53 / 93
【PW】AD199908《執悪の種》
轟音
しおりを挟む
真夏の真上から容赦なく太陽が降り注ぎ、反射熱が照り返しで体を蒸していく。
額から伝う汗がゆっくりと顎先から地面へ落ちていくのを感じる。
対象は未だに喫茶店内で悠々とアイスコーヒーを飲んでいる。
暁は、そんな対象をペットボトルの麦茶とタバコ片手に通りを挟んだ対面の歩道から眺めていた。
もう少ししたら場所変えもしたい所だが他のメンバーの位置があまりよろしくない。
対象と同じ喫茶店には星見と熊切が居る。
そして、それをサポートする形で店の外に西端、隣のファーストフードの窓側席に車木を配置していた。
池袋駅の南側の商店が立ち並ぶ通りの出入り口にあるカフェは、人通りも多いため正直言えば対象を見逃しやすい、本来なら全体を俯瞰で見える場所にも1人配置しておきたい所だが人数が足りない。
しかし、現状を考えるとこれが暁達にできる最大限の事だった。
今回の対象は阿部 亜希子(あべ あきこ)、25歳、フリーター。
昼間は、ぶらつきながら夜には塾の講師のバイトをしている。
大学卒業後、中小企業営業として就職したが今年の2月辞めている。
それから1ヶ月後の3月に上司に当たる男が車に轢かれて死んでいる。
調書によれば自らトラックに飛び出して轢かれたと書いてあったがその男から自殺の兆候になるものは、発見されなかった。
むしろ、昇進と結婚が決まり順風満帆と言えるタイミングでの起きた事だった。
もしかしたら、阿部が何かをしたのも考えられる事から早めに調査を上げて欲しいってのが崇央からの要望だった。
暁達は、お盆明けから約1週間、阿部の調査をしていたがこれといって何の成果も見出せずにいた。
星見からも能力を使った兆候は見えないが能力者なのは間違いないらしいのだが、それがどんな能力なのかは、わかっていなかった。
どうしたものか。
暁は、行き交う人に紛れながら時折、視線を星見達に向ける。
最初の頃より、配置も動きも悪くないが、どこまで行っても素人丸出しなのは、間違いない。
西端や車木の視線が阿部に向かうのを見るとバレるんじゃないかと冷や冷やさせられる。
一方の星見と熊切は、星見のサポートのお陰か自然と馴染んでいるが2人の間柄がよくないのだろう、妙な空間がある気がする。
暁は、全体を見ながらフト視線を周囲に向けた時だった。
《すいません、大浦さん、知り合いと接触しちゃいました》
唐突に頭に響いた車木の声に暁は、視線を向けると車木に親しげに話しかける黒髪のボブの女の子が見えた。
《西端くん、フォロー入れそう?》
《了解っす》
店前から西端が動くと次に星見の声が響いた。
《対象、店出ます》
暁は、直ぐにカフェに目を向けると会計を済ませて出入り口に立つ阿部の姿が見えた。
《星見さんと熊切さん、対象の後ろをよろしく》
暁がそう言うと星見から《了解》っと一言だけ返事が返ってきた。
妙な空気になったのは、それからすぐ後の事だった。
阿部が店を出て、そのまま商店の立ち並ぶ細道の中へ向い、それの後を追う様に星見と熊切も店を出て来た、そして星見の視線がソッと車木の方へ向いた時に妙に背中を走る悪寒を感じた。
《どうぞ、ごゆっくり、こっちはこっちで何とかするので》
星見がそう言うと、明らかに車木の顔が青ざめていった。
どうした?
暁は、何が何だかわからないまま、そっと道を一本外して商店街の反対側の方へ向かった。
《対象、細道を抜けます》
暁が隣の通りに出ると同じぐらいに星見の報告どおりに阿部も細道を抜けてきた。そのままの足取りで南池袋パーク通りに出ると立ち止まった。
暁はそのまま、阿部の横を通り過ぎると横断歩道を渡り隣の通りにあるコンビニへ入った。
冷たい風か溜まった熱を抜いていく。
一息入れながら反対側の通りに立つ阿部へと目を向けた。
その近くに星見と熊切の姿も見え、2人は、細道から阿部の様子を伺っていた。
《なんか、変じゃないですか?》
星見の声が頭に響く。
確かに妙だ。阿部は、通りに出るなり仕切りに周りに目を向けて誰かを探している様子なのだが時折、俯いたかと思うと次に顔を妙に顰めている。
その後ろを携帯電話を片手に何かを話しながら通り過ぎる中年の男が見えた。
余程、悪い話なのだろうか、傍から見ても怒っているのがわかる表情だ。
暁は、その表情を見てハッとした。
《星見さん、この念話って傍受とか出来たりしない?》
《さすがにそこまでは…もしかして阿部も誰かと話していると思うんですか?》
《可能性的には、高いと思う》
その応えに、星見がゆっくりと通りに出ると周囲の空を見上げ始めた。
最初は、何をしているのかわからなかったが星見は、何かに気づいたのか一点を見つめると怪訝な表情を浮かべた。
《変な煙が見える…》
星見のその言葉に習う様に熊切も同じ場所を見上げて怪訝な表情を見せた。
《あれも…リンクかも》
熊切の応えに星見と熊切が見つめう。
何だ?
暁は、ダメ元で外に出ると星見が見つめているであろう方向を見上げてみたがそこには、雑居ビルのベランダと窓しか見えなかった。
《大浦さん!》
唐突に星見の声が響き、視線を向けるといつの間にか阿部の隣りに1人の男が立っていた。
額に青いバンダナを巻いた若い男は、阿部に対して声を掛けているのだろう阿部も怪訝な表情で何かを話している。
《会話聞こえたりしないよね?》
《ごめんなさい、さすがに遠いです、近づきますか?》
《ダメだ、気づかれる》
暁は慌てて軽く手を挙げて星見を静止させると2人の様子を注視した。
半ズボンにダボダボのランニングシャツ、そして額当ての様に巻かれたバンダナ。
その全てが色味の違う青で統一されている。
見た目からして20代だろう、どこか軽い雰囲気を持っている、これなら傍から見ればタダのナンパに見えるだろうが暁にはどこか違く見えていた。
青いバンダナの男は、一見軽そうに見えるのだがどこか心がしっかりしている様に見えたのだ。
本当ならもっと浮ついている様な感じである筈の服装なのに、態度や佇まいは中級ながらもサービスの整ったホテルマンの様にすら見えた。
「香樹実!」
唐突に響く声に暁は、すぐに視線を走らせると細道から慌てた様子の車木が星見の肩を掴んで何かを言っている。
星見の隣に居た熊切と車木の後を追ってきた西端が慌てて車木をなだめ様としているが車木は、そんな2人を振り解き星見に対して何かを訴えている。
《車木くん、落ち着いて、とりあえず皆この場から離れて!》
暁が念話でそう伝えると西端、熊切の視線が向いた。どうやら通じてはいるらしい、だが車木は、そんな事をお構い無しに星見の方しか見ていない、星見も聞こえているのだろう、こちらを向こうとするがそれを車木に阻まれてしまっていた。
《落ち着け!車木和之!》
暁が今度は、強めに念じると必死の形相の車木の目がこちらにクルリと向いた。
《うるせぇクソガキ!こっちの方が大事なんだよ!!》
車木のその言葉に暁をグッと歯を食いしばると次の瞬間、乾いた音共に車木の顔が一気に横に向いた。
星見が車木の頬を平手打ちしたのだ。
周囲の視線が星見と車木に集まる。
クッソ!最悪だ!!
暁は、心の内で悪態をつきながら周囲に視線を向ける振りをして阿部と青いバンダナの男を一瞥した。
2人の視線は、星見達の方へ向いている、完全に暁以外の全員の顔が見られた。
《とりあえず、その場を離れて事務所に退避!》
暁は、それだけ告げると2人の様子を確認しながら通ってきた、道へ引き返そうとすると青いバンダナの男の顔がクルリとこちらへ向いた。
額から伝う汗がゆっくりと顎先から地面へ落ちていくのを感じる。
対象は未だに喫茶店内で悠々とアイスコーヒーを飲んでいる。
暁は、そんな対象をペットボトルの麦茶とタバコ片手に通りを挟んだ対面の歩道から眺めていた。
もう少ししたら場所変えもしたい所だが他のメンバーの位置があまりよろしくない。
対象と同じ喫茶店には星見と熊切が居る。
そして、それをサポートする形で店の外に西端、隣のファーストフードの窓側席に車木を配置していた。
池袋駅の南側の商店が立ち並ぶ通りの出入り口にあるカフェは、人通りも多いため正直言えば対象を見逃しやすい、本来なら全体を俯瞰で見える場所にも1人配置しておきたい所だが人数が足りない。
しかし、現状を考えるとこれが暁達にできる最大限の事だった。
今回の対象は阿部 亜希子(あべ あきこ)、25歳、フリーター。
昼間は、ぶらつきながら夜には塾の講師のバイトをしている。
大学卒業後、中小企業営業として就職したが今年の2月辞めている。
それから1ヶ月後の3月に上司に当たる男が車に轢かれて死んでいる。
調書によれば自らトラックに飛び出して轢かれたと書いてあったがその男から自殺の兆候になるものは、発見されなかった。
むしろ、昇進と結婚が決まり順風満帆と言えるタイミングでの起きた事だった。
もしかしたら、阿部が何かをしたのも考えられる事から早めに調査を上げて欲しいってのが崇央からの要望だった。
暁達は、お盆明けから約1週間、阿部の調査をしていたがこれといって何の成果も見出せずにいた。
星見からも能力を使った兆候は見えないが能力者なのは間違いないらしいのだが、それがどんな能力なのかは、わかっていなかった。
どうしたものか。
暁は、行き交う人に紛れながら時折、視線を星見達に向ける。
最初の頃より、配置も動きも悪くないが、どこまで行っても素人丸出しなのは、間違いない。
西端や車木の視線が阿部に向かうのを見るとバレるんじゃないかと冷や冷やさせられる。
一方の星見と熊切は、星見のサポートのお陰か自然と馴染んでいるが2人の間柄がよくないのだろう、妙な空間がある気がする。
暁は、全体を見ながらフト視線を周囲に向けた時だった。
《すいません、大浦さん、知り合いと接触しちゃいました》
唐突に頭に響いた車木の声に暁は、視線を向けると車木に親しげに話しかける黒髪のボブの女の子が見えた。
《西端くん、フォロー入れそう?》
《了解っす》
店前から西端が動くと次に星見の声が響いた。
《対象、店出ます》
暁は、直ぐにカフェに目を向けると会計を済ませて出入り口に立つ阿部の姿が見えた。
《星見さんと熊切さん、対象の後ろをよろしく》
暁がそう言うと星見から《了解》っと一言だけ返事が返ってきた。
妙な空気になったのは、それからすぐ後の事だった。
阿部が店を出て、そのまま商店の立ち並ぶ細道の中へ向い、それの後を追う様に星見と熊切も店を出て来た、そして星見の視線がソッと車木の方へ向いた時に妙に背中を走る悪寒を感じた。
《どうぞ、ごゆっくり、こっちはこっちで何とかするので》
星見がそう言うと、明らかに車木の顔が青ざめていった。
どうした?
暁は、何が何だかわからないまま、そっと道を一本外して商店街の反対側の方へ向かった。
《対象、細道を抜けます》
暁が隣の通りに出ると同じぐらいに星見の報告どおりに阿部も細道を抜けてきた。そのままの足取りで南池袋パーク通りに出ると立ち止まった。
暁はそのまま、阿部の横を通り過ぎると横断歩道を渡り隣の通りにあるコンビニへ入った。
冷たい風か溜まった熱を抜いていく。
一息入れながら反対側の通りに立つ阿部へと目を向けた。
その近くに星見と熊切の姿も見え、2人は、細道から阿部の様子を伺っていた。
《なんか、変じゃないですか?》
星見の声が頭に響く。
確かに妙だ。阿部は、通りに出るなり仕切りに周りに目を向けて誰かを探している様子なのだが時折、俯いたかと思うと次に顔を妙に顰めている。
その後ろを携帯電話を片手に何かを話しながら通り過ぎる中年の男が見えた。
余程、悪い話なのだろうか、傍から見ても怒っているのがわかる表情だ。
暁は、その表情を見てハッとした。
《星見さん、この念話って傍受とか出来たりしない?》
《さすがにそこまでは…もしかして阿部も誰かと話していると思うんですか?》
《可能性的には、高いと思う》
その応えに、星見がゆっくりと通りに出ると周囲の空を見上げ始めた。
最初は、何をしているのかわからなかったが星見は、何かに気づいたのか一点を見つめると怪訝な表情を浮かべた。
《変な煙が見える…》
星見のその言葉に習う様に熊切も同じ場所を見上げて怪訝な表情を見せた。
《あれも…リンクかも》
熊切の応えに星見と熊切が見つめう。
何だ?
暁は、ダメ元で外に出ると星見が見つめているであろう方向を見上げてみたがそこには、雑居ビルのベランダと窓しか見えなかった。
《大浦さん!》
唐突に星見の声が響き、視線を向けるといつの間にか阿部の隣りに1人の男が立っていた。
額に青いバンダナを巻いた若い男は、阿部に対して声を掛けているのだろう阿部も怪訝な表情で何かを話している。
《会話聞こえたりしないよね?》
《ごめんなさい、さすがに遠いです、近づきますか?》
《ダメだ、気づかれる》
暁は慌てて軽く手を挙げて星見を静止させると2人の様子を注視した。
半ズボンにダボダボのランニングシャツ、そして額当ての様に巻かれたバンダナ。
その全てが色味の違う青で統一されている。
見た目からして20代だろう、どこか軽い雰囲気を持っている、これなら傍から見ればタダのナンパに見えるだろうが暁にはどこか違く見えていた。
青いバンダナの男は、一見軽そうに見えるのだがどこか心がしっかりしている様に見えたのだ。
本当ならもっと浮ついている様な感じである筈の服装なのに、態度や佇まいは中級ながらもサービスの整ったホテルマンの様にすら見えた。
「香樹実!」
唐突に響く声に暁は、すぐに視線を走らせると細道から慌てた様子の車木が星見の肩を掴んで何かを言っている。
星見の隣に居た熊切と車木の後を追ってきた西端が慌てて車木をなだめ様としているが車木は、そんな2人を振り解き星見に対して何かを訴えている。
《車木くん、落ち着いて、とりあえず皆この場から離れて!》
暁が念話でそう伝えると西端、熊切の視線が向いた。どうやら通じてはいるらしい、だが車木は、そんな事をお構い無しに星見の方しか見ていない、星見も聞こえているのだろう、こちらを向こうとするがそれを車木に阻まれてしまっていた。
《落ち着け!車木和之!》
暁が今度は、強めに念じると必死の形相の車木の目がこちらにクルリと向いた。
《うるせぇクソガキ!こっちの方が大事なんだよ!!》
車木のその言葉に暁をグッと歯を食いしばると次の瞬間、乾いた音共に車木の顔が一気に横に向いた。
星見が車木の頬を平手打ちしたのだ。
周囲の視線が星見と車木に集まる。
クッソ!最悪だ!!
暁は、心の内で悪態をつきながら周囲に視線を向ける振りをして阿部と青いバンダナの男を一瞥した。
2人の視線は、星見達の方へ向いている、完全に暁以外の全員の顔が見られた。
《とりあえず、その場を離れて事務所に退避!》
暁は、それだけ告げると2人の様子を確認しながら通ってきた、道へ引き返そうとすると青いバンダナの男の顔がクルリとこちらへ向いた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる