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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199908《執悪の種》

余波 4

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「俺の移送って、誰を何処から何処へ?」

   ハルがそう聞くと泰野がゆっくりと口を開いた。

「千条を千葉の拘置所から練生会飯坂病院へ、護送車と警護車を3台つけるからその1台に乗って欲しい」

   千条、その名前にテツは、息を飲み、ハルの表情も歪んだ。

「このタイミングで移送?正気か?」

「移送自体は、以前から話があった、そのタイミングに合わせた様に今回の事が起きたんだよ」

「なら、尚更、延期するべきだろ?」

「その融通がきくのは、精々長くて2ヶ月ぐらい短ければ4日ぐらいだ」

「今回はその短い方ってか?」

「本来なら明日だったからな」

   泰野のその応えにハルは、悪態に近い溜息を漏らしながらテツを見た。

「移送は、俺一人でいい、マツをそっちに持ってて貰えるか?」

「ハル!?」

   ハルのその言葉に声を荒げたのは稗田だった。
   そんな稗田を制止する様に泰野が片手を挙げ、全員の視線が注がれた。

「本気か?お前、力を8割制限してるんだろ?」

「それでも、経験則と勘は、そこら辺の一般人よりましだ、特にリンク絡みならな」

「だとしても、それは事態を舐めすぎじゃないですか?」

   テツもハルのその考えに同意出来ず、口を挟んだ。

「だって、警護する気ないもん、何かあったら速攻逃げる、それにはマツが逆に邪魔」

「嘘ですね、マツの能力を考えるなら逆に必要な筈です」

   テツの反論にハルの片眉が上がった。
   ハルが何故急にそんな事を言っているのかテツは正直読めていた。
   彼は、昔から誰よりも心配性だ。こちらを信頼してないとかじゃなく、どちらかと言えばどんな事態でも対処出来る様にしておきたいのが本音だろう、例えそれで自分がどんな不利な状況になろうとも、特に大浦が関わっているなら尚更だろう。

「ハル、もしこれ以上ごねるなら、私がマツの代わりに入りますよ?」

   その言葉が聞いたのかハルは盛大な溜息を漏らしながら両手を上げた。

「わかった、なら俺の隠し種を使うってのはどうだ?」

「隠し種?」

   泰野は、そう言いながら首を横に傾けた。

「お前らがまだ調べ着いてない、能力者を付ける」

「誰だ?」

「孤高の英雄」

   その名前にテツと泰野は、息を飲んだ。
   しかし、稗田は2人が何故驚いているのかわからず戸惑いの表情を浮かべていた。

「東堂か?いつの間に?」

   泰野がそう聞くとハルは、口元だけで笑みを浮かべた。

「この前にな、まだ本人には話してないけど、多分今回の一件絡みとなると動かざる負えないだろう」

   ハルのその返しにそうかとテツは、納得してしまった。
   確か、東堂は池袋を拠点に動く探偵という名のトラブルシューターだった。否が応でも今回の件は何らかの余波を受けているっと考えれば受けない話では無い。

「わかりました、だけど2人が揃うからと無茶は禁物ですよ」

   テツが念を押してそう言うとハルは、ゆっくりと肩を竦めた。

   こういう時のハル程、怖い物はない。
   オマケに東堂という無茶を出来る相棒が着いて居るとなると大事にならないと良いがと心の中で願うばかりだった。

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