229 / 251
229
しおりを挟む二人が驚いてどこか痛いのかと聞いてくる。
「ちが……違うの……誰も私のことを……責めないから……」
みんな……みんなにこんなに迷惑をかけているのに……ごめんなさい、と言うと二人はホッとしたように
「トーカが悪いわけではないのだから責めるわけがないよ」
オリバー…………
「コントロールができない力があるのだろう? 兄上から聞いた。トーカも怖かっただろう」
そう言って私をそっと抱きしめるノクト。
その言葉にまた涙が溢れて大泣きしてしまった。
涙も鼻水もノクトの服に染み込ませ、泣きすぎて真っ赤になった私の目をみてオリバーが絞ったタオルを持ってきてくれた。
有り難くタオルを使わせてもらいながらヒールも使う。
ノクトの服にはクリーンもかけて綺麗にしておく。
大丈夫か? と二人に心配された。
「何があったかゆっくり聞かせてもらいたいが、これから騎士団の試合があるから終わるまで待っていてくれるか」
私もゆっくり話したい。あれ? イシュマのことは話していいのかな? 秘密なんだよね? 私が話したらまずいことになるのでは……?
とりあえず
「実は今ヨシュアの部屋に匿ってもらっていて……黙って抜け出してきたからヨシュアが戻ってくる前に部屋にもどらないと……」
絶句する二人……
「ヨシュア殿の部屋に……」
「トーカ……何もされてない……?」
ノクトが呟きオリバーが恐る恐る聞いてくる。
「されてないっ、大丈夫だよ。部屋も奥の部屋で別々だし……ヨシュアは紳士的だ……よ?」
なぜか言っていて自信が……いや、失礼だよね……あれは私が勝手にみた夢だし……
「紳士的……ねぇ……」
ノクトの視線が厳しい……
「騎士団の試合は両国の王子も見るからな、試合が終わるまでは戻らないだろう」
ひとまず
「トーカを兄上付きの従者ということにするから、近くにいる間兄上と話せる時間があるようなら話して欲しい」
ノクトもオリバーも試合に出るらしい。
制服も用意するから着替えてくれ、と用意されたのはやっぱり男性用の……サイズあったんだ。
こちらで着替えてくれ、と隣の寝室に案内された。ここはノクトの部屋らしい。
ありがとう、と言いドアを閉めて着替えをする。
ノバルト……驚くかな……
着替えて髪も整えてから少しカッコつけてドアを開けると
「トーカ、可愛い……」
オリバー、私今男性の格好をしてカッコいいのだけれど……
「髪と瞳の色も大丈夫だな、では兄上の所へ行くぞ」
カッコつけスルーはされた……まぁ私もまだまだということか……
部屋を出て少し歩くとノクトが立ち止まる。
そうか、ノバルトとノクトの部屋は近いのか。
なぜか少し緊張する……
ノックをすると中からノバルトの従者がドアを開けてくれた。
私達を確認すると中へどうぞ、と通してくれてお茶の準備を始める。
私も手伝おうと声をかけようとするとノクトにノアはこっちだ、とノバルトの元へ……
街で一度会っているのになんだか恥ずかしい……
ノバルトがこちらを見て微笑む。
それだけで顔が熱くなる……
ノクト達のお茶をいれてくれた従者をノバルトが下がらせて私達だけになる。
「トウカも座って」
ノバルトが私をソファーに座らせてお茶をいれてくれる。
従者の格好をした私が王子様にお茶を……不思議な光景だ、と他人事のように思うのは緊張しているからか……
「兄上、我々は試合の準備もあるからもう行くけれど、その前に少しいいかな」
とノクトが立ち上がり離れたところで何か話している。
その間にオリバーに
「トーカ、ミケネコサンも一緒にいるの?」
と聞かれて
「うん、…………」
イシュマのところにいるよ、と言いそうになる。
危ない……とりあえずイシュマのことは黙っておこう。
私のように口封じの対象になってしまう……
「今は部屋にいるけれど、一緒だよ」
と言っておく。
「そうか、ミケネコサンにも会いたいなぁ」
と言うオリバーに罪悪感を感じてしまい思わず立ち上がりオリバーの頭を撫でる。
「三毛猫さんの心配もしてくれてありがとう」
元気だからね、と伝える。
オリバーは嬉しそうに目を細めて微笑む。
「オリバー、そろそろ行こう」
ノクトがそう言うとオリバーが立ち上がり私の頭を撫でる。
行ってくる、と言う二人に行ってらっしゃい、と言い見送ると部屋にはノバルトと私の二人……
ソファーに座るとノバルトも隣に座る。
ノバルトのいれてくれたお茶を一口飲むとノバルトが口を開く。
「トウカ、今回は私の従者になってくれるのだね」
こ、これは……
「思いがけずそうなっちゃった……」
そんなつもりはなかったのよ……
クスクスと笑うノバルト。
私の短くした髪に触れ
「街で一緒にいた彼は三人目の王子、イシュマ殿だね」
「うん……!? イシュマのことを知っているの?」
誰も知らないはずでは……?
ノバルトが少し困ったような表情であぁ、と言い
「実はこの国の王子達が生まれたとき、母上に……」
とことの経緯を説明してくれた。
リアザイアの王妃様は知っていたのか……
「だから、この秘密を知っているのはトウカだけではないよ」
……そうか……私を安心させようと話してくれたんだ……
「ありがとう、ノバルト」
嬉しくてそう微笑むと
「トウカ、好きだよ」
突然の告白っ……あまりのことに笑顔のまま赤面する私……
「何度も何度も伝えようとしたのだけれどその度に何か起こってしまうからね、伝えたい時に伝えることにした」
と真っ直ぐこちらを見て
「愛している」
ノバルトも少しだけ頬を染めて、少しだけ緊張しているように見える。
真剣に思いを伝えてくれている……私も照れている場合ではない。
「私も……愛しています」
やっぱり恥ずかしいっ……顔が熱いっ
でも……伝えられた…………
「トウカ」
嬉しいよ、と本当に嬉しそうに……幼く見えるくらいのノバルトの笑顔にキュンとしてしまい……
チュッと…………あ……私からキスをしてしまった……
ノバルトは……驚きの表情から頬を染め
「本当に……トウカの行動だけは予測不能だな」
と私の頬に手を添えて今度はノバルトからキスを……
触れた唇からジワリと熱が全身に広がるような感覚……
口付けは深いものにかわりお互いがお互いを求めているのがわかる……
唇を離し見つめ合い微笑む。
ノバルトが私を抱きしめてありがとう、と言う。
私の方こそたくさん伝えたいありがとうがある。
ノックが聞こえて
「そろそろ会場へお願いします」
とノバルトの本物の従者の男性が知らせてくれた。
試合会場には王族席があるようでそこで両国の王子が試合観戦をするらしい。
両国の王子!? 思わずノバルトを見る。
ジョシュアとヨシュアもいるってこと?
そんなに近くにいて大丈夫かな……
変装は完璧だし……大丈夫か……
ノバルトが微笑み大丈夫、と言うように頷く。
そうだよね、あまり他国の従者のことまで気にしないよね。
それからノバルトが従者の男性と少し話をしてから三人で会場に向かった。
歩きながらさっきのことを思い出してしまい頬が緩む。
ノバルトから伝えられたこと、私から伝えたこと。
同じ気持ちだった事が嬉しい。
呑気にそんなことを考えていると王族席のある場所に着く。
ジョシュアとヨシュアが先に来ていて立ち上がりノバルトと挨拶を交わしている。
みんなが席に着くと
「それではよろしくお願いいたします」
と言いノバルトの従者の男性がいなくなる……
え……行っちゃうの……?
ノバルトがチラリとこちらを見て微笑む。
どうやらさっき部屋で彼に今日は私に付いてもらうと伝えていたらしい。
私も満面の笑みを返しそうになるけれども気を引き締めて従者の仕事に集中する。
なるほど、常に少し後ろに控えている従者の顔を見られることはほとんどない、これなら安心。
ホッとしていると一際大きな歓声が聞こえて試合をするそれぞれの国の騎士達が入場してくる。
そこにノクトとオリバーの姿も確認できた。
1
お気に入りに追加
1,173
あなたにおすすめの小説
異世界は黒猫と共に
小笠原慎二
ファンタジー
我が家のニャイドル黒猫のクロと、異世界に迷い込んだ八重子。
「チート能力もらってないんだけど」と呟く彼女の腕には、その存在が既にチートになっている黒猫のクロが。クロに助けられながらなんとか異世界を生き抜いていく。
ペガサス、グリフォン、妖精が従魔になり、紆余曲折を経て、ドラゴンまでも従魔に。途中で獣人少女奴隷も仲間になったりして、本人はのほほんとしながら異世界生活を満喫する。
自称猫の奴隷作者が贈る、猫ラブ異世界物語。
猫好きは必見、猫はちょっとという人も、読み終わったら猫好きになれる(と思う)お話。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
ある日仕事帰りに神様の手違いがあったが無事に転移させて貰いました。
いくみ
ファンタジー
寝てたら起こされて目を開けたら知らない場所で神様??が、君は死んだと告げられる。そして神様が、管理する世界(マジョル)に転生か転移しないかと提案され、キターファンタジーとガッツポーズする。
成宮暁彦は独身、サラリーマンだった
アラサー間近パットしない容姿で、プチオタ、完全独り身爆走中。そんな暁彦が神様に願ったのは、あり得ない位のチートの数々、神様に無理難題を言い困らせ
スキルやらetcを貰い転移し、冒険しながらスローライフを目指して楽しく暮らす場を探すお話になると?思います。
なにぶん、素人が書くお話なので
疑問やら、文章が読みにくいかも知れませんが、暖かい目でお読み頂けたらと思います。
あと、とりあえずR15指定にさせて頂きます。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる