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【PW】AD199908《執悪の種》
炎の虚ろ
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池袋駅西口エビス通りの人混みを慣れた足取りで歩く阿部の姿を遠目に見ながら暁は、周囲に目を配る。
相も変わらず照りつける太陽と熱気に包まれた街の中は、息苦しくそして茹だる。
阿部もそうなのだろう、ハンカチサイズのタオルで時折、汗を拭っている。
幸い、尾行には、まだ気づかれている様子は無いがバレるのは、時間の問題とも言えた。
《接続出来ましたァー、皆さん下がって貰って大丈夫です!》
呑気な声が頭の中で響き、自然と暁は、その視線を声の主へ向けた。
阿部が通り過ぎた道の途中にあるカフェの店先で呑気にプラスチックのカップに入ったアイスコーヒーを飲みながら声の主は暁と目が合うと手を振った。
《マツ、緊張感もってください》
窘めるように呆れた男性の声が聞こえ、暁は再び周囲に視線を向けるが声の主を見つける事は、出来なかった。
本当に大丈夫なのかという一抹の不安が有りながらも何故かわからないがこの2人なら大丈夫だという信頼もある不思議な感覚が中で渦巻いている。
爆破事件と失態からの3日後の昨日の夕方、崇央からの呼び出しを受けて池袋の事務所に向かうと幾つもの報告を受けた。
まず、メンバーチェンジの件は車木を外して、その補填として三本柱から3人の補充があるという事、次にそのメンツで阿部亜希子の調査の続行をして欲しいとの事だった。
「本気で言ってるのか?」
暁の一番最初の返答に崇央は溜息混じりに頷いた。
「俺だって失態の件は言ったけど上的には、そのままで大丈夫だとのお達し」
「阿部は、爆破事件に関わっている可能性が高いのにか?」
「物証がない、そもそも今回の事件はアルファの関わりである線が濃いと睨んでる上からすれば阿部をそこまで注視してないんだよ」
だとしてもだ。
リンクの件が大っぴらに出来ない案件だとしても一般人に調査させるなんて無謀すぎる。
しかし、それを崇央に解いたところで何の解決にもならないだろう。
暁は、そう思うと口を閉ざした。
「上は、何処まで阿部を調べろと言ってるんだ?能力だけでいいのか?」
暁がそう聞くと崇央の表情が険しくなった。
「アイツに接触した、バンダナの男についても調査しろって事らしい」
マジかよ、暁は盛大な溜息を漏らしながらどう手を打つか頭の中で思案した。
しかし、どの手を使っても現状から探れるのは、たかが知れている。っとなれば自分が接触するのが一番なのだろうがフォローもサポートも見込めない現状からすると文字通り命懸けになる可能性が高かった。
成果が上がるならそれもやも無しだと思うが成果が出るとは、到底思えなかった。
「ちなみに、三本からの応援は帰還者でこちらの仕事の経験ありだって」
崇央が補足をつけてきたが、暁はその補足ですらもはや信頼できては居なかった。
調査再開は、次の日からだった。
朝9時に事務所に集合すると星見、西端、熊切と見慣れない2人の男女と知っている女性の顔があった。
「藤さん」
暁がそう声をかけると藤は、ゆっくりと暁に向かい笑顔で頭を下げてきた。
「応援で参加させてもらいます。経験がないので不慣れではあると思いますが宜しくお願いします」
その藤の挨拶に暁は、ゆっくりと頷いた。
次に、男女2人に目を向けると2人とも暁に対して穏やかな目を向けていた。
「大浦です、お名前をお伺いてしても?」
暁がそう聞くと、2人ともハッとした顔をするとお互いを見合いながらどちらかが先に挨拶をするのか譲り合っている様子だった。
そんな2人を見ている時だった、暁の耳に妙なノイズが入り込む。
「テツとマツ?」
意識の空白、ノイズと共に生まれた呆然とした感覚に似ているが何処か違う。
そんな瞬間頭の中に焼き付けられる様に残る言葉が生まれ気づくとそれを呟いていた。
「やっぱり、小隊長の言った通り、欠片が入っていたんですね!」
暁の言葉に反応したのは、女性の方だった。
まだ、20代前半だろうか、ショートカットの髪型に小柄な体躯、メガネの影響なのかパッと見は、物静かそうな雰囲気を持たせたが暁の言葉に反応して飛び上がり真逆な印象を抱かせた。
小隊長?ハルの事か?
暁がそう思いながら聞こうとすると男性の方が女性の肩に手を触れて落ち着かせるとゆっくりと暁に向かい会釈をした。
「申し訳ありません、白い狐のお面の彼から聞いてるとは思いますが、我々は貴方のかつての部下なのです」
黒い短髪にスっと伸びた背筋に精悍だがまだ何処かに幼さを残す顔立ち、恐らく女性と同じ歳ぐらいなのだろうが何処かそれ以上に大人びいて見せる。
テツ、白い狐のお面、その2つのワードが暁の中で繋がると岩倉の聴取の時に現れたもう1人の男を思い出した。
「君はあの時、黒い狐のお面の?」
そう言うと精悍の男性、テツはゆっくりと頷いた。
「改めて、私は門脇 徹(かどわき とおる)、こちらは野々宮 松香(ののみや しょうか)と申します、あだ名でテツとマツと呼ばれてます」
そう言いながらテツが名刺を取り出すとマツもそれに習い名刺を差し出してきた。
暁は、その名刺を見ながら2人の名前を見てあだ名の理由と2人の肩書きに少し面を食らった。
文部省事務次官秘書と書かれていたからだ。
「若いのに事務次官の秘書って、そっちの仕事は大丈夫なの?」
暁が慌てて聞くと2人とも苦笑いを零しながら肩を竦めた。
「名ばかりの肩書きなので大丈夫です、それに我々の本来の仕事はリンクに対する対処になりますのでどちらかと言えばこちらが本職です」
つまり、これはあくまで隠れ蓑と言うわけなのだろうが、それにしてもまた随分な肩書きだ。
暁は、呆ける様に頷いた。
「そういえば、君達もかつての俺の部下だったって言ってたけど、申し訳ないが今の俺には、リンクも無ければ何も無いから、変な期待はしないでくれよ?」
暁が改めてそう言うとマツは、ゆっくりと首を横に振った。
「大丈夫です、でも正直、反応とか態度とか私達の知ってる大隊長と変わらないので、正直嬉しいです!」
マツは、そう言いながら満面の笑みを浮かべ、暁はそんなマツの表情を見て正直どう応えたら良いのかわからず苦笑いをこぼす事しか出来なかった。
とりあえず、暁は次に阿部亜希子の情報と今の班の現状の情報を共有をするとテツとマツは、お互いを見合うと軽く頷き合っていた。
暁は、そんな2人が気になったがそれよりも星見の表情が以前より険しくなっているのがどうしても気になった。
現状は、公安の捜査員が行確の為に尾行をしているが特別な違和感は無く、今日も池袋へ向かっているのがわかっていた。
暁達がついてなかったこの3日間は池袋に来ることも無かった今日になってこっちに向かっているとの情報に正直暁は違和感を覚えていた。
「阿部亜希子が池袋に着くのが20分後、改札で私が尾行します」
そう言ったのは、テツだった。
確かに、このメンバーならテツが一番良いだろう。
「なら、俺はそのフォローにつく」
暁がそう言うとテツはゆっくりと頷いた。
あとのメンツは、どうするか。こうなると臨機応変に動かないといけないがこの前みたいに周辺を囲む訳にはいかない。
ただでさえ、顔を覚えられている可能性が高いのにそんなメンツが周囲を囲んでいるとなると自分が監視されてると気づく可能性が高いだろう。
「なら、他のメンツは私と恵未ちゃんと一緒に行動してもらおうかな~」
マツがそう言いながら手を上げると全員の視線が集まった。
相も変わらず照りつける太陽と熱気に包まれた街の中は、息苦しくそして茹だる。
阿部もそうなのだろう、ハンカチサイズのタオルで時折、汗を拭っている。
幸い、尾行には、まだ気づかれている様子は無いがバレるのは、時間の問題とも言えた。
《接続出来ましたァー、皆さん下がって貰って大丈夫です!》
呑気な声が頭の中で響き、自然と暁は、その視線を声の主へ向けた。
阿部が通り過ぎた道の途中にあるカフェの店先で呑気にプラスチックのカップに入ったアイスコーヒーを飲みながら声の主は暁と目が合うと手を振った。
《マツ、緊張感もってください》
窘めるように呆れた男性の声が聞こえ、暁は再び周囲に視線を向けるが声の主を見つける事は、出来なかった。
本当に大丈夫なのかという一抹の不安が有りながらも何故かわからないがこの2人なら大丈夫だという信頼もある不思議な感覚が中で渦巻いている。
爆破事件と失態からの3日後の昨日の夕方、崇央からの呼び出しを受けて池袋の事務所に向かうと幾つもの報告を受けた。
まず、メンバーチェンジの件は車木を外して、その補填として三本柱から3人の補充があるという事、次にそのメンツで阿部亜希子の調査の続行をして欲しいとの事だった。
「本気で言ってるのか?」
暁の一番最初の返答に崇央は溜息混じりに頷いた。
「俺だって失態の件は言ったけど上的には、そのままで大丈夫だとのお達し」
「阿部は、爆破事件に関わっている可能性が高いのにか?」
「物証がない、そもそも今回の事件はアルファの関わりである線が濃いと睨んでる上からすれば阿部をそこまで注視してないんだよ」
だとしてもだ。
リンクの件が大っぴらに出来ない案件だとしても一般人に調査させるなんて無謀すぎる。
しかし、それを崇央に解いたところで何の解決にもならないだろう。
暁は、そう思うと口を閉ざした。
「上は、何処まで阿部を調べろと言ってるんだ?能力だけでいいのか?」
暁がそう聞くと崇央の表情が険しくなった。
「アイツに接触した、バンダナの男についても調査しろって事らしい」
マジかよ、暁は盛大な溜息を漏らしながらどう手を打つか頭の中で思案した。
しかし、どの手を使っても現状から探れるのは、たかが知れている。っとなれば自分が接触するのが一番なのだろうがフォローもサポートも見込めない現状からすると文字通り命懸けになる可能性が高かった。
成果が上がるならそれもやも無しだと思うが成果が出るとは、到底思えなかった。
「ちなみに、三本からの応援は帰還者でこちらの仕事の経験ありだって」
崇央が補足をつけてきたが、暁はその補足ですらもはや信頼できては居なかった。
調査再開は、次の日からだった。
朝9時に事務所に集合すると星見、西端、熊切と見慣れない2人の男女と知っている女性の顔があった。
「藤さん」
暁がそう声をかけると藤は、ゆっくりと暁に向かい笑顔で頭を下げてきた。
「応援で参加させてもらいます。経験がないので不慣れではあると思いますが宜しくお願いします」
その藤の挨拶に暁は、ゆっくりと頷いた。
次に、男女2人に目を向けると2人とも暁に対して穏やかな目を向けていた。
「大浦です、お名前をお伺いてしても?」
暁がそう聞くと、2人ともハッとした顔をするとお互いを見合いながらどちらかが先に挨拶をするのか譲り合っている様子だった。
そんな2人を見ている時だった、暁の耳に妙なノイズが入り込む。
「テツとマツ?」
意識の空白、ノイズと共に生まれた呆然とした感覚に似ているが何処か違う。
そんな瞬間頭の中に焼き付けられる様に残る言葉が生まれ気づくとそれを呟いていた。
「やっぱり、小隊長の言った通り、欠片が入っていたんですね!」
暁の言葉に反応したのは、女性の方だった。
まだ、20代前半だろうか、ショートカットの髪型に小柄な体躯、メガネの影響なのかパッと見は、物静かそうな雰囲気を持たせたが暁の言葉に反応して飛び上がり真逆な印象を抱かせた。
小隊長?ハルの事か?
暁がそう思いながら聞こうとすると男性の方が女性の肩に手を触れて落ち着かせるとゆっくりと暁に向かい会釈をした。
「申し訳ありません、白い狐のお面の彼から聞いてるとは思いますが、我々は貴方のかつての部下なのです」
黒い短髪にスっと伸びた背筋に精悍だがまだ何処かに幼さを残す顔立ち、恐らく女性と同じ歳ぐらいなのだろうが何処かそれ以上に大人びいて見せる。
テツ、白い狐のお面、その2つのワードが暁の中で繋がると岩倉の聴取の時に現れたもう1人の男を思い出した。
「君はあの時、黒い狐のお面の?」
そう言うと精悍の男性、テツはゆっくりと頷いた。
「改めて、私は門脇 徹(かどわき とおる)、こちらは野々宮 松香(ののみや しょうか)と申します、あだ名でテツとマツと呼ばれてます」
そう言いながらテツが名刺を取り出すとマツもそれに習い名刺を差し出してきた。
暁は、その名刺を見ながら2人の名前を見てあだ名の理由と2人の肩書きに少し面を食らった。
文部省事務次官秘書と書かれていたからだ。
「若いのに事務次官の秘書って、そっちの仕事は大丈夫なの?」
暁が慌てて聞くと2人とも苦笑いを零しながら肩を竦めた。
「名ばかりの肩書きなので大丈夫です、それに我々の本来の仕事はリンクに対する対処になりますのでどちらかと言えばこちらが本職です」
つまり、これはあくまで隠れ蓑と言うわけなのだろうが、それにしてもまた随分な肩書きだ。
暁は、呆ける様に頷いた。
「そういえば、君達もかつての俺の部下だったって言ってたけど、申し訳ないが今の俺には、リンクも無ければ何も無いから、変な期待はしないでくれよ?」
暁が改めてそう言うとマツは、ゆっくりと首を横に振った。
「大丈夫です、でも正直、反応とか態度とか私達の知ってる大隊長と変わらないので、正直嬉しいです!」
マツは、そう言いながら満面の笑みを浮かべ、暁はそんなマツの表情を見て正直どう応えたら良いのかわからず苦笑いをこぼす事しか出来なかった。
とりあえず、暁は次に阿部亜希子の情報と今の班の現状の情報を共有をするとテツとマツは、お互いを見合うと軽く頷き合っていた。
暁は、そんな2人が気になったがそれよりも星見の表情が以前より険しくなっているのがどうしても気になった。
現状は、公安の捜査員が行確の為に尾行をしているが特別な違和感は無く、今日も池袋へ向かっているのがわかっていた。
暁達がついてなかったこの3日間は池袋に来ることも無かった今日になってこっちに向かっているとの情報に正直暁は違和感を覚えていた。
「阿部亜希子が池袋に着くのが20分後、改札で私が尾行します」
そう言ったのは、テツだった。
確かに、このメンバーならテツが一番良いだろう。
「なら、俺はそのフォローにつく」
暁がそう言うとテツはゆっくりと頷いた。
あとのメンツは、どうするか。こうなると臨機応変に動かないといけないがこの前みたいに周辺を囲む訳にはいかない。
ただでさえ、顔を覚えられている可能性が高いのにそんなメンツが周囲を囲んでいるとなると自分が監視されてると気づく可能性が高いだろう。
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