どうせクソババアと言われるなら,徹底的にクソババアになってやる・・・

猫山

文字の大きさ
上 下
45 / 53

45 まずはでんちゅうでござるうううう

しおりを挟む
「は?」
「え?」

 遠藤夫妻が同じように大根キムチを取り皿へと落とす。双子のような動きに思わず笑ってしまう。涼香が横にいる大輝に目をやると、はにかんだ笑顔を見せる。

「大輝、お前──なんて……」

「いや、だから、俺たち……付き合ってます」

 もう一度ゆっくりと言葉を紡ぐと、洋介も弘子もあんぐりと口が開いている。
 二人は無言で抱き合いぎゅっと抱きしめ合う。悶絶しているのだろう……遠藤夫婦は声にならない声を上げる。

 しばらくして弘子が涼香の方へと歩み寄り熱い抱擁する。それを見た洋介が立ち上がったところで大輝が「いや、俺はいい……」と洋介を止める。それでも洋介は聞こえないふりをして俺の元へとやってくると隣の女子たちに負けないような熱い抱擁をした。

「おい、もういいってば……暑苦しい! 野郎で抱き合うのはごめんだ。おい! 聞いてんのか洋介──」

 洋介は泣いていた。
 初めて見た、洋介が泣いている。俺には見えないが鼻をすすり、曇った声が聞こえた。

「良かったな……大輝、良かった良かった……」

「洋介……」

 明るくていつも楽しげな男の涙は思いのほか心にくる。ただ、付き合ったと報告しただけなのに……ただ、それだけなのに俺たちのために泣いてくれている。それが、嬉しい。

 隣を見ると弘子ちゃんも泣いている。涼香も同じように泣いている。

 なんだ? 涙涙だ……。

 おめでとう、乾杯! やったな! ようやくか!

 そう言われて終わるとばかり思っていたのだが、この二人には随分と心配をかけさせてしまったようだ。俺は洋介の肩を叩く。涙がつられて出てしまわぬ様に洋介から視線を外す。

「これからだって。色々とありがとな」

「……おう、とりあえずお前ここ奢れ」

「……は?」

 隣の弘子は抱擁が終わり目尻をぬぐいながら席へと戻っている。

「嬉しいわ、大輝くんの奢りだなんて……洋介、あんた確か胃薬持ってたわよね? 私にちょうだい」

 夫婦は胃薬を口に含むと湯飲みの茶を飲み干した。本気だ、この似た者夫婦……胃袋の崩壊を恐れていない。

「よし、飲むか……」

 大輝は諦めたように笑うとビールを傾けた。涼香も楽しそうに体を左右に揺らしながらジョッキを傾けた。

「えーでは、浜崎大輝くんと木村涼香さんの交際を祝いましょう、カンパーイ!!」

 洋介がとんでもない音量で乾杯の音頭をとる。隣にいた会社員もつられてグラスを持ち上げて祝ってくれた。

 幸せだった。みんな笑顔で酒を飲んだ。洋介や弘子の友情に胸が熱くなった。大輝や涼香の愛おしい思いに胸が焦がれた。

 こんなに幸せを感じながら酒を飲める日が来るなんてあの時は思えなかった。

 酒を飲む理由が、変わった。

 希……俺、幸せだ。だから、もう心配すんな。いい人たちに囲まれて、俺はもう大丈夫だから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

山蛭様といっしょ。

ちづ
キャラ文芸
ダーク和風ファンタジー異類婚姻譚です。 和風吸血鬼(ヒル)と虐げられた村娘の話。短編ですので、もしよかったら。 不気味な恋を目指しております。 気持ちは少女漫画ですが、 残酷描写、ヒル等の虫の描写がありますので、苦手な方又は15歳未満の方はご注意ください。 表紙はかんたん表紙メーカーさんで作らせて頂きました。https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html

遥か

カリフォルニアデスロールの野良兎
キャラ文芸
鶴木援(ツルギタスケ)は、疲労状態で仕事から帰宅する。何も無い日常にトラウマを抱えた過去、何も起きなかったであろう未来を抱えたまま、何故か誤って監獄街に迷い込む。 生きることを問いかける薄暗いロー・ファンタジー。 表紙 @kafui_k_h

京都かくりよあやかし書房

西門 檀
キャラ文芸
迷い込んだ世界は、かつて現世の世界にあったという。 時が止まった明治の世界。 そこには、あやかしたちの営みが栄えていた。 人間の世界からこちらへと来てしまった、春しおりはあやかし書房でお世話になる。 イケメン店主と双子のおきつね書店員、ふしぎな町で出会うあやかしたちとのハートフルなお話。 ※2025年1月1日より本編start! だいたい毎日更新の予定です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...