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七つの大罪 嫉妬編
売れたもの
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喫茶店でオーサーを待つこと十五分。彼は遅れてやってきた。
「ごめんごめん。何聞くか考えてたら遅れちゃった」
「大丈夫ですよ」
オーメンは優しくそう言った。
「じゃあ早速だけど、君たちってどういう関係なの?」
「旅の仲間です」
アマナスが答える。
「どうやって出会ったの?」
アマナスはこれまでの経緯を話す。
「なるほど、魔道具探しの旅をねー」
オーサーはそう言うと口に手を当て、視線を外す。
「ええ。そうです」
アマナスはオーメンをチラッと見る。オーメンはニコっと微笑みを返す。
「それでリコちゃんはどんな本を読んでるの?」
「『白毛組合』って本」
それを聞いたオーサーは眉をピクっとさせ
「師匠の本かー。けど子どもには少し難しくない?」
「けど、探偵がビシっと決めるとこは好きだよ」
「それはミステリーの楽しみ方としては変だよ」
「そうなの?」
「そうだよ。もっと普通に楽しめる作品があると思うし、よかったらウチに来なよ。今書いてる作品の感想も聞きたいし」
「是非行かせてください!」
またとない好機だと判断したオーメンは少し大きな声をあげた。
「そうだね。大人の意見も聞こうかな」
喫茶店を出て、四人はオーサーの家へと向かった。
「ごちゃっとしてるけど、気にしないで」
「お邪魔します」
部屋には、書いては捨てた原稿が転がっていた。
「いかにもって感じですね」
アマナスがフォローする。
「本がいっぱい」
リコは本に目が流れた。
「……」
オーメンはただ黙った。
「これが今書いてる原稿。初稿は終わってるから、安心してね」
三人は四時間程かけて、ゆっくり読んだ。
「思ったより普通でした」
とアマナスが。
「あんまりわぁってならなかった」
リコが続ける。
「挫折した主人公が、妹の応援で立ち上がるという大筋はいいですけど、余計な部分が多くて伝わりにくかったです」
オーメンはダメ出しをした。
「ま、まぁ初稿だからね。これからさ。これから」
オーサーは強がった。
「他にも沢山書いてるって言ってましたよね?」
オーメンが問う。
「そうだが?」
「一番売れたものを読ませてください」
「あー、うん」
オーサーはリコの方を見る。
「あまり子ども向けではないんだよねー」
「じゃあ私だけで読みます」
「ならまぁ……」
オーサーは渋々承諾する。
「二人は先に帰ってて」
「分かりました」
アマナスはリコを連れてオーサー宅を出た。
「三時か。おやつ食べに行こうか」
「うん」
二人は朝とは別の喫茶店に入った。
「私はマドレーヌがいい」
「俺はフィナンシェにするよ」
アマナスは注文の品を、眠そうに座るリコの元へ運ぶ。
「疲れちゃった?」
「一気に読んだことないから」
「そうだね」
と会話をしている二人に、男が声をかける。
「やぁ、奇遇だね」
「あ、ライトさん」
「オーサー君の所には行ってくれたかい?」
「正にその帰り道です」
「あの女性は別かい?」
「オーメンさんは先生のとこで、まだ読むそうです」
「そうか。気に入ってくれたなら良かったよ。彼の作品は人を選ぶから」
彼は心底嬉しそうにそう言った。
「彼の本で、唯一売れたのが、どんなものか知ってるかい?」
「子ども向けではないとだけ」
「確かにね」
一呼吸おいて続ける。
「兄妹の恋愛ものなんだよ」
「それは確かに子どもには見せたくありませんね」
「それだけなら大した問題はないんだ。問題は、彼に実妹がいるんことだよ」
「!?」
「妹がいながら、兄妹恋愛モノを書いたんで、妹さんには気持ち悪がられてるんだ」
「お察しします」
「それでも、情熱を持って書けるものがあるっていうのは、良いことだと思うんだけどね」
「ままならないものですね」
「けど、彼のアイデア力には目を見張るものがあるし、そのうち折り合いをつけられるようにはなるだろう」
軽く話をし、アマナスとリコは宿へ戻った。
夜も深まる頃、オーメンは戻ってきた。
「お帰りなさい」
アマナスは眠気混じりに、オーメンを出迎える。
「魔道具は見つかったよ」
「今回は何でしたか?」
「オーサーが使っていたペンだよ」
「まさか盗ってきたんですか?」
「商売道具をとるほど節操なしじゃないよ」
「なら良かったです」
「明日少しこの街を見たら、出発しよう」
「分かりました」
「おやすみ」
「お休みなさい」
寝る前にアマナスは考えた。役所の時もそうだったけど、魔道具が欲しいわりには弁えてるんだよな。今回も収集出来ないと分かったら、あっさり引くし……。まあ何であれ、俺はこの人に着いていくだけだ。
次の朝、彼は少し早く目を覚ますのだった。
「ごめんごめん。何聞くか考えてたら遅れちゃった」
「大丈夫ですよ」
オーメンは優しくそう言った。
「じゃあ早速だけど、君たちってどういう関係なの?」
「旅の仲間です」
アマナスが答える。
「どうやって出会ったの?」
アマナスはこれまでの経緯を話す。
「なるほど、魔道具探しの旅をねー」
オーサーはそう言うと口に手を当て、視線を外す。
「ええ。そうです」
アマナスはオーメンをチラッと見る。オーメンはニコっと微笑みを返す。
「それでリコちゃんはどんな本を読んでるの?」
「『白毛組合』って本」
それを聞いたオーサーは眉をピクっとさせ
「師匠の本かー。けど子どもには少し難しくない?」
「けど、探偵がビシっと決めるとこは好きだよ」
「それはミステリーの楽しみ方としては変だよ」
「そうなの?」
「そうだよ。もっと普通に楽しめる作品があると思うし、よかったらウチに来なよ。今書いてる作品の感想も聞きたいし」
「是非行かせてください!」
またとない好機だと判断したオーメンは少し大きな声をあげた。
「そうだね。大人の意見も聞こうかな」
喫茶店を出て、四人はオーサーの家へと向かった。
「ごちゃっとしてるけど、気にしないで」
「お邪魔します」
部屋には、書いては捨てた原稿が転がっていた。
「いかにもって感じですね」
アマナスがフォローする。
「本がいっぱい」
リコは本に目が流れた。
「……」
オーメンはただ黙った。
「これが今書いてる原稿。初稿は終わってるから、安心してね」
三人は四時間程かけて、ゆっくり読んだ。
「思ったより普通でした」
とアマナスが。
「あんまりわぁってならなかった」
リコが続ける。
「挫折した主人公が、妹の応援で立ち上がるという大筋はいいですけど、余計な部分が多くて伝わりにくかったです」
オーメンはダメ出しをした。
「ま、まぁ初稿だからね。これからさ。これから」
オーサーは強がった。
「他にも沢山書いてるって言ってましたよね?」
オーメンが問う。
「そうだが?」
「一番売れたものを読ませてください」
「あー、うん」
オーサーはリコの方を見る。
「あまり子ども向けではないんだよねー」
「じゃあ私だけで読みます」
「ならまぁ……」
オーサーは渋々承諾する。
「二人は先に帰ってて」
「分かりました」
アマナスはリコを連れてオーサー宅を出た。
「三時か。おやつ食べに行こうか」
「うん」
二人は朝とは別の喫茶店に入った。
「私はマドレーヌがいい」
「俺はフィナンシェにするよ」
アマナスは注文の品を、眠そうに座るリコの元へ運ぶ。
「疲れちゃった?」
「一気に読んだことないから」
「そうだね」
と会話をしている二人に、男が声をかける。
「やぁ、奇遇だね」
「あ、ライトさん」
「オーサー君の所には行ってくれたかい?」
「正にその帰り道です」
「あの女性は別かい?」
「オーメンさんは先生のとこで、まだ読むそうです」
「そうか。気に入ってくれたなら良かったよ。彼の作品は人を選ぶから」
彼は心底嬉しそうにそう言った。
「彼の本で、唯一売れたのが、どんなものか知ってるかい?」
「子ども向けではないとだけ」
「確かにね」
一呼吸おいて続ける。
「兄妹の恋愛ものなんだよ」
「それは確かに子どもには見せたくありませんね」
「それだけなら大した問題はないんだ。問題は、彼に実妹がいるんことだよ」
「!?」
「妹がいながら、兄妹恋愛モノを書いたんで、妹さんには気持ち悪がられてるんだ」
「お察しします」
「それでも、情熱を持って書けるものがあるっていうのは、良いことだと思うんだけどね」
「ままならないものですね」
「けど、彼のアイデア力には目を見張るものがあるし、そのうち折り合いをつけられるようにはなるだろう」
軽く話をし、アマナスとリコは宿へ戻った。
夜も深まる頃、オーメンは戻ってきた。
「お帰りなさい」
アマナスは眠気混じりに、オーメンを出迎える。
「魔道具は見つかったよ」
「今回は何でしたか?」
「オーサーが使っていたペンだよ」
「まさか盗ってきたんですか?」
「商売道具をとるほど節操なしじゃないよ」
「なら良かったです」
「明日少しこの街を見たら、出発しよう」
「分かりました」
「おやすみ」
「お休みなさい」
寝る前にアマナスは考えた。役所の時もそうだったけど、魔道具が欲しいわりには弁えてるんだよな。今回も収集出来ないと分かったら、あっさり引くし……。まあ何であれ、俺はこの人に着いていくだけだ。
次の朝、彼は少し早く目を覚ますのだった。
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