異世界で娼館と商館経営⁉ ~チートを駆使したオッサンの剛腕繁盛記~

悪代官と越後屋

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9.お前もくっころの騎士にしてやろうか!

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「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだぁぁぁ!!!」

 ドヤ顔で名セリフを放ったが、山賊たちは聞いている余裕がないようだ。立ちはだかる者は全て張遼ちゃんに斬り捨てられ、その上に銃という未知の武器まで現れたのだ。度肝を抜かれた山賊たちは混乱状態に陥っている。

「くそっ、また変な奴が現れたぞ!」
「気を付けろ! あの変なオッサンは妙な魔道具を持ってるぞ!」
「うるせぇ! 変なのはお前らの方だろ!」

 無礼な山賊たちに無慈悲な鉄槌をお見舞いする。本官さんもビックリの銃の乱射で、山賊たちはたちまち腰砕けになっていく。そして一人また一人と後退りを始めた。それを好機と捉えた騎士たちは、気勢を上げると一斉に反撃に転じた。

「今こそ好機! この機を逃さず敵を殲滅するぞ!」
「くっ、不味いですぜ! 頭、ここはひとまず退却を……げっ、頭がいねえじゃねえかぁぁぁ」
「俺たちは捨て駒にされたんだ! 冗談じゃねえ、俺は逃げるぞ」

 山賊の頭は戦況の不利を悟り、配下を置き去りにして既に逃走していた。頭を失って山賊たちは大混乱である。蜘蛛の子を散らすように、我先にと逃げ出していった。

「追うんですよ、張遼ちゃん! つかまえなさい!」
 
 どこぞの帝王のような命令を思わず出してしまった。しかし、このような状況ではお約束のセリフであり――何より山賊の頭に逃げられると後腐れが残るからである。そして張遼ちゃんは私の意を酌んでいるようだ。弾かれたように飛び出すと、数分で山賊の頭や幹部らしき連中を捕らえてくるのであった。


「エリス様の危機を救っていただき、なんとお礼を申し上げてよいやら言葉も見つかりません!」

 女騎士が礼の言葉を述べ、他の騎士たちも一斉に頭を下げる。そう、私ではなくて張遼ちゃんにだ。見目麗しく一騎当千の彼女と、冴えないオッサンの二人組である。私は下男か荷物持ちと思われているのだろう。

「い、いや……礼を言うならば、私ではなく主に述べて欲しいのですが……」

 落ち込む私を気遣うように、張遼ちゃんは此方をチラチラと伺っているが、女騎士の耳には届いていないようだ。無遠慮にグイグイと張遼に迫ってくる。

「はあはあ、貴女様のお名前をお教え願いたい!」
「我が名は張遼……しかし、お礼なら主の方に……」
「チョウリョウ様ですか……エレガントで素敵な名前です。単騎で並みいる敵を薙ぎ倒し、窮地からエリス様を救う武勇と剛胆……。惚れました! 姉妹の縁を結び、ぜひ私のお姉さまに♡ はあっ、はあっ……」

 張遼ちゃんを見つめる女騎士の目が非常にヤバい。恍惚とした表情で瞬きさえもしないのである。そして張遼ちゃんの手をしっかりと握ったままである。息遣いも徐々に荒くなっており、はっきり言ってドン引きである。

「主よ……申し訳ないが、この女人は手に負えません。それに欲望めいた危ない視線をヒシヒシと感じるのですが……」

 多少の事では動じない張遼ちゃんであったが、本能的にこの女性を恐れているようだ。涙目になって私の後ろに隠れてしまった。
 
 う~ん、オジサンの庇護欲を掻き立てる張遼ちゃんは、やっぱり可愛いなぁ――などと考えていると、目尻を吊り上げた女騎士が私の胸倉をムンズと掴むのであった。

「貴様ぁぁぁ💢 荷物持ちの分際で、お姉さまとの会話を邪魔するとはどういう了見だ!」
「いやいやいや、こう見えても私――張遼ちゃんの主なんですよ」
「チョウリョウ様の主だと?! 嘘を吐くな! 貴様のような匹夫にチョウリョウ様が仕えるわけがないだろう!」

 ダメだよこいつ、全く人の話を聞きやしないよ。

 思い込みの激しいポンコツ騎士の行動に困惑していると、彼女の行動は更にエスカレートしていった。

「そうか、奴隷契約だな! ……きっと妹御を人質にして、抵抗できないチョウリョウ様を奴隷にしたんだろ! そして、あんなことやこんなことを……ぐぎぎっ、何て卑劣な真似を……許せん斬り捨ててやる!」
「お待ちなさいレイラ! それ以上の非礼は許しませんよ」

 理解しがたい妄想に困惑していると、凛とした鈴のように澄んだ声が響き渡る。視線を向けると、倒れた馬車の影から白いドレスの美しい少女が姿を現した。

「レイラ! 命の恩人に対して、その不遜な態度は何なのですか! それと騎士としてあるまじき言動の数々――さすがに看過できません! 下がりなさいレイラ!!」
「はっ、申し訳ございません――エリス様!!」

 少女に一括されると、レイラとかいう女騎士は深々と頭を下げて素直に引き下がる。しかし私を見つめる目は敵意と憎悪に満ち溢れていた。

 一体、私が何をしたって言うんだよー。くそっ、いずれ四肢を拘束してくっころの刑にしてやる。


「申し遅れました――エリス・ド・アルデンヌでございます。危ない所を助けていただき感謝いたします」

 危険なエロ妄想をしていると、スカートの裾を持ち上げた華憐な少女が、花も綻ぶような笑顔を見せる。キラキラと艶めくプラチナブロンドの髪、澄んだグリーンの瞳、柔らかで華奢な身体つき――正しくTHEお嬢様である。私は胸に手を当て膝を折るのであった。

「これはこれはご丁寧に――。私、しがない旅の商人で富貴と申します。こちらが護衛の張遼です。以後お見知りおきを」
「トミタカ様とチョウリョウ殿ですか……。名前や服装から察するに、異国の方のようですね。ところで窮地から救ってくれたお礼をしたいのですが、お望みのものはございませんか?」
「いえいえ、義を見てせざるは勇なきなしと申しますし、当然の事をしただけですよ。もっとも張遼ちゃんが殆どの山賊を蹴散らしたんですけどね。あはは!」
「うふふっ、ご謙遜を! あの不思議な魔道具での戦いぶり――しかと拝見していましたよ。チョウリョウ殿の強さにも驚きましたが、私としては貴方様に非常に興味がありますのよ」

 エリスという少女は、人懐っこい笑みを浮かべながら私を見つめている。あどけなさが残る可愛らしい少女であるが、怜悧で高貴な風格が漂っている。そしてこの少女との出会いが、波乱に満ちた異世界生活の幕開けとなるのであった。
  

 
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