戸が叩かれた。
「アマナスさん。いますか? アントラです」
「アントラさん!」
アマナスがガラっと戸を開け、出迎える。
「おぬしか」
老人はアントラを知っているようだった。
「ご無沙汰しております」
「知り合いなんですか?」
「さっきの話に出てきた農家の子どもじゃ」
「そうだったんですね」
「それと、捜索隊もやっておる」
「なんでですか!?」
「落ち着きなさい」
老人がたしなめる。
「彼は国から逃げてきた子どもを、捜索隊から逃がしていたのじゃよ」
「そうなんですね」
良かったと、胸をなでおろす。
「のう、アントラ。話はこの子らから聞いたが、おぬしはどう考えておる?」
「大丈夫です。私とこの方たちがいれば、王を出し抜くことは可能です」
「そうか」
老人はあっさり受け入れた。
「俺たちがですか?」
アマナスが問う。
「皆さんは魔道具をお持ちですよね?」
「そうですけど、それがどういう……」
「王の魔道具は、魔道具を所持している人の未来視は、精度が著しく落ちるのです」
「そうなんですか!?」
「だから私がここにいるのです。皆さんの荷物も運んでありますので、決着が着くまでは魔道具を離さないでくださいね」
四人は廊下に置いてある荷物を受けとる。
アントラは話を切り替える。
「彼は魔道具を手にするまでは、他者を犠牲にするような人ではなかったんです。私は彼を救いたい! 昔のように、皆と同じ視点に立てる人になってほしい! だから協力してください。お願いします」
彼は頭を下げてアマナス達に頼み込む。
「勿論、協力いたしますよ」
オーメンは微笑みをたたえ、肩に手を置く。
「俺も協力します」
「私も!」
「ネタになりそうだしな」
三人も同意した。
「ありがとうございます」
アントラは涙を流しながら感謝した。
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