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217 冬華 イシュマ

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ーー 冬華 ーー


 その日の夜……

イシュマが言っていた通り髪を乾かしてくれている。

……どうしよう……今日も一緒に寝るって言われるかな……
どうやってお断りしようか……

そんなことを考えている私の後ろからタオルで優しく髪を包んでくれているイシュマ……

とりあえずそういう話しにならないようにしよう。

「イシュマ、そろそろ私も街に連れていってもらえるかな」

イシュマは手を止めずに

「街に行って何をするの?」

何って……

「お祭りも行ってみたいし……いろいろ見て回りたい」

うーん、とイシュマが考えている……

「あと……可愛い服……とか欲しいかも……」

別に今は必要ないけれども言ってみる。

「可愛い服……」

イシュマの手が止まりそう呟く。

「そうだね、服も寝間着も兄上達が選んだものだし……僕が選んだものも着て欲しい」

そう言って再び手を動かす……選んで欲しいとは言っていないのだけれど……

ま……まぁ、行けるならいいか。

「それじゃぁ連れていってくれる?」

うん、といい

「ただ、僕もトーカも変装しなきゃいけないからもう少し待ってね」

そう言われてしまった。
なるべく早めにお願いします……

「もう少ししたら髪は乾くと思うよ。そしたら一緒に寝ようね」

私の髪を指ですきながらそういうイシュマ……
これは一度ちゃんと話をしないと。

「イシュマ、あのね」

きちんとイシュマと向かい合う。

「私達が一緒に寝るのはよくないと思う」

言えたっ

「どうして?」

イシュマ……

「イシュマも私も大人だし、恋人でもないからだよ」

納得してくれるかな……

「僕はトーカのことが好きだよ。トーカは僕のこと……嫌いなの?」

嫌いではないけれど

「恋人としての好きとは違うかな」

イシュマも一度ちゃんと考えてみた方がいいよ、と言うと

「もしかして……好きな人がいるの?」

イシュマの目が……すわっている……これは正直に答えたらどうなるかわからないな……

「い、いないけれど……」

記憶がない設定だし……

「覚えていないだけかもしれないし……だからやめて欲しいの」

どうかな……

「……兄上も一緒に寝ていた……」

「もちろん二人とも同じベッドで寝たりはしないよ」

ちゃんと同じように話すし……また泊まることがあるかはわからないけれど。

「……わかったよ。でも前みたいに僕が眠るまで側にいてくれる?」

それくらいなら

「うん。眠るまで側にいるよ」

ありがとう、と微笑むイシュマにホッとする私。
私の髪が乾いてから二人でイシュマの部屋へ行く。

イシュマが寝てから部屋に戻ってベッドに入る。
三毛猫さんもベッドに乗ってきたから布団に入れて一緒に眠る。


目を閉じて、ちゃんとイシュマと話してよかったと思った……


※※※※※※※※※※※※


ーー イシュマ ーー


 二日間、僕は城へ行っていた。

トーカと離れたくなかったけれど兄上達が念のため医者に診てもらうようにと僕の事を心配して言ってくれたから断れなかった。

それと、城の様子と街の様子も見ておくようにと。
万が一リアザイアの王族の滞在中に入れ替わることがあった場合に備えて。

リアザイアの王族が来ると先触れがきたときから母上の様子が少し変だと兄上達が言っていた。
僕は母上とは久しぶりに会ったし、よくわからなかったけれど二人がそういうのならきっとそうなのだろう。

城ではリアザイアの王族と騎士団を迎える準備でバタバタと落ち着かない感じだったし、街はこのお祭り騒ぎの間に商売をしようといろいろなところから商人もやってきていた。

活気があるのは良いことだと思うけれど、僕は早くトーカと二人だけの生活に戻りたかった。

ヨシュア兄上と僕の家に戻るとソファーでジョシュア兄上がトーカを抱きしめて寝ていた。
それを見て胸が苦しくなる……

トーカとジョシュア兄上……

僕はトーカに早く起きて欲しくて頬をつつくとゆっくりと目が開いた。
すると寝ていたふりをしていたジョシュア兄上も目を開ける。

トーカはこんな状況になった事を一生懸命説明してくれた。

今夜は僕が一緒に寝たいのに今度はヨシュア兄上と入れ替わることになった。

城から持ってきた荷物の中に、以前兄上達が持ってきてくれたような恋愛小説をさらに何冊か入れてきたから家にいる間に僕の部屋に持っていった。

トーカも恋愛小説は好きだろうか……今度一緒に読むのもいいかもしれない。
楽しみができて少しだけ胸が軽くなる。


今日はジョシュア兄上と城へ帰る。
城へ行くのはもう以前ほど楽しみではなくなったけれど帰ってからジョシュア兄上がリアザイアについていろいろと教えてくれた。

トーカを湖で見つけたときに着ていた服のポケットに入っていた巾着の中にはリアザイアに関するもの……

それも王族や騎士団長が持つ指輪やネックレス、植物研究の関係者が持つ腕輪が入っていた。

余程近しい間柄でなければ渡したりはしないだろう…………もしくは盗んだか……

そうジョシュア兄上が言っていた。

だから今回のリアザイアの王族の訪問はトーカと関係があるかもしれない……と。

今回ベゼドラに来るリアザイアの第一王子のノヴァルト殿は天才と言われているし第二王子のノクト殿は剣の腕が国で一番だという。

僕がそんな二人に敵うものは何もないのかもしれないけれど……トーカは渡したくない。

トーカが彼らのことを見て帰りたがるのか逃げたがるのかはわからないけれど……この家を出ていくと言い出したらどうしよう。


翌日、ジョシュア兄上と僕の家に帰るとトーカが部屋に鍵を付けて欲しいという。
どうしてそんなことを言うのか……

ヨシュア兄上をチラリとみるけれどどこか上の空だ……

トーカには楽しく過ごして欲しいからできれば閉じ込めるようなことはしたくない。

だから……トーカがずっとここに……僕と一緒に居たくなるようなことを考えなければ……

兄上達が帰りトーカと二日ぶりに二人で過ごせる。
嬉しくて抱き締めるとトーカの柔らかさと匂いに気持ちが落ち着く……

その日の夜、先に寝ていていいと言われた。
僕の部屋から兄上達が持ってきてくれて読み終わった本を持ってトーカの部屋へ行く。
ベッドに入って待っていたけれど、トーカの匂いに包まれると眠くなってしまいそのまま朝を迎えてしまった。

起きてもトーカはいないし、隣に寝ていた様子もない。
トーカは隣の部屋で寝ていた。
抱き締めて眠りたかった……今夜は一緒に寝ようと決めた。

それなのに……その日の夜

「私達が一緒に寝るのはよくないと思う」

そう言われてしまった。
それがすごく寂しくて子供のようにどうしてか聞き返してしまう。

そして恋人としての好きとは違う、と言われてしまった。
その言葉に胸が苦しくなる……

まさか好きな人がいるのだろうか……もしそうなら僕の事を好きになるまでこの家に……

「い、いないけれど……」

けれど……?

「覚えていないだけかもしれないし……だからやめて欲しいの」

覚えていないなら……そのまま忘れてしまえばいいのに……

そして……僕のことを見て欲しい。

兄上達にも同じように話すと言ってくれたから一旦は身を引くけれど……僕が眠るまで側にいて欲しいとお願いする。

僕とトーカの時間……

約束通りトーカは僕の部屋に来てくれたけれど……僕が寝たふりをするとトーカは本当に部屋から出ていってしまった。

しばらくしてから僕も部屋を出て階段を下りる。

リビングのソファーではミケネコサンが毛繕いをしていて僕に気付くとチラリとこちらを見た。
すぐに毛繕いに戻ったミケネコサンを横目にトーカの部屋へ向かう。

ミケネコサンのために少しだけ開いているドアをそっと開けて中へ入る。

ベッドにはトーカが寝ていて僕が近づいても気付かない。その安心しきった無防備な姿が可愛くて抱き締めたくなる。

トーカの髪を一房取り口付けをする。

「ねぇ、トーカ。子供は好き?」

………………

「僕も……好きだと思う。あまり子供と接したことはないけれど」

………………

「トーカとの子供は可愛いだろうね」

………………

「家族になったらここにいてくれるよね」


楽しみだなぁ……

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