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しおりを挟むこの手の話しは伝え方によってはだいぶ内容が変わってくる。
ザイダイバのときのように……
けれども今、話をしているのはマシュー陛下だ。
後世に伝えるために、きっかけとなった出来事が記録されている書物もあるはずだから……
限りなく事実に近い話が聞けるはずだ。
それなのにマシュー陛下から聞いた話しは……なんとも言えないような内容だった。
昔は……この国でも三つ子が生まれても喜ばれていたのだ。
今のように変わったのは王子による王の暗殺があったからだ、と。
そしてそれが三つ子の……三番目の王子が起こしたことらしいのだけれど……
内容はとても重く、そんなことで……とは言えないのだけれど……数百年の間に二度あったのだと言っていた。
数百年の間に二度…………たまたまなのか王位継承権が一番低い三番目の王子が起こしやすいことなのかはわからないけれど……
数百年の間に二度あったことのために…………
犠牲になった子供達は数百人ではすまないだろう。
「王の暗殺を成し遂げた王子は他の兄弟も手にかけ王の座についた。しかし……」
そこからがこの悲劇の始まりだった。
王となった三番目の王子に三つ子の王子が生まれる。
この……三番目の王子は自分と同じことをするかもしれない、と我が子に恐怖を覚えると王妃の制止を振切り殺すよう命じる。
確かに命を狙われるのは恐ろしいことだけれど……
そうなってしまうまでの過程があるのではないだろうか。
全て推測をすることしかないのだけれど、当時の王様は子供と向き合うことよりも危険な芽は摘んでしまおうと考えたのか。
そして王は残った二人の王子達が大きくなると、三つ子は不吉だ、もし生まれてしまったら必ず末の子は殺すようにと伝えた。
それでも王位を継いだ第一王子は自分に三つ子の王子が生まれても殺すようなことはしなかった。
愛妻家で家族を大切に思っていたらしい当時の王は王位継承順など関係なく王子達に愛情を注いでいたらしい。
ここで打ち止めになるはずだった……
先王の……父の言い付けを守らない兄をずっと許せなかった王弟が末の王子の暗殺を命じた。
「王弟は残った王子達に先王の教えを伝えた」
王子達の話しを聞いて自分の弟が我が子を殺したと悟った王は……
「兄弟で殺し合いをしたのだ……そして残された王子達は先王の言い残したことを守っていたらこんなことにはならなかったと……そう思ったそうだ」
王家の醜聞と三つ子は不吉だという話しは国内に知れ渡り……
そんなときに飢饉や自然災害が重なるとあっという間に国民の間にも広まってしまう。口減らしの体のいい言い訳として。
国民を守る立場の王族がこの風習の元凶であり国全体に広めてしまったということか。
国民が口減らしをするほど飢えてしまう前に……他国に頭を下げてでも……国民を守ることはできなかったのだろうか。
いや……私が考えて思い付くようなことはしていたかもしれない……どうしようもなかったのかもしれない。
当時は飢饉というどうしようもない状況があったけれど、今は?
王族は国民とは違う理由で続けているこの悪習を飢饉を乗り越えた国民が同じように続けていることを放置した。
三番目は不吉、この考えがこの国に定着してしまったのだ。
歴代の王妃様の中にはこの考えに異を唱える方もいたらしいけれど王子と共に王の暗殺を企てるつもりかと、罰を与えられたり、三番目の王子と共に暗殺されてしまったりしたのだとか。
そんなこともあって国民の間にはさらに三つ子の三番目を生かしておくと罰が与えられるという噂まで付け加えられてしまったらしい。
それにしても……
「……王族はいいですね……」
「何?」
しまった……声に出してしまったのか……
そしてここにいるほとんどの人が王族だった……
皆さんこちらを見ている……ベゼドラの王様は怒っているようにも見えるような……
「……いえ、その……何でもないです」
だから怖い顔でこっちを見ないでっ
「いいや、今の話しを聞いて王族の何がいいのだ」
気のせいじゃないな……怒っているなこれは……
リアザイアの皆さんごめんなさい。
「……では、恐れながら申し上げます。命令をすれば実行をしてくれる人がいていいですね、と思っただけです」
皮肉に聞こえるようにしか言えない……
「何だと? お前のような小娘に何がわかる」
あなた……とシャーロット王妃様が小さな声で止めようとしてくれているけれどマシュー陛下は私から目を離さない。
「教えていただけますか。陛下は何をわかっていらっしゃるのか」
「このっ……お前にはわからないだろうな、常に命を狙われるこの気持ちが」
さっきの話の後にイシュマの前で言うかね……
しかもイシュマは別に陛下の命は狙っていないと思う。
やっぱり自分の立場からの話しかしないなこの人……
ケンカをしに来た訳ではないのに……
「自ら我が子を手にかける親の気持ちはわかるのですか」
まだ子もいない小娘が何を言うか、と鼻で笑うマシュー陛下。
シャーロット王妃様は口をつぐみ……顔色が悪い……大丈夫かな。
「人にしてもらうことと、自ら手を下すことの違いはわかりますか」
そんなことはわかっている、と……
「では、この悪習に国民が苦しんでいることもわかっていて何もしなかったということですか」
「民が勝手にやっていることだろう」
さっき自分で話していた内容を忘れてしまったのか……
父王の言葉に頭を抱えるジョシュア。
ところがため息をついたのはマシュー陛下。
「やはり三番目を生かしておくと面倒なことになるな」
は?
シャーロット王妃様が顔を上げマシュー陛下を見る。
けれどもマシュー陛下はシャーロット王妃様を見ない。
「陛下はその考えを改める気はないのですか」
罰則など無いことや、不吉な子などいないときちんと伝えて、人身売買などこの悪習による犯罪を取り締まらなければ一度広まってしまったことを変えることはなかなか難しい。
マシュー陛下の考えを聞いてみると
「バカバカしい。なぜお前にそのようなことを言われなければならない」
一体何なのだこの娘は、とリアザイアの王様に向かって迷惑そうに言う。
「マシュー殿、トーカは私達の家族だ。ノヴァルトの大切な人でいずれリアザイアの王妃となる方だと紹介したはずだが」
王様は諭すようにマシュー陛下に答えている。
……改めてそう言われるとプレッシャーが……
「シャーロット様はどう考えていらっしゃるのかしら」
王妃様が微笑みながら口を開く……もしかして怒ってくれている……?
「わ……私は」
「お前の我が儘を聞いてやったらこんなことになってしまったのだ、まったく……」
マシュー陛下がまたため息をつくとシャーロット王妃様は口をつぐむ。
「マシュー様はこんな風に考えたことはありませんか」
と、王妃様の表情は変わらず笑顔のまま……
「ベゼドラ王国はその考え方のせいで歩みを止めてしまっている、と」
なに? と王妃様を睨む。
マシュー陛下の鋭い視線を受けて王妃様は怯え……ていない……フフフッと微笑んでいる。
「わからないのでしょうねぇ」
微笑みから憐れみの表情に変わる。
マシュー陛下は……怒りで顔が真っ赤……
「では、イシュマ殿下はリアザイアへ連れていきます」
王妃様が宣言する。
私もそれしかないと思う。マシュー陛下の様子を見ているとおそらくこの話し合いが終わった後にイシュマを殺すよう命じるだろう。
「勝手なことを言わせないで欲しいのだが」
と息を吐き無理矢理落ち着いた様子を装い引きつった笑顔でリアザイアの王様へ視線を移す。
「すまないね、私は妻の言葉に賛成なのだよ」
すまない、というより王妃様と同じように憐れむような表情……
「それから、これから犠牲になるであろう子供達も我が国で生活が出来るよう整えてある」
穏やかに王様がそう話すと
「なっ何を勝手なことを!」
再び怒り心頭……そんなマシュー陛下を無視して
「シャーロット様……シャーロット」
王妃さまが優しく微笑む。
シャーロット王妃様が顔を上げる……その目には涙が……
「あの時は力になってあげられなくてごめんなさい」
王妃様がそう言うと
シャーロット王妃様の目からポロポロと涙が溢れ出す……
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