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 私が曖昧に伝えた方向にパカパカとグリアが進んで行く。


ウトウトしながらも落ちないように掴まり、しばらく揺られているとグリアが立ち止まり膝を折る。

「ニャーン」

三毛猫さん……?
重い目蓋を開けて顔を上げると三毛猫さんがグリアと鼻先を当ててご挨拶をしている……可愛いんですけど……

その奥にはイシュマの家……
グリア……ありがとう……

「トーカッ!」

イシュマが駆け寄ってくる。

「イシュマ……ただいま」

上手く笑えたかわからないけれど……イシュマが私をグリアから抱き上げて抱き締める。

「トーカッ……どこへ行っていたんだよ! 心配した……」

そう言って震えながら抱き締める腕に力が入る……泣いているの?

「イシュマ……置き手紙をしていたと思うのだけれど……」

イシュマが首を傾げる。

「手紙? どこにもなかったけれど……」

そんなはずは……確かにヨシュアが……ヨシュア……?

「トーカ、身体が冷えている。とりあえず家に入ろう」

イシュマが家へ向かって歩き出す前に少し待って、と言っておろしてもらいグリアを抱き締める。

「ありがとう、グリア」

そう言うとグリアは私にスリスリと顔を寄せてから来た道を戻って行った。カッコいい……そして賢い……

グリアを見送っているとイシュマが再び私を抱き上げる。

「イシュマ……歩けるから……」

イシュマの腕に力が入る。

「いいから」

そのまま歩き出すイシュマに諦めて身を任せる。
三毛猫さんも振り返りながらトコトコと先を歩いている……


目を開けるとベッドに寝ていた。
隣にはイシュマ……ではなく三毛猫さん。

あぁ……可愛い……

布団の中に三毛猫さんを引きずり込む。
少し驚いた後は無抵抗で私に抱き締められる三毛猫さん。
なんだか凄く久しぶりな気がする。

「三毛猫さーん」

モフリモフリとモフリ倒す。
聞いて欲しいことがたくさんあるんだよぉーと三毛猫さんと布団の中でイチャイチャしているとノックがしてドアが開く音がした。

「トーカ、起きたね」

布団から顔を出すとイシュマが食事を持って部屋に入ってきた。

「イシュマ、私どれくらい寝ていた?」

美味しそうな匂いに私のお腹が鳴る。
起き上がりながらそう聞くと

「半日くらいかな、帰って来てくれて良かった……」

食事をサイドテーブルに置いて私を抱き締める。

「もう勝手にいなくならないで……」

相変わらずの距離感……心配かけちゃったね……
私もちょっと行って帰ってくるつもりだったのだけれど……

「ミケネコサンがいるから戻ってくるとは思っていたけれど何かあって帰って来られないんじゃないかと……」

何かあったんですよ……

「どこに行っていたの?」

手紙はなかったとイシュマは言っていた……

「……お城を見に行きたくて……」

「城へ行ったの?」

なんとなくヨシュアにされたことを言えない……

「道に迷って……」

この髪と瞳の色でお城に行ったとも言えない……

「迷っていたらグ……あの馬が助けてくれた……」

む……無理があるかっ……

「……そうか、僕のところに戻って来てくれて良かった」

そう言って私の髪に指を通しながら微笑む……あまり突っ込まれなくて良かった。

さぁ、食事にしよう、そう言って椅子に座りスプーンでスープをすくい私の口に運ぶ……

え……と……

「自分で食べられるから……」

「トーカのことは僕がするから」

……最近そっくりな人から同じようなことを言われたような……

三毛猫さんを撫でる。
毛並みもいいしお腹を空かせている様子もない。

「イシュマ、三毛猫さんのお世話をちゃんとしてくれてありがとう」

少し照れながら

「トーカがしていたことをしただけだよ」

三毛猫さんもニャー、とお礼を言っているよう。

その流れでイシュマからスプーンを受け取ろうと手を伸ばすけれど避けられた。

「食べて」

ニコリと微笑み再びスプーンを口元に……
仕方がない……口を開けて食べさせてもらう。

「食べたらもう少し休んでいて、今日は何もしなくていいから」

たくさん寝たしもう動けるけれど……せっかくだから甘えさせてもらって三毛猫さんとゴロゴロ……いや、これからどうするか考えないと。

ご飯を全て食べさせてもらってありがとう、とお礼を言うとイシュマは食器を持って部屋を出ていった。

ガチャッ

ん? なにか音がしたね、三毛猫さん。
ここで違和感を覚えて部屋を見回す。
特に変わったところは…………なんだろう?

とりあえず窓を開けて空気を入れ替えようかな、と窓に手を掛けて開け…………鉄……ではないけれど木の……格子?

新しく付けられている。開けられるのかなこれ……
イシュマに開け方を教えてもらおうとドアノブに手を掛けて開け…………あ……開かない。

ドンドンとドアを叩いてイシュマーッ、と呼ぶとガチャッと音がしてからドアが開く。

「どうしたの?」

いつも通りのイシュマ…………どうしたの? じゃなくて……ドア開ける前に一手間増えているよね!?

説明お願いします。

「なんか……窓を開けようとしたら格子が……ドアも開かなかったのだけれど……」

あぁ……とイシュマはなんでもなさそうに

「格子は打ち付けてあるしドアには鍵を付けたからね」

な…………

「なんで外側?……」

確かに鍵が欲しいとは言ったけれど……これでは私が鍵を掛けられない。

「トーカがいなくなってしまって……考えたんだ」

これを……?

「トーカがどこにいたかはもういいんだ、僕のところに帰って来たからね。これからいなくならないようにするためにどうしたらいいか考えたんだよ」

だからどこにいたのかあまり詳しく聞かれなかったのか……

「これで僕がいない間にトーカを連れていかれることもない」

少しはにかみながらそう言うイシュマは可愛い…………くはない、やっていることが……

……ヨシュアが来たことを知っているのかな……

「で……でもこの部屋お風呂もトイレもないよ」

どうするつもりだろう……

「僕がいる間は部屋のドアの鍵は掛けないようにするよ」

なるべく一緒にいるし、と。
ほう……これは案外簡単に外に出られるかも。

「トーカ、お風呂に入る?」

トーカじゃない匂いがする……って……あのお香の匂いが残っているのかな? ヒールをかけるのに必死でクリーンをかけていなかった……
後で魔法もちゃんと使えるか確認しておかないと。

落ち着いて一旦お風呂に入ろうかな、服も着替えたいし。

「うん、そうさせてもらおうかな」

それじゃぁ準備してくるから着替えを持って来てね、と言って部屋を出ていくイシュマ……

そっとドアを開けて部屋の外の鍵を確認する。
……結構しっかりした鍵だった……

気を取り直して……とりあえずお風呂に入ろうと、お風呂場へ向かう。

リビングの窓にも格子が……一応他の部屋も確認すると全ての窓に取り付けられていた。

一階をウロウロとしていると

「トーカ、お風呂はこっちだよ」

忘れちゃったの? と笑いながらおいで、と言う。
本気かな……? 私を外に出さない気? 

考えながら脱衣所に入りドアを閉めボタンに手を掛ける。

「まだ体調が心配だから一緒に入るよ」

驚いて振り向くとイシュマがいる……危ない……気付かずに服を脱ぐところだった……

「大丈夫、それよりもお風呂上がりのお茶を用意してくれると嬉しいな」

ニッコリと微笑みお願いをする。

「そう……か、トーカが喜ぶなら……」

少し戸惑いながらも出ていってくれた。

動揺を見せずにお願い事をする、これはいい方法かもしれない。
でも何度も同じ手は使えない……イシュマも慣れてくるだろうから……

とりあえずお風呂場の窓も確認すると……そんなに大きくないこの窓にもしっかり取り付けられていた。

意外と抜け目がないな……イシュマ。
こうなると二階も確認したくなってくる……後で行ってみよう。

お風呂に入る前にクリーンを使う。

ちゃんと使える……良かった。
ホッとしてお湯をかぶってから湯船に浸かる。

お風呂から出て一人になったらゲートをベゼドラのお城のノバルトの部屋と繋ごう。

また突然いなくなって心配しているかも……

そう思うと早くノバルトに会いたくなってしまい……


いつもよりも早くお風呂から出てイシュマのいるリビングへ向かった。

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