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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199905《氷の刃》

交差点 2

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   金属が擦れる音に自然と暁と本郷の意識が鋭いモノへと変化する。

   奥の部屋のドアが開き、2人の男が少し周りを伺いながら部屋を出てきた。
   だから直ぐに目が合った。
   金髪の坊主の青年と黒髪の青年、どちらもが青いジャージを羽織り、そして着ていた。

   青はアイスバーンキャッスルのチームカラーだ。

   金髪の青年の表情が驚きで歪む。
   その視線の先は暁から少しだけ右側、本郷の方へ向けられていた。

   間違いない、本郷の顔は向こうにバレているんだ。
   刻生会の誰かが情報として渡していたのかどうかまではわからない、だがこの時点で本郷の面が割れているとすれば昨日の一斉取り締まりもバレていた可能性がかなり高い事を教えた。

   本郷もそれがわかったのだろう、金髪の青年の表情を確認すると「よぉ、昨日は世話になったな」っと一言呟いた。

   それが全ての合図だった。
   金髪の青年は、慌てて部屋に戻ろうとしたが開いたドアに居るのは黒髪の青年、それもこの事態に未だに一切気づいてない彼は、なんの反応も出来ずに踵を返し自分に向かってくる金髪の青年とぶつかり合っていた。

   その隙に暁は、素早くドアの前に行くと一気に蹴り、そのまま体でドアと共に黒髪の青年を抑え込んだ。
   黒髪の青年がドアに挟まれ苦痛の悲鳴をあげる、暁の視線はすぐ近くにいる金髪の青年へ向けられ、金髪の青年もまたドアを抑える暁を見ると右手がゆらりと動いた。
   両手は空いている、だけどドアを抑えているのを考えると避ける事はしない方がいい。
   受けるか捌くか、暁は咄嗟にそう判断しながら両手を腰上まで持っていく、しかし金髪の青年の右手は暁に向かい放たれる事はなかった。

   それよりも早く本郷の前蹴りが金髪の青年の脇腹を蹴り上げていた。
   体を橫にくの字に曲げながら倒れる体を寸前で踏み留まった金髪の青年だったが、本郷はその隙を見逃すことなく、空いた右手を絡め取り背中に回すとそのまま体前を壁に押し付けて抑えた。

「住居不法侵入、器物破損、それと、窃盗罪かな?」

   本郷は罪状を言いながら壁に押さえつけられながらも暴れる青年を片手で軽々しく抑え、空いた手でポケットを漁り服のポケットから透明なビニール袋の束を取り上げた。

「なんだよ!知らねぇよ!そんなの!?」

   金髪の青年が尚も抵抗するが本郷は揺るがない。

「知らない?知らないって言ったな?じゃあ指紋採らせてもらうぞ?このビニール袋からお前の指紋が出たら、わかってんだよなぁ!?あぁ!?」

   尚の追加の一言と一喝に少しづつ抵抗する青年の力が弱まっていくのがわかった。

「それにこれ?薬物だな、大麻か?指紋が出たらいよいよ大変だな?おい?」

   本郷の言葉に青年の体が抵抗とは、違う恐怖による震えが起き始める。

   暁はそんな2人の様子を見ながらドアで押さえつけている黒髪の青年の顔を見ると明らかに顔は青ざめ、目を虚ろに泳がせていた。

   次に暁の耳に届いたのは、建物中に鳴り響く騒がしい足音で、出処に視線を向けると10名の刑事達が物音を聞き付けてアパートに突入してくる姿だった。

   彼等が囲む頃には、青年達は抵抗する気を微塵も無くしたのか手錠をはめられる前から既に大人しくなっていた。
   刑事達は、青年達を取り押さえアパートから出るとタイミングよく応援のパトカーが到着し彼等をそれぞれのパトカーに乗せて取り調べと荷物検査を始めた。

「大浦班長!これ!!」

   取り調べを部下達に任せてた暁と本郷が一服をしていると黒髪の青年の取り調べをしていた吉原が慌ててパトカーから飛び出してきた。
   手には、1枚の写真が握り締められていた。
   写真に映るのは、隠し撮りをされた1人の黒髪の女子高生だった。
   暁は、その顔が一瞬誰だかわからなかったが直ぐに以前見た写真と繋がった。

「これ、藤 恵未!」

   暁がそう聞いて確認すると吉原がゆっくりと頷いた。

「これ以外にあと何持ってた?」

「あとは、薬物のパケぐらいですね」

   暁は、吸っていたタバコを投げ捨て吉原から写真を奪うとパトカーの後部座席に座る黒髪の青年に詰め寄った。

「この子の写真をなんで持ってる?」

   黒髪の青年は怯えた表情で暁を一瞥すると視線を下げた。
   暁は、直ぐに胸ぐらを掴むと顔を向かせてその眼を合わせた。

「なぜ、この子の写真を持ってる?」

   そう再度聞くと黒髪の青年は視線をずらせないまま唇を震わせていた。

「岩倉…さんに…その写真を…取ってこい…って言われたから…」

「つまり、これは竹田の部屋にあったもんなんだな?」

   小刻みに震えながら黒髪の青年は頷いた。

「岩倉はなぜ、この写真を撮って来いっていった?」

「…今日…襲う…から…みんなに…わかる様にする為に…写真を持ってるのは…竹田だけだから…って言われて…」

   黒髪の青年の言葉に暁の形相が鬼の様になった。

「どこで!?いつ襲う!?」

   暁の語気の荒い言葉に黒髪の青年の肩がビクつきながら揺れた。

「今日…学校…終わってからって…」

「集合場所はどこだ!?」

「…学校前に…4時…」

   それだけ聞くと暁は、胸倉を掴んでいた手を乱暴に解き、パトカーを降りて外で様子を見ていた本郷の元に駆け寄っていった。

「どうした?」

   近づいてくる暁に本郷が問うと暁はひと息つきながら本郷に藤の写真を見せながら今聞いた話を伝えた。

「岩倉が彼女を?また何の為に?」

   事件の概要と大まなかな経緯を聞いた本郷は岩倉の行動に首を傾げた。

「わかりません、だけど、もしかしたら彼女を襲ったのは岩倉に命じられた竹田かもしれません」

「その根拠は?」

「警棒です、あの部屋にあった3段ロッド、被害者は硬い棒状の物で頭部を殴打されてます」

    本郷は、顎を擦りながら何かを吟味するとその場にいる全刑事を呼び寄せた。

「大浦班、この子を知っているな、情報をくれ」

   本郷は、写真を見せながらそう言うと刑事達の目が班長である暁に集中した。

「彼女は藤恵未17歳、近所にある白硝子高等学校に通う高校2年生です、今から4日前に帰り途中、何者かに頭部を殴られる襲撃にあいましたが幸い命に別状もなく、頭を数針縫う程度の怪我で入院すること無く、その日に家に帰っています」

「入院してないとなると、体調如何では学校に通ってる可能性があるんだな」

「おそらく、まだ確認は取れてません」

   暁は、そう言うと満永に視線を向けた。
   満永はその視線が何かを察したのか頷くと携帯を取りだし電話を掛けながら一人で離れていった。

「さっき、被疑者がウタった情報によると、藤は岩倉達に狙わているのがわかった。今日16時に学校に集合するとの事だ」

   本郷の言葉に1人の強面の坊主頭の刑事が手を挙げた。

「昨日と同じ様にブラフの可能性は無いんでしょうか?」

「可能性的は0じゃない。だが、賭けてみる価値はある。ただでさえこっちは昨日空振りの上に1人の大事な仲間を殺られた…多少なり爪痕残してやろうと思わねぇか?」

   本郷の言葉に本郷班の刑事達に殺気にも似た覇気が生まれた。

「藤は、今日から学校に言ってます、確認取れました」

   満永が駆け足で戻りながらそう言うと全員の視線が本郷と暁に集中した。

「これから、我々は聴取の為に藤恵未の保護に入る。全員、白硝子高等学校周辺に向かい、警邏に入れ、怪しいヤツには職質、物持ってたらジャンジャン引っ張れ!」

   本郷の言葉に咆哮にも近い返事を全刑事が一斉に返した。
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