魔道具は希望と共に

小鳥遊怜那

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七つの大罪 嫉妬編

反応アリ

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早朝。三人が街を出歩いていると、声が聞こえた。
「待ってくれよシズ」 
「ついてこないでよ気持ち悪い!」
 オーサーが女の人を追っていた。
 彼と目があった。
 
「いやぁ、恥ずかしい所を見られたね」
「何があったんですか?」
 アマナスが問う。
「彼女は俺の妹でね。怒らせてしまったんだよね」
「心当たりはありますか?」
「小説だよ」
 何となく察しがついた。
「昨日オーメンさんには見せた本あるでしょ?」
「兄妹の恋愛を書いたものと、ライトさんから聞きました」
「なら分かるだろ? あれを書いてから、微妙な雰囲気になってしまったんだよ」
「そうでしょうね」
「それでも、妹が出てくる物語以外は気持ちが乗らなくて……」
「妹がいるのにそういう本を書いたら、こうなるって分かってましたよね?」
 呆れたように聞く。
「それでも俺には、これしか書きたいものがないんだ」
「どうしてそこまで固執するんですか?」
「俺にとって妹は、唯一自分を肯定してくれる存在だからだ」

 四年前、彼が十八の頃。
「母さん。交通費貰ってもいいかな?」
「はぁ、貴方もそろそろ自立してほしいものね」
 母が不満を言いながら、金を渡す。オーサーは多少の負い目と共に金を受け取る。
 その日は久々に友人と遊びに行く予定が入っていたのだ。
 
 遊びから帰ると、家族の声が聞こえた。 
「あいつももう十八だというのに、遊んでばかり。何がしたいのかさっぱり分からない」
「シータは働いていて、シズですらバイトしてるのに、何でオーサーはあんな風になっちゃったのかしら」
「何か作家になりたいとか言ってたけど、筆をとってるとこを、一回も見たことないんだよね」
 父、母、姉が口々に彼への不満を話す。
 いないと思って好き勝手言いやがって。とオーサーが思っていると
「きっとお兄ちゃんも、考えがあるんじゃないかな?」
 とシズのフォローが入った。
「考えってどんな?」
「それは分からないけど。でもいつまでもあのままってわけじゃないと思うよ」
 オーサーは救われた気がした。悪いのは自分だと分かっていても動けない。そんな時に、きっと動けると肯定されたことが、彼にとっては大きな救いになった。

「昔からあいつだけは、俺の言うことを聞いてくれた。嫌々ながらだとは思うけど、否定や比較ばかりされてばっかの俺には、本当に救いだったんだ」
「歪んでますね」
 アマナスはばっさり切り捨てた。
「分かってるよ。でも俺にとってはそれが全てだ。そしてその気持ちは全部、小説にぶつけてる」
「結局それで気持ち悪がられてますよね?」
「今朝もそれを言われてね。もう兄妹モノは書かないでって」
「ならそうするしかないですね」
「無理だよ! アイデアは出ても、筆が進まないんだ!」
「作家ですよね!? そこはしっかりしてくださいよ」
「ごむたいなー」

 三人はオーサー宅を出て、昼過ぎまで街を少しまわった。
「さて、目ぼしいものも無かったし、そろそろ――」
 出発しようと言いかけた時、ライトに声をかけられた
「もう出発するのかい?」
「はい。もうあらかた廻ったので」
アマナスが答える。
「ライトさんは何をしていたんですか?」
「散歩だよ。ちょっとネタを探していてね」
「見つかるといいですね。それでは」
 と、歩を進めようとしたときだった。
「いや、やっぱり少し残ろう」
 とオーメンが言い出した。
「えっ? でももう――」
「ライトさん。今ネタを探していると言いましたよね?」
「そうだが?」
「それ、魔道具のせいかもしれませんよ」
「「!!」」
 オーメンは不気味な笑顔をニタァと浮かべた。
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