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【PW】AD199905《氷の刃》
邂逅 3
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「相変わらずキモイ顔」
後ろから聞こえた藤がそう言うと、暁の横を波が通り過ぎていった。
しかし、そこには水も何も無い。
服も濡れていないし、周りも何も動いてない。
しかし、触覚は確実に波を感じていた。
それを表すかの様に岩倉が急にその場で膝から崩れ落ちると四つん這いになった。
「なっ!!?なんだよこれ!?」
先程迄の笑みは消え、怒りに表情を歪めながら暁の後ろにいる藤を睨みつけていた。
「見ればわかるでしょ?アンタが氷なら私は水よ、そして流れを生んでるだけよ」
暁は、ゆっくりと後ろを見ると手を広げて右腕を岩倉の方へ伸ばしている藤の姿があった。
その瞳は何処までも暗くて深い。
暁は、今までの経験でこの瞳を持つ者が何を最終目的としているのかイヤと言う程に知っていた。
「ダメだ!!藤さん!それだけはダメだ!」
確証も確認も取っていない。
だけど、こればかりは間違いないという直感で暁が言うと藤はゆっくりと暁に目を合わせて苦笑いを零した。
「こんな形でアッキーさんには会いたくなかったなぁ~あの人が信頼してたし、良い人だから」
瞳に悲しみが映る。
何を言っている?俺達は知り合いなのか?
暁はその言葉に聞きたい事が沢山あったが藤の瞳は暁から岩倉に向くと再びそこの深い黒になった。
藤の開いていた右手が握られた。
「おぶぅぁう」
妙な悲鳴が聞こえ、振り返り岩倉を見ると呼吸が出来ないのか餌を群がる鯉の様に天を仰ぎながら口をパクパクとさせていた。
「死ね、蛆虫」
藤の冷たい声に暁は、恐怖より何故か悲しみが心を支配していた。
「ダメだ、藤さん!俺はなぜ君がこんな事をしているのかわからないけど…ダメだ!」
暁は、振り返りながら藤に対して手を伸ばそうとしたが重くなった右手のせいで上手くバランスが取れずにその場に倒れてしまった。
「止めるんだ…藤さん…」
なぜこうも悲しい気持ちになるのか自分でもよく分からない。
だけど、これは止めないといけない、そんな気持ちだけで暁は必死で手を伸ばしていた。
「ニャー」
猫の鳴き声が聞こえる。
気づくと暁は視線だけでその声を追っていた。
声がしたのは、藤の後方、本郷の居る方からだった。
白い足に黒い胴体の2色の猫がユラリとしっぽを振りながらゆっくりとこちらに向かって歩いて来ていた。
その後ろには3人の黒い服を着た人影が見えた。
視線を上げて顔を確認をしたが口元にはバンダナを巻き、目元は髑髏を模している白い仮面を被っていてその顔を知る事は出来なかったが、体格から男だと言うのだけはわかった。
暁の視線に気づいたのか中心に居る髑髏の仮面の男は、ゆっくりと人差し指を立てて口元に当てた。
そうかと思うと、ゆったりと歩きながらこちらに近づいてくると藤の真後ろに立った。
そこで暁は違和感に気づいた。
誰もこの3人に気づいていないのだ。
真横を通り過ぎた本郷も、背後に立たれてる藤も、その状況を見守ってる筈の星見も車木も誰もこれほど大きな違和感に誰も一切気づいてない。
藤や皆が気づいたのは髑髏の仮面の男が藤の伸ばされた手を優しく掴んだ時だった。
「そんな事しても、ハスミは、喜ばないよ」
ボイスチェンジャーの声だが、そこにはどうしようも無い悲しみが籠っているのは、嫌でも理解出来た。
ハスミ、その名前に藤は動揺を見せ、髑髏の仮面の男をジッと見つめていた。
「うぉぇぇぇ」
咳き込みと嗚咽が聞こえ、暁が振り返ろうとしたが右手のせいで上手く後ろを振り返ることが出来なかった。
フワッと誰かが近づくのを感じる。
それと同時に右手がフッと軽くなる。気づくと髑髏の仮面の男が体を屈め暁の腕に触れていた。
「ロッソ」
髑髏の仮面は、そう言いながら2色の猫の方へ目を向けると猫はそっと暁の腕にまとわりついた。
その猫にそっと暁は手を差し伸べ様とするがそれより早く、膝を着いていた藤が懐かしそうにその猫を撫でていた。
「お前…そっかぁ…こっちにこれたんだぁ…私の事、覚えてる?」
藤の頬にそっと涙が伝い落ちていった。
暁は、そんな藤を見て安堵しながら自分の力が抜けていくのがわかった。
「ンだァァァァ~クッソがぁ!!!」
岩倉が怒声を上げる。
暁達に緊張感が走り直ぐに声の方を向いたが次に視界に入ったのは、立ち上がった岩倉に対して髑髏の仮面の男がビンタで壁まで吹っ飛ばしている場面だった。
「うっさい」
髑髏の仮面の男はそう言いながら残りの2人の髑髏の仮面達を見ると手を振り何らかの合図を出した。
2人は、その合図に頷くと次々と岩倉の仲間達を捕縛をしていった。
その手際の良さに暁も言葉を失った。
素早い動きと共に的確に急所を射抜く一撃、気絶した男達を結束バンドで拘束していく一連の流れが余りにもスムーズで手慣れていた。
「誰だぁ~テメェ~犬かぁ~!!?」
壁にもたれ掛かりながら漸く立ってる岩倉が髑髏の仮面の男を睨みつけている。しかし肝心の髑髏の仮面の男は、そんな事どうでも良いのだろうか次に西端に近づくとその両手に手を触れていた。
「いってぇーーー!!」
髑髏の仮面の男の両手が離れると西端は、両手を震わせながら悲鳴をあげた。
「落ち着いて、精神体を整えろ。そうすれば多少は回復早まる」
髑髏の仮面の男は、そう言いながら西端の肩を叩きながら立ち上がると漸く岩倉の方を向いた。
「うるさい割には、大人しく待ってるなんてお利口だね」
髑髏の仮面の男は、肩を竦めながら岩倉にそう言うと岩倉はもたれてた壁からそっと体を離した。
「調子にのってんなよ?その程度の力で俺に勝てると思ってんのか?」
「少しは無い頭を使えよ、その力が有るかも分からない相手の気配も察知出来なかったのは誰よ?」
髑髏の仮面の男の明らかな挑発だった。
その挑発に岩倉は乗ったのだろう、右手をブラブラとさせながら妙なステップを踏み始めた。
気のせいか、岩倉の右手に白いモヤが握られてるのが見える。
疲れてるのか?微かに目を擦りながらもう一度、その手を見るがやはりモヤが握られている。
「視えてきたんですね」
藤がそっと告げた、その手は今もロッソと呼ばれた猫を撫でていた。
「視えて来た?」
オウム返しで暁は聞き返すと藤は悲しくも何処か切なく優しい瞳で暁を見ていた。
「貴方はコチラ側の人、何れまた繋がる事になると思います、それもきっとそんなに遠くない」
予言めいた言葉に暁は戸惑いながら藤を見る事しか出来ずに居るとロッソが再び鳴いた。
ロッソの視線は暁の後ろに向けられている。
それに流される様に暁もまた視線を後ろに向けた。
岩倉は、フェンシングの様な構えになると小刻みにステップを踏み始めた。そんな岩倉に対して髑髏の仮面の男は、ある一定の間合いから正面を向いていた。
舐めているのか、余裕なのか、まるで読めないが妙な雰囲気を髑髏の仮面の男から感じた。
タンっとステップ音が鳴り、岩倉が距離を詰めて右手を突いた。しかしそれが髑髏の仮面の男に届くことは無く、踏み込みと同時に半身になりその突きを避けた。
突いた手を岩倉は、体を捻り横に走らせ様としたが髑髏の仮面の男はそれも難無く腕を掴み止めた。
「どうした?こんなものか?」
髑髏の仮面の男はそう言うと掴んだ腕を引きながらその場でターンをするとその力に流される様に岩倉の体は背中から床に叩きつけられた。
後ろから聞こえた藤がそう言うと、暁の横を波が通り過ぎていった。
しかし、そこには水も何も無い。
服も濡れていないし、周りも何も動いてない。
しかし、触覚は確実に波を感じていた。
それを表すかの様に岩倉が急にその場で膝から崩れ落ちると四つん這いになった。
「なっ!!?なんだよこれ!?」
先程迄の笑みは消え、怒りに表情を歪めながら暁の後ろにいる藤を睨みつけていた。
「見ればわかるでしょ?アンタが氷なら私は水よ、そして流れを生んでるだけよ」
暁は、ゆっくりと後ろを見ると手を広げて右腕を岩倉の方へ伸ばしている藤の姿があった。
その瞳は何処までも暗くて深い。
暁は、今までの経験でこの瞳を持つ者が何を最終目的としているのかイヤと言う程に知っていた。
「ダメだ!!藤さん!それだけはダメだ!」
確証も確認も取っていない。
だけど、こればかりは間違いないという直感で暁が言うと藤はゆっくりと暁に目を合わせて苦笑いを零した。
「こんな形でアッキーさんには会いたくなかったなぁ~あの人が信頼してたし、良い人だから」
瞳に悲しみが映る。
何を言っている?俺達は知り合いなのか?
暁はその言葉に聞きたい事が沢山あったが藤の瞳は暁から岩倉に向くと再びそこの深い黒になった。
藤の開いていた右手が握られた。
「おぶぅぁう」
妙な悲鳴が聞こえ、振り返り岩倉を見ると呼吸が出来ないのか餌を群がる鯉の様に天を仰ぎながら口をパクパクとさせていた。
「死ね、蛆虫」
藤の冷たい声に暁は、恐怖より何故か悲しみが心を支配していた。
「ダメだ、藤さん!俺はなぜ君がこんな事をしているのかわからないけど…ダメだ!」
暁は、振り返りながら藤に対して手を伸ばそうとしたが重くなった右手のせいで上手くバランスが取れずにその場に倒れてしまった。
「止めるんだ…藤さん…」
なぜこうも悲しい気持ちになるのか自分でもよく分からない。
だけど、これは止めないといけない、そんな気持ちだけで暁は必死で手を伸ばしていた。
「ニャー」
猫の鳴き声が聞こえる。
気づくと暁は視線だけでその声を追っていた。
声がしたのは、藤の後方、本郷の居る方からだった。
白い足に黒い胴体の2色の猫がユラリとしっぽを振りながらゆっくりとこちらに向かって歩いて来ていた。
その後ろには3人の黒い服を着た人影が見えた。
視線を上げて顔を確認をしたが口元にはバンダナを巻き、目元は髑髏を模している白い仮面を被っていてその顔を知る事は出来なかったが、体格から男だと言うのだけはわかった。
暁の視線に気づいたのか中心に居る髑髏の仮面の男は、ゆっくりと人差し指を立てて口元に当てた。
そうかと思うと、ゆったりと歩きながらこちらに近づいてくると藤の真後ろに立った。
そこで暁は違和感に気づいた。
誰もこの3人に気づいていないのだ。
真横を通り過ぎた本郷も、背後に立たれてる藤も、その状況を見守ってる筈の星見も車木も誰もこれほど大きな違和感に誰も一切気づいてない。
藤や皆が気づいたのは髑髏の仮面の男が藤の伸ばされた手を優しく掴んだ時だった。
「そんな事しても、ハスミは、喜ばないよ」
ボイスチェンジャーの声だが、そこにはどうしようも無い悲しみが籠っているのは、嫌でも理解出来た。
ハスミ、その名前に藤は動揺を見せ、髑髏の仮面の男をジッと見つめていた。
「うぉぇぇぇ」
咳き込みと嗚咽が聞こえ、暁が振り返ろうとしたが右手のせいで上手く後ろを振り返ることが出来なかった。
フワッと誰かが近づくのを感じる。
それと同時に右手がフッと軽くなる。気づくと髑髏の仮面の男が体を屈め暁の腕に触れていた。
「ロッソ」
髑髏の仮面は、そう言いながら2色の猫の方へ目を向けると猫はそっと暁の腕にまとわりついた。
その猫にそっと暁は手を差し伸べ様とするがそれより早く、膝を着いていた藤が懐かしそうにその猫を撫でていた。
「お前…そっかぁ…こっちにこれたんだぁ…私の事、覚えてる?」
藤の頬にそっと涙が伝い落ちていった。
暁は、そんな藤を見て安堵しながら自分の力が抜けていくのがわかった。
「ンだァァァァ~クッソがぁ!!!」
岩倉が怒声を上げる。
暁達に緊張感が走り直ぐに声の方を向いたが次に視界に入ったのは、立ち上がった岩倉に対して髑髏の仮面の男がビンタで壁まで吹っ飛ばしている場面だった。
「うっさい」
髑髏の仮面の男はそう言いながら残りの2人の髑髏の仮面達を見ると手を振り何らかの合図を出した。
2人は、その合図に頷くと次々と岩倉の仲間達を捕縛をしていった。
その手際の良さに暁も言葉を失った。
素早い動きと共に的確に急所を射抜く一撃、気絶した男達を結束バンドで拘束していく一連の流れが余りにもスムーズで手慣れていた。
「誰だぁ~テメェ~犬かぁ~!!?」
壁にもたれ掛かりながら漸く立ってる岩倉が髑髏の仮面の男を睨みつけている。しかし肝心の髑髏の仮面の男は、そんな事どうでも良いのだろうか次に西端に近づくとその両手に手を触れていた。
「いってぇーーー!!」
髑髏の仮面の男の両手が離れると西端は、両手を震わせながら悲鳴をあげた。
「落ち着いて、精神体を整えろ。そうすれば多少は回復早まる」
髑髏の仮面の男は、そう言いながら西端の肩を叩きながら立ち上がると漸く岩倉の方を向いた。
「うるさい割には、大人しく待ってるなんてお利口だね」
髑髏の仮面の男は、肩を竦めながら岩倉にそう言うと岩倉はもたれてた壁からそっと体を離した。
「調子にのってんなよ?その程度の力で俺に勝てると思ってんのか?」
「少しは無い頭を使えよ、その力が有るかも分からない相手の気配も察知出来なかったのは誰よ?」
髑髏の仮面の男の明らかな挑発だった。
その挑発に岩倉は乗ったのだろう、右手をブラブラとさせながら妙なステップを踏み始めた。
気のせいか、岩倉の右手に白いモヤが握られてるのが見える。
疲れてるのか?微かに目を擦りながらもう一度、その手を見るがやはりモヤが握られている。
「視えてきたんですね」
藤がそっと告げた、その手は今もロッソと呼ばれた猫を撫でていた。
「視えて来た?」
オウム返しで暁は聞き返すと藤は悲しくも何処か切なく優しい瞳で暁を見ていた。
「貴方はコチラ側の人、何れまた繋がる事になると思います、それもきっとそんなに遠くない」
予言めいた言葉に暁は戸惑いながら藤を見る事しか出来ずに居るとロッソが再び鳴いた。
ロッソの視線は暁の後ろに向けられている。
それに流される様に暁もまた視線を後ろに向けた。
岩倉は、フェンシングの様な構えになると小刻みにステップを踏み始めた。そんな岩倉に対して髑髏の仮面の男は、ある一定の間合いから正面を向いていた。
舐めているのか、余裕なのか、まるで読めないが妙な雰囲気を髑髏の仮面の男から感じた。
タンっとステップ音が鳴り、岩倉が距離を詰めて右手を突いた。しかしそれが髑髏の仮面の男に届くことは無く、踏み込みと同時に半身になりその突きを避けた。
突いた手を岩倉は、体を捻り横に走らせ様としたが髑髏の仮面の男はそれも難無く腕を掴み止めた。
「どうした?こんなものか?」
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