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【PW】AD199908《純真の騎士》
暁天の道標
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あの日、自分の中の何かが大きく変わった。
今年が明けて、三が日の最終日、あの雷を見た時から少しづつ世界の変異を感じていた。
翡翠の落雷、その現象は世界を一瞬騒がせたが直ぐに科学者や気象予報士、研究員達の発表により偶々起きた自然現象だと報じられていた。
その発表通り世界に何か大きな変化や自然災害等は、起きてもいないから多くの一般人からその事象はゆっくりと忘れされていった。
しかし、牧原煌佑は、違った。
翡翠の落雷を目にした日に高熱を出して数日寝込んだかと思うと、その日を境に自分に何か別の感覚が芽生え始めていた。
体の内に何かがあるという不気味さと、何か思い出さなくては行けない焦燥感に駆られる感覚。
それが何なのか、どうしてこんな気持ちになるのか、最初の頃はよく分かっていなかった。
だが、それはゆっくりと煌佑の中に溶け込む様に色んなモノを夢で見せてきた。
最初に見せてきたのは、自分の死に様だった。
多くのマスクを被った人達が銃を構えながら自分を囲む、自分は自分で扉を守る様に立ちはだかっている。
恐ろしい光景だった。夢であっても自身は恐怖で目を逸らしたかった、しかし夢の自分は笑みを浮かべてすらいた。
その脳裏には、3人の男の背中を思い浮かべていた。
一体彼等は誰で、この時の自分の何なんだったのか。
最初の頃はわからなかった。
初めて見た、その夢もまた何かが炸裂したと同時に暗転し、気づくと恐怖で目を覚ましてしまった。
夢は、日を追う事にゆっくりとその経緯を振り返る様に巻き戻っていった。
次に見たのは、大きなテントが列ぶ光景だった。
戦闘服に身を包んだ人達が行き交っている、その顔は疲労と絶望に染まり、見ているだけで自分の気持ちも沈んでしまいそうになる。
だからこそ、そんな空気の中、違う雰囲気を持った彼等は目立っていた。
1人は、ハルと呼ばれる人だった。
飄々としているかと思えば、自分の考えを言い当て、そっと話を聞いてくれる。
道を示す事もなく、答えもくれない、だけどそれが良かった。
それだからこそ、彼には色んな話をしたし、話も聞いた。
蒲公英だなっと表現していた人がいた。
言い得て妙だ、そう考えたのかそう言われた時に大いに納得して自然と返事が大きくなっていた。
そんな表現をした人が2人目で縁と呼ばれている。
ハルとは、違い、その視線は真っ直ぐで何処までもブレない、体格もそうだが、大黒柱の様な人だ。
寡黙で、静かに周囲を見渡すその目は強さと悲しさが混じっている様な何とも言えない苦しさを帯びている様にも感じた。
山の様な人だと思った、雄大で静かだが時として激しい猛威を振るう。
そんな話をハルにするとハルは笑いながら首を横に振っていた。
そんな2人を優しく見守りながら、まとめあげる人がいる。
彼は、2人よりも少し年上で白髪混じりの髪を掻きながら何処までも見通していた。
思慮深く何よりも仲間を思い、色んな人を守る。
その背中は、煌佑の中で素直に憧れを抱かせた。
暁さん、いつもそう呼んでいた。
その度に暁は、父の様に優しく、そしてイタズラぽっく笑いながら周りにゆったりとした空気を流してくれた。
だから、あんな殺伐とした空間でもやっていけていたのだと思えた。
そこから先の夢は、その3人との思い出が駆け巡っていく。
ハルと縁の背負った過去に、それを知りそしてそんな2人を支える暁の背中。
この3人は、いつも絶望が支配する世界の中で未来だけを見据えていた。
煌佑には、そう思えていた。
そんな夢が4ヶ月続いた頃だった。
自分自身の過去と傷にも触れる事になった。
しかし、幼い煌佑にとってそれは近しい未来の話だった。
里穂姉ちゃんが殺される。
それも犯人は最後まで逮捕されることは無かった。
法の手が彼等に伸びる前に国という機構が昨日を失ってしまったから。
1999年、里穂が引越しをする筈だった日に近所の川沿いの公園で早朝に刺殺体として発見される。
その過去であり未来を知った煌佑は、4月の雨の夜中に震えながら泣いた。
その時の絶望と悲しみの空虚がどれ程、深く恐ろしいものか想像しただけでも自分の何かが殺されたぐらいに恐ろしかったのだ。
何故…そんな事に?
そう考えれば考える程に最近の里穂の様子はおかしかった。
自分と顔合わせる度に笑顔で応えてくれた里穂姉ちゃんの顔から日に日に笑顔が消えていくのを感じていた。
何が起きているのか、何があるのかはわからない。
だけど里穂に何か悪いのが付きまとっていると言うことだけはわかった。
守らないと。
あんな恐怖だけは繰り返しちゃいけない…
たかが夢で見た程度の事なのに、煌佑にはそれが起こると何故か確信をしていた。
里穂は、煌佑にとって物心ついてからずっと傍で遊んでくれたかけがえの無い存在だった。
それが初恋だと知ったのは、3年生の時の女子との会話からだった。
《とても良い事が起きました、だけど親に言ったら怒られます、その時にこれを誰に一番知らせたいのか?》
そんな質問をされて直ぐに煌佑の頭の中に笑顔で応えてくる里穂の顔が過ぎった。
《もし、それが異性なら、好きな人です》
その答えに、煌佑の中で何かがストンと落ちた。
そうか、これが、恋なのか。
そう思えば思う程に里穂の顔を無性に見たくなる時がある。
そして、里穂と会う度に心が踊り、自然と笑顔になる自分を知った。
そして、唐突にそれは聞かされた。
先月の半ば、夏休みまであと少しというところで里穂の引越しを煌佑は聞かされた。
何でも、里穂のお父さんの仕事の都合で九州まで行くとの話らしい。
その事を知った時に煌佑の中にあったのは、一つの決意だけだった。
あの夢は、今も続き、里穂を殺した人間を探し、何よりも自分と同じ様な人を出さない様にする為に戦っている大人になった自分の夢ばかりを見ていた。
そこで知ったのは、里穂が殺された日と場所、その時の自分は何も知らず、里穂との別れが来るのをずっと恐れて目を背けていたという事、そんな話をお酒に寄っているのだろうか、何処かの飲食店でハル、縁、暁に対してユラユラと揺れながら懇々と語り、3人はそんな煌佑の話を時折、相槌や質問をしながら聞いていた。
それは、強く何処までこびりつく様な後悔だったのだろう、それを夢で見ていた煌佑もまたその想いが重く苦しく、そして悲しくなり、真夜中に目を覚まし、気づくと頬から涙を落としていた。
このまま、じゃ嫌だ。
その想いだけが小さな煌佑の体の中心に重石の様にあった。
夢では、色々見た、ハルや縁との訓練や実際の戦闘、目を背けたいのもあったが煌佑は、その記憶だけを頼りに動きを真似て素振りをし、自分なりの稽古に勤しんだ。
里穂の引越しまであと1週間と切った時だった。
夢ある変化が起きた、朝日が見える時間に自分が居たのだ、隣には穏やかな顔で朝日を眺める里穂も居た。
物音に気づき振り返ると3人の男がこちらに向かい歩いてきている。
それは、瞬く間に起きた、3人組の真ん中に居た男が急にこちらに向かい走り出し、里穂姉ちゃんの背中に向かい体当たりをした。
里穂の体が反りながら前に倒れ、その背中から血飛沫が飛び散っている。
そこで煌佑は、目を覚ました。
全身に汗がこびりつき体も心も気持ちが悪く何よりも怒りが込み上げてきた。
何も出来ない自分の不甲斐なさに、何よりも里穂の背中を刺した男のあの時の顔が焼き付いていた。
何の感情もない冷たい目、まるでゴミを渋々片付けている様な、とても無機質な目だった。
今年が明けて、三が日の最終日、あの雷を見た時から少しづつ世界の変異を感じていた。
翡翠の落雷、その現象は世界を一瞬騒がせたが直ぐに科学者や気象予報士、研究員達の発表により偶々起きた自然現象だと報じられていた。
その発表通り世界に何か大きな変化や自然災害等は、起きてもいないから多くの一般人からその事象はゆっくりと忘れされていった。
しかし、牧原煌佑は、違った。
翡翠の落雷を目にした日に高熱を出して数日寝込んだかと思うと、その日を境に自分に何か別の感覚が芽生え始めていた。
体の内に何かがあるという不気味さと、何か思い出さなくては行けない焦燥感に駆られる感覚。
それが何なのか、どうしてこんな気持ちになるのか、最初の頃はよく分かっていなかった。
だが、それはゆっくりと煌佑の中に溶け込む様に色んなモノを夢で見せてきた。
最初に見せてきたのは、自分の死に様だった。
多くのマスクを被った人達が銃を構えながら自分を囲む、自分は自分で扉を守る様に立ちはだかっている。
恐ろしい光景だった。夢であっても自身は恐怖で目を逸らしたかった、しかし夢の自分は笑みを浮かべてすらいた。
その脳裏には、3人の男の背中を思い浮かべていた。
一体彼等は誰で、この時の自分の何なんだったのか。
最初の頃はわからなかった。
初めて見た、その夢もまた何かが炸裂したと同時に暗転し、気づくと恐怖で目を覚ましてしまった。
夢は、日を追う事にゆっくりとその経緯を振り返る様に巻き戻っていった。
次に見たのは、大きなテントが列ぶ光景だった。
戦闘服に身を包んだ人達が行き交っている、その顔は疲労と絶望に染まり、見ているだけで自分の気持ちも沈んでしまいそうになる。
だからこそ、そんな空気の中、違う雰囲気を持った彼等は目立っていた。
1人は、ハルと呼ばれる人だった。
飄々としているかと思えば、自分の考えを言い当て、そっと話を聞いてくれる。
道を示す事もなく、答えもくれない、だけどそれが良かった。
それだからこそ、彼には色んな話をしたし、話も聞いた。
蒲公英だなっと表現していた人がいた。
言い得て妙だ、そう考えたのかそう言われた時に大いに納得して自然と返事が大きくなっていた。
そんな表現をした人が2人目で縁と呼ばれている。
ハルとは、違い、その視線は真っ直ぐで何処までもブレない、体格もそうだが、大黒柱の様な人だ。
寡黙で、静かに周囲を見渡すその目は強さと悲しさが混じっている様な何とも言えない苦しさを帯びている様にも感じた。
山の様な人だと思った、雄大で静かだが時として激しい猛威を振るう。
そんな話をハルにするとハルは笑いながら首を横に振っていた。
そんな2人を優しく見守りながら、まとめあげる人がいる。
彼は、2人よりも少し年上で白髪混じりの髪を掻きながら何処までも見通していた。
思慮深く何よりも仲間を思い、色んな人を守る。
その背中は、煌佑の中で素直に憧れを抱かせた。
暁さん、いつもそう呼んでいた。
その度に暁は、父の様に優しく、そしてイタズラぽっく笑いながら周りにゆったりとした空気を流してくれた。
だから、あんな殺伐とした空間でもやっていけていたのだと思えた。
そこから先の夢は、その3人との思い出が駆け巡っていく。
ハルと縁の背負った過去に、それを知りそしてそんな2人を支える暁の背中。
この3人は、いつも絶望が支配する世界の中で未来だけを見据えていた。
煌佑には、そう思えていた。
そんな夢が4ヶ月続いた頃だった。
自分自身の過去と傷にも触れる事になった。
しかし、幼い煌佑にとってそれは近しい未来の話だった。
里穂姉ちゃんが殺される。
それも犯人は最後まで逮捕されることは無かった。
法の手が彼等に伸びる前に国という機構が昨日を失ってしまったから。
1999年、里穂が引越しをする筈だった日に近所の川沿いの公園で早朝に刺殺体として発見される。
その過去であり未来を知った煌佑は、4月の雨の夜中に震えながら泣いた。
その時の絶望と悲しみの空虚がどれ程、深く恐ろしいものか想像しただけでも自分の何かが殺されたぐらいに恐ろしかったのだ。
何故…そんな事に?
そう考えれば考える程に最近の里穂の様子はおかしかった。
自分と顔合わせる度に笑顔で応えてくれた里穂姉ちゃんの顔から日に日に笑顔が消えていくのを感じていた。
何が起きているのか、何があるのかはわからない。
だけど里穂に何か悪いのが付きまとっていると言うことだけはわかった。
守らないと。
あんな恐怖だけは繰り返しちゃいけない…
たかが夢で見た程度の事なのに、煌佑にはそれが起こると何故か確信をしていた。
里穂は、煌佑にとって物心ついてからずっと傍で遊んでくれたかけがえの無い存在だった。
それが初恋だと知ったのは、3年生の時の女子との会話からだった。
《とても良い事が起きました、だけど親に言ったら怒られます、その時にこれを誰に一番知らせたいのか?》
そんな質問をされて直ぐに煌佑の頭の中に笑顔で応えてくる里穂の顔が過ぎった。
《もし、それが異性なら、好きな人です》
その答えに、煌佑の中で何かがストンと落ちた。
そうか、これが、恋なのか。
そう思えば思う程に里穂の顔を無性に見たくなる時がある。
そして、里穂と会う度に心が踊り、自然と笑顔になる自分を知った。
そして、唐突にそれは聞かされた。
先月の半ば、夏休みまであと少しというところで里穂の引越しを煌佑は聞かされた。
何でも、里穂のお父さんの仕事の都合で九州まで行くとの話らしい。
その事を知った時に煌佑の中にあったのは、一つの決意だけだった。
あの夢は、今も続き、里穂を殺した人間を探し、何よりも自分と同じ様な人を出さない様にする為に戦っている大人になった自分の夢ばかりを見ていた。
そこで知ったのは、里穂が殺された日と場所、その時の自分は何も知らず、里穂との別れが来るのをずっと恐れて目を背けていたという事、そんな話をお酒に寄っているのだろうか、何処かの飲食店でハル、縁、暁に対してユラユラと揺れながら懇々と語り、3人はそんな煌佑の話を時折、相槌や質問をしながら聞いていた。
それは、強く何処までこびりつく様な後悔だったのだろう、それを夢で見ていた煌佑もまたその想いが重く苦しく、そして悲しくなり、真夜中に目を覚まし、気づくと頬から涙を落としていた。
このまま、じゃ嫌だ。
その想いだけが小さな煌佑の体の中心に重石の様にあった。
夢では、色々見た、ハルや縁との訓練や実際の戦闘、目を背けたいのもあったが煌佑は、その記憶だけを頼りに動きを真似て素振りをし、自分なりの稽古に勤しんだ。
里穂の引越しまであと1週間と切った時だった。
夢ある変化が起きた、朝日が見える時間に自分が居たのだ、隣には穏やかな顔で朝日を眺める里穂も居た。
物音に気づき振り返ると3人の男がこちらに向かい歩いてきている。
それは、瞬く間に起きた、3人組の真ん中に居た男が急にこちらに向かい走り出し、里穂姉ちゃんの背中に向かい体当たりをした。
里穂の体が反りながら前に倒れ、その背中から血飛沫が飛び散っている。
そこで煌佑は、目を覚ました。
全身に汗がこびりつき体も心も気持ちが悪く何よりも怒りが込み上げてきた。
何も出来ない自分の不甲斐なさに、何よりも里穂の背中を刺した男のあの時の顔が焼き付いていた。
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