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 ゴクリ…………思わずそう言ってしまった……


「ジョシュア兄上のこと?」

なんで?

「ち、違うよ」

「じゃぁヨシュア兄上?」

「違うけど……」

「じゃあ誰?」

……なんか言いたくない……けれど適当な名前を言ってイシュマの知り合いに同じ名前の人がいたらと思うとそれもできない……

「それは…………」

ギシッ……とベッドがきしむ……

「本当はそんな人……いないんじゃないか」

イシュマがベッドに乗り近づいてくる……
急いでベッドから降りようとするけれど跨がられてしまった……後ろにも下がれない……

「イ……イシュマ……」

イシュマの胸に両手を当てて押し返すけれど……びくともしない……

「トーカ……可愛い……」

そう言ってイシュマの胸に当てた私の両手に……指を絡めて私がもたれていた壁に……

バンザイお手上げ状態だ……やっぱり力では勝てないのよ……結界も試したけれど張れなかった……

そんなことを考えている間に唇が触れそうなほど近づいてくるイシュマ。

「イシュマっ……だめっ」

顔をそらすと首筋に吸い付かれる……

「ンッ……やめて……お願いだから」

「トーカ……家族になろう」

首元で喋らないでっ…………ん? 家族?

「イシュマ……私、好きな人がいるの」

さっきも言ったけれど……

「名前も言えないようなヤツのことなんか忘れさせてあげるから」

今度こそキスをされてしまうっ……

「ノッ……ノバルト!」

こんな状況だから仕方がないと思いたいけれど……言ってしまった後の後悔がなんかすごい……

「ノバルト?」

イシュマの動きが止まる。
少し考えてから

「ノヴァルト殿? リアザイアの第一王子の?」

そうか……と何か納得したように呟くイシュマ。

「トーカはリアザイアから来たんだね。ノヴァルト殿の事を知っているの?」

手を離してくれないかな……

「あの……知っているというか……うん……いろいろとお世話になっている……」

イシュマの手に力が入る……

「トーカは……ノヴァルト殿と会ったらどうするの?」

い、痛い……手が……

実はイシュマと一緒に街でもう会っている……けれども言わない方がよさそう……

なんて答えるのがいいのか……

「イシュマ……手を離して、痛いよ……」

イシュマがハッとして

「ごめん……」

と素直に手を離してくれる。こういうところがあるから怒るに怒れない。

「病み上がりなのにごめん。話はまた後でしよう。お腹は空いている?」

病んではいない……ただいつもより長く寝ていただけだけれど……いつものイシュマに戻ってホッとする。

「お腹空いた」

そう言うとわかった、少し待っていて、と部屋を出るイシュマ。

ふぅ…………

「……三毛猫さん……どうして助けてくれなかったのか……」

籠の中からこちらをみていた三毛猫さんに視線を移すと目をそらされた……

ベッドから出てジリジリと三毛猫さんに近づく。
三毛猫さんは寝た振りを決め込む。

「三毛猫さん……モフモフさせてもらうよ。いいよね?」

三毛猫さんを抱き上げてベッドへ戻り三毛猫さんのお腹に顔を埋めて……癒される…………

三毛猫さんはそれ、楽しいの? って顔で見てくるけれど抵抗はしない。

三毛猫さんのお腹をスー-ハー-しているとイシュマが食事を持って戻ってきて

「それ、楽しいの?」

と笑いながら聞いてくる。

た……楽しいっ……です。

イシュマが持ってきてくれた食事を頂きながら昨日の夜の事を聞かれるかと思ったけれど何も聞かれなかった。
ホッとしたような逆に怖いような……

それからイシュマがお茶もいれてくれて一息ついた時に、私が眠り続けている間に三毛猫さんのご飯も作ってくれたと聞いた。

私が作っていたのを見ていたから……と。
ありがとうとイシュマは何でもできるね、と言うと照れたように嬉しそうに微笑む。

私をベッドに残して後片付けまでしてくれて……きっとイシュマの恋人や結婚をする人は大切にされるんだろうなぁ……なんて事を思いながら三毛猫さんを撫でる。

今日はもう休もうと言って、寝るときはやっぱり一緒の布団に入ろうとしてきたけれど、病み上がりだから三毛猫さんと一緒に寝たい……とたくさんご飯を食べた後に弱々しくそう言うとわかったよ、と意外とあっさり引いてくれた。

よかったぁー……でも明日からどうしよう……

そんな不安を抱えつつ三毛猫さんを抱いてぐっすり眠った翌朝。

午前中、私の体調を確認した後イシュマはいつも通りエルを連れて湖へ出かけていった。

私は掃除をする前にクリーンを試してみたけれどできなかった。

なるほど……よくわからないけれど、もしあれが最後の魔法だったとしてもあのウサギの為に使えたのなら後悔はない。

あとはノシュカトに研究を頑張ってもらって私もできるだけお手伝いをしよう。

そう考えながら掃除をしていると

「トーカ」

ヨシュアが来た。

「ヨシュア、今日は一人で来たの?」

あぁ、と言い……私を見て少し……ムッとした……?

「昨日リアザイア王国の一行が到着したからな。さすがに二人一緒には抜けられなかった」

気のせいだったのかな……
それから外をチラリとみて

「エルがいなかった。イシュマが湖に連れて行っているんだな」

そうだよ、と私が言うと

「ちょうど良かった。俺と城に行こう」

うん……って……え!? 驚く私にニッと笑い

「行きたがっていただろう?」

行きたいけれど……それなら

「途中で湖に寄ってイシュマにお城へ行く事を伝えてから行こう?」

黙っていなくなると心配すると思うし……

「うーん……俺もあまり時間がないから置き手紙をしていくよ。トーカは準備をしていて」

そう言って階段を上がりイシュマの部屋へ行ってしまった。

準備と言われても行って帰って来るだけだから持っていくものもない。

ヨシュアが下りてきて行くぞ、と言い私の手を引く。
すごく急いでいるような……もしかしてジョシュアに内緒で抜け出してきたのかも……

外へ出てヨシュアの愛馬のエバに乗せてもらう。

「口を閉じていろよ」

あまり早いのはちょっと……と言う前に私の腰に腕を回して走り出してしまった。

早いっ……目も口も開けられない……

しばらくそうしているとスピードが落ちてゆっくりと目を開けるとお城が見えた……と思ったら目の前が真っ暗に……

「トーカ、少し我慢していてな」

と布でくるまれた。
そういえば変装とかしていなかったけれど……近くで見てすぐに帰るんだよね?

またしばらく進むとさらに速度が落ちたからモゾモゾと顔を出そうとすると

「まだそのままで」

と言われた。

またしばらく大人しくしていると完全に止まりエバからおろされて抱き上げられた……

「ヨシュア、周りが見えないのは怖いのだけれど……あと自分で歩けるよ?」

そう言うと

「シッ……大丈夫だからそのまま大人しくしていて」

と言われてしまった。でも……お城を見に来たのにこれでは何も見えない……

そう思っていると人とすれ違う気配や建物に入ったような音が聞こえた気がした。
くるまれた布が擦れる音でよく聞こえない……

ガチャ、と今度は近くでドアが開く音がする。
ガチャ、もう一度……どこだろう? 騎士団の寮とか? 
ガチャ、もう一回!?

どこまで進むのか。
外から見るだけだと思っていたから……

せめて街へ行った時のように男装でもしてきた方が良かったかも……その前に部外者を入れてしまって大丈夫なのか……

もし私が見つかってしまったらヨシュアが職を失ってしまうかもしれない……大人しくしていよう……

そう思っていると柔らかい何かの上に下ろされて……

「トーカ、もういいぞ」

そっと布を外されて目を細める。

ヨシュアの部屋かな、そう思って見回すけれど……なんだろう……なんとなく……女性の……それに思っていたよりも広い部屋……

「ここ……どこ? 誰の部屋……?」

混乱する私と……


優しく微笑み後ろ手にドアを閉めるヨシュア…………

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