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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199908《純真の騎士》

結び目 2

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   ハルは、紫煙を勢い良く吐きながらゆっくりと天井を見た。

「見識者は、ある時代から帰ってきたいわゆるタイムスリップしてきた接続者って話は知ってるよね?」

「あぁ」

「じゃあ、今この現代に居るの接続者達は、未来に居なかったのかどうかとは、考えたことある?」

   ハルのその言葉に暁は以前、藤に自分も接続者側の人間だとそれと能力が目覚め始めたと言われたのを思い出した。

「まさか、俺もかつて接続者で今もそうなりつつあるのか?」

「そのお通り」

「それは、お前達と関わっているから?それとも別な要因か?」

「別の要因って方かな、自分の未来だった魂によって引っ張られたワケだし」

   未来の自分だった魂?
   暁は、ハルのその単語に妙な引っ掛かりを覚えながら話に耳を傾けた。

「煌佑もそうだけど、大浦さんも俺達がこっちに来る前に死んでる、そして俺達はこっちに来る出来事が起きて、魂だけがこっちに来て、それと同時に今の体に定着した」

「こっちに来る前に死んでるなら俺達の魂はどうなったんだ?」

「想念の根源に塵となって消えている筈だった、だけど恐らく消えきってなかったのか、俺達が一部を引き継いでいた可能性が高いかな」

「つまり、俺の中にかつての俺が居て、その魂によって引っ張られた?」

「恐らく」

「俺と煌佑は、どんな関係だったんだ?」

   その質問にハルは、言葉をつまらせ、煙草をゆっくりと吸い始めた。

「部下と上司の関係さ、それもお互い死ぬまでそれは変わらなかった」

「その時の俺の仕事は?」

   ハルの目に何処か暗いものが入り込むのを暁は見逃さなかった。

「警察関連だったけど、その時は三本柱の関係者で戦闘部隊に居た」

「戦闘部隊?自衛隊か?」

「いんや、どちらかと言えば国家の残留軍隊ってのが正確かな」

   国家の残留軍隊、その単語が表す未来に暁は気づくと言葉につまり止まってしまった。

「そこで大隊長だったアンタと小隊長の煌佑、そしてアンタは煌佑のトラウマと言うべき過去を知っていた」

   そんな暁を置いてハルは続け、暁はそれに耳を傾けた。

「恐らくだけど、煌佑はその自分の過去を変えたかった、そしてアンタはそれを助けたかった、その双方の想念が繋がり、アンタをあの場所に呼び寄せた、まぁ煌佑の場合その能力から死者の想念や残留思念を読む力だから多分一番最初に見たのがかつての自分の想念だったんだろうけど」

「つまり、あの場所で本当なら深山里穂は、殺さていた?」

   ハルは、その言葉にゆっくりと頷いた。

「そして、お前や縁って男もそれを知っていてそれを止め様とあの場所にいた、お前達も俺の部下だったのか?」

   ハルの口調や態度の変化から暁は十分に察していたが確認せずにいは居られずに聞くとハルは少しだけ苦笑いをしながら頷いた。
   そして、その答えが何を示しているのかも暁は察してしまった。

「俺の最後を看取ったんだな」

   暁がそう言うとハルは、肩を竦めて小さな溜息を漏らすと頷いた。

「そうか……すまんな…」

   口から自然と漏れた謝罪にハルは、片眉を上げながら苦笑いでこちらを向いた。

「なんで謝るの?」

「いや、自分の事だから何となくだけど、お前に無理難題押し付けながら死んだのかと思ってな」

   暁がそう言うとハルは、目を丸々と広げながら顔をくしゃりとさせて笑った。
   どうやら、自分の想像は間違ってなかったらしい。
   少しだけ、未来の自分に呆れかえりそうになる。

「別に、無理難題じゃなかった、でも託された、色んなことを…でも俺は失敗した…謝るのは、アキさんじゃないよ…俺の方だよ」

   ハルは、そう言いながらゆっくりとテーブルに体を預ける様に前屈みになりながら外の風景に目を向けた。

「恐らく、あの世界にはもう誰も残ってない…全ては、本流から流され、そして俺達は漂流しこの世界に流れ着いた、それがなんの為にどうしてなのかわからない…」

   ハルの目には、何処までも深い悔しさと悲しみが入り交じっていている様に感じた。

「わからなくていいんじゃないか?」

   そんなハルを見ていてフト漏れた本音にハルは奇妙な表情でこちらを見ていた。

「必要のなのは、理由じゃなく何をして何を出来たかだろ?」

   暁がそう言うとハルは、苦笑いをこぼした。

「本当に今も昔もアンタは、アンタなんだな」

   ハルは、そう言いながら立ち上がった。

「とりあえず、今現在、俺達が知ってる未来と今の歩んでる今は全くの別物、この先何が起きるかわからない、助けが欲しかったら言ってくれ」

   そう言うとハルは、ゆっくりと店の出入口に向かい歩き出した。

「最後に一つだけ、今からお前達の通ってきた未来を迎える可能性は、お前の見立てだとどれくらいだ?」

   暁は、そんなハルの背中にどうしても聞いておきたい言葉をぶつけるとハルは、肩を竦めながら首だけ振り返った。

「50、50かな」

   その表情は、どこか明るく、多分まだ来ない可能性の方が高いのかもしれないと暁は、察した。
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