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【PW】AD199901《雪の降る日》
白い迷路
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正午から降り出した雨は、15時を過ぎた頃には、雪に変わり灰色の風景の中を踊る様に舞い落ちた。
黒いアスファルトに溶けて消えていっていた雪は、針が18時を回る時には、世界を白く染めていった。
ハルは、そんな道を黒いレインコートに身を包んでゆったりと歩いていた。
白い息を吐き、無心で何も余計な事を考えない。
迷いは無い、戸惑いもない。
だけど、微かに感じる違和感もある。
でも、それのことを考えては、いけない。
それが何故なのか、どうしてなのか、それすらも考えては、いけない。
ハルは、ただ、ゆっくりと歩を進める。
白く染めれた世界は、全て平等に白く目的地を隠してしまう。
それは、迷路の様だがハルは、迷う事無く歩を進めた。
場所は、リンクの気配を辿ればわかる。
そして、その気配が教えてくれているそこに奴がいると。
きっとこれは、罠なのだろう。
でなければ気配を消して何処かに隠れている方が懸命だ。
奴は、己の力に溺れた愚か者でも無いしコチラを甘く見ているわけでもない。
戦った相手だからこそ、わかることで向こうもそれを承知の筈だ。
つまり、これは決着をつけようとこちらに向かい合図を出しているのと同じ事だ。
それが誰に対して見せている事なのかまではわかないが奴が誘っているのは、間違いないのだ。
大通りから広い道を抜けると高級住宅街の見晴らしのいい一角にその家はあった。
寺仏閣かと見間違う程の広い土地に瓦屋根の門構えと外壁、木の観音扉の前に立つとハルは、周囲に眼を配った。
敵影も気配もない。
上手く隠れているだけかもしれない。
だが、自然とそうは、思えなかった。
ハルは、門隣の通用口から屋敷内へ入るとそのまま庭園の方への足を向けた。
広く大きい旅館か仏閣を思わせる建物に庭園へと繋がる道は、白く雪に染められながらも敷石だけが庭園へと案内する様に顔を出していた。
敷石を辿って歩いていくとそこには、雪に埋もれた庭園と思しき空間が広がりすぐ横に長い軒下が横たわっていた。
ハルは、ゆっくりと敷石の上を歩きながら軒下に近づくと奥のガラス戸が開き、中から袷の着物を纏った老年の男がゆっくりと現れた。
痩せ細った体に覇気のない顔、しかし眼の光だけは違い、そこから漏れる意思にハルは、この男が間違いなく、世良だと確信した。
幾度か手を握り締めたり開いたりする。
多少悴んでいるのか動きが鈍かったが何度かやっているウチにすんなりと動く様になる。
一息入れ、手を軽く開き、意識をリンクへと繋げる。
体の中を風が流れ、軽く開いた手に柄の感触が現れる。
入れた空気を吐きながら、世良へと近づくと世良は、ゆっくりと軒下から庭園へと降りてきた。
その視線は、真っ直ぐハルへと向いているがどこか違うものを見ている、ハルにはそんな風に感じた。
「わかるだろ?」
ふと、世良が口を開いた。
今にも消えてしまいそうなか細い声だがハルの耳には、ハッキリとその声は届いた。
「ふざけふな」
ハルがそう真っ直ぐに応えると世良はゆっくりとその場に正座をした。
「頼む、この通りだ」
その姿を見た瞬間、ハルの全身の血が一気に沸騰する様な感覚に襲われた。
目の前がその男だけになり、殺意が沸き起こる。
それが引鉄になった。
頼む、ふざけるな!お前だけが…
そう思うと同時にハルの脳裏に最後の彼女の顔が浮かび上がる。
「何がなんでも、助けるの!」
業火に包まれる、建物を目の前に彼女は折れる事も諦める事もせず、真っ直ぐに向き合っていた、その表情がハルの見た彼女の最後の姿だった。
全て、考えない様に思い出さない様に、全てを閉じて淡々と考えずに機械の様に目の前の男を殺す事だけを目的としてきた。
もし、それがあると躊躇ってしまう自分を知っていたから。
理解してるやるつもりも無論同情するつもりなどサラサラない。
だが、わかってしまう。
あの時の無力感も絶望感も、何よりも破壊衝動も。
同じ様に燃え盛る炎によって大事な人を目の前で失ったからこそわかってしまうのだ。
だからこそ、ハルはここに来るまで全てを閉じていた。
あの時見ていた映像が繋がらない様に、躊躇わずに未来を変える為に閉じていた。
「あぁぁぁぁ!!」
それを真っ当する様にハルは、雄叫びと共に腕を振り上げる。
これ以上、何も感じず、思考せず、ただ一心に全てを終わらせる為にその腕を振り下ろした。
黒いアスファルトに溶けて消えていっていた雪は、針が18時を回る時には、世界を白く染めていった。
ハルは、そんな道を黒いレインコートに身を包んでゆったりと歩いていた。
白い息を吐き、無心で何も余計な事を考えない。
迷いは無い、戸惑いもない。
だけど、微かに感じる違和感もある。
でも、それのことを考えては、いけない。
それが何故なのか、どうしてなのか、それすらも考えては、いけない。
ハルは、ただ、ゆっくりと歩を進める。
白く染めれた世界は、全て平等に白く目的地を隠してしまう。
それは、迷路の様だがハルは、迷う事無く歩を進めた。
場所は、リンクの気配を辿ればわかる。
そして、その気配が教えてくれているそこに奴がいると。
きっとこれは、罠なのだろう。
でなければ気配を消して何処かに隠れている方が懸命だ。
奴は、己の力に溺れた愚か者でも無いしコチラを甘く見ているわけでもない。
戦った相手だからこそ、わかることで向こうもそれを承知の筈だ。
つまり、これは決着をつけようとこちらに向かい合図を出しているのと同じ事だ。
それが誰に対して見せている事なのかまではわかないが奴が誘っているのは、間違いないのだ。
大通りから広い道を抜けると高級住宅街の見晴らしのいい一角にその家はあった。
寺仏閣かと見間違う程の広い土地に瓦屋根の門構えと外壁、木の観音扉の前に立つとハルは、周囲に眼を配った。
敵影も気配もない。
上手く隠れているだけかもしれない。
だが、自然とそうは、思えなかった。
ハルは、門隣の通用口から屋敷内へ入るとそのまま庭園の方への足を向けた。
広く大きい旅館か仏閣を思わせる建物に庭園へと繋がる道は、白く雪に染められながらも敷石だけが庭園へと案内する様に顔を出していた。
敷石を辿って歩いていくとそこには、雪に埋もれた庭園と思しき空間が広がりすぐ横に長い軒下が横たわっていた。
ハルは、ゆっくりと敷石の上を歩きながら軒下に近づくと奥のガラス戸が開き、中から袷の着物を纏った老年の男がゆっくりと現れた。
痩せ細った体に覇気のない顔、しかし眼の光だけは違い、そこから漏れる意思にハルは、この男が間違いなく、世良だと確信した。
幾度か手を握り締めたり開いたりする。
多少悴んでいるのか動きが鈍かったが何度かやっているウチにすんなりと動く様になる。
一息入れ、手を軽く開き、意識をリンクへと繋げる。
体の中を風が流れ、軽く開いた手に柄の感触が現れる。
入れた空気を吐きながら、世良へと近づくと世良は、ゆっくりと軒下から庭園へと降りてきた。
その視線は、真っ直ぐハルへと向いているがどこか違うものを見ている、ハルにはそんな風に感じた。
「わかるだろ?」
ふと、世良が口を開いた。
今にも消えてしまいそうなか細い声だがハルの耳には、ハッキリとその声は届いた。
「ふざけふな」
ハルがそう真っ直ぐに応えると世良はゆっくりとその場に正座をした。
「頼む、この通りだ」
その姿を見た瞬間、ハルの全身の血が一気に沸騰する様な感覚に襲われた。
目の前がその男だけになり、殺意が沸き起こる。
それが引鉄になった。
頼む、ふざけるな!お前だけが…
そう思うと同時にハルの脳裏に最後の彼女の顔が浮かび上がる。
「何がなんでも、助けるの!」
業火に包まれる、建物を目の前に彼女は折れる事も諦める事もせず、真っ直ぐに向き合っていた、その表情がハルの見た彼女の最後の姿だった。
全て、考えない様に思い出さない様に、全てを閉じて淡々と考えずに機械の様に目の前の男を殺す事だけを目的としてきた。
もし、それがあると躊躇ってしまう自分を知っていたから。
理解してるやるつもりも無論同情するつもりなどサラサラない。
だが、わかってしまう。
あの時の無力感も絶望感も、何よりも破壊衝動も。
同じ様に燃え盛る炎によって大事な人を目の前で失ったからこそわかってしまうのだ。
だからこそ、ハルはここに来るまで全てを閉じていた。
あの時見ていた映像が繋がらない様に、躊躇わずに未来を変える為に閉じていた。
「あぁぁぁぁ!!」
それを真っ当する様にハルは、雄叫びと共に腕を振り上げる。
これ以上、何も感じず、思考せず、ただ一心に全てを終わらせる為にその腕を振り下ろした。
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