どうせクソババアと言われるなら,徹底的にクソババアになってやる・・・

猫山

文字の大きさ
上 下
37 / 53

37 しらないよ。あたしゃ知らないよ〜〜

しおりを挟む
 追分参五郎は、上州へ向けて旅立った。愛しい女のために清水寿郎長の命を取る旅だった。当然、足取りは軽くない。
 上田村辺りの峠に店が在り、飯を食う事にする。飯屋には先客が居て、どう見ても女衒だった。女衒とは、女を商品にして商売する連中の事で、主に百姓家で口減しにあった者や、借金の形で取り引きされた娘を、女郎宿や岡場所に売る職業だった。参五郎が男を女衒だと思ったのは、娘を三人連れているからだった。歳の頃から、男の実の娘とは思えないし、彼女たちが旅をする理由も思いつかない。三人とも、まだ十歳前後だと思われ、幼い顔立ちが哀れに思えた。参五郎は、節もこんな感じで女郎になったのかと思って見つめていた。

「何だい、お兄さん、子供が好みかい」
 不意に声をかけられ、慌ててしまう。女衒は、参五郎を不審そうに見ていた。女衒の世界も物騒で、商品を力づくで奪う不届き者も居た。しかも、参五郎は渡世人の格好をしている。警戒するのは当然だった。

「いや、なにね、あっしも郷里に妹が居るもんだから、つい見てしまったんですよ。勘弁しておくんなさいまし」
 女衒は、一応は参五郎を信用したらしく、広角を上げた。だが、目は笑っていない。やはり、人買い稼業なんぞをしていると、人が信じられなくなるらしい。

 女衒は、娘を連れて先に出た。参五郎は、飯が来たので腹ごしらえをする。
 丼に冷や飯が入っている。玄米六割に雑穀四割の黒飯だった。当時は、今と違って温かい白米が常時用意されている訳ではない。漬物を乗せ、熱い味噌汁をかける。これでちょうど食べ頃になる。川魚の塩焼きも入れ、骨も頭も箸でガシガシ汁かけご飯に馴染ませる。これを一気に掻き込んだ。行儀は悪いが気にしない。

 参五郎が急いで飯を食ったのは、訳があった。どうにも女衒が連れていた娘が気になる。頬の赤い娘は、どことなく節に似ていた。せめて途中まで見守ってあげたかった。

 参五郎は、急いで女衒たちを追う。すると、言い争う声が聞こえた。参五郎は走り出す。

「やめておくんなさい。この娘たちは、上州の前田栄五郎親分の元に連れて行く事が決まっているんですよ」
 女衒の声がした。見ると、三人の男に囲まれている。女衒の後ろで、娘たちは不安そうにしている。
 三人の男は、無頼者の類いに見えた。時に雲助、つまり、無法な駕籠かき、時に山賊などで生計を立てる悪党だった。
 参五郎は、両者に割って入る。
「おいおい、乱暴な真似はよしねぇ。この追分参五郎、騒動の仲裁に入るぜ」
 悪党は、お節介な渡世人に怒鳴る。
「引っ込んでろ三下! 怪我じゃ済まないぜ」
 参五郎は、相手の言い分が頭に来た。
「済まなきゃどうだって言うんだ。教えてくれよ」
 こうなると、血の気の多い連中だから、穏やかには収まらない。悪党は腰刀を抜く。猟師が獲物にとどめを刺す時に使うような簡単な拵えの刀だった。

 参五郎は、脇差を抜く。参五郎の刀は、短かった。右手で脇差を構え、左手には縞の合羽を持つ。
「さぁ、来やがれ、山猿ども!」
 丁々発止と戦いが始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

髪を切った俺が芸能界デビューした結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 妹の策略で『読者モデル』の表紙を飾った主人公が、昔諦めた夢を叶えるため、髪を切って芸能界で頑張るお話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

後宮の偽物~冷遇妃は皇宮の秘密を暴く~

山咲黒
キャラ文芸
偽物妃×偽物皇帝 大切な人のため、最強の二人が後宮で華麗に暗躍する! 「娘娘(でんか)! どうかお許しください!」 今日もまた、苑祺宮(えんきぐう)で女官の懇願の声が響いた。 苑祺宮の主人の名は、貴妃・高良嫣。皇帝の寵愛を失いながらも皇宮から畏れられる彼女には、何に代えても守りたい存在と一つの秘密があった。 守りたい存在は、息子である第二皇子啓轅だ。 そして秘密とは、本物の貴妃は既に亡くなっている、ということ。 ある時彼女は、忘れ去られた宮で一人の男に遭遇する。目を見張るほど美しい顔立ちを持ったその男は、傲慢なまでの強引さで、後宮に渦巻く陰謀の中に貴妃を引き摺り込もうとする——。 「この二年間、私は啓轅を守る盾でした」 「お前という剣を、俺が、折れて砕けて鉄屑になるまで使い倒してやろう」 3月4日まで随時に3章まで更新、それ以降は毎日8時と18時に更新します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...