9 / 104
証村
祝福
しおりを挟む
「私、この子を生みます」
レイは店長に告げた。
「じゃあ明日から休職だな。書類渡すから書いてきてね」
店長は相変わらず事務的だった。
「家事とか手伝うし、話し相手にもなるからね」
琴は変わらず優しかった。
「ありがとうございます」
他の嬢たちも、それぞれ激励やアドバイスの言葉をかける。
「今日からお休みかー。どうしよう」
今まで仕事を休むことはなく、休日は母の看病に費やしていた。何をすればいいのか分からなかった。
ひとまず妊娠、出産や子育てに関する本を読むことにした。
腰痛、貧血、疲れやすさ、食べたらいけないもの、食べた方がいいもの、ウォーキング、精神の不調等々。
不安だ。やはり父親がいないのは、不利なことが多い。こればかりは、嬢たちでは代えがきかない。
「本当に生んでもいいのかな?」
思わず口から溢れた。
それから半年程経過した。
大きく膨れたお腹は彼女の心身の日常を変える。少し歩くだけで息は上り、以前よりも食事は摂れず、睡眠不足を招いた。
「早く復帰したいなー」
仕事は大変だったが、収入はあり、仲間とも対等でいられた。それを実感した彼女はまた、心細くなるのだった。
「ごめんください」
琴の声がした。彼女を家に入れると、調子をたずねてきた。
「まあぼちぼちですね」
「そっか。お昼まだだったら作るよ」
「じゃあお願いします」
任せてと言うと、彼女は台所へ向かった。
やっぱり琴さんはいい人だなぁ。だからこそ、お世話になりっぱなしにはなりたくないな。
料理をする彼女の背中を見て、レイはそう思った。
それから更に半年ほどが経ち、陣痛が来た。
「~~!」
入院していた彼女は、痛みに耐えながらナースコールを押す。
即座に看護師と助産師が駆けつけ、分娩室へと彼女を運ぶ。
そして十二時間が経過し、遂に
「おぎゃー」
子どもが生まれた。
助産師が赤子の体を拭き、臍の緒を切ってから、毛布にくるむ。
「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」
初めて顔を合わせたレイは、赤子に祝福の言葉をかける。
「初めまして。お母さんだよ。生きていたら楽しいことも辛いことも沢山あるけど、それはこれまでとこれからに祝福があるからなんだよ。生まれてきてくれてありがとう。リコ」
レイは店長に告げた。
「じゃあ明日から休職だな。書類渡すから書いてきてね」
店長は相変わらず事務的だった。
「家事とか手伝うし、話し相手にもなるからね」
琴は変わらず優しかった。
「ありがとうございます」
他の嬢たちも、それぞれ激励やアドバイスの言葉をかける。
「今日からお休みかー。どうしよう」
今まで仕事を休むことはなく、休日は母の看病に費やしていた。何をすればいいのか分からなかった。
ひとまず妊娠、出産や子育てに関する本を読むことにした。
腰痛、貧血、疲れやすさ、食べたらいけないもの、食べた方がいいもの、ウォーキング、精神の不調等々。
不安だ。やはり父親がいないのは、不利なことが多い。こればかりは、嬢たちでは代えがきかない。
「本当に生んでもいいのかな?」
思わず口から溢れた。
それから半年程経過した。
大きく膨れたお腹は彼女の心身の日常を変える。少し歩くだけで息は上り、以前よりも食事は摂れず、睡眠不足を招いた。
「早く復帰したいなー」
仕事は大変だったが、収入はあり、仲間とも対等でいられた。それを実感した彼女はまた、心細くなるのだった。
「ごめんください」
琴の声がした。彼女を家に入れると、調子をたずねてきた。
「まあぼちぼちですね」
「そっか。お昼まだだったら作るよ」
「じゃあお願いします」
任せてと言うと、彼女は台所へ向かった。
やっぱり琴さんはいい人だなぁ。だからこそ、お世話になりっぱなしにはなりたくないな。
料理をする彼女の背中を見て、レイはそう思った。
それから更に半年ほどが経ち、陣痛が来た。
「~~!」
入院していた彼女は、痛みに耐えながらナースコールを押す。
即座に看護師と助産師が駆けつけ、分娩室へと彼女を運ぶ。
そして十二時間が経過し、遂に
「おぎゃー」
子どもが生まれた。
助産師が赤子の体を拭き、臍の緒を切ってから、毛布にくるむ。
「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」
初めて顔を合わせたレイは、赤子に祝福の言葉をかける。
「初めまして。お母さんだよ。生きていたら楽しいことも辛いことも沢山あるけど、それはこれまでとこれからに祝福があるからなんだよ。生まれてきてくれてありがとう。リコ」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる