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しおりを挟むルルーカ公爵家……大きい……シュゼット様のお屋敷を思い出す。もはやお城じゃん、と。
ルシェナ様が馬車を降りると
「おねーさまぁー!」
お屋敷の中から勢いよく走ってくる男の子。
おかえりなさいっ、とルシェナ様に抱きつく……
かっ可愛い!!
「ただいま、マイロ。そんなに早く走ると転んでケガをしてしまうわ」
ごめんなさい、と笑うマイロ様をギュッと抱き締めるルシェナ様。何て事だ……セットで可愛い……
三毛猫さんもシタッと馬車から降りると……トコトコとまっすぐマイロ様の近くに歩いていく。
マイロ様の足元をウロウロして後ろ足で立ち上がりマイロ様の手の辺りをスンスンしている。
子供の匂いが気になるのかな……
そんな三毛猫さんを気にしていると
「こんにちは、はじめまして。ボクはマイロです。あなたはだれですか」
ルシェナ様と私は同時にバッと両手で口を覆う。
何っ!? この可愛い子! のポーズである。
「はじめまして、こんにちは。私はノアです。今日からメイドとしてお世話になります、よろしくお願いします」
お辞儀をするとマイロ様は小さな声でルシェナ様にそうなのですか? と聞いている。
「そうよ、今日からノアには私の側に付いてもらうの」
そうですか、と納得したマイロ様が改めて私に
「よろしくおねがいします」
ニコリと微笑む……天使かっ!
でも……マイロ様はすぐに顔を曇らせてケホケホと咳をする。
「……さぁマイロ、お部屋に戻りましょう。また熱が出てしまうわ」
ルシェナ様がそっと部屋へ行くよう促す。
風邪をひいているのかな……それにしてもルシェナ様の表情が……
マイロ様がメイドさんに連れられてお屋敷の中へ。
私もルシェナ様に行きましょう、と言われ後に続く。
三毛猫さんも付いてきてね……ってぇええーー!?
タタッと私の横をすり抜けてマイロ様に付いて行く三毛猫さん……待ってせめて私のお部屋に案内してもらってからに……行ってしまった。
こんなに広いお屋敷だけれど私達……きっとまた会えるよね
……何て思っているうちに三毛猫さんの姿は見えなくなる。
いざとなったら三毛猫さんを探し出す能力を身に付けよう。……モフモフを探知できる能力……いいかもしれない。
思わずにやけそうになりながらルシェナ様の後ろを歩く。
ルシェナ様が途中で会ったメイドさんに私を部屋へ案内するように頼んでいる。
「ノア、こちらメイドのアリアよ。貴方のお部屋へ案内してくれるわ。制服に着替えたら私のお部屋まで来てね」
かしこまりました、と言うとルシェナ様は頷いてどこかへ行ってしまった。
紹介されたメイドさんに向き直り
「ノアと申します。よろしくお願いいたします」
そう言うと
「私はアリア。年も近そうだしもっと砕けた感じで大丈夫よ」
ニコリと微笑み自己紹介をしてくれたアリア。
たぶん私の方が年上だと思うけれど有り難くそうさせてもらおう。
「ノアのお部屋に案内するわね、こっちよ」
付いてきて、と言われ付いていく。
ルルーカ公爵家はお屋敷の中に使用人の居住スペースもあるらしく、もう一度外に出るということはなかった。
これだけ広ければ……そうだよね。
階段を上り一番最初の部屋の前でアリアがここよ、と立ち止まる。
「このお部屋から奥が女性使用人の部屋よ。一階は男性使用人の部屋。何か問題を起こしたら内容にもよるけれど、解雇されてしまうかもしれないから気をつけてね」
このお部屋は階段のすぐ近くだから長いこと空き部屋だったらしい。位置的に一番忍び込まれやすいからかな……
「どうしてこのお部屋なのかしら? もっと奥の方にも空いている部屋はあるのよ。後でもう一度ルシェナ様に確認してみようかしら」
あ、それはルシェナ様が私を男性だと思っているから……彼女達にも私にも気遣ってのことだと思う。
なんかすみません。
「私! 私が希望したんですこの部屋。階段のすぐ近く」
「そうなの? それならいいけど……なんでまた」
「……私めんどくさがりで……本当は一階がいいくらいなんだけれど」
アリアをチラリと見ると……プッと吹き出した……
「見た目とギャップがあるのね。でもねノア、もう少し警戒心を持った方がいいわよ」
手間を惜しんだせいで痛い目を見るかもしれないわ、と困った子を見るような眼差し……
「うん、気を付けるよ」
エヘヘ、と笑うとアリアも微笑む。
「それじゃぁ、少ししたらまた来るから着替えておいてね」
そう言って階段をおりていくアリア。
ドアを開けて部屋へ入る。うん、シンプル。
ベッドとテーブルと椅子とワードローブ。
とりあえず、メイド服に着替えよう。カイル様からいただいたワンピースにはクリーンをかけてハンガーにかけておく。
それから……少し考えてゲートを作り結界も張っておく。
短い間とはいえお風呂問題もあるし三毛猫さんにも好きなように移動してほしい。
ノックが聞こえて着替えたかしら、とアリアが様子を伺う。私はドアを開けて
「はい、お待たせしました」
クルリと回って見せる。
「フフフッ、完璧よ。似合っているわ」
ルシェナ様のところへ行くから付いてきて、と。使用人の居住スペースは後で案内してくれるらしい。
廊下を歩いて何度か曲がったり階段を上ったりしてルシェナ様のお部屋に着いた。
……もう自分の部屋に戻れる気がしない。とりあえず仕事をしよう……
「アリア、ありがとう。ノア、こちらへ」
アリアは失礼いたします、といってどこかへ行き、私はルシェナ様のお部屋に入る。
ソファーにかけてと勧められ座ると
「制服のサイズは大丈夫そうね。お部屋は……皆さんに変に思われないように女性の階のお部屋を用意したの。少しの間我慢してね。それから……」
といろいろと説明をしてくれた。
「弟の事を話していなかったわね」
ふいにルシェナ様の表情が陰る。
「マイロは5才であの通り元気なのだけれど……原因不明の発熱を繰り返すの」
お医者様には何度もみてもらっているらしいけれど……咳が出たり発熱したりするらしい。
「それから……母はマイロを産んでから身体が弱ってしまってお部屋からほとんど出て来ないの……」
産後の肥立ちが……ということかな……
お仕事から戻られたら父とは会えると思うわ、と。
ルシェナ様はこれから刺繍をする時間らしく
「ノアは一緒にいても退屈だと思うからお散歩をしてきたらどうかしら。お庭も自由に歩き回っても大丈夫よ」
それは……嬉しい! 皆さんお仕事をされているから申し訳ないけれど……有り難くそうさせてもらおう。
「それでは、また後程ルシェナ様のお部屋へ参ります」
ルシェナ様と別れて廊下を歩きながらどこへ行こうかなと考える。考えてもどこに何があるのかはわからないのでとりあえず庭に出てみることにした。
綺麗に手入れをされている庭を歩いていると……迷った……庭で迷うってなに? と一人で考えながらも、まぁいざとなったら上から見れば帰れるし、と歩き続けた。
しばらく散策していると馬の鳴き声が聞こえた。そちらへ向かうと柵の向こうにはパカパカと数頭の馬達……と鶏……とウサギ。ここは天国か?
鶏小屋とウサギ小屋もあるけれど今は外で自由に過ごす時間みたい。私と同じだね。
怖がられたら嫌なので、心を無にして近づく。
柵の向こうの馬達が近づいて来る……子馬もいる! 可愛いっ……お、落ち着け……落ち着け……
子馬に手を伸ばすと鼻先を近づけてくる。そっと頬を撫でると私の手に寄りかかってくる。幸せ。
すると鶏とウサギも集まってきた。
「ちょっと待ってね」
そう言って周りをキョロキョロと確認する。よしっ誰もいない。
じゃぁフライで、と思ったけれど一応よいしょっと足をかけて柵を越える。
動物達が集まって来てたくさん触らせてもらう。
小鳥やどこからかリスもやって来た。
草の上に座ると膝や肩や頭の上にも小動物達が乗ってくる。温かいしフワフワ……小鳥のさえずりと馬達の草を食む音……眠くなる……目を閉じて……コテン……
心地よい風と耳元に草が揺れる音がする……
何かの足音が近づいて来る……目蓋が重くて目が開けられない……まだ寝ていたいのに……
それでも足音はどんどん近づいてきて……突然身体が軽くなる……
動物達が離れていって……温もりがなくなってしまった……
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