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プロローグ
しおりを挟む人との関わりに嫌気が差し、引っ越した屋敷で発見した隠し部屋には祠が祭られていた。
祠の向こう側には赤い色のペンキが剥げ落ち、朽ち果てた鳥居と鍾乳洞があったのだ。
冒険心を掻き立てられた私は鍾乳洞の中に足を踏み入れると視界が一瞬ぼやけ、見えない透明の壁を通り抜けたような奇妙な感覚に陥いったのだ。
鍾乳洞の中は意外と広く、天井から氷柱のように無数の鍾乳石が垂れ下がっていた。いくつかの鍾乳石の直下には滴り落ちた水滴で出来た石筍と呼ばれる突起物があったり、鍾乳石と石筍が長い年月を掛けて繋がった石柱が、エメラルド色の光をボンヤリ放つ光苔に照らし出されキラキラと輝いていた。
大自然が生み出した幽玄の美に驚嘆する私であったが、これから遭遇する出来事のプレリュードに過ぎなかったのだ。鍾乳洞を抜けると、目を疑うような光景が広がっていた。
白い朝靄が陽炎のように揺らめき、遠くにはオーロラを彷彿させるような神秘的な光がキラキラと大地から立ち上り、辺りを優しく染め上げていた。
「ここは、何処だ? どう考えても日本では無いよな……」
非現実的な状況に、私は思わず声を上げてしまった。
気を静め辺りを見回すと視線の先には小さいが荘厳な雰囲気を漂わせた神殿が、朝靄に溶け込むように静寂の中でひっそり佇んでいた。
私は神殿に向かって歩き出す。神殿に通じる石畳の周りには色鮮やかな花が咲き誇っているが人の気配は無く、深い海の底のような静けさの中で私の足音だけが微かに鳴り響いていた。
私は言いようの無い孤独感に苛まれるが、導かれるように掃き清められた神殿の中に足を運ぶのであった。
仄かに照らす灯りを頼りに薄暗い神殿の中を歩くと、少し開けた場所に辿り着いた。
そこには、人々を陶酔させる魅力と美しさを兼ね揃えた女神と思われる彫刻と、白い大理石の祭壇が部屋の中央に置かれていた。
祭壇の上には三つの渦巻き象ったトリスケルの模様が刻まれた銀杯が有り、揺らめきながらぼんやり光を灯している蝋燭に照らし出されて、鈍い光沢を放っているのであった。
カタッ!
静寂を打ち破るように低い音が鳴り響く。
我に返った私は目を凝らして奥を見渡すと小部屋があるようだ。蝋燭を手に取り部屋の中を照らすと、品のある家具や調度品が綺麗に並べられていた。窓際には天蓋の付いた白を基調としたベットが置かれ、先程見た彫刻と瓜二つの凄艶の美女が小さな寝息を立ててあどけない顔で眠っているのであった。
蝋燭の薄明かりに照らし出された彼女は古代ギリシャの女神のようなドレスを身に着けているが、胸元ははだけて深い谷間がくっきり見えている。
服の上からでも分かる柔らかそうな肉感のある豊かな膨らみは呼吸と共に艶かしく上下に揺れ動き、スラリと伸びた色艶のある素足は人目を憚らずに惜しげもなく晒されているのであった。
清楚でありながら妖艶。この世の者とは思えないほどの美貌。私は完璧な美の造形を目の当たりにして、思わず息を吞んだ。
しかし、次の瞬間背筋に”ぞくり”とした戦慄が迸ったのである。
彼女の心が読めない。
私には異能の力が幾つかある。いや、忌むべき力と言った方が良いだろう。人の心が読めるテレパシーがその一つである。
私の人間不信のきっかけとなった力である。
しかし、皮肉なものである。忌み嫌っていた力なのに、無意識のうちに依存していたのであろう。まったく心の読めない者の存在は、私の心肝を寒からしめるには充分であった。
「むにゃ、むにゃ!……ん!」
寝ぼけ眼をこすり、腕と身体を伸ばして伸びをする絶世の美女。”ぷるん”と、たわわに実った瑞々しい膨らみが弾み、ドレスの隙間から深い谷間が扇情的に晒される。
私の存在に気付いたのか、寝ぼけ眼がパッチリ開く。
起き上がった彼女の美しい金色の髪がフワリとたなびき、蝋燭の灯りの下で神秘的に煌いている。
全てを見通すように、清い水をたたえた湖のように深く澄んだ青い瞳が私を捉える。綺麗で引き込まれそうな瞳だ。
花が咲くような優しい微笑を浮かべ、手招く彼女に引き寄せられるように近づく。
彼女の腕が優しく私の首に回され抱きしめられる。柔らかで豊かな白い双丘が”ぐにゅん”と押し付けられ、淫らに形を変えている。彼女から仄かに漂う柑橘系の甘い香りが鼻腔をくすぐり頭がぼーっとする。
「やっと来てくれたんだ。私の使徒君♡」
耳元で甘く淫らに囁かれると、何故か体中の力が抜け彼女にベットに押し倒される。身体は動かないのに感覚だけは研ぎ澄まされ、敏感になっているようだ。
彼女の情熱的な口付けで私の抗議の声は掻き消され、興奮と共に徐々に肌は熱を帯びていく。彼女の熱い舌先が唇を押し開けるように侵入して口内を弄った後、甘露のような唾液が流し込まれると体中を甘美な熱いうねりが痺れるように駆け巡り、目の前が真っ白になっていくのであった。
朦朧とした意識の中で、彼女が囁く。
「赤城大和君! 改めてお願いするよ。約束どおり私の使徒になって世界を救って欲しいの。でも、その前に……♪ フフッ♡ 極上の加護を君にプレゼントするよ!」
その透き通るような美しくも艶を含んだ声に、私の過去の記憶が呼び戻される。
「その声! まさかあの時の……」
「あんっ! こんな時に、野暮な事を言わないの……」
薄い朱色の艶かしい唇を舐め上げ、獲物を狙う肉食獣のような目付きの彼女が覆いかぶさり淫らに腰をくねらせると、ドレスがはだけて色香の漂う真っ白な太腿が露になる。
すべすべで滑らかな肌触りの太腿を私の足に絡めながら情欲を掻き立てるように擦り付け、焦らすように優しく全身を撫で上げてくる。何度も打ち寄せる快楽の波に翻弄され、身体も動かずはっきりしない意識の中で、私は愉悦の声を上げるしか出来なかったのである。
何故こうなった?
そして、話は過去に遡るのであった。
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