85 / 93
【PW】199909《箱庭の狂騒》
始まりの日
しおりを挟む
2015年、縁はその時は、まだ刑務所から出所して2年が経った頃合だったらしい。
不審な事件が少しずつ観測されていたのだという。
妙な死に方をする遺体や事件などだ。
例えば、大声をはりあげながら大型トラックに飛び込む人や健康体の筈なのに突然心臓が止まり大衆の面前で死ぬ人等。
一見すれば珍妙な事件として取り上げられる様な妙な事ばかりが起きていたという。
しかし、縁にはその時既にリンクが解放されていたのだという。
だからこそ、これが自分と同じ様にその力を使った人物達の仕業なのでは無いかと感じていたという。
縁は、1つの事件を自分なりに調べている過程でハルと出会ったらしい。
その当時、ある筋での有名人だった縁は、ハルに興味を持たれ一つの提案を受けた。
その提案とは、自分と一緒にある組織に属さないかと言うのだ。
縁は、元々群れるのを好まないのだがハルもまた自分と同じ考えである事、そして何よりも自分に目覚めたこの力は何なのかという疑問からその提案を受けたのだという。
「なら、ハルとはそこからの付き合いだったのか」
「えぇ、逆にアイツと出会ってなかったら俺は、この場に居なかったと思います」
「それで、入った組織ってのは?」
「三本柱の下部組織ですよ、まぁ警察の犬みたいなポジョンでしたけど、仕事の内容的には今とやってる事と変わらないっすね、違うとすれば調査班と処理班みたいに分けられてなくて調査と同時に処理をする、そんな感じでした」
「なら、その時にリンクの存在を?」
暁の応えに縁は頷きながらそっとカフェの外へと目を向けた。
「正直、最初な何を言ってるのか理解出来ませんでしたよ、【想念の根源】とか言われても相当ヤバイ新興宗教に騙されてんのかもしれないとか思ってましたからね」
縁は苦笑いを零しながら首を横振る。
「だけど、それより否定するよりも体験を先にしていたのか?」
「えぇ、だからこそ、否定しきれなかった」
かつての事を思い出しているのだろう、まだ若いその顔には、似合わない表情を浮かべ、その瞳には何処か哀愁にも似た寂しい光が灯っている様にも見えた。
「だが、確かお前達は2020年からこっちに飛んで来たって話だったよな?5年で何があったんだ?」
「最初は、どちらかと言えば社会の裏で動いてたって感じですね、事件もパッと見は、よくあるケースに似ている、だからこそ下手な注目を浴びる事も混乱を招く事もなかった、ですけど2018年にテロ事件が起き始めるんです」
「テロ!?この日本で?」
思わず、少しだけ声のトーンが上がってしまった暁は、慌てて口を閉じた。
しかし、縁はそんな暁を気に止めること無くゆっくりと首を横に振った。
「世界各所、ほぼ当時で」
「なっ…」
縁から返ってきた応えに今度は、絶句してしまう。
予想より斜め上の応えだったからだ。
「日本は、もちろん、アメリカ、中国、ロシア、ヨーロッパ諸国、アフリカ諸国、中東、南米、その各所で同時にテロが発生し、テロリスト達は首都付近に国土と良いある一定の地域を確保して国だと主張を始めました」
「国?名前はあるのか?」
「創成国家《アイン》」
「創成国家?なんだそれ?」
「世界を新しく創成する国家って意味らしいですよ、俺達もその真意を知りません、わかるのはアイツらがネット配信で告げた事だけなので」
「ネット配信?ホームページか何かで載せたのか?」
暁がそう訊くと縁は、口をパックリと開けたと思うと何度か頷いてから肩を竦めた。
「すいません、2000年代初頭からある動画サイトが人々の注目を集めるんです。それでそれは時代と共にテレビより注目を集めやすくなるんですよ、そこはプロもアマも無い、どんな人でも動画を投稿出来るところで上位に行くと億単位の金を稼げるんです」
「へぇ~」
縁の話に暁は、半信半疑ながらも呆気に取られてしまう。
インターネットが普及するとは、思ってはいたがどんな進化をしているのか皆目検討もつかなかった。
「それで、その動画はどんな内容だったんだ?」
とりあえず、今は話を先に進めないとならない。
細かい疑問は後回しにして訊くと縁はゆっくりと首を横に傾けた。
「殉教者の演説っていう感じなんすかね、白い宣教服を来た男がカメラに向かって宣言するみたいな」
「それは、多くの人が目に?」
「えぇ、そりゃそうですよ、《道化者》のリンクを使われてたので」
「道化者?」
「えぇ、簡単に言えば、テレビのタレントみたいなもんですかね、妙に視線を惹く人とかいるでしょ?」
「確かにいるが、それはあくまでもテレビの演出とかがあってだろ?」
「それをリンクを使って、意識を集める様にする力です」
なんともお粗末な能力だと、思いながらも暁は何も口にせずに縁の話を先へと促した。
「その宣言から3日後、唐突に戦争は始まりました、狙われたのは各国の主要都市、日本なら東京、アメリカならワシントンって感じですかね」
「その頃のお前達は?」
「中東に居ました、その頃にはリンクは世界中にその存在が多く現れていたので」
「現れていた?なんか後天的な発言だな?」
「実際、後天的ですからね、それこそアインによって解放されていたんですよ、本来目覚めるはずの無い人々までね」
「アインがリンクへと繋げていた?またどうして?」
「器を探していたんですよ、アイツに合う器を」
器、その言葉にマルクトに体を乗っ取られていた千条が頭を過ぎった。
「アイツってマルクトじゃない別の上位者のか?」
暁がそう訊くと縁は首をゆっくりと横に振った。
「上位者じゃないです、でもこの件の全ての首謀者です」
上位者じゃなく首謀者、つまり人間という事だ。
「そいつは、世良 刀兵衛なのか?」
暁がそう聞くと縁はゆっくりと首を横に傾けた。
「正直俺には何とも、あの当時名乗っていたのは、ヤハイル・ヴェイルって名前の中東系の若者でした」
「中東系の若者?幾つぐらいだった?」
「あの当時で10代後半から20代前半、つまり20年前のこの時代には、赤子か幼児として居るはずです、正直そんな子供にこんな風に人を動かせるのかましてやリンクを扱う事が出来るのか正直疑問でした」
「でした?」
ふと、縁の口から出た過去形の言葉に引っ掛かり、暁は反射的にオウム返しをしてしまった。
「あくまで泰野の話ですけど、それの大元になった人物がいる。つまり俺達があったヤハイルは、千条と同じ様に誰かに肉体を乗っ取られていたって事らしいんです」
「まさか、その大元になったってのが、世良だと言うのか?」
その問いに縁は、ゆっくり頷く。
確かにそうだと、そこの辻褄は合う。
なら、彼等が言う儀式とは、その体に移す事を指すのでは、ないだろうかと考えた。
しかし、そんなことが可能なのだろうか?
そんな疑問が過ぎったが少なくとも暁よりもリンクに精通している縁やハル、何よりもその計画を命を懸けても止めようとする蘇我が居るのだ、出来るのだろう。
「正直、俺も半信半疑ですよ、でもヤハイルを目の前にした時の違和感がそれで納得出来るってだけの話なので」
縁ですら半信半疑、だがそれの方が説明できるという事か…
しかし、上位者とは、なんなんだろうか?
リンクへと繋がった今だから人とは、違う何かだとは、理解出来る。
だが、それが何でどうしてここまで圧倒的な力を持っているのか、そしてその力で何をしているのか正直わからないでいる。
わかっているのは、この世界で暗躍し、先の未来で世界を戦争の坩堝へ落としたという事だけだ。
「ところで縁」
分からない事は、今考えても仕方ない。
暁は、頭の中でそう切り替えると一息ついてゆっくりと縁に問いかけた。
別の思案をしている縁は、同じ流れだろうと気が抜けている。
「鍋島教介は、どんな奴だ?」
そう訊くと縁の表情が間抜けなモノになった。
「なんで急に教介なんですか?」
「公安の調べが入る前に逃がしたのお前だろ?」
暁がそう訊くと話の意図が掴めたのか縁の表情が苦いものへと変化した。
「ハメましたね」
「いんや、ただ、これも本題の一つだ、今更誤魔化そうなんて言うまいよ?」
暁がそう言うと縁は、盛大なため息を漏らした。
「アンタ本当に記憶ないのかよ、人の弱点よく捉えてる」
それは、縁の性格が単純だからなのでは?っと思ったがあえて口に出さず暁は笑顔で肩を竦めた。
「残念ながら、正直言えば何故、縁が鍋島を逃がしたのかもわからないからな」
「鍋島ね、確かにアイツをそう呼ぶのならそうでしょうね」
縁の含みのある物言いに少しだけ引っ掛かり首を横に傾けると縁は首を横に振って応えた。
「まぁ良いっすよ、多分アキさんならアイツも納得するだろうし、後で少しだけ付き合って貰えますか?」
「唐突にどうした?」
「アイツの話を聞きたいんでしょ?なら直接訊いて下さいよ、本人に」
その唐突に暁は、戸惑いながら頷くと縁はレシートに自身の携帯番号を書いて渡して来ると「ご馳走様でした」っと言ってカフェを出ていった。
最初は、上手く撒かれたのかもと思っていたが夕方に縁に連絡を入れると東口のバーで鍋島と呑んでいると言われてそこに向かう事にした。
夕方になるにつれ街を出歩く人達の系統が若くなっていると感じながら高架下の通路を抜けて東口へ向かうと呼び出されたのは、雑居ビルの2階にある小さなバーだった。
店に入るとカウンター奥にバーとは、何処か不釣合いな小太りの若い男が立っち、カウンター席には、煙草を吸いながら天井を見上げる縁、その隣に細身のどこか落ち着かない様子の若い男が座っていた。
「いらっしゃい、お好きな席へどうぞ」
小太りの男は、そう言いながら空いてるカウンター席を差すと直ぐに縁が手を挙げた。
「耀太、その人が俺のお客だ」
縁がそう言うと小太りの若い男、耀太は軽く数度頷くとカウンターを出て壁に模して隠しドアを開けた。
「なら、こちらへ」
耀太がそう言うと縁と細身の男が立ち上がりドアの奥へ向かい、それに習う様に暁もそれに続いた。
小さな踊り場から下へ向かう階段が続き、1階分降りた先にまた違うドアがあった。
縁は、慣れた様子でそこを開けて入るとそこには、部屋の中央に対面式にソファーが置かれた雑多な部屋になっていた。
店と言うより、アジトと言うのが正解だろう。
壁には、新聞の切り抜きや、複数人の隠し撮りされた写真などが貼られ、そこら中に生活ゴミ等も落ちていた。
「ここは、お前のヤサか?」
暁がそう訊くと縁は、ゆっくりと頷いた。
「正確には、俺と耀太のだけど、さっきのは俺の相棒で八坂 耀太、上のバーの経営者兼バーテンダーって感じですかね」
縁はそう言いながら縁はソファーに座る様に促し、暁はそれに従い座ると対面に縁と細身の男が座った。
「君が鍋島 教介か?」
暁がそう訊くと俯き加減の細身の男、鍋島 教介が顔を上げた。
「そうです、てか、お前もなにか喋れよ」
縁がそう言うと鍋島は、暁の顔をじっと見つめると首を横に傾けた。
「何とも不思議な状態ですな、大隊長…まさか脳筋野郎の言う事が的を得ているとは、思いも寄りませんでした」
大隊長、暁をそんな呼び方をするという事は、鍋島もかつて暁の下と言う事が自然と分かるがまさか縁の事を脳筋等と呼ぶという事は、立場的には同じ階級ぐらいなのだろうか?
決壊したダムの様に話し出す鍋島に呆気を取られながら暁はゆっくりと縁に視線を向けるとその視線を察したのか縁は勢いよく鍋島の頭を叩いた。
「何んスだ!」
「止まれ」
縁のその一言に鍋島は、口を尖らせながら黙ると再び落ち着きのない様子で周囲に視線を向けた。
「随分、扱い慣れてるな」
「まぁ俺とハルは、特にコイツの扱いは慣れさせられましたよ」
「という事は、鍋島も?」
「一応、ウチの部隊です、つっても、正確には第5部隊の情報精査官つって、諜報部からの出向なので所属と言うより担当っての正確ですかね」
「それでも、俺は第5部隊で相当役に立っていたと思うが?」
「半々、それよりもハルの情報の方が正確だった時も結構あった気もするが?」
「それは、お前達が化け物じみた部類だからだろ!俺はリンクでも中の真ん中だぞ」
鍋島から抗議の声が漏れでると同時に縁が鋭い視線を向けると再び口を閉ざしながら背もたれに体を投げた。
「なら、俺とも関わりが会ったはずだけど…お前達の様な感覚が無いのは、何故だ?」
暁が徐に訊くと縁は、首を横に傾けたが鍋島は、鼻をひとつ鳴らした。
「それは、恐らくリンクへの接続の優先順位が変わってきたのだと思われますな」
鍋島は、そう言いながら胸を張りながら応えた。
「優先順位?」
「えぇ、恐らく以前迄の大隊長は、魂の欠片から発せする力が共鳴して接続していたのでしょ、だから断片的な記憶を見た、おい、脳筋お前もこっちの世界に来る時に見たろ、あの謎の火事場の映像」
鍋島にそう言われ、縁は視線を少しだけ泳がせると何かを思い出した様に何度か頷いた。
「恐らくあれは、こっちに来る時に漏れ出た誰かの記憶の欠片だ。それもそこら辺いる一般人とかじゃなく、あれを構成する根本的な何かのモノだ、そして大隊長のそれと同じ様なモノだ覚えておけ」
「なぜそれを豪語出来る?」
「私のリンクは《代弁者》、生者であれ死者であれ、それらの残留した記憶や感情を情報として得る力です、それぐらい出来ないと話にならない」
「つまり確証は無いんだろ?」
「だが、辻褄が合うんだよ脳筋」
縁の横槍に鍋島は、素早く返し、大きなため息を漏らしながらソファの背もたれに体を預けた。
「なら、俺も同じ夢を見ているってのは」
「えっ?大隊長も同じ夢を?」
暁の言葉に鍋島は、グイッと体を起こすと顔を一気に近づけてくる。
その行動に暁は身を引くと縁が鍋島の首根っこを掴みソファへと体を戻した。
「それは、面白いですな。つまりあの時に大隊長もまだ完全に消えてなかったという証明にもなりますなぁ~、しかしそうであるならば、何故欠片しか残っていないのか…いや、消えかかっていた時にあの波に飲まれたのであれば説明がつくか…」
鍋島は、何かとブツブツと呟きながら何度も頷き、またブツブツと考え始める。
忙しいヤツだな…暁はそう思いながら縁に目を向けると縁は呆れた様に肩を竦めた。
恐らくだが、合わせた理由は情報量ならばこの男が今1番役に立つだろうと言うのがあったからだろう。だが同時にこの男を使いたくなかったっと言うのも見え隠れしているのは、間違いない。
「そういえば、ハルは鍋島の事は?」
「知っていますよ、何せ縁に頼れって言ったのは、アイツですから」
縁に訊いた質問は、ブツブツと考えている筈の鍋島の口から返ってきた。
「はぁ!?」
縁も初耳だったのだろう、素っ頓狂な声を上げていた。
「私に公安のマークがつきそうだが雲隠れする場所も頼れる人物も居ない、どうしたものかと悩んでいるとそこにハルが現れましてな、池袋のこのバーで縁を探せと言われました」
「お前、そんなこと一言もいわなかったじゃねぇか?」
「それは、ハルにお前が過剰な反応しない様に誤魔化せって釘を刺されていたからだよ!アイツは俺の事情も理解してたし」
「お前の事情ってなんだよ!?」
縁がそう言いながら鍋島の胸倉を掴むと鍋島は、口を尖らせながら顔を背けた。
さながら恐喝場面にも見えるそれに慌てて暁が制止をした。
「確かに、鍋島、君の事情ってなんだ?少なくともこちら側の人間だったんだろ、君は?」
暁の率直な言葉に鍋島は、呆れた様な笑を零しながら首を横に振った。
「勘弁してくださいよ大隊長、アンタだって知っている筈だ、同じ組織に居るからといって一枚岩なんかじゃなく、概ねの利害が一致しているだけの集団が組織だ、個人的利害までは、一致しないし、何よりそれが邪魔だと思えば始末さえされる」
「つまり、今の組織に君を始末しようと考える人間が居ると?」
「返事次第ですけど、俺はアイツにつく気がないので十中八九」
鍋島の応えに縁が小さな溜息をついた。
「お前みたいな脳筋超人の奴には、到底理解出来ないだろうよ、俺みたいな平々凡々のリンクは簡単に始末されるんだよ」
「なら、なんで狙われる?」
鍋島の指がそっと自分のコメカミを叩く。
「この明晰な頭脳の為さ、奴にとってそれが邪魔なんだよ」
ふと、暁は鍋島の雰囲気に何かを感じた。
些細な何かだ、フワリと生暖かい空気の中に入り込んだ冷たい風の様な違和感。
通り過ぎたら忘れてしまうぐらいのほんの少しの感覚。
だが、それを妙に感じていた。
不審な事件が少しずつ観測されていたのだという。
妙な死に方をする遺体や事件などだ。
例えば、大声をはりあげながら大型トラックに飛び込む人や健康体の筈なのに突然心臓が止まり大衆の面前で死ぬ人等。
一見すれば珍妙な事件として取り上げられる様な妙な事ばかりが起きていたという。
しかし、縁にはその時既にリンクが解放されていたのだという。
だからこそ、これが自分と同じ様にその力を使った人物達の仕業なのでは無いかと感じていたという。
縁は、1つの事件を自分なりに調べている過程でハルと出会ったらしい。
その当時、ある筋での有名人だった縁は、ハルに興味を持たれ一つの提案を受けた。
その提案とは、自分と一緒にある組織に属さないかと言うのだ。
縁は、元々群れるのを好まないのだがハルもまた自分と同じ考えである事、そして何よりも自分に目覚めたこの力は何なのかという疑問からその提案を受けたのだという。
「なら、ハルとはそこからの付き合いだったのか」
「えぇ、逆にアイツと出会ってなかったら俺は、この場に居なかったと思います」
「それで、入った組織ってのは?」
「三本柱の下部組織ですよ、まぁ警察の犬みたいなポジョンでしたけど、仕事の内容的には今とやってる事と変わらないっすね、違うとすれば調査班と処理班みたいに分けられてなくて調査と同時に処理をする、そんな感じでした」
「なら、その時にリンクの存在を?」
暁の応えに縁は頷きながらそっとカフェの外へと目を向けた。
「正直、最初な何を言ってるのか理解出来ませんでしたよ、【想念の根源】とか言われても相当ヤバイ新興宗教に騙されてんのかもしれないとか思ってましたからね」
縁は苦笑いを零しながら首を横振る。
「だけど、それより否定するよりも体験を先にしていたのか?」
「えぇ、だからこそ、否定しきれなかった」
かつての事を思い出しているのだろう、まだ若いその顔には、似合わない表情を浮かべ、その瞳には何処か哀愁にも似た寂しい光が灯っている様にも見えた。
「だが、確かお前達は2020年からこっちに飛んで来たって話だったよな?5年で何があったんだ?」
「最初は、どちらかと言えば社会の裏で動いてたって感じですね、事件もパッと見は、よくあるケースに似ている、だからこそ下手な注目を浴びる事も混乱を招く事もなかった、ですけど2018年にテロ事件が起き始めるんです」
「テロ!?この日本で?」
思わず、少しだけ声のトーンが上がってしまった暁は、慌てて口を閉じた。
しかし、縁はそんな暁を気に止めること無くゆっくりと首を横に振った。
「世界各所、ほぼ当時で」
「なっ…」
縁から返ってきた応えに今度は、絶句してしまう。
予想より斜め上の応えだったからだ。
「日本は、もちろん、アメリカ、中国、ロシア、ヨーロッパ諸国、アフリカ諸国、中東、南米、その各所で同時にテロが発生し、テロリスト達は首都付近に国土と良いある一定の地域を確保して国だと主張を始めました」
「国?名前はあるのか?」
「創成国家《アイン》」
「創成国家?なんだそれ?」
「世界を新しく創成する国家って意味らしいですよ、俺達もその真意を知りません、わかるのはアイツらがネット配信で告げた事だけなので」
「ネット配信?ホームページか何かで載せたのか?」
暁がそう訊くと縁は、口をパックリと開けたと思うと何度か頷いてから肩を竦めた。
「すいません、2000年代初頭からある動画サイトが人々の注目を集めるんです。それでそれは時代と共にテレビより注目を集めやすくなるんですよ、そこはプロもアマも無い、どんな人でも動画を投稿出来るところで上位に行くと億単位の金を稼げるんです」
「へぇ~」
縁の話に暁は、半信半疑ながらも呆気に取られてしまう。
インターネットが普及するとは、思ってはいたがどんな進化をしているのか皆目検討もつかなかった。
「それで、その動画はどんな内容だったんだ?」
とりあえず、今は話を先に進めないとならない。
細かい疑問は後回しにして訊くと縁はゆっくりと首を横に傾けた。
「殉教者の演説っていう感じなんすかね、白い宣教服を来た男がカメラに向かって宣言するみたいな」
「それは、多くの人が目に?」
「えぇ、そりゃそうですよ、《道化者》のリンクを使われてたので」
「道化者?」
「えぇ、簡単に言えば、テレビのタレントみたいなもんですかね、妙に視線を惹く人とかいるでしょ?」
「確かにいるが、それはあくまでもテレビの演出とかがあってだろ?」
「それをリンクを使って、意識を集める様にする力です」
なんともお粗末な能力だと、思いながらも暁は何も口にせずに縁の話を先へと促した。
「その宣言から3日後、唐突に戦争は始まりました、狙われたのは各国の主要都市、日本なら東京、アメリカならワシントンって感じですかね」
「その頃のお前達は?」
「中東に居ました、その頃にはリンクは世界中にその存在が多く現れていたので」
「現れていた?なんか後天的な発言だな?」
「実際、後天的ですからね、それこそアインによって解放されていたんですよ、本来目覚めるはずの無い人々までね」
「アインがリンクへと繋げていた?またどうして?」
「器を探していたんですよ、アイツに合う器を」
器、その言葉にマルクトに体を乗っ取られていた千条が頭を過ぎった。
「アイツってマルクトじゃない別の上位者のか?」
暁がそう訊くと縁は首をゆっくりと横に振った。
「上位者じゃないです、でもこの件の全ての首謀者です」
上位者じゃなく首謀者、つまり人間という事だ。
「そいつは、世良 刀兵衛なのか?」
暁がそう聞くと縁はゆっくりと首を横に傾けた。
「正直俺には何とも、あの当時名乗っていたのは、ヤハイル・ヴェイルって名前の中東系の若者でした」
「中東系の若者?幾つぐらいだった?」
「あの当時で10代後半から20代前半、つまり20年前のこの時代には、赤子か幼児として居るはずです、正直そんな子供にこんな風に人を動かせるのかましてやリンクを扱う事が出来るのか正直疑問でした」
「でした?」
ふと、縁の口から出た過去形の言葉に引っ掛かり、暁は反射的にオウム返しをしてしまった。
「あくまで泰野の話ですけど、それの大元になった人物がいる。つまり俺達があったヤハイルは、千条と同じ様に誰かに肉体を乗っ取られていたって事らしいんです」
「まさか、その大元になったってのが、世良だと言うのか?」
その問いに縁は、ゆっくり頷く。
確かにそうだと、そこの辻褄は合う。
なら、彼等が言う儀式とは、その体に移す事を指すのでは、ないだろうかと考えた。
しかし、そんなことが可能なのだろうか?
そんな疑問が過ぎったが少なくとも暁よりもリンクに精通している縁やハル、何よりもその計画を命を懸けても止めようとする蘇我が居るのだ、出来るのだろう。
「正直、俺も半信半疑ですよ、でもヤハイルを目の前にした時の違和感がそれで納得出来るってだけの話なので」
縁ですら半信半疑、だがそれの方が説明できるという事か…
しかし、上位者とは、なんなんだろうか?
リンクへと繋がった今だから人とは、違う何かだとは、理解出来る。
だが、それが何でどうしてここまで圧倒的な力を持っているのか、そしてその力で何をしているのか正直わからないでいる。
わかっているのは、この世界で暗躍し、先の未来で世界を戦争の坩堝へ落としたという事だけだ。
「ところで縁」
分からない事は、今考えても仕方ない。
暁は、頭の中でそう切り替えると一息ついてゆっくりと縁に問いかけた。
別の思案をしている縁は、同じ流れだろうと気が抜けている。
「鍋島教介は、どんな奴だ?」
そう訊くと縁の表情が間抜けなモノになった。
「なんで急に教介なんですか?」
「公安の調べが入る前に逃がしたのお前だろ?」
暁がそう訊くと話の意図が掴めたのか縁の表情が苦いものへと変化した。
「ハメましたね」
「いんや、ただ、これも本題の一つだ、今更誤魔化そうなんて言うまいよ?」
暁がそう言うと縁は、盛大なため息を漏らした。
「アンタ本当に記憶ないのかよ、人の弱点よく捉えてる」
それは、縁の性格が単純だからなのでは?っと思ったがあえて口に出さず暁は笑顔で肩を竦めた。
「残念ながら、正直言えば何故、縁が鍋島を逃がしたのかもわからないからな」
「鍋島ね、確かにアイツをそう呼ぶのならそうでしょうね」
縁の含みのある物言いに少しだけ引っ掛かり首を横に傾けると縁は首を横に振って応えた。
「まぁ良いっすよ、多分アキさんならアイツも納得するだろうし、後で少しだけ付き合って貰えますか?」
「唐突にどうした?」
「アイツの話を聞きたいんでしょ?なら直接訊いて下さいよ、本人に」
その唐突に暁は、戸惑いながら頷くと縁はレシートに自身の携帯番号を書いて渡して来ると「ご馳走様でした」っと言ってカフェを出ていった。
最初は、上手く撒かれたのかもと思っていたが夕方に縁に連絡を入れると東口のバーで鍋島と呑んでいると言われてそこに向かう事にした。
夕方になるにつれ街を出歩く人達の系統が若くなっていると感じながら高架下の通路を抜けて東口へ向かうと呼び出されたのは、雑居ビルの2階にある小さなバーだった。
店に入るとカウンター奥にバーとは、何処か不釣合いな小太りの若い男が立っち、カウンター席には、煙草を吸いながら天井を見上げる縁、その隣に細身のどこか落ち着かない様子の若い男が座っていた。
「いらっしゃい、お好きな席へどうぞ」
小太りの男は、そう言いながら空いてるカウンター席を差すと直ぐに縁が手を挙げた。
「耀太、その人が俺のお客だ」
縁がそう言うと小太りの若い男、耀太は軽く数度頷くとカウンターを出て壁に模して隠しドアを開けた。
「なら、こちらへ」
耀太がそう言うと縁と細身の男が立ち上がりドアの奥へ向かい、それに習う様に暁もそれに続いた。
小さな踊り場から下へ向かう階段が続き、1階分降りた先にまた違うドアがあった。
縁は、慣れた様子でそこを開けて入るとそこには、部屋の中央に対面式にソファーが置かれた雑多な部屋になっていた。
店と言うより、アジトと言うのが正解だろう。
壁には、新聞の切り抜きや、複数人の隠し撮りされた写真などが貼られ、そこら中に生活ゴミ等も落ちていた。
「ここは、お前のヤサか?」
暁がそう訊くと縁は、ゆっくりと頷いた。
「正確には、俺と耀太のだけど、さっきのは俺の相棒で八坂 耀太、上のバーの経営者兼バーテンダーって感じですかね」
縁はそう言いながら縁はソファーに座る様に促し、暁はそれに従い座ると対面に縁と細身の男が座った。
「君が鍋島 教介か?」
暁がそう訊くと俯き加減の細身の男、鍋島 教介が顔を上げた。
「そうです、てか、お前もなにか喋れよ」
縁がそう言うと鍋島は、暁の顔をじっと見つめると首を横に傾けた。
「何とも不思議な状態ですな、大隊長…まさか脳筋野郎の言う事が的を得ているとは、思いも寄りませんでした」
大隊長、暁をそんな呼び方をするという事は、鍋島もかつて暁の下と言う事が自然と分かるがまさか縁の事を脳筋等と呼ぶという事は、立場的には同じ階級ぐらいなのだろうか?
決壊したダムの様に話し出す鍋島に呆気を取られながら暁はゆっくりと縁に視線を向けるとその視線を察したのか縁は勢いよく鍋島の頭を叩いた。
「何んスだ!」
「止まれ」
縁のその一言に鍋島は、口を尖らせながら黙ると再び落ち着きのない様子で周囲に視線を向けた。
「随分、扱い慣れてるな」
「まぁ俺とハルは、特にコイツの扱いは慣れさせられましたよ」
「という事は、鍋島も?」
「一応、ウチの部隊です、つっても、正確には第5部隊の情報精査官つって、諜報部からの出向なので所属と言うより担当っての正確ですかね」
「それでも、俺は第5部隊で相当役に立っていたと思うが?」
「半々、それよりもハルの情報の方が正確だった時も結構あった気もするが?」
「それは、お前達が化け物じみた部類だからだろ!俺はリンクでも中の真ん中だぞ」
鍋島から抗議の声が漏れでると同時に縁が鋭い視線を向けると再び口を閉ざしながら背もたれに体を投げた。
「なら、俺とも関わりが会ったはずだけど…お前達の様な感覚が無いのは、何故だ?」
暁が徐に訊くと縁は、首を横に傾けたが鍋島は、鼻をひとつ鳴らした。
「それは、恐らくリンクへの接続の優先順位が変わってきたのだと思われますな」
鍋島は、そう言いながら胸を張りながら応えた。
「優先順位?」
「えぇ、恐らく以前迄の大隊長は、魂の欠片から発せする力が共鳴して接続していたのでしょ、だから断片的な記憶を見た、おい、脳筋お前もこっちの世界に来る時に見たろ、あの謎の火事場の映像」
鍋島にそう言われ、縁は視線を少しだけ泳がせると何かを思い出した様に何度か頷いた。
「恐らくあれは、こっちに来る時に漏れ出た誰かの記憶の欠片だ。それもそこら辺いる一般人とかじゃなく、あれを構成する根本的な何かのモノだ、そして大隊長のそれと同じ様なモノだ覚えておけ」
「なぜそれを豪語出来る?」
「私のリンクは《代弁者》、生者であれ死者であれ、それらの残留した記憶や感情を情報として得る力です、それぐらい出来ないと話にならない」
「つまり確証は無いんだろ?」
「だが、辻褄が合うんだよ脳筋」
縁の横槍に鍋島は、素早く返し、大きなため息を漏らしながらソファの背もたれに体を預けた。
「なら、俺も同じ夢を見ているってのは」
「えっ?大隊長も同じ夢を?」
暁の言葉に鍋島は、グイッと体を起こすと顔を一気に近づけてくる。
その行動に暁は身を引くと縁が鍋島の首根っこを掴みソファへと体を戻した。
「それは、面白いですな。つまりあの時に大隊長もまだ完全に消えてなかったという証明にもなりますなぁ~、しかしそうであるならば、何故欠片しか残っていないのか…いや、消えかかっていた時にあの波に飲まれたのであれば説明がつくか…」
鍋島は、何かとブツブツと呟きながら何度も頷き、またブツブツと考え始める。
忙しいヤツだな…暁はそう思いながら縁に目を向けると縁は呆れた様に肩を竦めた。
恐らくだが、合わせた理由は情報量ならばこの男が今1番役に立つだろうと言うのがあったからだろう。だが同時にこの男を使いたくなかったっと言うのも見え隠れしているのは、間違いない。
「そういえば、ハルは鍋島の事は?」
「知っていますよ、何せ縁に頼れって言ったのは、アイツですから」
縁に訊いた質問は、ブツブツと考えている筈の鍋島の口から返ってきた。
「はぁ!?」
縁も初耳だったのだろう、素っ頓狂な声を上げていた。
「私に公安のマークがつきそうだが雲隠れする場所も頼れる人物も居ない、どうしたものかと悩んでいるとそこにハルが現れましてな、池袋のこのバーで縁を探せと言われました」
「お前、そんなこと一言もいわなかったじゃねぇか?」
「それは、ハルにお前が過剰な反応しない様に誤魔化せって釘を刺されていたからだよ!アイツは俺の事情も理解してたし」
「お前の事情ってなんだよ!?」
縁がそう言いながら鍋島の胸倉を掴むと鍋島は、口を尖らせながら顔を背けた。
さながら恐喝場面にも見えるそれに慌てて暁が制止をした。
「確かに、鍋島、君の事情ってなんだ?少なくともこちら側の人間だったんだろ、君は?」
暁の率直な言葉に鍋島は、呆れた様な笑を零しながら首を横に振った。
「勘弁してくださいよ大隊長、アンタだって知っている筈だ、同じ組織に居るからといって一枚岩なんかじゃなく、概ねの利害が一致しているだけの集団が組織だ、個人的利害までは、一致しないし、何よりそれが邪魔だと思えば始末さえされる」
「つまり、今の組織に君を始末しようと考える人間が居ると?」
「返事次第ですけど、俺はアイツにつく気がないので十中八九」
鍋島の応えに縁が小さな溜息をついた。
「お前みたいな脳筋超人の奴には、到底理解出来ないだろうよ、俺みたいな平々凡々のリンクは簡単に始末されるんだよ」
「なら、なんで狙われる?」
鍋島の指がそっと自分のコメカミを叩く。
「この明晰な頭脳の為さ、奴にとってそれが邪魔なんだよ」
ふと、暁は鍋島の雰囲気に何かを感じた。
些細な何かだ、フワリと生暖かい空気の中に入り込んだ冷たい風の様な違和感。
通り過ぎたら忘れてしまうぐらいのほんの少しの感覚。
だが、それを妙に感じていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる