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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199907 《新しい道》

接続者 2

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「その件なら調書を読んでいるから大丈夫だ。それにあれは本来ならそこまで問題にする程でも無い、だがあの当時のアルファの理への捜査は最新の注意を払わないといけなかった、それに対して君の行動が危うかったから取った対処というだけだからね」

   岩鍋は、そう言いながらゆっくりと暁の目を見た。

   暁は、岩鍋の視線に応える様に静かに見つめながらゆっくりと頷いた。

「それで大丈夫であるなら私に何も言う事は、ありません。よろしくお願いします」

   暁がそう言いながら深々と頭を下げると高岩もまた「よろしく」っと言った。
   挨拶を済ませると暁は、崇央に連れられて局長室を後にするとタクシーを使い職場となる豊島区の池袋駅の西口にあるレイブンという雑居ビルの中にある公安課の分署に向かった。

   株式会社リンボーという名前のステッカーが貼られたガラスドアを抜けるとカバー用のデスクとパソコンが並べられたごく普通のオフィスが広がっていた。

   借りてるのはオフィスの4階と下の階の3階を訓練用のジムとして借りていると崇央に案内されながら紹介を受け、オフィスフロアーの一番奥にある室長室へ招かれた。

「まさか、その歳で警視庁から警察庁へ行ってるとはさすが準キャリアの出世頭だね、お前は」

   部屋に入るなり、暁はソファーに座りながら崇央に言うと呆れた溜息を漏らすのが聞こえた。

「曲がりなりにも俺上司なんですけど?」

「別にいいじゃん、あっ俺麦茶ね」

   暁がそう言うともう何を言ってもダメだと悟ったのか崇央は、設置されてる冷蔵庫から麦茶のペットボトルを取り出すと暁に向かい投げた。

「んで、俺は何をすれば宜しいんでしょうか?分室長殿?」

「いや、逆に先輩が俺に聞きたい事あるんじゃないんですか?」

   質問を質問で返されたが暁からすれば崇央の言う事は、もっともだった。
   正直今も自分が何に対して何をすればわからないし、何よりもあれ一体なんだったのか、今何が起きてどうしてそうなってるのか分からない事だらけだった。

「とりあえず、あの子達は何だ?」

   星見と車木、西端と呼ばれた子にそして藤の事が頭を過ぎった暁が率直に聞くと崇央は、対面に座るとゆっくりと首を傾げた。

「接続者ってのが大きな名称になるけど…先輩オカルト系得意だっけ?」

「範囲による、神様の名前とかは、からっきしだぞ」

「どちらかと言えば、世界の成り立ちかな。例えば、幽界とか常世とかあとは、集団的無意識とか精神世界的な話」

「アルファの捜査の時に少し調べた。確か霊的な存在達が住む世界とかだろ?あとは人の魂とか」

「そうそう、これはそれをあると肯定した段階で聞いて欲しい話というか、これを肯定してらわないと進まない話」

   悪い冗談か?そう言いそうになったが崇央の眼と自分が体験してきた事を鑑みるとあるのだろうと既に刻み込まれている事に暁は気づいた。

「俺達はそれを幽界(ゆうかい)または、想念の根源(そうねんのこんげん)と読んでいる」

「それは、想定的にどんな世界なんだ?」

「魂、悪魔、幽霊、妖怪、そう呼ばれる世界だと想定しもらって構わないと思う、実際俺達の案件には、不穏な事故や事件が起きた場所も調査することがあるから」

   ここまでいきなり飛ぶと暁は返す言葉に正直困った。
   完全に今見ていた自分の世界から全く違う世界へ捜査しろと言われている様なものでこんな案件に自分に白羽の矢が立ったのかと思うとどこで道を間違えたのかと過去の自分の行いを振り返ってみたが、伊澄の事件を思い出し、あながち自ら進んでここまで来た様な気持ちになった。

「んじゃあ、彼等や岩倉はそっち系の力を使える?」

「俺達はそれをリンクと読んでいる。その世界に繋がり、その世界の力を利用する手段を持っているからね」

「んじゃあ、やっぱり念力で物を動かせたりするの?」

   暁がそう言うと崇央は、苦笑いをこぼした。

「俺は同じ話しをして白い目で見られたけど、勇気があるなら同じ質問を彼等にしてみな」

   崇央の返しに暁は、頬を掻きながら肩を竦めた。

「正直俺も多少経験したけどそう物を動かしたりとかそう言うのとは、違って、彼等が使うのは、意識的なモノになるのかな、例えば五感とかに働きかける様な感じのモノかな」

   そう言われて、確かにあの時の痛みや重さを思い出した。
   冷気に波、激痛、だが身体にはなんのダメージは、なかった。
   そう考えるとフトある疑問が頭を過ぎった。

「でも、ちょっと待った。確か本郷さんの部下の柿原の心臓には凍死の兆候があった、もしそうならその論理は、崩れないか?」

「赤ちゃんの火鉢棒って話を知ってる?」

「確か熱してない火鉢棒を当てたら水膨れが出来たって話だろ?確か思い込みの力とかなんとかの」

「原理がそれと同じだとしたら?」

   崇央の返しに暁は右手が疼き、あの時の現象を思い出した。

「思い込みだと言えば簡単だけど俺達の体は意識して動かしてるのは、精々四肢と筋肉だ、何万何億ってある細胞や臓器を意識して動かしている訳じゃない、もし細胞や脳がそれが現実だと思い込めば俺達の体は、簡単に死に至らしめられる」

   背筋に悪寒が走る。もしそんな奴等がこの世界に野放しになってる、そう考えると今自分の知ってる世界の見え方が一変していく。
   下手したら今見ている現実も本当に現実じゃない可能性があるのだ。

   息を飲み、黙る暁に対して崇央は、苦笑いを零しながら肩を竦めた。

「どうよ?こんな仕事に務めて改めて後悔したんじゃない?」

   崇央の紛れもない本音だろ。だからこそ同時に理解した。

「お前、さては俺が来てかなりホッとしてないか?」

   暁がそう聞くと崇央は、ソファーの背もたれに体を預けながら額に手を当てた。

「正直言えば、ホッとしてる所もあれば、止めておけば良かった後悔も正直ある…先輩、この話には、まだ続きがあるって言ったらはどう思う?」

   正直聞きたくない、この話だけでも頭での理解は拒絶しているが経験した現実がそれを許さないジレンマが暁の頭を一段と重くしている。
   だが、崇央がこんな言い方をするとなるとその話はこれと同じぐらい重要な話なのだと言うのが察せた。

「なに?」

   毒を食らわば皿まで、暁はその心情一つで意を決して聞くと崇央は、ゆっくりと深呼吸をひとつした。

「今年に入ってその接続者の存在が急増している、そして、接続者と同じ能力持ちながら違う特性を持ってる見識者ってのがいる」

「見識者?接続者と何が違うんだよ?」

「リンクを使えるなのは、同じだけど彼等が持っている情報が違うと言えばいいのかな……」

   そこまで言うと崇央は、それを言うか言わないか迷っているのか口を真一文字に閉じてしまった。

「なんだよ…気持ち悪いなぁ…」

   暁の知る崇央からは、見られないリアクションに戸惑っていると何かを諦めたのか眉間に皺を寄せながら盛大な溜息を漏らした。

「信じなくてもいい、だけど信じた前提で行動してくれ」

   唐突に意を決した様に崇央が口を開いた。
   そんなぶっ飛んだ話なのか?暁は内心そんな事を思いながら改めて背筋を伸ばすとゆっくりと頷いた。
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