異世界で娼館と商館経営⁉ ~チートを駆使したオッサンの剛腕繁盛記~

悪代官と越後屋

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39.据え膳食わぬは男の恥

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「オーナー、この弓の試し打ちを今すぐにしたい。中庭の訓練場を借りたいのだが、構わないか?」
「別に構わないけど、そのからくり仕掛けのヘンテコな弓なんて使い物になるのかしら?」
「ふふっ、試してみないと分からないが、かなり面白い事になりそうだ。それから貴公にも少し付き合ってもらうぞ。この弓について聞きたい事があるからな」
「ああっ、そこの女! 気安く主に触れるな!」

 プレゼントしたコンパウンドボウを弄り回していたレベッカだが、如何やら試射をしたくなったようである。張遼ちゃんの怒声も意に介さずに、私の手を引くと強引に中庭にある訓練場に向かうのであった。

 ざわ…  ざわ…  ざわ…  ざわ…  ざわ…  ざわ…  ざわ…
   ざわ…  ざわ…  ざわ…  ざわ…  ざわ…  ざわ…  ざわ…
 ざわ…  ざわ…  ざわ…  ざわ…  ざわ…  ざわ…  ざわ…

 ウズウズする好奇心と興奮を抑える事も無く、レベッカは私の手を引きドカドカと訓練場の中に足を踏み入れていく。訓練場で鍛錬をしていた連中は、レベッカの行動に余程驚愕したのだろう――カ●ジのような騒めきが辺りを包んでいった。

「おいおい! レベッカさんが、愉しそうに男の手を引いているぞ!」
「それだけじゃないぞ! あのオッサン――レベッカさん以外にも美女を二人も侍らしているぞ! くそっ! 一体何者なんだよ?!」

 訓練所には地面に突き立てた丸太を並べた弓場があり、丸太の先には的である四角い板が打ち付けてある。レベッカは注がれる視線を物ともせずに、矢の後端部分――ノック(矢筈)を弦に掛けて番えると、通常の弓より強い弦を軽々と引き絞っていく。そして力強くも美しい姿勢のまま渾身の一撃を放った。

 シューーーーン!  バシュッ!

 空を切り裂くような矢音が響くと、的を貫通した矢が深々と丸太に突き刺さっている。真ん中より僅かに逸れたが、慣れないコンパウンドボウの初撃でこのコントロールである。正確な弓射で匈奴の兵を葬った、前漢の将軍である李広に肩を並べそうな腕前である。

「ははっ、これは凄いな! 変わった弓だが破壊力は抜群だ。よしっ、次は外さないぞ」

 再びコンパウンドボウを構えるとレベッカは矢を放つ。二本目の矢は見事に的の真ん中に命中し、二つに割れた板が地面に落ちてカランと乾いた音が辺りに鳴り響く。そしてそれを見ていたやじ馬たちの喧騒は、一気にヒートアップするのであった。

「おいおい! あの変わった弓は何なんだ?! とんでもない破壊力じゃねえか……」
「それも驚きだが、あの弓はあそこのオッサンがプレゼントしたんじゃないのか? レベッカさんに求婚するとは、何という勇者なんだ……」
「ううっ、俺――レベッカさんの事好きだったのに、あんなオッサンに取られるなんて……」

 えっ? 何か聞き捨てならない会話が聞こえて来たんですけど、求婚ってどういう事? そういえばアドニス商会オーナーのホルノスキーも、レベッカにコンパウンドボウをプレゼントした時に慌てていたけど、またオレ何かやっちゃいました?

「弓のプレゼントは、エルフやダークエルフにとって親愛や求婚の証。それ故に粗悪品や趣味の悪いプレゼントは、相手に対する侮辱と取られるのだよ。だが逆に言えば、至高の品は相手に対する最大の賛辞となる。ふふっ、貴公はこの事を知らなかったようだが、このような逸品をプレゼントされたら気持ちに応えなければならないな。……それとダークエルフの女はな、意外と情が深いのだよ」

 獲物を狙う女豹のような目付きで、ジリジリとレベッカが距離を縮めてくる。濡れたぷっくりとした唇は色っぽく、野性的だが魅力的な曲線を描くボディラインは実にエロエロである。

「主よ、見ててください! それぐらいなら私にも出来ますから!」

 レベッカの色香に惑わされ鼻の下を長くしていると、張遼ちゃんが突如として割り込んでくる。そして張遼ちゃんの手には何故か弓が握られていた。

 シューーーーン!  カツン!

 張遼ちゃんの放った矢は、吸い込まれるように的の真ん中に付き進んで行く。そしてレベッカの突き立てた矢のノック(矢筈)に突き刺さる。俗に言う――継矢である。初めて見たが、とんでもないテクニックである。

「う~ん、さすが張遼ちゃんだね。もはや神業と言っても過言じゃないね」
「そ、そんな事は無いです。旧主であった呂布殿や夏侯淵殿にはまだまだ及びませんから……」
「いやいや、張遼ちゃんの日々の努力が実を結んだのだから、もっと誇っていいと思うよ」
「はうぅぅん♡ 」

 モジモジしている張遼ちゃんが余りにも可愛いので、ついつい頭をナデナデしてしまった。張遼ちゃんは猫のように目を細め、とても気持ちよさそうである。何この可愛い生物!!!

 シューーーーン!  バシュッ! 

 張遼ちゃんをナデナデしていると、またもや矢音が辺りに響く。慌てて振り向くと、張遼ちゃんの放った矢に新たな矢が突き刺さっているのだ。三本の矢が繋がっている事態に驚いていると、張遼ちゃんを挑発するように、したり顔でレベッカがこちらを見つめていた。そしてそれを見た張遼ちゃんは、怒りでプルプルと身体を震わせている。正に風雲急を告げる――である。

「初めてですよ…ここまで私をコケにしたおバカさんは…」
「ははっ、見せてもらおうか! トミタカの護衛の性能とやらを」

 どこぞで聞いたようなセリフを吐きながら、お互いに武器を取り出す。張遼ちゃんはお馴染みの青龍偃月刀であるが、レベッカの武器はシミターと呼ばれる湾曲した刀であった。しかも二刀の使い手のようである。猛者同士の対決だけに睨み合いも迫力十分である。ここはお約束通りに、私のために争わないで――と叫ぶべきであろうか?

「はぁぁぁぁっ、遼来遼来!」

 先に動いたのは張遼ちゃんである。重い青龍偃月刀を小枝のように振り回しながら、レベッカの真っ向から斬り落とす。張遼ちゃんの重い斬撃を、レベッカは身体を反らしながら左手のシミターで受け流していく。刀ごと叩き斬る破壊力のある一撃を、まともに受けずに本能的に受け流したようである。

「ふっ!」

 張遼ちゃんの一撃を受け流すやいなや、レベッカは右手のシミターで張遼ちゃんに斬りかかる。稲妻のような速さで、冷たい閃光を放つ刃が肉薄するが張遼ちゃんは冷静である。バックステップで回避しながら身体を一回転させ、渾身の力で青龍偃月刀を水平に薙ぎ払う。

「ぐっ!」

 今度は受け流す事が出来ずに、レベッカは二本のシミターで何とか青龍偃月刀を受け止める。そして強烈な衝撃で後方に吹っ飛ばされるが、空中でクルリと回転をすると何事も無かったように着地をする。あの張遼ちゃんを相手に、一歩も引かないレベッカはやはりただ者ではないようだ。

「痛~っ! 何て馬鹿力なんだ。これはまともに闘ったら分が悪いな。ふふっ、今度は搦手で行かせてもらうぞ」

 レベッカは腰に付けている革の鞘から投げナイフを取り出すと、次々と投擲を行った。

「はっ!」

 角度やスピードを変化させた投げナイフが立て続けに投じられるが、張遼ちゃんは青龍偃月刀で全てを弾き返していく。弾かれスピードを増したナイフが次々とやじ馬たちに降り注ぎ、逃げ惑う輩で辺りは大パニックである。

「ふっ!」

 次に投じられたのは、くの字型の刀身の刃物――ククリナイフである。今までの投げナイフより重く、軌道の違うナイフの対応で張遼ちゃんの体勢が僅かに崩れる。その隙を突いて、レベッカが張遼ちゃんに肉薄する。次の瞬間、竜虎相搏りゅうこあいうつ――と思ったのだが、絞め殺される寸前の豚のような、耳をつんざく悲鳴が辺りに響き渡るのであった。

「ちょっと、レベッカちゃん! 貴女、又トラブルを起こして……ぶぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 聞くに堪えない悲鳴に驚き、張遼ちゃんとレベッカは戦闘を中断する。そして声の方に視線を向けると、ホルノスキーがワナワナと震えており、横の壁にはククリナイフが深々と突き刺さっている。如何やら苦情を言いに訓練所に来たようだが、張遼ちゃんの弾いたククリナイフが頬を掠めたようである。

 う~ん、もうちょっとだったのに惜しかったなぁ~。

「レベッカちゃん、チョウリョウさん! あなた達、こっちにいらっしゃい! ちょっとお話がありますからね💢 」

 怒りで顔をヒクつかせながら、ホルノスキーが手招きをしている。ホラー映画顔負けの形相に、さすがの二人も及び腰になっているようだ。正に顔面凶器である。

「それからトミタカ殿も、こっちにいらっしゃい! 貴方にも言いたい事が山ほどありますからね」
「わ、私は、話す事など無いんですけど……」
「いいからいらっしゃい。あんまり駄々をこねていると、ケツの穴からアレを突っ込んで、奥歯をガタガタと言わせちゃうわよ♡ 」
「うぐっ、そ、それだけは勘弁を……」

 結局、レベッカや張遼ちゃんと一緒に、ホルノスキーからネチネチとお説教をされるのであった。


「うぅぅっ、酷い目に遭ったよ! 私、お客なのに何でこんな目に……」
「主よ、申し訳なかった。私があの女の挑発に乗ってしまったばかりに……」
「私は楽しかったぞ。最高の弓や好敵手との熱い闘い……ふふっ、思い出しただけで心が奮い立ってしまうな。そうだ、貴公がプレゼントしてくれた酒を振る舞ってくれないか? 一杯飲みたい気分なのだよ」
「き、貴様! 主にその様な事をさせるつもりか! 無礼にも程があるぞ!」
「いいよいいよ張遼ちゃん! お酒をプレゼントしたのは私だし、折角だからレベッカさんに味わってもらおうよ」

 レミーマ●タンの金キャップを捻り、琥珀色の液体を彫刻が施されたクリスタルガラスのグラスに注いでいく。レベッカはグラスを受け取ると、静かに回しながら色合いや香りを楽しんでいる。そしてグラスを傾けると、ブランデーを口に含んで味わいながら、ゆっくりと流し込んでいった。

「ふふっ、いい酒だ。酒精は強いのに、フルーティーな風味で飲みやすいな。こんな味わい深い芳醇な酒があるとはな……」

 レベッカはブランデーが相当気に入ったようである。満足気な笑みを浮かべながら飲み干すと、空になったグラスを振っている。

「ふふっ、お代わりだ。だが一人で飲むのは味気ないな。貴公も一緒に飲もうではないか」
「いいですけど、酒はそんなに強くないので、付き合うならソーダ割りにしますよ」

 酒の強さには自信がないが、高級クラブのホステスさえ裸足で逃げ出しそうな美女からのお誘いである。断るなどもっての外である。私はブラックマーケットで新たにバースプーンや氷、炭酸水、ジンジャーエール、カルピスソーダを購入するとフレンチハイボールを作るのであった。

 先ずは氷を入れたグラスにブランデーを注ぎ、冷えた炭酸水を継ぎ足していった。そしてバースプーンでゆっくりと掻き回していく。するとパチパチと炭酸の繊細な泡が立ち上がり、グラスに当たった氷がカランと美しい音色を奏でるのであった。

「はいどうぞ、レベッカさん。では改めて、乾杯!」
「ふふっ、乾杯!」

 グラスを合わせて乾杯すると、レベッカはグラスに口を付けてフレンチハイボールを口に運んでいく。そして炭酸の弾ける感覚に驚いたようで目を丸くしている。しかしそれも束の間であった。口元に微笑を浮かべると、グイグイとグラスの中身をあおり始めた。

「ふう~、この弾ける感覚とフルーティーな香りのハーモニーは優雅で魅力的だ。この酒にはこんな飲み方もあるのだな……」
「ははっ、これはフレンチハイボールと言いましてね、とある国ではこれを嗜むことが、王侯貴族や知識人のステイタスであったようですよ」
「王侯貴族や知識人の嗜みか……。ふふっ、貴公は博識でもあるのだな」

 薄っすらと頬を染め上げ、レベッカはフレンチハイボールを飲み干していく。ホルノスキーが、私にも飲ませて視線を放っているが、知ってか知らずかガン無視である。そして、ジンジャーエールやカルピスソーダで割ったフレンチハイボールも堪能すると、レベッカはグラスを置いて甘い吐息を漏らすのであった。

「はあ~っ、至高の弓に類稀たぐいまれな異国の銘酒か……。これ程礼を尽くされるのは、女冥利に尽きるというものだな。ふふっ、貴公の護衛の件は引き受けよう。だが、まだ肝心な事の確認が取れていないぞ」
「待遇の事でしょうか? レベッカさん程の腕利きなら、それに見合った俸給をお支払いしますよ」
「それも大事だが、それ以上に確かめなければならない事があるではないか。ふふっ、身体の相性だよ」
「ブハッ! ち、ちょっとレベッカさん……」
「何を慌てているんだ? とても大事な事ではないか。それにより、一時的な護衛になるか一生の護衛になるか決めるのだからな。ふふっ、私は弓も酒も男もな、最高のモノを欲するのだよ」

 艶めかしい雰囲気を漂わせたままレベッカは身体を密着させてくる。褐色の肌は紅潮して熱を帯びており、熱い体温や息づかいがダイレクトに伝わってくる。

「オホホ! レベッカちゃんは、トミタカ様の事がよほど気に入ったようね。でも程々にしなさいよ。貴女が本気になったら、どんな屈強な男でも搾り尽くされてミイラになっちゃいますからね。上客になりそうなトミタカ様を昇天させられたら、私が困るのよ」
「アハッ、その心配は杞憂だと思うよぉ~。ご主人様は根っからのドスケベで精力絶倫だからねぇ~、逆にレベッカちゃんの方がケダモノチ●ポでアヘアへにされて、離れられなくなると思うよぉ~」
「あらあら、随分と自信ありげね。そうね、だったら賭けをしない? トミタカ様が負けたら、レベッカちゃんが飲んでいたあのお酒を三本……、もとい五本頂こうかしら♪」
「それぐらいなら、私が頼めばご主人様が用意してくれると思うよぉ~。でもレベッカちゃんが負けたら、奴隷の購入代金を半額にしてくださいねぇ~♪」
「ぐぐっ、中々厳しい条件ね。でもあのお酒は、どうしても手に入れたいから仕方ないわね。いいわ、その条件を呑むわ。レベッカちゃん、絶対に負けたらダメよ! トミタカ様を昇天寸前まで追い込んじゃいなさい!」
「クスクス、交渉成立だねぇ~。頑張ってね、ご主人様ぁ~。レベッカちゃんをケダモノチ●ポとエロテクニックでメロメロにしてくださいねぇ~」
「ううっ、あの女め! 何て羨ま……けしからん真似を! 主に何かあったら、明日の朝日を拝めないようにしてやる。……ブツブツ」

 野性的な美女に迫られるのは嬉しいが、賭けの対象にされたり張遼ちゃんがヤンデレ化するわで、大カオス状態である。しかし憧れのダークエルフとのエッチな一戦を控え、私は喜びを隠しきれないのであった。
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