黄泉返りの勇者。

亀様仏様

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神託の儀

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僕達は今、異世界である【ユグドラ】に来ています。来ていますというのは語弊があるので言い直します。僕達は【ユグドラ】という異世界に強制的に来させられました。
さてこれからの事なんだけど、僕達は一体どうなるんだろう?そんな不安に駆られていると猛然と一人の男子生徒がハイエルフの老人に掴み掛かって行った。

「おいっ!ジジイっ!ふざけんなよっ!さっさと俺達を元の場所に帰しやがれっ!」

ハイエルフの老人の胸ぐらを掴み凄んでいる男子生徒、井伊君です。あっ!1つ歳が上だから井伊さんかな?まぁどっちでも良いか。
ヤンキーの井伊君に胸ぐらを掴まれてもハイエルフの老人は全くと言っていい程動じていなかった。

「ホッホッホッ。若くて威勢が良いのは勇者候補としては良い事ですな。ですが老人にはもう少し敬意を持って接してくれると有り難いですなぁ。そうは思いませんか?勇者候補殿、のう?」

そうハイエルフの老人が言うと先程迄の穏やかな表情とは違い殺意すら孕んだ鋭い眼差しで井伊君を見つめた。すると、井伊君はウッとまるで蛇に睨まれた蛙の様に体を硬直させ動けずにいた。
ハイエルフの老人は胸ぐらを掴まれた腕をそっと外し井伊君の肩をポンポンと叩いた後、まるで何事もなかったかの様に穏やかな表情へと戻っていた。井伊君は俯いたままその場から動けずにいた。
きっとこのじいさんハイエルフの中でも歴戦の猛者か何かなんだろう。貫禄が違う。流石にただのヤンキーである井伊君など相手にすらならないんだろうな。一睨みで黙らせるんだから。

「さてこれから勇者候補の方々には【神託の儀】を受けて頂きたく思います。この【神託の儀】にて各々スキルを修得して頂きます。」

【神託の儀】?スキルの修得?本当に此処はお伽話やゲームに出てくる異世界なんだと改めて実感させられるな。寧ろ痛感と言っても良い位だ。

そんな事を考えていると、松平君が挙手をしている。

「何ですかな?勇者候補殿。」

「この【神託の儀】という儀式を受けてスキルを修得するという事は理解出来るのですが、何故受ける、修得する必要があるのでしょうか?」

確かに言われてみればそうだ。良くあるゲーム、ライトノベルの話だと普通異世界に召喚された時点で何かしらの特殊能力若しくはチート能力が備わっていても不思議じゃない。それともこの儀式を受ける事によってチート能力が発動するのかな。そう考えるとちょっとワクワクしてきたぞ。

するとそんな期待に胸を踊らせている僕の思いとは裏腹にハイエルフじいさんの言葉はその期待すらもぶち壊す発言だった。

「少し説明が不足しておりましたな。今、勇者候補の方々がこのまま【神託の儀】を受けず、スキルも修得しないまま出ますと死ぬからです。異界からこの【ユグドラ】に来て頂いたといっても今のままでは普通の人間に比べて少し強い程度の強さしか無いのです。とは言っても誤解為さらないで頂きたいのですが、あくまでも今のままならと言っておるのです。それでも異界の方々はこの世界の人間に比べれば強いです。ですが、この【神託の儀】を受けてスキルを修得する事によって更に強く、この世界を破滅へと脅かす魔者を倒す力が手に入るのです。」

ハイエルフじいさんは力説している。けれど、何もしないままだと死ぬなんて随分穏やかじゃないな。安易に死にたくなければ儀式を受けろと言ってる様なもんじゃなかろうか?
言い方優しいけど強制してるみたいな?感じ。

皆もそこに気付いているのか怪訝な顔をしている。

「分かりました。どちらにせよ今現段階で元の世界へと帰れないのであれば、何もしないままでいるよりはマシです。それに僕は死にたくない。元の世界へと帰る為には力が必要ですしね。」

松平君はそう言ってハイエルフじいさんの前へと進んだ。

「最初は僕から【神託の儀】を受けます。宜しくお願いします。」

「おぉっ!流石は勇者候補殿!では此方へ。」

ハイエルフじいさんは社殿の奥にある一際陽射しが射し込む場所へと松平君を誘導した。僕らは今いる場所から奥を覗き込もうとするが陽射しが強すぎて良く見えないでいた。奥は一体どうなっているのだろうか?

少し待つこと数分、社殿の奥から松平君が戻ってきた。その顔には笑みが溢れていた。戻ってきた松平君に皆思い思いの質問をした。

「ねぇねぇ!どうだった?どうだった?何か痛い事された?ウチ痛いのは嫌だなあ。」

「ど、どうでしたか?奥の様子は?どんな感じでした?」

「・・・・・・。」

「で?どんな感じよ?スキルってのは?何かスゲー物でも貰ったかよ?」

「そうだね。一辺には答えられないから1つずつ説明するよ。先ずは儀式だけど、全然痛くはないよ。こうスキルを授かる時頭の中にスッと入る感じかな?奥の様子はそうだね、言葉には言い表せられない位何か神聖な感じがするね。後はスキルだけど、これは教えられないな。僕らは勇者候補であると同時にライバルでもあるんだからおいそれと授かったスキルを教える訳にはいかないな。後は君達の番だよ。」

松平君はそう言うと柱に腕を組みながらもたれ掛かっている。
しかもドヤ顔で。どんだけ儀式受けただけでそこまで優越感に浸れるんだろう?

「良しっ!じゃあ次は俺が行くぜっ!さっきはあのジジイに俺とした事がびびっちまったが今度は負けねぇ!」

井伊君は指をポキポキと鳴らしながら意気揚々と奥へと進んで行った。もしもーしタイマンじゃないですよー?

最初に松平君が【神託の儀】を受けてから次に続けとばかりに井伊君・本多さん・榊原さん・酒井君の順に儀式を受けに行った。結局最後は僕一人だけとなった。僕は自分の心臓の鼓動が聴こえる位緊張していた。口の中は水分が抜けてカピカピしている。早く終らせて水が飲みたい。そういえば織田さんも何処かの場所で同じ様に儀式を受けているのだろうか?僕はそんなどうでも良いこと考えながら奥へと進んで行った。




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