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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199907 《新しい道》

接続者

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   気合いのある声が入り乱れる、雑居ビルのワンフロワーに4人の男女が形稽古の反復練習をこなしていた。

   今回は、掴まれた際の外しと相手を倒し、戦闘状態解除からの逃走の為の訓練をしている。
   男性陣の西端と車木は、流石は運動部と言うべきか覚えも早く的確だが、慣れが出てきているのか回数をこなせばこなすほどに雑になっていく。
    一方の星見と熊坂は、最初はぎこちなかったがこなせばこなす程に早くそして綺麗な形で出来上がっている。
   ポイントをしっかりと抑えている証拠だ。
   タイマーのブザーが鳴り響き4人が互いに礼を済ませると全員を見ていた暁に顔を向けた。

「よし、20分休憩、水分補給忘れない様に」

   暁がそういうと全員が「はい!」っと返事すると散り散りとなっていった。

   暁は、もまたフロアーを出ると非常階段に出てタバコに火をつけた。

「大浦さん」
   タバコを吸っていると星見が非常口のドアから顔出てきた。
   暁は、返事をする代わりに首を傾けた。

「この間の接続者の件はどうなりました?」

   そう言われて、先週、上司になった崇央が持ってきた案件を思い出した。
   確か、和光市のバーのバーテンダーの男だった。
   流石に高校生にバーテンダーを調査させるわけにも行かなく。店の様子は暁が調べ、それ以外は彼等に任せた。
   結果、接続者であり、何よりもその力を悪用していた事は、わかったので鷲野に報告を入れるておいた。

「報告は、入れて置いたけど、多分まだどうこうはしてないと思うよ」

   暁がそう言うと、星見の顔が曇った。

「そう、焦らない。何もしないわけでもないけどまだ、そのタイミングって事じゃないのさ」

「ですけど、これじゃあ、私達何をしているのか…」

「それは、これから先にわかる事さ、証拠が無ければ犯罪者は捕まえられない。だからその為に捜査をして証拠と確証を積み上げて逮捕する。勉強と同じさ、日頃から色んな知識を覚えて、それをテストとか試験で発揮する。結果はあとから着いてくるものだけど、君達は最初のキッカケを作った。0を1にしたんだからね、だけど1にならなければそれ以降は何にも成れない。君達は1を作ったんだ、それは大事な事だよ」

   そう言われ、星見は少しだけ晴れた笑みを浮かべながら暁に対して会釈をすると直ぐにフロアーへと戻って行った。

「さっすが、人格者、やりますなぁ」

   階段の上から声が聞こえ、見上げると崇央が手摺りからこちらを覗き込んでいた。

「お前らがフォローし無さすぎなんだよ」

   暁は、煙を吐きつけながら応えると崇央は、口元をへの字にしながら降りてきた。

「ちなみに大畑良樹(おおばた よしき)の件は、来週にも捕縛の上に尋問することになってる。ことと次第によっちゃあ岩倉と同じところ行きかな」

「今回は対応早いな」

「まぁ、婦女暴行の常習犯だしね、これ以上は体裁上見逃せないってさ」

   体裁上ね~
   暁は、呆れたため息を漏らしながらそっと視線を非常階段の外へ向けた。

「そういや、警備局長からお褒めの言葉を頂いたぜ、着任してからまだ1ヶ月しか経ってないのにもう3人の調査を終えた事に凄く褒めてた」

「前任者とその上司が無能だったからじゃない?」

   暁の言葉に崇央の眉がピクリと動く。

   相変わらず安い挑発に弱いやつだ事。
   暁は、そう思いながらタバコを灰皿に押し込むとゆっくりとその場を後にしようとした。

「にしても、アイツらに訓練とか、俺が前に話した事を理解して貰えてます?」

   暁の挑発に挑発を返そうしているのが見え見えな崇央の言葉に暁は天を仰ぎながらため息を吐いた。

「アホか、もし調査中に彼等が事件に巻き込まれたり、怪我また死んだらどうする?それでこの件が公になったら?お前そこまで考えてるか?」

   暁の問いに崇央は、頬を掻いて視線を外した。

「俺が彼らに訓練してんのは、彼等の生存率を上げてるだけだ、この間の話とはまた別の観点からだよ」

   そう言い切ると、暁はフロアーへと戻った。

   それから1時間彼等に残りの訓練をこなさせてから各々のいい面と悪い面を伝えてその日は解散させた。

   岩倉の白硝子高校襲撃事件から暁の警察官人生は、一変した。
   2週間の休暇という名の謹慎から解けてから更に2週間後に崇央の打診通りに警察庁への転属出向の相談が舞い込んできた。
   暁は、その話を二つ返事で受けると6月の頭には、転属になっていた。

   余りにも早い展開に志木署の面々と満足な別れ方を出来なかったのが唯一の心残りでもあったがそれより何よりも暁を驚かせたのは、自分が巻き込まれた案件の事実を知った時だった。
   警察庁の入る中央合同第二庁舎へ初入庁した時にその事を知った。
   受付を済ませ、迎えに来た崇央に案内され暁が通されたのは警備局長である高岩 征十郎(たかいわ せいじゅうろう)の部屋だった。
   警備局公安課に所属となるのだから別段おかしくないのだが、しかしその部屋に待っていたのは局長だけでは、なかった。
   警察庁長官に警視総監、そして内閣官房長官。
   そんな上層の面々がソファーに暁1人の為に集まっていたのだ。

「ようこそ、大浦 暁警部補、今回の申し出を受けれいてくれて感謝している、さぁそちらへ」

   どちらへ!?
   入るなり高岩が警察庁長官達の座るソファーの対面のソファーに座る様に示してきたので暁は、心の中でそんな反論をしながらゆっくりとソファーに座った。

「我々の自己紹介を…」

   警察庁長官がそういうと、皆が皆、名刺を取りだし暁の前に置いた。

   警察庁長官の富山 明聡(とやま あきさと)。
   警視総監の岩鍋 肇(いわなべ はじめ)。
   そして、内閣官房長官で与党の国会議員、田辺 幸三郎(たなべ こうざぶろう)

   暁は、名刺を置かれながらただ順番に頭を下げながら自分に名刺が無い事を断ると横から崇央が暁の名刺を3人分置いた。

   やりやがったな?
   暁がジロリと崇央を睨んだが崇央はそれをスルーしながらゆっくりとソファーの横に立ち視線を合わせる事は、なかった。

「さぞ、こんな3人が揃ってるなんて君も驚いている事だろうが、今回の件はそれだけ大きな事だと言う事をまず知っていて欲しいんだ」

   ある程度の挨拶を終えると高岩がゆっくりと語り始めた。

「すいませんが、お…私はこの事態をちゃんと理解できてません、彼等がどんな存在なのか、何が起きているのか」

   暁が率直な言葉で返すと高岩はゆっくりと深く頷いた。

「そうだろう、だが君は目の前で見たんだよね?彼等の力を」

「はい、見たと言えば見たんですが…見えなかったと言えば見えなかったですけど…」

「それでいい、正直言えば我々もその力を全てを知っているわけではない。しかし今年に入りその力をもった人間が急激に増え始めている。それに伴い、そうだろうと思われる事件数も増えてきている」

「つまり、事態の調査と掌握が急務だと?」

「その通りだ、しかし、それに対して捜査員を無策に捜査をさせるワケには、いかない。要らない混乱を呼び起こしてしまうからね」

   つまり、それでその力を間近でみた自分に白羽の矢が立ったと言うことか。
   何よりも公安経験もあって警視庁にも出向した事があるならより経歴として申し分無かったというわけか…だが…

「話は大筋わかりました。細かい事はこの鷲野に聞きますが、一つだけ質問よろしいでしょうか?」

   そういうと高岩は、3人に一瞥してからゆっくりと暁に向かい手を差し出した。

「私は、2年前に単独捜査して警視庁管内で問題を起こしていますが、それでも大丈夫なんでしょうか?」

   暁がそう聞くと岩鍋が咳払いをひとつした。
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