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【PW】199909《箱庭の狂騒》
踊るピエロ
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「何が、明晰な頭脳だよ、それなら最初からそうバレければ良いだけの話だろ?」
「それが通じる相手とそうじゃない相手ぐらい居るだろ、完全に後者なんだよそいつは」
縁と鍋島の丁々発止の様なラリーが続く。
さて、どう切り込むか。
この疑問の理由はわからない。
なぜそう思ったのか、どうしてそうなるのか。
自分でもしっかりと説明は出来ない代物だ。
本来なら頭の片隅においやって、話を進めていくべきなのだろう、しかし、あくまでの予想だがこの話とそれは、混じりあっていると暁は踏んでいた。
「少しだけ突っ込んだ質問だけど、それは誰?俺や縁が知っている奴?」
その問いに鍋島の眼がキラリと光った。
「残念ながらソイツは言えないですね、大隊長は、ともかくコイツは、それを悟られない様に隠すのは、下手くそなんで、俺の居場所がバレる恐れがある」
その応えに暁は「やっぱり」っと思った。
頭の中で想定していた1つの答えと合致し、とりあえずそれに乗る事にした。
「しかし、完全に俺達には接触した痕跡が残った。もしソイツが記憶を辿る能力を持っているか、そういうリンクを保持していたら?」
「俺を捕まえに来るでしょうね、でもそれはあくまで最終手段だ、もしリンクに目覚める前の貴方ならそれも可能だったのかもしれない、だけど今の貴方にそれをすれば怪しまれるのは、確実。今の現状を守る為には、そんな手は使ってきませんよ」
暁は、その応えに肩をゆっくりと竦めると縁に視線を向けた。
「ちなみに、ソイツの目的は何だ?」
暁の言葉にゆっくりと鍋島は、首を横に傾けた。
「それは、勿論、空いた椅子に座る事」
「空いた椅子?」
「そう、世良が居なくなれば椅子が空く、その椅子に座るのをそいつは狙っているんですよ」
「座れるものなのか?上位者が座る事も出来るだろ?」
「アイツらにそんな願望は無いです。人間が死のうが生きようがアイツらには、殆ど関係ないので」
「そもそも、上位者とは、なんだ?」
「んー簡単に端的に言えば意志を持ったアメーバとでも言うべきでしょうか、奴等は想念の根源の中に存在し、そして世良に呼び出され、肉体を得た存在、そんな感じですかね」
意志を持ったアメーバ。
何となくわかる様で何となくわからないその応えに暁はゆっくりと天井を見上げた。
「なら俺達は人間は?」
「人間という括りは、どうかと思いますが、基本的に生物は肉体ありきの存在と言っていいでしょう。肉体の種が生まれ、そこに魂という中身が入る。そこからゆっくりとその存在が形成される」
「なら、生まれ変わりや、前世ってのは?」
「まぁ、所謂、消えきらなかった固形みたいなもんでしょうか、元来我々は、死ねば想念の根源という海の中の一部となり消えていく、しかし、時折それは固形の様な塊が残ることがある、それが前世といわれているものかと思いますが」
何もを淀みなく完璧に応えてくる鍋島に暁は、感心した素振りで頷いた。
「ところで、鍋島、君から見て、マルクトの次の動きはどうだと思う?」
鍋島の眼がピクリと動いた。
「何故それを?」
「正直、ここまで知っているなら、聞いておきたいと思ってね、こっちは儀式の事も世良の事も何もかもさっぱりなんだよ」
「儀式の事も、ですか、余程の情報規制されてる様ですね」
「その通り、その儀式によっては、マルクトの次の動きもある程度、追えるのでは、ないかと思っているんだが、どうだろうか?」
暁がそう聞くと鍋島の口は、水を得た魚の様にはしゃぎ始めた。
「儀式とは、簡単に言えば、肉体の乗り換えですね。世良自身、齢60を越えて顕著に出てきた老いに対して対策を考えました、そこで自分の精子と体外受精をさせて自分に近い遺伝子をもった子供を作り、そしてその器に自分の魂を入れようと計画を立てた、それがアイツらの言っている儀式です…」
鍋島のはしゃぐ口は、止まらない。
だが、それによって何かをポロッと出すことも無く、話が終わる。
儀式とは、肉体(器)を入れ替える事で、それにはマルクトの能力が必要だと言う事、そしてそれを蘇我は止める為に今から2年前に世良の命を取る為に襲撃をしたが失敗した事、そしてその時に亡くなった人達がアルファの理によって起こされた被害者の中に隠された事を教えてくれた。
暁にとって一番驚いたのは、最後の説明だった。
アルファの理のテロは、世良によって仕組まれていたという事とそれがその時に生まれた死者を隠す為に行われたという事実だった。
鍋島の説明を受ける中で漏れそうになる声を必死で抑えながらその説明を聞いていたがその衝撃は計り知れなく話が終わった今でも頭の中は真っ白に近かった。
「それが97事変の実態か」
その代わりに驚いた声を上げたのは、縁だった。
「97事変は、本来なら隠しておきたい話でもあったが実際の被害者も出た、それにもしもの場合に備えておかないとならない、蘇我の生死は不明だったからな、だから、レアケースとして資料を保存、あとは奴らによってそれを隠しす為に囮の事件をでっち上げた」
「それなら別にテロじゃなくても…」
「そうは、いかないだろ、いくら身分を隠していたとは言え、相手は各省庁の捜査員、それも極秘のだ。それを下手に公安につつかれたくなかった世良は、テロを起こすしか無かったのさ」
その為にどれだけの関係ない一般人を犠牲にしたと思っている。
暁は、そう思いながら底から沸き起こる黒い炎を抑えるのに必死だった。
「そして、その被害者には、阿部達の両親がいた、それに他の共犯者の肉親も…もしそうならマルクトからすれば彼等は味方だ、あんな風に巻き込まなくても良かっただろ?」
「味方と言うより、マルクトからすれば肉体のスペアでしょうね、彼等の両親も97事変の場に居たのは、マルクトが直ぐに立て直す為の道具としてでしょうし」
暁が口にした疑問に鍋島は、的確に応えながらゆっくりと視線を暁から外した。
「マルクトは、幾つもの肉体を渡り歩く事が出来る、また、操作する事も、ですが本体は、2つであり、その両方を失えば消えてしまう、我々で言う死です」
「だから、あの時と違う肉体で存在していたのか…」
縁のふとした言葉に鍋島の唇が揺れた。
やはり、マルクト関連で何かを隠している。
「以前会った肉体って?」
暁は、縁にそう訊くと縁はゆっくりと首を横に振った。
「以前の時代の話です、中東で黒い仮面を被った男が1つの部隊を全滅させた事があったんです」
「中東ってまさか…」
「そうです、俺達が中東に向かった理由は、国連からの依頼もあったからです」
話の規模が徐々に膨らんでいくにつれて思考が追いつかなくなる。
何故国連が?そう一瞬頭をよぎるが昼間に創成国家アインが世界に向けてテロ行為を行ったという話からすればそれ以前から世界は、アインに目を向けていたという事だろう。
「それでその黒い仮面を被った男ってのは?」
「あれは、恐らくマルクトです、それもハルを襲ったヤツの方の」
「外見的特徴は?」
「身長はハルと同じぐらいなんで170~175cmぐらい、あとガッシリとした体格でした、それと日本語は、かなり流暢だったので恐らく日本人かと」
日本人でガッシリとした体格。
可もなく不可もなく、パッとした特徴に暁が困り顔を見せると縁もまた苦笑をした。
「掴みどころがない、それが本音です。ですけど奴はかなりやばかったのは、わかります」
そういう縁の表情がゆっくりと渋いモノになっていく。
「能力が段違いと言いますか、俺とハルの2人がかりでもかなり引っ掻き回されて苦戦させれました。最後は逃げられましたし」
縁とハルの2人がかりでも苦戦して逃げられた。
正直、飯坂病院での縁とマルクトの戦いは縁が圧倒していたしあのままでも確実にマルクトを仕留めていた可能性だって十分にあった。
しかし、黒い仮面の男になると形成は、逆転しているという事だ。
「なんで、そこまで違いが?この前は圧倒していたろ?」
「適正の違いでしょ、奴等自身、肉体を手に入れたからといってその力を遺憾無く発揮出来るわけじゃないんですよ、肉体的負荷それにその体との相性もありますからね」
暁の問いに応えたのは、鍋島だった。
「相性?」
「えぇ、受け入れるのとその力を発揮するのは意味合いが違うんですよ、マルクトは、そこに特別な意識を必要としている」
「特別な意識?」
「えぇ、羨望、情愛、憎悪、憤怒、執念、良くも悪くもどれでもいい、ただマルクト自身を特別に意識さえしてさえいれば、それが繋がりになりアイツはその中に入れる」
「それなら俺達もアイツに乗っ取られる可能性が? 」
「ゼロでは、ないです。だけどアイツにそれを出来ると思えないですけどね」
「何故?」
「恐らく、条件の中に自分の能力を知らないってのもあるのでは、無いかと。げんにハルに対してそれは出来なかったので」
「ハルに?」
ふと、漏れた自らの言葉に鍋島の表情が曇るが直ぐにそれを建て直した。
「アイツのリンクは、特別なんです。リンクの存在そのもの繋がりを絶ち消す」
「確か【断つ者】だったよな?」
暁の応えに鍋島は、ゆっくりと頷いた。
「断つ者は、読んで字の如く、断つんですよ繋がりを、リンクとの接続をね。我々の力がどうやって発現しているかお分かりで?」
鍋島の質問に暁は、気づくと自分の掌に目を向けていた。
「感覚的だが、何かに繋がって、その力を感知するか想像して利用するか、そんな感覚かな?」
「その通り、ハルはその力はその繋がりを断つ、それも一時的では無く、確実に」
「確実に?っということは、相手からリンクを消す事が出来る?」
「正確には、分散ですけどね、そんな能力をマルクトやアイン達が放っておくわけが無い、何せ自分達を殺せる能力だし、だけどそれを手に入れる事は出来なかった、下手に乗っ取ろうとすれば逆に消されるので」
分散、そう言われて、蘇我によって倒された千条を乗っ取っていたマルクトの最後を思い出した。
風に舞う砂の様に消えていく、あの瞬間、あれが上位者や魂の死を示しているのだ。
そして、そんな能力にはマルクトの力は通じない、しかしそれは力を使えるならだ。
「力の使えない、ハルはマルクトの器になる可能性はどうだ?」
ふと頭を過ぎった嫌な予感を口にすると鍋島の目が丸々と広がった。
その瞬間、暁の中で何か間違えたという漠然的な感覚があった。
「確かに、それは有り得ます!さすが大隊長!」
あからさまな褒め言葉と煽る態度に鍋島がこの場を終わらせたいのが丸見えになる。
しかし、暁もこれ以上、鍋島を攻める為のワードも状況も持ち合わせていない。
今回は、負けたな。暁はそう思うと一息つくと鍋島に礼を告げて縁のやさを後にする。
立ち上がる時に縁にそっと視線を送っておいたのが功を奏し、縁はそんな暁を雑居ビルの出入口まで送ってくれた。
「なぁ、縁」
出入口に到着すると暁は、ゆっくりと振り返りながら縁を見た。
「なんすか?」
「俺が向こうで鍋島を別な通称で呼んでたんだよな?」
そう聞くと縁は、片眉をゆっくりと上げた。
「《確かにアイツをそう呼ぶならそうでしょうね》ってさっきお前が言った言葉、つまりそれは俺が鍋島を別な呼び方をしてたって事だろ?」
「えぇ、それが?」
「恐らくだけど、ペテン師とかピエロとか言ってなかったか?」
暁がそう言うと縁は、吹き出して笑いだした。
どうやら、間違ってないらしい。
「今回は、どんなワードでした?」
「マルクト関連、特に黒い仮面の時の話になると表情が焦っていた」
その応えに縁の表情も少しだけ曇る。
「何か、心当たりあるみたいだな」
当たらずも遠からず、縁は苦笑を漏らし首を横振る仕草に何かの心当たりはあるのだろうが、それを言うつもりは無いのだと察した。
「少しだけ、探れないか?」
「探るって言われても…」
「頼むよ」
暁の念押に縁は渋々と言った様子で頷いた。
「なんか、本当あれですよ」
挨拶と共に背を向けた暁に向かい縁が呟き、振り返る。
「まんま、昔のアキさんみたいで、なんか、落ち着きます」
本音なのだろう、少しだけ恥ずかしそうな笑顔の縁に暁が苦笑いを零してしまった。
「それが通じる相手とそうじゃない相手ぐらい居るだろ、完全に後者なんだよそいつは」
縁と鍋島の丁々発止の様なラリーが続く。
さて、どう切り込むか。
この疑問の理由はわからない。
なぜそう思ったのか、どうしてそうなるのか。
自分でもしっかりと説明は出来ない代物だ。
本来なら頭の片隅においやって、話を進めていくべきなのだろう、しかし、あくまでの予想だがこの話とそれは、混じりあっていると暁は踏んでいた。
「少しだけ突っ込んだ質問だけど、それは誰?俺や縁が知っている奴?」
その問いに鍋島の眼がキラリと光った。
「残念ながらソイツは言えないですね、大隊長は、ともかくコイツは、それを悟られない様に隠すのは、下手くそなんで、俺の居場所がバレる恐れがある」
その応えに暁は「やっぱり」っと思った。
頭の中で想定していた1つの答えと合致し、とりあえずそれに乗る事にした。
「しかし、完全に俺達には接触した痕跡が残った。もしソイツが記憶を辿る能力を持っているか、そういうリンクを保持していたら?」
「俺を捕まえに来るでしょうね、でもそれはあくまで最終手段だ、もしリンクに目覚める前の貴方ならそれも可能だったのかもしれない、だけど今の貴方にそれをすれば怪しまれるのは、確実。今の現状を守る為には、そんな手は使ってきませんよ」
暁は、その応えに肩をゆっくりと竦めると縁に視線を向けた。
「ちなみに、ソイツの目的は何だ?」
暁の言葉にゆっくりと鍋島は、首を横に傾けた。
「それは、勿論、空いた椅子に座る事」
「空いた椅子?」
「そう、世良が居なくなれば椅子が空く、その椅子に座るのをそいつは狙っているんですよ」
「座れるものなのか?上位者が座る事も出来るだろ?」
「アイツらにそんな願望は無いです。人間が死のうが生きようがアイツらには、殆ど関係ないので」
「そもそも、上位者とは、なんだ?」
「んー簡単に端的に言えば意志を持ったアメーバとでも言うべきでしょうか、奴等は想念の根源の中に存在し、そして世良に呼び出され、肉体を得た存在、そんな感じですかね」
意志を持ったアメーバ。
何となくわかる様で何となくわからないその応えに暁はゆっくりと天井を見上げた。
「なら俺達は人間は?」
「人間という括りは、どうかと思いますが、基本的に生物は肉体ありきの存在と言っていいでしょう。肉体の種が生まれ、そこに魂という中身が入る。そこからゆっくりとその存在が形成される」
「なら、生まれ変わりや、前世ってのは?」
「まぁ、所謂、消えきらなかった固形みたいなもんでしょうか、元来我々は、死ねば想念の根源という海の中の一部となり消えていく、しかし、時折それは固形の様な塊が残ることがある、それが前世といわれているものかと思いますが」
何もを淀みなく完璧に応えてくる鍋島に暁は、感心した素振りで頷いた。
「ところで、鍋島、君から見て、マルクトの次の動きはどうだと思う?」
鍋島の眼がピクリと動いた。
「何故それを?」
「正直、ここまで知っているなら、聞いておきたいと思ってね、こっちは儀式の事も世良の事も何もかもさっぱりなんだよ」
「儀式の事も、ですか、余程の情報規制されてる様ですね」
「その通り、その儀式によっては、マルクトの次の動きもある程度、追えるのでは、ないかと思っているんだが、どうだろうか?」
暁がそう聞くと鍋島の口は、水を得た魚の様にはしゃぎ始めた。
「儀式とは、簡単に言えば、肉体の乗り換えですね。世良自身、齢60を越えて顕著に出てきた老いに対して対策を考えました、そこで自分の精子と体外受精をさせて自分に近い遺伝子をもった子供を作り、そしてその器に自分の魂を入れようと計画を立てた、それがアイツらの言っている儀式です…」
鍋島のはしゃぐ口は、止まらない。
だが、それによって何かをポロッと出すことも無く、話が終わる。
儀式とは、肉体(器)を入れ替える事で、それにはマルクトの能力が必要だと言う事、そしてそれを蘇我は止める為に今から2年前に世良の命を取る為に襲撃をしたが失敗した事、そしてその時に亡くなった人達がアルファの理によって起こされた被害者の中に隠された事を教えてくれた。
暁にとって一番驚いたのは、最後の説明だった。
アルファの理のテロは、世良によって仕組まれていたという事とそれがその時に生まれた死者を隠す為に行われたという事実だった。
鍋島の説明を受ける中で漏れそうになる声を必死で抑えながらその説明を聞いていたがその衝撃は計り知れなく話が終わった今でも頭の中は真っ白に近かった。
「それが97事変の実態か」
その代わりに驚いた声を上げたのは、縁だった。
「97事変は、本来なら隠しておきたい話でもあったが実際の被害者も出た、それにもしもの場合に備えておかないとならない、蘇我の生死は不明だったからな、だから、レアケースとして資料を保存、あとは奴らによってそれを隠しす為に囮の事件をでっち上げた」
「それなら別にテロじゃなくても…」
「そうは、いかないだろ、いくら身分を隠していたとは言え、相手は各省庁の捜査員、それも極秘のだ。それを下手に公安につつかれたくなかった世良は、テロを起こすしか無かったのさ」
その為にどれだけの関係ない一般人を犠牲にしたと思っている。
暁は、そう思いながら底から沸き起こる黒い炎を抑えるのに必死だった。
「そして、その被害者には、阿部達の両親がいた、それに他の共犯者の肉親も…もしそうならマルクトからすれば彼等は味方だ、あんな風に巻き込まなくても良かっただろ?」
「味方と言うより、マルクトからすれば肉体のスペアでしょうね、彼等の両親も97事変の場に居たのは、マルクトが直ぐに立て直す為の道具としてでしょうし」
暁が口にした疑問に鍋島は、的確に応えながらゆっくりと視線を暁から外した。
「マルクトは、幾つもの肉体を渡り歩く事が出来る、また、操作する事も、ですが本体は、2つであり、その両方を失えば消えてしまう、我々で言う死です」
「だから、あの時と違う肉体で存在していたのか…」
縁のふとした言葉に鍋島の唇が揺れた。
やはり、マルクト関連で何かを隠している。
「以前会った肉体って?」
暁は、縁にそう訊くと縁はゆっくりと首を横に振った。
「以前の時代の話です、中東で黒い仮面を被った男が1つの部隊を全滅させた事があったんです」
「中東ってまさか…」
「そうです、俺達が中東に向かった理由は、国連からの依頼もあったからです」
話の規模が徐々に膨らんでいくにつれて思考が追いつかなくなる。
何故国連が?そう一瞬頭をよぎるが昼間に創成国家アインが世界に向けてテロ行為を行ったという話からすればそれ以前から世界は、アインに目を向けていたという事だろう。
「それでその黒い仮面を被った男ってのは?」
「あれは、恐らくマルクトです、それもハルを襲ったヤツの方の」
「外見的特徴は?」
「身長はハルと同じぐらいなんで170~175cmぐらい、あとガッシリとした体格でした、それと日本語は、かなり流暢だったので恐らく日本人かと」
日本人でガッシリとした体格。
可もなく不可もなく、パッとした特徴に暁が困り顔を見せると縁もまた苦笑をした。
「掴みどころがない、それが本音です。ですけど奴はかなりやばかったのは、わかります」
そういう縁の表情がゆっくりと渋いモノになっていく。
「能力が段違いと言いますか、俺とハルの2人がかりでもかなり引っ掻き回されて苦戦させれました。最後は逃げられましたし」
縁とハルの2人がかりでも苦戦して逃げられた。
正直、飯坂病院での縁とマルクトの戦いは縁が圧倒していたしあのままでも確実にマルクトを仕留めていた可能性だって十分にあった。
しかし、黒い仮面の男になると形成は、逆転しているという事だ。
「なんで、そこまで違いが?この前は圧倒していたろ?」
「適正の違いでしょ、奴等自身、肉体を手に入れたからといってその力を遺憾無く発揮出来るわけじゃないんですよ、肉体的負荷それにその体との相性もありますからね」
暁の問いに応えたのは、鍋島だった。
「相性?」
「えぇ、受け入れるのとその力を発揮するのは意味合いが違うんですよ、マルクトは、そこに特別な意識を必要としている」
「特別な意識?」
「えぇ、羨望、情愛、憎悪、憤怒、執念、良くも悪くもどれでもいい、ただマルクト自身を特別に意識さえしてさえいれば、それが繋がりになりアイツはその中に入れる」
「それなら俺達もアイツに乗っ取られる可能性が? 」
「ゼロでは、ないです。だけどアイツにそれを出来ると思えないですけどね」
「何故?」
「恐らく、条件の中に自分の能力を知らないってのもあるのでは、無いかと。げんにハルに対してそれは出来なかったので」
「ハルに?」
ふと、漏れた自らの言葉に鍋島の表情が曇るが直ぐにそれを建て直した。
「アイツのリンクは、特別なんです。リンクの存在そのもの繋がりを絶ち消す」
「確か【断つ者】だったよな?」
暁の応えに鍋島は、ゆっくりと頷いた。
「断つ者は、読んで字の如く、断つんですよ繋がりを、リンクとの接続をね。我々の力がどうやって発現しているかお分かりで?」
鍋島の質問に暁は、気づくと自分の掌に目を向けていた。
「感覚的だが、何かに繋がって、その力を感知するか想像して利用するか、そんな感覚かな?」
「その通り、ハルはその力はその繋がりを断つ、それも一時的では無く、確実に」
「確実に?っということは、相手からリンクを消す事が出来る?」
「正確には、分散ですけどね、そんな能力をマルクトやアイン達が放っておくわけが無い、何せ自分達を殺せる能力だし、だけどそれを手に入れる事は出来なかった、下手に乗っ取ろうとすれば逆に消されるので」
分散、そう言われて、蘇我によって倒された千条を乗っ取っていたマルクトの最後を思い出した。
風に舞う砂の様に消えていく、あの瞬間、あれが上位者や魂の死を示しているのだ。
そして、そんな能力にはマルクトの力は通じない、しかしそれは力を使えるならだ。
「力の使えない、ハルはマルクトの器になる可能性はどうだ?」
ふと頭を過ぎった嫌な予感を口にすると鍋島の目が丸々と広がった。
その瞬間、暁の中で何か間違えたという漠然的な感覚があった。
「確かに、それは有り得ます!さすが大隊長!」
あからさまな褒め言葉と煽る態度に鍋島がこの場を終わらせたいのが丸見えになる。
しかし、暁もこれ以上、鍋島を攻める為のワードも状況も持ち合わせていない。
今回は、負けたな。暁はそう思うと一息つくと鍋島に礼を告げて縁のやさを後にする。
立ち上がる時に縁にそっと視線を送っておいたのが功を奏し、縁はそんな暁を雑居ビルの出入口まで送ってくれた。
「なぁ、縁」
出入口に到着すると暁は、ゆっくりと振り返りながら縁を見た。
「なんすか?」
「俺が向こうで鍋島を別な通称で呼んでたんだよな?」
そう聞くと縁は、片眉をゆっくりと上げた。
「《確かにアイツをそう呼ぶならそうでしょうね》ってさっきお前が言った言葉、つまりそれは俺が鍋島を別な呼び方をしてたって事だろ?」
「えぇ、それが?」
「恐らくだけど、ペテン師とかピエロとか言ってなかったか?」
暁がそう言うと縁は、吹き出して笑いだした。
どうやら、間違ってないらしい。
「今回は、どんなワードでした?」
「マルクト関連、特に黒い仮面の時の話になると表情が焦っていた」
その応えに縁の表情も少しだけ曇る。
「何か、心当たりあるみたいだな」
当たらずも遠からず、縁は苦笑を漏らし首を横振る仕草に何かの心当たりはあるのだろうが、それを言うつもりは無いのだと察した。
「少しだけ、探れないか?」
「探るって言われても…」
「頼むよ」
暁の念押に縁は渋々と言った様子で頷いた。
「なんか、本当あれですよ」
挨拶と共に背を向けた暁に向かい縁が呟き、振り返る。
「まんま、昔のアキさんみたいで、なんか、落ち着きます」
本音なのだろう、少しだけ恥ずかしそうな笑顔の縁に暁が苦笑いを零してしまった。
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