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 ドアが開いた気がしてリビングを覗くとイシュマさんが帰って来ていた。


「あの、お帰りなさい。イシュマさ……」

彼が私を見る…………違う……イシュマさんじゃないっ

「だ……誰ですか」

イシュマさんとそっくり。双子?

「……覚えていないのか、昨日」

「兄上、イシュマがいるのか?」

もう一人現れた。この人もそっくりだけれどイシュマさんじゃない。

そういえば昨日……イシュマさんって三つ子なんだぁ、って思ったような気がする。イシュマさんも兄上って言っていたような……

「あ……の、すみません。イシュマさんのお兄さんですか? 昨日のことは熱のせいかあまり覚えていなくて……」

すると最初に入って来たお兄さんがツカツカと歩いてきて私の額に手を当てる。

「熱は下がったようだな」

そう言って私の全身を見る。
……そうだった……イシュマさんのシャツ一枚の姿だった……

急に恥ずかしくなり顔が熱くなる。

「わ、私……着替えてきま」

「ニャァ」

にゃぁ? 

バッともう一人を振り返ると彼の腕の中に三毛猫さんが……

「三毛猫さん!」

三毛猫さんに駆け寄り彼の腕から抱き上げようと手を伸ばすと……彼は片手で三毛猫さんを高く持ち上げた。

なっ!?

「あのっ……私の猫なんです……か……返して……ください」

ピョンピョンと三毛猫さんに手を伸ばして跳び跳ねる私をジッと見つめる彼……届かないっ

「この猫は俺が拾ったんだ。湖近くの木の上にいた」

やっぱり木に登っていたのか……

「大切な……私の大切な猫なんですっ」

ケガがないか確かめたい……

「珍しい毛色だよな」

そうなのだけれども……

「あの……」

全然三毛猫さんを下ろしてくれない……

「高く売れそうだな」

ニッと笑う彼に…………イラッとする私。

「フンッ」

と、がら空きになっている腹部にボディーブローをお見舞いする。

「グフゥッ」

とお腹を押さえる彼の腕から三毛猫さんを抱き上げる。
三毛猫さん……良かった……ケガはないみたい。

「三毛猫さんっ……ごめんねっ」

三毛猫さんにケガがないか確めて抱きしめてからうずくまる彼を見る。
病み上がりでまだ食事もしていないからそんなに力が出なかったと思うけれど……当たりどころが……よかったかな。

「お、お前なぁ……俺を誰だと……」

三毛猫さんが高く売れそうとか言うから。
お腹が空いてイライラしやすい時に……あと誰かは知らない。

プイッと顔を背けると家の入り口にイシュマさんが立っていた。

「イシュマさん……」

なんとなくホッとする。

「目が覚めたんだね。よかった」

そう言って優しく微笑むイシュマさんの笑顔と私の腕の中の三毛猫さんの温かさになぜかポロポロと……

「……イシュマさ……さん……あ、あの……」

涙がでる。なんで……
そんな私を見てギョッとする三毛猫さんを持ち上げたイシュマさんのお兄さん。

「わ、悪かったよ……からかったりして……」

そうなのだけれども、そうじゃない……

「み……三毛猫さん……が」

涙が止まらない……まずはお礼を言って自己紹介をしないと……

「あの……私……」

泣きながらだと上手く話せない……

「ミケネコサンが見つかったんだね、良かった」

そう言って微笑んでくれたイシュマさんに、私も笑ってありがとうとかごめんなさいとかいろいろ伝えたいのに私の涙は止まらずに本格的に泣き出してしまった。

三毛猫さんが私の腕の中にいる。温かい、ケガもしていないみたいだけれど眠たそうにしている。

「一度部屋に戻ろうか」

そう言って優しく私を誘導するイシュマさん。

「私も行く」

「俺も」

なんで? お兄さん達がそう言って何か荷物を持って一緒に部屋へ移動する。

三毛猫さんを私が寝ていたベッドに寝かせようとしたら

「少し待っていて、布団を替えるから」

そう言って持って来た荷物をほどくお兄さん達……
真新しいふんわりと寝心地の良さそうな、そして心なしか可愛い色合いのシーツと毛布……わざわざ買ってきてくれたの……?

「それとこれ、着替えとか使えそうなものを使って」

と渡された部屋着やワンピース……買ってきてくれたのかこちらも古着とかではなく新しいし、なんか良さそうな生地……

「お風呂にも入りたいよね」

そう聞いてくれたイシュマさんを見上げてコクリと頷く。

「兄上達が食事も持ってきているから先に入ってくるといいよ。その間に準備しておくから」

優しい……こんなに良くしてもらっていいのだろうか……

「ありがとう……ございます……」

そう言って頭を下げてまた泣き出す私に困り顔の三人。
お風呂はちゃんとお湯にも浸かれるようにイシュマさんが用意してくれた。

三毛猫さん用の籠も持ってきて中に毛布を敷いてフワフワにしてくれて……その気遣いも嬉しかった。

三毛猫さんを籠に寝かせて撫でてから着替えを持って少しお風呂の説明をするから、と言うイシュマさんとお風呂へ向かう。

「お湯も張ったからゆっくり入ってね」

石鹸やら身体を洗うタオルを出してからイシュマさんはお兄さん達の元へ戻っていった。

イシュマさんに借りていたシャツを脱ぐ。
お兄さん達が用意してくれた着替えを手に取る……肌触りのいいシンプルなワンピース。

着替える前にお風呂に入らせてもらえて良かった。

お湯をかぶってから石鹸を泡立てて全身を洗う。
石鹸のいい匂い……

泡を全て流してからお湯に浸かる。

温かい……冷たい湖の時とは違い身体の力が抜けてくる。

ふぅぅ…………気持ちいい。

三毛猫さん……無事で本当に良かった……
ホッとして油断すると泣きそうになる。

でもきっと外は寒かっただろうから……今はヒールも使えないし、しばらくは三毛猫さんの様子に気を付けておこう。

それに……もう一つ気がかりなことが……

ノバルトが……もしノバルトがフライを使っている時にこの力が消えていたらどうしよう……
怪我では済まない……もしかしたら……

私が熱を出したことなんて知らないだろうし……考えると怖い。

こんなことになるなんて…………

いや、ちゃんと考えなければならなかった。
以前もあったことなのだから。

これまでのことはノバルトにも話しているけれど、こうなったらどうするかまでは考えていなかったし相談もしていない。

三毛猫さんにも結界があるから安心、と思ってしまっていた…………


魔法はまた使えるようになるのか……わからない。

みんなに連絡できる方法は……イシュマさんに聞いてみよう。
もしかしたら街に行けば馬車で帰れるかも……

でも……そうだ……お金が……

魔法が使えなくなった時の事を考えていなかった……
備えって大事だなぁ…………どうしよう。

……あれ……本当にどうしよう。
どこか働けるところがあるか聞いてみようか……

街はここから近いのかな……そうだ、その前にここがどこか確認しないと。

レクラスのどこかかな……
ダメだ考えがまとまらない。

肩までお湯に浸かり目を閉じる。

まずは自己紹介とお礼、それから現在地の確認。
場所によっては帰り道が変わってくる。
ここから一番近い知っている場所を目指そう。

ここがどこにしろお金は必要になる。

イシュマさんにシャツを買って返して……あとは看病とか宿泊とかいろいろ持ってきてくれたもののお礼とか……

それから帰るためにかかるお金を稼いで……
住み込みで働けるところはあるかな……

このまま……魔法が使えなければ三毛猫さんを隠しての移動になるからしばらくは窮屈な生活になるかも知れないけれど大丈夫かな……

住み込みでの仕事がなければ今は宿代も持っていないからできればここから通いで働きに行けると有難い。

これからイシュマさん達に話さなければならないことと相談したいことがたくさんある。

お風呂を出て用意してくれたタオルで身体を拭く。

柔らかい……
こんなことがすごく嬉しく感じる。

ワンピースに着替えてリビングへ行くとお茶を飲んでいる三人が一斉にこちらを見る。


おぉ……本当によく似ている…………

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