魔道具は希望と共に

小鳥遊怜那

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証村

祝福

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「私、この子を生みます」
 レイは店長に告げた。
「じゃあ明日から休職だな。書類渡すから書いてきてね」
 店長は相変わらず事務的だった。

「家事とか手伝うし、話し相手にもなるからね」
 琴は変わらず優しかった。
「ありがとうございます」
 他の嬢たちも、それぞれ激励やアドバイスの言葉をかける。

「今日からお休みかー。どうしよう」
 今まで仕事を休むことはなく、休日は母の看病に費やしていた。何をすればいいのか分からなかった。
 ひとまず妊娠、出産や子育てに関する本を読むことにした。
 腰痛、貧血、疲れやすさ、食べたらいけないもの、食べた方がいいもの、ウォーキング、精神の不調等々。
 不安だ。やはり父親がいないのは、不利なことが多い。こればかりは、嬢たちでは代えがきかない。
「本当に生んでもいいのかな?」
 思わず口から溢れた。

 それから半年程経過した。
 大きく膨れたお腹は彼女の心身の日常を変える。少し歩くだけで息は上り、以前よりも食事は摂れず、睡眠不足を招いた。
「早く復帰したいなー」
 仕事は大変だったが、収入はあり、仲間とも対等でいられた。それを実感した彼女はまた、心細くなるのだった。
「ごめんください」
 琴の声がした。彼女を家に入れると、調子をたずねてきた。
「まあぼちぼちですね」
「そっか。お昼まだだったら作るよ」
「じゃあお願いします」
 任せてと言うと、彼女は台所へ向かった。
 やっぱり琴さんはいい人だなぁ。だからこそ、お世話になりっぱなしにはなりたくないな。
 料理をする彼女の背中を見て、レイはそう思った。
 
 それから更に半年ほどが経ち、陣痛が来た。
「~~!」
 入院していた彼女は、痛みに耐えながらナースコールを押す。
 即座に看護師と助産師が駆けつけ、分娩室へと彼女を運ぶ。
 
 そして十二時間が経過し、遂に
「おぎゃー」
 子どもが生まれた。
 助産師が赤子の体を拭き、臍の緒を切ってから、毛布にくるむ。
「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」
 初めて顔を合わせたレイは、赤子に祝福の言葉をかける。
「初めまして。お母さんだよ。生きていたら楽しいことも辛いことも沢山あるけど、それはこれまでとこれからに祝福があるからなんだよ。生まれてきてくれてありがとう。リコ」
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