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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199905《氷の刃》

邂逅 2

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「おぉ~怖い怖い、さすがマル暴の四課、言う事とやる事がまるで筋者だね~」

   こびり付いた油汚れの様な声が後ろから聞こえ、暁と本郷は、振り向いた。

   廊下の反対側に新たな3人の青いジャージの男達が立っていた。
   声の主は、その真ん中で肩を揺らし笑いながらウネウネと動いていた。
   金髪の長い髪を後ろで結び、剥き出しになったその顔は写真で見るより数倍も歪んでいた。

「岩倉…!」

   本郷の忌々しく思う気持ちが吐き出された様な低音でその名前を呼ぶと岩倉は、その声に楽しそうに軽く何度もジャンプした。

「うわぁ~そんな怖い声で呼ばれるなんて初めてだよ~刑事さん~」

   ニヤニヤと嫌らしい笑顔でこちらを見ながら岩倉は首を横に傾けた。

「ようやく、真打のお出ましね」

   そんな岩倉の表情を歪めたのは、廊下に出てきた藤だった。

「藤恵未…お前さぁ~なんなの?コソコソ俺の事嗅ぎ回ってさぁ~リストにすら載ってないし、コチラ側でもない、気持ち悪いんだけど?」

「私の事覚えてないんだ、良かった相変わらずのバカで」

   藤の一言に岩倉の口元が歪む。
   それと同時に手を上げると、岩倉の両端に居た部下達が一斉に藤に向かい走り出した。

「みんな!!」

   それと同時に星見の一喝が入る。
   次の瞬間、1人の男が体をくの字に曲げながら横に飛び。
    もう1人は、膝から崩れ落ちその場に蹲ってしまった。

   何が起きた?
   突然目の前で起きた出来事に暁は、何が何だかわからなかった。

   本郷も同じなのだろう、「は?」っと小さな声を上げながら怪訝な表情で状況を見ていた。

   しかし、暁と本郷の心情とは裏腹に飛んだ男とと蹲る男の表情は必死そうのものだった。

「うわぁ~めんどいの来たァ~」

   その光景を見ながら岩倉は天を仰ぐと右手を上げて軽く空を握ると蹲る男に近寄り、空間を一振薙ぎ払った。

   その瞬間、蹲っていた男は解放されたかの様に体を起こすと肩で息をしていた。

「おい、ボサっとしてないで、あの女捕まえて来い」

   岩倉はそう言うと蹲っていた男の首元をつかみ立ち上がらせると自分はそのまま隣の教室へ入ろうとした。
   しかし、それよりも早く開けたドアから足が伸び、岩倉はそれを寸前で後方にステップを踏み跳ぶ様に躱した。

   次にドアから飛び出してきたのは人影は、間髪入れずに腰を落としながら岩倉の顔を目掛けて2発のパンチを走らせるが1発は躱し、2発目は、顔面の目の前で止まった。

   よく見ると人影の伸ばした腕に岩倉の手が伸びていたが触れては、いない。

   しかし、伸ばされた腕は直ぐに体ともに引かれ飛び出した人影は再び教室の中へ入って行ってしまった。
   何が起きたのか気になるがそれよりも蹲っていた男が藤に迫っているのを確認すると暁は、手錠を取り出すと抑えていた男の両手を後ろで嵌め拘束して藤に迫る男に向かい肩から体当りをした。

   上手く鳩尾辺りに肩が入り、男の体はくの字に曲げながら後方に飛び、膝を床についた。
   その間に暁は、体勢を立て直し、構えた。

「別に助けは入りませんよ、どうにでも出来るので」

   背に立つ藤が淡々と語り、暁はフトそんな彼女を一瞥した。

   そんな目を離した一瞬の出来事だった。
   けたたましい音が鳴り視線を戻すと教室のドアを壊しながら岩倉の体が教室から飛び出してきた。
   背中から床に転びながらその反動を利用して回転して起き上がると気だるそうに首をグルグルと回していた。

「めんどくせぇ~なぁ~」

   岩倉はそう言いながら教室を睨みつけながら右手をゆっくりと肩ぐらいの高さに上げた。
   教室から今度は、ゆっくりと岩倉と間合いを取りながら人影が現れた。

   制服からすると白硝子高校の男子生徒だろう。短髪に中肉中背だが、筋肉質なのは制服の上からでもよく分かった。

   しかし、妙なのは右手をブラりと下げている事だ。

   左を前に半身で岩倉と対しているがそれは構えと言うより庇っている様に見えた。
   心無しか顔にも疲弊と焦りが見えた。

「西端!下がって!」

   星見が後ろから声を掛けるが短髪の男子生徒は、首を横に振った。

「ダメだ!俺が下がったら…」

   そう言いかける途中で岩倉の体がゆらりと動き西端へと迫った。
   揺れる景色に咄嗟に反射し暁は、飛んでくる拳を捌いた。
   視線を外している間に目の前の男が暁に殴りかかって来たが暁は油断をしているわけでは、なかった。

   拳を捌かれた事で男の体勢は少し崩れたが後方にステップし、直ぐに建て直した。

「やっぱり凄いですね」

   後ろから少し驚いた藤の声が聞こえ、暁は困った様に肩を竦めて応えると肩から力を余計な力を抜いた。
    素早く摺り足でステップを踏むとジャブを目の前の男の腹部に走らせたが寸前でそれを止めるとその反動を利用し腕を跳ねらせそのまま顎先に手首と手の甲の間を走らせ撃ち抜いた。
   そのまま、糸の切れた人形の様に男は膝から崩れ落ちていく。
   脳震盪を起こさせたのだ、意識があっても暫くは自由に体は動かせない。 

「いぁぁ~」

    苦悶する悲鳴が聞こえ、暁は視線を向けると西端は両手をダラりと下げながら膝を床に着けている。
   そんな西端を見下ろしながら岩倉は面倒そうに首をグルグルと回しながらゆっくりと藤の方を睨みつけた。

「使えねぇ~なぁ~、デコスケぐらいさっさとやれよ」

    岩倉はそう言いながら膝立ちになってる西端の無防備な顔面に向かい下から上げる蹴りを振り抜くとその足でそのまま藤に迫ってきた。

   暁は、そんな岩倉と藤の間に立ったが岩倉はそんな暁に目もくれずに歩を止めることなく迫ってくる。

   間合いが詰まり岩倉の体が沈む。
   来る!
   振り上げられた岩倉の右腕、狙いは首元。 
   軽く握られた拳には何も無い。
   躱して空振りさせてからその手を抑え込む。

   咄嗟の判断だった。
   体もそう動いていた、筈だった。

「ダメ、カワスナ、ウケテ」

   昼間に星見が口走っていた言葉を思い出し、気づくと振り下ろされた岩倉の右手首を左肘で受け止めていた。

    一瞬、岩倉が妙な表情になったのを感じた。
   しかし、直ぐに切り替え、岩倉はその場で体を捻ると伸ばした腕を暁の左肘を撫でる様に引いた。

   その動きに暁も咄嗟に肘を下げながら後方にステップを踏み、岩倉との距離を取った。
   冷たく鋭い激痛が走り出す。
   最初は気のせいかと堪えたがその痛みは徐々に酷くなっているのがわかった。
   まるでナイフで切りつけられた様に焼ける様な痛みが走り、痺れが腕を支配していく。

   切られたのか?
   暁は、痛みから腕を一瞥をするが血塗れの腕もなく服すら切られていなかった。

「なんだ、やっぱり見えてないのか~」

   そんな暁を見ながら岩倉が気だるそうに言った。

「何を…した?」

   痛みを堪えながら暁が聞くと岩倉は笑いながら肩を竦めた。

「切ったんだよ?」

   切った?
   岩倉は、何を言っているのか暁は理解出来なかった。
   たが、その言葉を肯定する様に腕からは激痛が走り続けていた。

「まぁ~今は痛いだろうけど、大丈夫もうそろそろしたら、凍りついて動かなくなるから~」

   その言葉を待っていたかの様に寒気が背中を走り、激痛を走らせていた腕から痛みが無くなり、その代わりに全身に走る冷気と共に異様に重くなった腕にバランスを崩し膝を着いてしまった。

   突然起きる出来事の連発に暁の思考は遂に停止しまい、気づくと恐怖から体が震えていた。

   そんな暁の心情を手に取る様にわかっているのか岩倉が歪んだ笑顔をしながら見下ろしていた。
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