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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199908《純真の騎士》

残滓の想い

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「ブチかませ!!煌佑!!」

   響く声に縁は、防御の腕を下ろすと金髪を探す為に視線を走らせた。
   ミスった、何をやっているんだ!!
   自分への悪態をつきながら状況が最悪な方にむかっている事を確認した。

   一瞬の目眩し、その一瞬が事態を最悪な方へと向けている。
   金髪が何かを隠しているのは気づいていた、だがそれが何かまでは、わかっていなかったからこそ、慎重に攻撃をしていた。
   間合いを測り、持久戦を仕掛けていた。しかし、今はそれが逆に事態を悪化させている。

   暁の咆哮が向いてる先に視線を向けると既に金髪はフェンスを飛び越え公園内に入っていた。
   間に合うのか!?ハルは何をしている!?
   周囲に視線を軽く向けながら縁は、フェンスを飛び越え様として足をかけた時に違和感で足を止めてしまった。

   最初の違和感は、ハルだった。
   一番、金髪から距離があったのはハルだ、つまり直ぐに動けるのはハルの筈、本来なら公園内に居てもおかしくないのに、その姿は道路で公園の方を見ながら突っ立ている。
   何をしているんだ!?
   苛立ちに近い、疑問を抱えながら視線を巡らせるとそこに翡翠の煙が目に付いた。

   その煙は、ゆらりと揺れながら人の姿を象っている。
   縁は、その姿に視線が止まり、そして足が止まった。
   まさか…
   そして、直ぐに視線を公園内に向け、もう1つの人の姿を象る煙を見つけた。
   それは、正面を向き、しっかりと戦う意志を見せる姿、見間違う筈がない。

「煌…佑…」

   気づくと縁は、その名を呟いていた。
   暁の体、そして、小さな煌佑の体からかつて縁がしっている2人のその当時の姿がユラリと蜃気楼の様に揺れていた。

   金髪のもつ包丁が陽光に反射してキラリと光る。
   振りかぶられた包丁は、守る様に立ちはだかる煌佑に向けられている、煌佑はバットを正眼の構えで待ち受けていた。

   縁は、陽光の反射に我に返るとフェンスを飛び越していた。
   間に合わない…迫る金髪に煌佑が金髪の胸元を狙い突きを出すがギリギリで気づいたのか最初からそれが狙いだったのだろうか、金髪の体は急停止し、突きの威力を殺す様に躱した。

   突き出された、バットが引く様に空中で弧を描くと同時に金髪が再度前に出る。

   狙いは、煌佑の肩口か蹴りで退ける事だろうか。
   金髪の片足がゆっくりと後方に引かれる。

   やはり蹴って退かすつもりか、しかし、それよりも早く煌佑は膝折、前屈みなると気づくと肩に担ぐ様に持っていたバットをスライディングしながら一気に金髪の軸足の脛を目掛けて振り抜いていた。

   鈍い音共に響く悲鳴、脛を打ち抜かれた金髪は、その勢いのまま煌佑から逸れる様に前に転げ倒れていた。

「クッソがぁぁぁキィィィ!!」

   金髪は、痛みに顔を歪めながら体を捻り、包丁を横にいる煌佑に向かい振り抜く。

「そうは、させねぇよ」

   その手を追いついた縁が地面へと踏みつけた。
   金髪の悲鳴が再度響き渡る。 
   縁は、その金髪の顔面目掛けて拳を振り落としその意識を絶った。

《あざっす》

   その声に縁の目がゆっくりと煌佑へと向き、自然とその視線は上に上がっていく。

   翡翠の煙で象られたその大人の煌佑は苦笑いしながら軽く会釈をすると粒子になり空へと消えていった。

「バカヤロ…」

   縁は、そんな煌佑を見送ると小さな煌佑の頭を撫でながら暁の方へ視線を向けた。

   そこには、翡翠の煙の暁の残滓がハルと縁を見ながら、いつものふてぶてしい笑顔で手を振り、そして粒子となって空へと消えていった。

「最後の最後まで、コイツらと来たら…」

   そう呟きながらハルが苦笑いを零し縁に近づくと気絶する金髪に対して結束バンドで拘束した。

「全く、本当に、コイツららしいよ…」

   縁もまた、そう言って苦笑いを零した。
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