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【PW】AD199908《執悪の種》
炎の虚ろ 3
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切る?何を言っているんだ?
テツの言葉の意味を飲み込めないまま暁が呆然としているとテツは、失礼っと言いながらナイフサイズの木刀を取り出すと暁のコメカミに切っ先を当てて擦った。
すると感覚を取り戻す様に色んな音、匂い、暑さなどが全身を走った。
これは?五感?
「俺は?今何が?」
「危なかった、無意識でリンク使っていたんです」
俺がリンクを?
テツの言葉が呑み込めないまま暁は呆然と立ち尽くしていたが急に全身に気だるさを感じ、立っていられず道の端に行くとその場へ座り込んでしまった。
「何だ、これ?」
「恐らくなれない力を使った事での疲労です、とりあえず阿部の監視はマツに任せて少し休みましょう」
テツは、そう言うと暁に手を貸して、マツが居るカフェまで連れていくと店内へ入っていった。
テーブル席に座ると冷房の風がゆっくりと頭を覚ましていくのがわかる。
注文は、テツに任せていたがアイスコーヒーにミルクもガムシロップも着いてないのを見ると本当に元部下で何よりも好みを熟知しているのだと思った。
「ゆっくりと呼吸を整えて下さい」
その間もテツは、暁にゆったりとした口調でいいきかせ、それに従い暁もゆったりとした呼吸を意識した。
暁は少しづつだが体が落ち着いてくるのを感じた。
そして、落ち着いてくれば来る程に先程の感覚を思い出し寒気を覚えた。
あれが俗に言うトランス状態と言うものなのだろうか、聴覚、視覚、嗅覚、痛覚、味覚、全ての感覚を総動員して対象の先の先まで見通している様な感覚。
迷いも戸惑いも間違いもない、確かに先の先まで見ていた様な気がする、あの感覚。
そこに高揚感も優越感もない、あるのは集中、それだけだった。
あれは、危ない。
全感覚、理性が全開で頭の中で警報を鳴らしていた。
あれは、落ちたら…きっと這い上がれない…
落ちる…?
そうあの感覚は、登ると言うより落ちていく感覚に似ていた…
「そうか、だから…潜るか…」
フト、思考の中でバラバラだった要点が結び、暁は思わず口走るとテツはゆっくりと頷いた。
「そうです、そうやって我々はリンクをしっかりと制御出来る様に潜り、慣らしていくんです」
そんな暁の呟きにテツがそっと続け、その応えに暁は小さな溜息を漏らした。
いずれ目覚める、そう言われていた。
そして、それに触れる機会も確かにあった。
だけど、こんなにしっかりと使う事になったのは、これが初めてだ、しかし何故今回に限ってこんな風になったのか?
「恐らく、感覚の共有が一番の鍵になったんだと思います 」
暁の思考を読んでいるかの様にテツが続け、その言葉に暁は驚き目を丸々と広げ、そんな暁の表情から察したのかテツはゆっくりと肩を竦めた。
「表情や反応から何となくです、私のリンクは相手の記憶を探る事、思考までは読めませんから」
確かに以前にも同じ事を言っていた、しかし本当にそうなのか?っと疑問が頭を過ぎったがそれを何かが否定した。
「魂の欠片…」
「え?」
「以前ハルに向こうの俺の魂の欠片が入っていると言われた、やはりその影響もあるのか?」
そう聞くとテツは、ゆっくりと頷いた。
「恐らく、特に私の言葉何かを信じてるのは、それの影響が強いと思います」
なら、教えてくれ…どうしてそんなに彼等を信じることが出来る?もしかしたら騙しているかもしれないだろ?
暁は、素朴な疑問を自問自答してみた。
まともな答えが返ってくるとは、思ってはいない。だが目の前の状況から暁の頭の中は混乱の坩堝でもあった。
だからなのか、それは白昼夢という形で暁の頭の中に断片的な映像を見せた。
戦闘服に身を包むテツとマツ、そこには縁やハルの姿もあった。
荒廃した雑居ビル、造りからして日本ではない。
そして、暁達は銃を片手に戦闘を行っているのだろう。
そこで暁は、何度かテツやマツに命を救われている。そして逆に助けてもいる。
そんな映像が幾つも流れて来た。
「俺達は海外で戦っているのか?」
暁の問いにテツ、そしてマツが目を丸々と広げた。
「…はい、まだ部隊を結成して間もない頃に…中東の方で…どうしてそれを?」
「今フラッシュバックなのかなんなのかわからないけど頭の中に浮かんだ…というか中東!?またなんでそんな所に?」
「詳しくは省きますが接続者の連続誘拐事件で誘拐された人達が連れていかれた先が中東のアバスタルという国でした」
接続者の誘拐事件?そんな事も未来で起きていた?
いや、考えてみればこの力を資源と考えるなら当然のこともかもしれない。
戦闘もそうだが情報戦や経済の操作なんかも能力次第では、造作もない事になる。
「でも、なんでそこの記憶が?」
「恐らく、殲滅という意味合いでは、そこが初の任務だったからかと」
殲滅、要は相手を完全に殺す作戦だったという事か…
しかし、こんなフラッシュバックを見せる?
殲滅戦の初任務だったからなのか?
曲がり何もこれを見せているのは、未来の自分自身の欠片、もし意志を見せているのだとしたら信じさせる為だけに見せるだろうか?
答えは、NOだ。
つまり、この殲滅戦に何かの意味があるかもしれないと捉える方が正解な気がする。
しかし、今の暁自身には、その記憶も情報もない。
「この殲滅戦にアルファが関係していたとかないか?」
「いえ、アルファ事態、2000年代初頭に教祖の千条の死刑が執行されてから何もしてないはずです」
暁の問いにテツは簡潔に応えた。
「俺の魂の記憶…読めないか?」
もしかしたら、そう思い聞いてみたがテツから帰ってきたのは、無言のNOと言う首を横に振る仕草だけだった。
「えっ?」
突然、マツから戸惑いの声が漏れ、暁とテツの視線が注がれる。
「リンクが切られた…」
マツがテツを真っ直ぐと見ながら言うとテツは何も言わずに動き出し、店を後にした。
暁もその行動が何を意味し、テツが何処へ向かったのか直ぐに察すると後を追う様に店を後にした。
しかし、足元がまだ覚束無い。
「アキさんも落ち着いて下さい」
《それとテツも!》
後を追ってきたマツが覚束無い足取りの暁を横で支えながら念話と口で言った。
《相手は、私のリンクを探知して切ったって事は、こっちの事がバレてる、相手の戦力が分からないんじゃ今は引くべきでしょ》
マツが念話で続けるがテツからの応答は帰ってこなかった。
「とりあえず、阿部の入った雑居ビルに向かおう」
暁は、マツに支えられながら歩き続けた。
幸い、暁はその雑居ビルの位置を正確に記憶していた。
エビス通りを左に曲がり次の道を右に曲がって直ぐにある雑居ビル。
重い足を引き摺る様に歩きながら次の角を曲がればお目当ての雑居ビルが見えると思った矢先、そこには黒山の人集りが出来ていた。
視線を上げると空へ広がる様に立ち上る黒い煙、男の声で火事だ!という怒号と共に非常ベルの音がこだました。
暁は、何が起きているのかわからず人集りを掻き分け様と踏み出そうとしたがマツに肩を掴まれ止められた。
「テツと視覚共有出来ました」
そう言われたと思うと頭の中に雑居ビルの出入口から勢いのある炎が吐き出される映像が浮かび上がってきた。
「これは?」
「恐らくテツが人集りの先頭に居るんだと思います」
暁は、何がどうしてこうなっているのか分からずに戸惑っていると感覚が妙に冴えていくのがわかる。
テツの言葉の意味を飲み込めないまま暁が呆然としているとテツは、失礼っと言いながらナイフサイズの木刀を取り出すと暁のコメカミに切っ先を当てて擦った。
すると感覚を取り戻す様に色んな音、匂い、暑さなどが全身を走った。
これは?五感?
「俺は?今何が?」
「危なかった、無意識でリンク使っていたんです」
俺がリンクを?
テツの言葉が呑み込めないまま暁は呆然と立ち尽くしていたが急に全身に気だるさを感じ、立っていられず道の端に行くとその場へ座り込んでしまった。
「何だ、これ?」
「恐らくなれない力を使った事での疲労です、とりあえず阿部の監視はマツに任せて少し休みましょう」
テツは、そう言うと暁に手を貸して、マツが居るカフェまで連れていくと店内へ入っていった。
テーブル席に座ると冷房の風がゆっくりと頭を覚ましていくのがわかる。
注文は、テツに任せていたがアイスコーヒーにミルクもガムシロップも着いてないのを見ると本当に元部下で何よりも好みを熟知しているのだと思った。
「ゆっくりと呼吸を整えて下さい」
その間もテツは、暁にゆったりとした口調でいいきかせ、それに従い暁もゆったりとした呼吸を意識した。
暁は少しづつだが体が落ち着いてくるのを感じた。
そして、落ち着いてくれば来る程に先程の感覚を思い出し寒気を覚えた。
あれが俗に言うトランス状態と言うものなのだろうか、聴覚、視覚、嗅覚、痛覚、味覚、全ての感覚を総動員して対象の先の先まで見通している様な感覚。
迷いも戸惑いも間違いもない、確かに先の先まで見ていた様な気がする、あの感覚。
そこに高揚感も優越感もない、あるのは集中、それだけだった。
あれは、危ない。
全感覚、理性が全開で頭の中で警報を鳴らしていた。
あれは、落ちたら…きっと這い上がれない…
落ちる…?
そうあの感覚は、登ると言うより落ちていく感覚に似ていた…
「そうか、だから…潜るか…」
フト、思考の中でバラバラだった要点が結び、暁は思わず口走るとテツはゆっくりと頷いた。
「そうです、そうやって我々はリンクをしっかりと制御出来る様に潜り、慣らしていくんです」
そんな暁の呟きにテツがそっと続け、その応えに暁は小さな溜息を漏らした。
いずれ目覚める、そう言われていた。
そして、それに触れる機会も確かにあった。
だけど、こんなにしっかりと使う事になったのは、これが初めてだ、しかし何故今回に限ってこんな風になったのか?
「恐らく、感覚の共有が一番の鍵になったんだと思います 」
暁の思考を読んでいるかの様にテツが続け、その言葉に暁は驚き目を丸々と広げ、そんな暁の表情から察したのかテツはゆっくりと肩を竦めた。
「表情や反応から何となくです、私のリンクは相手の記憶を探る事、思考までは読めませんから」
確かに以前にも同じ事を言っていた、しかし本当にそうなのか?っと疑問が頭を過ぎったがそれを何かが否定した。
「魂の欠片…」
「え?」
「以前ハルに向こうの俺の魂の欠片が入っていると言われた、やはりその影響もあるのか?」
そう聞くとテツは、ゆっくりと頷いた。
「恐らく、特に私の言葉何かを信じてるのは、それの影響が強いと思います」
なら、教えてくれ…どうしてそんなに彼等を信じることが出来る?もしかしたら騙しているかもしれないだろ?
暁は、素朴な疑問を自問自答してみた。
まともな答えが返ってくるとは、思ってはいない。だが目の前の状況から暁の頭の中は混乱の坩堝でもあった。
だからなのか、それは白昼夢という形で暁の頭の中に断片的な映像を見せた。
戦闘服に身を包むテツとマツ、そこには縁やハルの姿もあった。
荒廃した雑居ビル、造りからして日本ではない。
そして、暁達は銃を片手に戦闘を行っているのだろう。
そこで暁は、何度かテツやマツに命を救われている。そして逆に助けてもいる。
そんな映像が幾つも流れて来た。
「俺達は海外で戦っているのか?」
暁の問いにテツ、そしてマツが目を丸々と広げた。
「…はい、まだ部隊を結成して間もない頃に…中東の方で…どうしてそれを?」
「今フラッシュバックなのかなんなのかわからないけど頭の中に浮かんだ…というか中東!?またなんでそんな所に?」
「詳しくは省きますが接続者の連続誘拐事件で誘拐された人達が連れていかれた先が中東のアバスタルという国でした」
接続者の誘拐事件?そんな事も未来で起きていた?
いや、考えてみればこの力を資源と考えるなら当然のこともかもしれない。
戦闘もそうだが情報戦や経済の操作なんかも能力次第では、造作もない事になる。
「でも、なんでそこの記憶が?」
「恐らく、殲滅という意味合いでは、そこが初の任務だったからかと」
殲滅、要は相手を完全に殺す作戦だったという事か…
しかし、こんなフラッシュバックを見せる?
殲滅戦の初任務だったからなのか?
曲がり何もこれを見せているのは、未来の自分自身の欠片、もし意志を見せているのだとしたら信じさせる為だけに見せるだろうか?
答えは、NOだ。
つまり、この殲滅戦に何かの意味があるかもしれないと捉える方が正解な気がする。
しかし、今の暁自身には、その記憶も情報もない。
「この殲滅戦にアルファが関係していたとかないか?」
「いえ、アルファ事態、2000年代初頭に教祖の千条の死刑が執行されてから何もしてないはずです」
暁の問いにテツは簡潔に応えた。
「俺の魂の記憶…読めないか?」
もしかしたら、そう思い聞いてみたがテツから帰ってきたのは、無言のNOと言う首を横に振る仕草だけだった。
「えっ?」
突然、マツから戸惑いの声が漏れ、暁とテツの視線が注がれる。
「リンクが切られた…」
マツがテツを真っ直ぐと見ながら言うとテツは何も言わずに動き出し、店を後にした。
暁もその行動が何を意味し、テツが何処へ向かったのか直ぐに察すると後を追う様に店を後にした。
しかし、足元がまだ覚束無い。
「アキさんも落ち着いて下さい」
《それとテツも!》
後を追ってきたマツが覚束無い足取りの暁を横で支えながら念話と口で言った。
《相手は、私のリンクを探知して切ったって事は、こっちの事がバレてる、相手の戦力が分からないんじゃ今は引くべきでしょ》
マツが念話で続けるがテツからの応答は帰ってこなかった。
「とりあえず、阿部の入った雑居ビルに向かおう」
暁は、マツに支えられながら歩き続けた。
幸い、暁はその雑居ビルの位置を正確に記憶していた。
エビス通りを左に曲がり次の道を右に曲がって直ぐにある雑居ビル。
重い足を引き摺る様に歩きながら次の角を曲がればお目当ての雑居ビルが見えると思った矢先、そこには黒山の人集りが出来ていた。
視線を上げると空へ広がる様に立ち上る黒い煙、男の声で火事だ!という怒号と共に非常ベルの音がこだました。
暁は、何が起きているのかわからず人集りを掻き分け様と踏み出そうとしたがマツに肩を掴まれ止められた。
「テツと視覚共有出来ました」
そう言われたと思うと頭の中に雑居ビルの出入口から勢いのある炎が吐き出される映像が浮かび上がってきた。
「これは?」
「恐らくテツが人集りの先頭に居るんだと思います」
暁は、何がどうしてこうなっているのか分からずに戸惑っていると感覚が妙に冴えていくのがわかる。
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