72 / 93
【PW】AD199908《執悪の種》
虚ろな道 3
しおりを挟む
「それにしても随分、危ない橋渡ろうと思いましたね」
ビールの喉越しを楽しみ、お通しに舌鼓をして一旦、一息ついた時に暁はふとした感想を漏らした。
「危ない橋とは?」
「相手、多分ヤクザですよ。それを相手に喧嘩売るなんて、いくら貴方が腕に覚えがあっても数で押し切られる可能性は、十分にありますよ?」
暁がそう言うと才田は、豪快に笑い首を横に振った。
「かもしれないな、だが何故俺に腕に覚えがあると思った?」
「動き、立ち振る舞い、一応俺達も武道を嗜んでおかないといけないのである程度は見る自身はありますよ」
暁がそう言うと才田は、何度か頷きながら清酒をクイッと呑んだ。
「俺達…か、そうさねアンタは警察関連の人間だろうからね」
「えぇ」
暁は、そう言いながらビールを再び喉に流し込む。才田は、そんな暁を見ながら鼻をひとつ鳴らすと煙草を咥え紫煙を吐いた。
「ここの店はな、元々は俺の弟子の店なんだ、元は武術家でね、色んな弟子を育てた、そのうちの一人がここの店主の親父さんだ、つまり俺にしてみればここの店主は孫みたいなもんなんだよ」
才田のその口振りに暁は、何となくこの老人には家族が居ないのだろうかと疑問か過ぎるが、その表情を見て訊いてはいけない気がした。
「お孫さんね、でもさっきも言いましたけど無茶ですよ。いくら腕に自信があるとは言え、数で来れられた技だけではどうにも出来ないでしょ?」
「それがスットコドッコイ、俺には特別な力があるからそうでも無いのさ」
才田は、そう言うと暁の前に手を差し出すと指をパチンと鳴らした。
次の瞬間、暁の目の前にいつ間にか立っている才田と湖の様な世界が広がり、気づくと自分自身もまた水辺で立っていた。
唐突な出来事に暁は慌てて周囲を見渡すがそこには、周囲には水辺と空だけの世界しか無かった。
「落ち着きな、ここは境界、空は俺達の体が存在している世界、そしてこの水辺が無意識の世界だ」
才田は、そう言いながら暁に近づくと再び目の前で指を鳴らした。
すると、世界は再び居酒屋の店内へと変わり、暁は思わずそのまま背後に倒れてしまった。
暁のその姿を見て、才田は豪快に笑った。
「そうか、お前さん目覚めかけては居るがあの世界を見たこと無かったか~」
暁は、呆然としながらもテーブルへ持ち直し、目の前でまだケラケラと笑う才田を凝視していた。
今のは?
訳が分からない、それと同時にあの世界を身近に感じる部分もあり、より混乱をしたいた。
「アンタも、リンク…」
暁がそう言うと才田の片眉がピクリと上がった。
「今はそれが主流なんかね、俺達は開きし者や到達者、なんて呼んでたな」
才田は、何処か気に入らない様子で溜息をつきながら暁に流し目を向けた。
「三本の関係者なのか?」
当てずっぽで訊いてみたが才田は、ゆっくりと首を横に振った。
「奴さんとは、中々の仲悪さだぜ、俺の名前を訊いたらさぞたまげるだろうよ」
才田は、そうケラケラと笑いながら再び酒を煽る。
「そんな事を俺に話して大丈夫なのか?」
「だって、お前さんそんなのに興味無いだろ?面に書いてる」
気づくと暁は自分の頬を徐に触ってしまった。
「それより、その力をちゃんと使ってみたいと思ってる違うかい?」
暁は、その言葉に静かに才田を睨みつける事しか出来ずにいた。それを返事だと捉えたのだろう才田は、ゆったりと頷き、煙草を味わう様にゆっくりと吸った。
「Was machst du hier?」
突然の聞き慣れない言語に振り返るとそこには、鷲の嘴の様な鼻と口髭が印象的な白人が立っていた。身長も高く、身なりはスーツ姿だがこの居酒屋に居るのは、何処かアンバランス感を否めない雰囲気だ。
「おぅ、ルシウス、どうした?」
そんな白人の男、ルシウスに才田は、呑気に手を挙げながら答えた。
「Du bist doch nicht zum Spielen hier, oder?」
「わかってるよ、少しくらい息抜きしても良いだろう?アイツがシッポを出すのは、まだ先だしな」
才田とは、対照的に物静かにもルシウスと呼ばれた男は、何処か落ち着かない様子だった。
これは、ドイツ語か?
暁がそれに気づいた時には、ルシウスと少し会話をした才田は、諦めた様子で立ち上がると暁の方に肩を竦めた。
「悪ぃな、連れがうるさいんで今日はお暇させて貰うわ」
「えっ?」
そう言うと才田は、財布から2万円取りだしてテーブルに置くとルシウスに対して指で外に出る様に促した。ルシウスはその対応にため息を漏らしながらもゆっくりと出入口へ向かう。
「ちょっと!」
才田もまたそれに続く様に出ていこうとする背中に暁は、慌てて声をかけると才田は、ゆっくりと振り返る。
「自力でさっきの世界まで行ってみな、ヒントは瞑想だ」
それだけ言うと笑顔で手を振りそのまま出ていってしまった。暁は、慌てて追いかけようかと思ったが間が悪く店員が注文していた料理を運んできてしまい、それに気を取られている間に才田達は店を後にしていた。
追いかけるかどうか悩んだ末に暁は恐らく無駄だと悟り、席に座ると才田の言葉を頭の中で反芻していた。
ヒントは、瞑想…そして何よりあの世界…
初めて見る筈なのに暁はあの世界に何処か馴染みがある様に感じていた。
これも魂の欠片の影響なのか?
暁は、何もわからないまま、ふとテーブルにあるビールに目を向けるとそれを一気に飲み干した。
ビールの喉越しを楽しみ、お通しに舌鼓をして一旦、一息ついた時に暁はふとした感想を漏らした。
「危ない橋とは?」
「相手、多分ヤクザですよ。それを相手に喧嘩売るなんて、いくら貴方が腕に覚えがあっても数で押し切られる可能性は、十分にありますよ?」
暁がそう言うと才田は、豪快に笑い首を横に振った。
「かもしれないな、だが何故俺に腕に覚えがあると思った?」
「動き、立ち振る舞い、一応俺達も武道を嗜んでおかないといけないのである程度は見る自身はありますよ」
暁がそう言うと才田は、何度か頷きながら清酒をクイッと呑んだ。
「俺達…か、そうさねアンタは警察関連の人間だろうからね」
「えぇ」
暁は、そう言いながらビールを再び喉に流し込む。才田は、そんな暁を見ながら鼻をひとつ鳴らすと煙草を咥え紫煙を吐いた。
「ここの店はな、元々は俺の弟子の店なんだ、元は武術家でね、色んな弟子を育てた、そのうちの一人がここの店主の親父さんだ、つまり俺にしてみればここの店主は孫みたいなもんなんだよ」
才田のその口振りに暁は、何となくこの老人には家族が居ないのだろうかと疑問か過ぎるが、その表情を見て訊いてはいけない気がした。
「お孫さんね、でもさっきも言いましたけど無茶ですよ。いくら腕に自信があるとは言え、数で来れられた技だけではどうにも出来ないでしょ?」
「それがスットコドッコイ、俺には特別な力があるからそうでも無いのさ」
才田は、そう言うと暁の前に手を差し出すと指をパチンと鳴らした。
次の瞬間、暁の目の前にいつ間にか立っている才田と湖の様な世界が広がり、気づくと自分自身もまた水辺で立っていた。
唐突な出来事に暁は慌てて周囲を見渡すがそこには、周囲には水辺と空だけの世界しか無かった。
「落ち着きな、ここは境界、空は俺達の体が存在している世界、そしてこの水辺が無意識の世界だ」
才田は、そう言いながら暁に近づくと再び目の前で指を鳴らした。
すると、世界は再び居酒屋の店内へと変わり、暁は思わずそのまま背後に倒れてしまった。
暁のその姿を見て、才田は豪快に笑った。
「そうか、お前さん目覚めかけては居るがあの世界を見たこと無かったか~」
暁は、呆然としながらもテーブルへ持ち直し、目の前でまだケラケラと笑う才田を凝視していた。
今のは?
訳が分からない、それと同時にあの世界を身近に感じる部分もあり、より混乱をしたいた。
「アンタも、リンク…」
暁がそう言うと才田の片眉がピクリと上がった。
「今はそれが主流なんかね、俺達は開きし者や到達者、なんて呼んでたな」
才田は、何処か気に入らない様子で溜息をつきながら暁に流し目を向けた。
「三本の関係者なのか?」
当てずっぽで訊いてみたが才田は、ゆっくりと首を横に振った。
「奴さんとは、中々の仲悪さだぜ、俺の名前を訊いたらさぞたまげるだろうよ」
才田は、そうケラケラと笑いながら再び酒を煽る。
「そんな事を俺に話して大丈夫なのか?」
「だって、お前さんそんなのに興味無いだろ?面に書いてる」
気づくと暁は自分の頬を徐に触ってしまった。
「それより、その力をちゃんと使ってみたいと思ってる違うかい?」
暁は、その言葉に静かに才田を睨みつける事しか出来ずにいた。それを返事だと捉えたのだろう才田は、ゆったりと頷き、煙草を味わう様にゆっくりと吸った。
「Was machst du hier?」
突然の聞き慣れない言語に振り返るとそこには、鷲の嘴の様な鼻と口髭が印象的な白人が立っていた。身長も高く、身なりはスーツ姿だがこの居酒屋に居るのは、何処かアンバランス感を否めない雰囲気だ。
「おぅ、ルシウス、どうした?」
そんな白人の男、ルシウスに才田は、呑気に手を挙げながら答えた。
「Du bist doch nicht zum Spielen hier, oder?」
「わかってるよ、少しくらい息抜きしても良いだろう?アイツがシッポを出すのは、まだ先だしな」
才田とは、対照的に物静かにもルシウスと呼ばれた男は、何処か落ち着かない様子だった。
これは、ドイツ語か?
暁がそれに気づいた時には、ルシウスと少し会話をした才田は、諦めた様子で立ち上がると暁の方に肩を竦めた。
「悪ぃな、連れがうるさいんで今日はお暇させて貰うわ」
「えっ?」
そう言うと才田は、財布から2万円取りだしてテーブルに置くとルシウスに対して指で外に出る様に促した。ルシウスはその対応にため息を漏らしながらもゆっくりと出入口へ向かう。
「ちょっと!」
才田もまたそれに続く様に出ていこうとする背中に暁は、慌てて声をかけると才田は、ゆっくりと振り返る。
「自力でさっきの世界まで行ってみな、ヒントは瞑想だ」
それだけ言うと笑顔で手を振りそのまま出ていってしまった。暁は、慌てて追いかけようかと思ったが間が悪く店員が注文していた料理を運んできてしまい、それに気を取られている間に才田達は店を後にしていた。
追いかけるかどうか悩んだ末に暁は恐らく無駄だと悟り、席に座ると才田の言葉を頭の中で反芻していた。
ヒントは、瞑想…そして何よりあの世界…
初めて見る筈なのに暁はあの世界に何処か馴染みがある様に感じていた。
これも魂の欠片の影響なのか?
暁は、何もわからないまま、ふとテーブルにあるビールに目を向けるとそれを一気に飲み干した。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる