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AD202004《生き残り》
焦燥
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ひでぇ顔だな。
ハルは、目の前の男の顔を見ながらフト思った。
この地下道は、蜘蛛の巣の様に広がっているのだろう、進んだ先に馴染みの顔をみつけ時に少しの安堵と人数を見て嫌な事を察した。
居る筈の顔がそこに無ければ戦場であるここが示す応えは一つだ。
いつもの仏頂面が一段と落ちているからも察する事は、出来たが居ないという事実はより現実的にそれを殴る様に教えてきた。
「小隊長?」
テツが後ろから声をかけて来て、振り返るとその顔もまた沈んでいる、どうやら良い情報では無いと察する事が出来る。
「どうした?」
タバコに火をつけ、ため息混じりに紫煙を吐きながら聞くと、テツは少し俯いた。
「地上部隊、4割壊滅、撤退命令降りました…」
そうか、という気持ちと何出来ない自分に不甲斐無さを感じる。
ゆっくりと天を仰ぐとそこには、無機質な煉瓦の天井と白熱灯が廊下の先へと道標の様に置かれているだけだった。
「他の潜入部隊の様子は?」
「竹橋部隊、連絡無し、壊滅したかと思われるます、半蔵門部隊は、途中交戦との一報がありましたが敵殲滅後にこちらに向かってるとの事です」
「なら、お前らは半蔵門部隊と合流後、撤退しろ」
ハルは、そう言うとタバコを吸いながら白熱灯の先を睨みつけた。
「小隊長は?」
後ろから聞こえるテツの問いにハルは、小さく肩を竦めながらゆっくりと廊下を歩き出した。
「おい」
仏頂面の男が肩を掴みハルを止めた。
ハルは、ゆっくりと振り返り、仏頂面の男を一瞥するとその手をゆっくりと払った。
「お一人で行くつもりですか?それでは何も変わりません!」
テツがハルの前に立ちはだかり尚も止め様とするがハルは、テツの肩を軽く叩くとゆっくりとその場を退かせた。
変わらない、そうかもしれない、だがそれは退却をしても同じだ。
今の現状は戦力がかなり枯渇している。
退却して建て直してもここまで攻め入る能力はもうこの国には残されてはいない。
後は、防衛戦する一方になり壊滅するか、下手したら別何かによって一網打尽にされるのが関の山だ。
それなら、もう一か八か、本丸を叩くしか生き残る道は残っていない。
《後は、頼んだぞ》
アキさんの最後の顔が頭を過ぎる。
自分をかばい、体を吹っ飛ばされ、息絶え絶えになりながらも憎たらしい笑顔だけは忘れなかった。
心残りがあったろう、まだ生きていたかったろう。
それなのに何も無い自分が生き残り、あの人は、死んだ。
戦場なのだから、おかしくは無い話だが、その事実はハルにとって余りにも理不尽な現実でしかなかった。
「本気で1人で行くつもりか?」
仏頂面の男が尚もハルに問い掛けてくる。
何も返す気はなかったが、ふともう1人の顔も過ぎり、ハルは足を止めた。
「なぁ、アイツの最後は、どんなだった?」
ふとした、疑問だった。
しかし、後ろから応えは返ってこない、何故だろうと思い振り返ると、仏頂面の男は眉間により深い皺を刻みながら少し俯いていた。
「縁」
その顔を見て、自分が攻めている様に感じているだろうと思ったハルが仏頂面の男、縁の名を呼ぶと静かにその目がこちらを向いた。
「煌佑は、どんな最後だった?」
改めて聞くと縁は、苦笑いを零した。
「笑いながら吠えていたよ…行けって…」
全くどいつもこいつも…
もう少し、恨んだり、悔やんだり、憎んだり、嫌なものを落としていってくれないものかね。
アンタら、らしいと言えばそうかもしれないが残されたコッチからすればビビるのが情けなくなってくるじゃないか…
きっとアンタら、逃げたて、しゃーないって笑うだろうな、だけどコッチからしたらそんなに清々しく託されたら逃げるのも恥ずかしくなる。
ハルは、溜息混じりに紫煙を吐きながら苦笑いを零すと再び奥へ向かい歩き出した。
向かうのは、蜘蛛の巣の中心、この道の最奥。そこに奴が待ち構えている。
ふと、後ろから足音が聞こえ、少しだけ振り返ると縁がその後を着いて来た。
仏頂面に変わりは無いが心無しか先程より何かが吹っ切れていた様子にハルは首を横に振りながら軽く肩を竦めた。
ハルは、ポケットからタバコを取り出すと縁に対して1本差し出すと縁はそれを受け取り咥え火を灯した。
言葉は、交わさない。
だけど、お互い何をすべきかわかっている。
だからこそ、2人の進む足は、迷う事も止まる事もなく、その先へ向かっていく。
ハルは、目の前の男の顔を見ながらフト思った。
この地下道は、蜘蛛の巣の様に広がっているのだろう、進んだ先に馴染みの顔をみつけ時に少しの安堵と人数を見て嫌な事を察した。
居る筈の顔がそこに無ければ戦場であるここが示す応えは一つだ。
いつもの仏頂面が一段と落ちているからも察する事は、出来たが居ないという事実はより現実的にそれを殴る様に教えてきた。
「小隊長?」
テツが後ろから声をかけて来て、振り返るとその顔もまた沈んでいる、どうやら良い情報では無いと察する事が出来る。
「どうした?」
タバコに火をつけ、ため息混じりに紫煙を吐きながら聞くと、テツは少し俯いた。
「地上部隊、4割壊滅、撤退命令降りました…」
そうか、という気持ちと何出来ない自分に不甲斐無さを感じる。
ゆっくりと天を仰ぐとそこには、無機質な煉瓦の天井と白熱灯が廊下の先へと道標の様に置かれているだけだった。
「他の潜入部隊の様子は?」
「竹橋部隊、連絡無し、壊滅したかと思われるます、半蔵門部隊は、途中交戦との一報がありましたが敵殲滅後にこちらに向かってるとの事です」
「なら、お前らは半蔵門部隊と合流後、撤退しろ」
ハルは、そう言うとタバコを吸いながら白熱灯の先を睨みつけた。
「小隊長は?」
後ろから聞こえるテツの問いにハルは、小さく肩を竦めながらゆっくりと廊下を歩き出した。
「おい」
仏頂面の男が肩を掴みハルを止めた。
ハルは、ゆっくりと振り返り、仏頂面の男を一瞥するとその手をゆっくりと払った。
「お一人で行くつもりですか?それでは何も変わりません!」
テツがハルの前に立ちはだかり尚も止め様とするがハルは、テツの肩を軽く叩くとゆっくりとその場を退かせた。
変わらない、そうかもしれない、だがそれは退却をしても同じだ。
今の現状は戦力がかなり枯渇している。
退却して建て直してもここまで攻め入る能力はもうこの国には残されてはいない。
後は、防衛戦する一方になり壊滅するか、下手したら別何かによって一網打尽にされるのが関の山だ。
それなら、もう一か八か、本丸を叩くしか生き残る道は残っていない。
《後は、頼んだぞ》
アキさんの最後の顔が頭を過ぎる。
自分をかばい、体を吹っ飛ばされ、息絶え絶えになりながらも憎たらしい笑顔だけは忘れなかった。
心残りがあったろう、まだ生きていたかったろう。
それなのに何も無い自分が生き残り、あの人は、死んだ。
戦場なのだから、おかしくは無い話だが、その事実はハルにとって余りにも理不尽な現実でしかなかった。
「本気で1人で行くつもりか?」
仏頂面の男が尚もハルに問い掛けてくる。
何も返す気はなかったが、ふともう1人の顔も過ぎり、ハルは足を止めた。
「なぁ、アイツの最後は、どんなだった?」
ふとした、疑問だった。
しかし、後ろから応えは返ってこない、何故だろうと思い振り返ると、仏頂面の男は眉間により深い皺を刻みながら少し俯いていた。
「縁」
その顔を見て、自分が攻めている様に感じているだろうと思ったハルが仏頂面の男、縁の名を呼ぶと静かにその目がこちらを向いた。
「煌佑は、どんな最後だった?」
改めて聞くと縁は、苦笑いを零した。
「笑いながら吠えていたよ…行けって…」
全くどいつもこいつも…
もう少し、恨んだり、悔やんだり、憎んだり、嫌なものを落としていってくれないものかね。
アンタら、らしいと言えばそうかもしれないが残されたコッチからすればビビるのが情けなくなってくるじゃないか…
きっとアンタら、逃げたて、しゃーないって笑うだろうな、だけどコッチからしたらそんなに清々しく託されたら逃げるのも恥ずかしくなる。
ハルは、溜息混じりに紫煙を吐きながら苦笑いを零すと再び奥へ向かい歩き出した。
向かうのは、蜘蛛の巣の中心、この道の最奥。そこに奴が待ち構えている。
ふと、後ろから足音が聞こえ、少しだけ振り返ると縁がその後を着いて来た。
仏頂面に変わりは無いが心無しか先程より何かが吹っ切れていた様子にハルは首を横に振りながら軽く肩を竦めた。
ハルは、ポケットからタバコを取り出すと縁に対して1本差し出すと縁はそれを受け取り咥え火を灯した。
言葉は、交わさない。
だけど、お互い何をすべきかわかっている。
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