やさぐれ男の異世界革命記

悪代官と越後屋

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サイレント・ジェラシー(回顧録 中学生)

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――由佳ちゃんに相応しい男になる!
 
 そう心に決めた私は勉学に勤しみ、部活動も懸命に励むのであった。

 私が入った部活は剣道部である。当初は、由佳ちゃんが居るから何と無く入部したのたが、気持ちを改め稽古に精を出すのであった。

 灼熱の太陽がジワジワと照りつける中、いつも通りランニングをした後、素振りの三挙動や、切り返し、打ち込み稽古をしていたのだが、笑顔の由佳ちゃんが地稽古(対等な立場で攻め合う)の相手を求めて私のところに来るのであった。

「大和君! 私の相手をしてくれないかな~」
「え~! 由佳ちゃんが強すぎて、僕だと相手にならないよ!」
「大丈夫、大丈夫! お姉ちゃんが優しく相手してあげるから! うふふっ!」

 美人のお姉さんに、『優しく相手してあげる♡』そんな事を言われたら、大抵の男はその一撃で撃沈だろう。だがその時の私には、恐怖の二文字しか頭に浮かばなかったのである。そして、あらかたの予想通りズタボロにされるのであった。

「酷いよ、由佳ちゃん! 本気を出すなんて……」
「ごめん! 大和君が、あまりにも必死だから、その意気に答えただけだよ」
「嘘つきの由佳ちゃんとは、もう稽古しないからね」
「許してよ! 大和君が相手してくれないと、お姉ちゃん寂しくて死んじゃうよ! そうだ、これでも飲んで機嫌を直して!」

 由佳ちゃんが差し出してきたのは、彼女が愛用しているストロー付きのピンク色の水筒で、中身はスポーツ飲料である。

 夏休みで人は少ないとはいえ、体育館の中はじっとしていても汗が体を伝うほど蒸し暑いのだ。喉が渇いていた私は遠慮なく飲み干したのだが、周りを見るとニマニマした顔の女子達と、血の涙を流す男達に囲まれていたのである。

「由佳! それって大和君と間接キスだよね!」
「ん~~? これぐらいの事、普段からしているけど?」
「きゃーーーー! 普段からしているなんて、大胆!」
「普段からしているだと? 大和の奴! な、なんて羨ましい事を……」

 黄色い声を上げ大はしゃぎの女子達とは裏腹に、敵愾心を露にした男達に肩を掴まれるのであった。

「大和! その水筒をよこせ! 俺も飲む!」
「バカ! 今、飲んだら大和と間接キスだぞ!」 
「うぐっ! 無念だが今回は諦めよう! ところで、大和! 男同士の話がある。ちょっと部室に行くぞ」

 怒りに打ち震える、男子剣道部の主将である井上先輩に、部室に引きずり込まれるのであった。

 女子の部室は良い匂いがするのだが、男子の部室はひたすら臭いのだ。

 女子の気を引こうと、密かに香水をつけているアホ部員が多く、汗の臭いと混じり合った悪臭が、ただでさえジメジメした暑苦しい部屋の中で充満しているのであった。



「ちょっと、大和君を返しなさい!」

 私を取り返そうと、男子の部室に押しかけてきた由佳ちゃんと井上先輩が、入り口で押し問答を始めるのであった。

「ここは、男の城で聖域だ! 女子の主将である伊勢さんでも、入れるわけにはいかない!」
「こんな臭い部屋に入りたく無いよ! 大和君を返してくれれば、直ぐ出て行くわよ」

 他の女子達も由佳ちゃんに加勢して、男子の部室の入り口で押し合いへし合いしている内に、棚に置いてあった紙袋が床に落ちて中身が飛散するのであった。

 破れた紙袋の中から出てきた物は、セクシーなポーズをとったきわどい水着のお姉さんや、面積の少ない透け透けの下着を身に着けた、妖艶な美女達の写真が掲載されたHな雑誌である。どうやらこの部室は、聖域ではなく性域だったようだ。 

 瞬時に蒸し暑い部室の空気が、真冬のように凍りつく。

 女子達の凍てつく冷たい視線が、井上先輩に降り注がれるのであった。


「こ、これは違うんだ! そう! 大和だ! 大和が持ってきたものだ!」

 窮地に追い込まれた井上先輩が、しれっと大嘘を付くのだが、次の瞬間いつの間にか竹刀を手に取っていた由佳ちゃんの面打ちが、井上先輩の剥き出しの頭に直撃するのであった。

「うぎゃ~~~~~!!!」

 
 頭を押さえながら、床の上でのた打ち回っている井上先輩を、ゴミでも見るような冷ややかな目で由佳ちゃんは眺めているのであった。

「大和君は確かにHだけど、その雑誌の女の子はどう見ても大和君の好みじゃないよ! それにその雑誌、あんたの名前が書いてあるじゃないの!」

 よくよく見ると、Hな雑誌の隅にマジックで井上と書かれているのであった。

「人のせいにするなんて最低!」
「ケダモノ!」
「ゴミ!」
「女の敵!」

 女子達に、辛辣な言葉を次々と浴びせ続けられた井上先輩は、ダメージの蓄積が限界を超えたのであろうか、ついに床に倒れたまま動かなくなった。

 女子の一部が竹刀の先で突っついて、僅かに反応した井上先輩を見て、『こいつ、動くぞ!』とか言いながら遊んでいたが、あえて関わらないようにするのであった。

 それにしても、井上先輩が真正のアホなのは理解できたが、由佳ちゃんが私の好みを知り尽くしているような口振りは、私を震撼させるのであった。


「ねぇねぇ、由佳! 大和君は、そんなにHなの?」
「大和君は、私のスカートを捲ったりブラのホックを外したりして、Hなイタズラばっかりするんだよ」
「きゃ~~~~! 可愛い顔してるのに、大和君て意外とワイルド!!」

 女子達が嬉々として私の話をしているようだ。自業自得とは言え、由佳ちゃんに過去の痴態をバラされた私は、深く傷つくのであった。



「大和だけズルイぞ! 俺も、伊勢さんのスカートを捲ったりブラを……グシャ!!」

 いきなり復活した井上先輩が、バ○オハザードの床を這いずるゾンビのように迫ってきたが、あっけなく女子達に頭を踏み潰されるのであった。



「でも、大和君の気持ちも分かるよ! 女の私から見ても、由佳は魅力的だからね! 特にこの胸は……えーい!」

 いつの間にか背後に回りこんだ女子の副主将である弥生さんが、白い道着の上から由佳ちゃんの質量感に溢れた形の良い膨らみを、掬い上げるように揉み上げていく。弥生さんは、柔らかくも弾力のある乳房に楽しむように指を食い込ませ、驚嘆の声を上げるのであった。

「はあっ~! 由佳、これは反則だよ! 私の手に余る大きさで、柔らかさも張りも反発力も最高! 少しは私に分けて欲しいよ! モミモミ♪」
「あんっ♡ こ、こらっ! なんて事するのよ! 後で覚えてなさい……んっ! ひゃあん!」
「よいではないか~、よいではないか~♪」

 どこぞの悪代官のようなセリフを言いながら、悪戯な笑みを浮かべた弥生さんの手がねっとりと動き始める。優しく愛でるように、由佳ちゃんのふくよかな柔丘を執拗に撫で回し始めた。調子に乗った弥生さんは、首筋からツッーと、しっとりと汗ばんでいる柔肌に指を這わせながら、道着の下に指を滑り込ませる。だが、次の瞬間拘束から逃れた由佳ちゃんのチョップが弥生さんの頭に炸裂するのであった。

「いた~~~い!」
「いた~~~い! じゃないよ! 人前で何て事するのよ!」
「大丈夫だよ! 大和君以外の男は、全員部室に閉じ込めたから!」

 男子の部室を見ると、井上先輩をはじめとした男子部員が狭い部室に押し込まれ、女子部員が入り口の扉を塞いでいるようだ。只でさえ臭く暑苦しい部室の中に多数の男が閉じ込められ、阿鼻叫喚の地獄絵図と化しているようだ。部室の中から、『臭いよ~狭いよ~怖いよ~』と叫び声が聴こえたが、あえて無視するのであった。


「まったく、由佳は乱暴だよ! 可愛い大和君に、サービスしただけなのに……」
「な、何がサービスよ! それなら弥生が、自分でしなさいよ!」
「えっ、いいの!? 大和君、確保!」

 ムギュ~~!!!

 弥生さんのふんわりとしたバストの感触と、甘い芳香が鼻腔を掠める。美少女に突然抱きしめられ、嬉しいやら恥ずかしいやらで、思わず赤面をしてしまった。

「ちなみに、これは由佳の物真似です! てへっ♡」

 小悪魔的な笑みを浮かべ、ペロッと可愛く舌を出している弥生さんであったが、彼女は気付いていないようだ。後ろには、とごぞの鋸を持った居合いが得意の巨乳ヤンデレのような目をした由佳ちゃんが、迫りつつあったのだ。 

「や・ま・と・君! ちょっと話があるけどいいかな~」
「ひゃっ、ひゃい!」

 あまりの恐怖に声が裏返ってしまった私の耳を引っ張りながら、由佳ちゃんは私を外に連れ出すのであった。



「弥生! あんまり由佳をからかったらダメだよ!」

 一部始終見ていた女子部員が、呆れたように弥生さんに話しかける。

「ふふっ! 傍から見てもあの二人はお似合いなのに、未だに何にも進展が無いんだよ! これがきっかけになって、恋愛に発展すれば良いと思っただけだよ……でも、ここまでお膳立てして上手くいかなかったら、私がお姉さんと恋人のポジションを奪っちゃおうかな~」

 弥生さんがボソッと呟いた言葉は、ざわめきの途絶えない喧騒の中で、誰に聞かれることも無く消えていくのであった。


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