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 バレた…………バレた!?


まずいっ……そう、まずいっという私の表情を見た察しのいいお三方はそのまま

「……あぁ、よろしく」

と知らない振りを続けてくれた。
ありがとうございますっ! さすがっ仕事の出来る人達だ……ぅ……泣いちゃいそうっ

でも今度はバレた事をカイル様に悟られないようにしなくては……

他の使用人の人達と一緒にイアン様達を席へご案内する。
き、緊張する……落ちついていかなければ……

「こちらでございます」

カイル様が立ち上がり

「やぁイアン、よく来たね」

そう言って侯爵家側の使用人を私以外下がらせる。
……意地悪をされる気しかしない……
それとも……いや、やっぱり意地悪をして楽しむ気なのかな?

「カイル様、お時間を頂きありがとうございます」

イアン様がそう言うとカイル様の眉がピクリと動き

「そんなよそよそしい態度はよしてくれ。学生時代のように砕けた感じで頼むよ」

「そうか、ならばそうさせてもらう」

態度変わるの早っ……イアン様……
けれどもそんなイアン様を見てカイル様はクスクスと笑い……嬉しそう……? 何だか意外だ……

お二人がお茶を飲み話し始める。

「カイル、うちのノアは元気かな?」

イアン様ナイスです。ナイスしらばっくれ。
カイル様は楽しそうに

「あぁ、私のノアは元気だよ。申し訳ないね、イアンのところからこちらに来てもらって」

私のノア……だと?

「しばらくの間、だろう?」

そーだそーだぁ! 短期? のはずだー!

「そのつもりだったのだけれどねぇ、せっかくノアと仲良くなれたし相性もいいのにすぐに別れるのは寂しいだろう?」

こっちを見ないで。あと相性ってなんだ。

イアン様はなぜそのメイドを見るのか……と不思議そうな顔……演技上手いです。
ハリスさんとセドリックさんもチラリとみただけですぐに視線を戻す。

「ノアには会えるかな、彼の意思も確認しなければ納得はできないよ」

皆さんの演技が上手すぎてここでの一番の不安要素は私のような気がしてきた……

「今は……用事を頼んでいるから難しいかな、次に来た時は会えるかもね」

またイアン様に来させる気か……二人とも侯爵家と伯爵家の後継者として忙しいのでは……

「ローガンにはリアムから謝罪があっただろう。もう十分ではないか?」

「………………」

カイル様がカップを持ちお茶を……溢す……股間の辺りに……

「おっと、失礼。ノア拭いてくれるかな」

この人は……思わずため息が出そうになる。

「そうそう、彼女もノアという名前なのだよ。ね?」

ね? じゃない。気付かせようとするんじゃない。

「まぁ男女共に付けられる名前だからな」

たいして興味もなさそうにイアン様が言う……
演技が上手すぎてちょっと傷つく……いや、大丈夫です……
そのままいきましょう。

「ノア?」

ほら、とカイル様からナプキンを渡される。
仕方がなくしゃがみこむ。

「優しく頼むよ、ノア」

なんか屈辱的……トントン……とお茶のシミがあるところを軽くたたく。

「……上手だよ、ノア」

どうでもいいけれど名前呼びすぎじゃない? あと頭を撫でないで……後ろから見られるとなんかいやだ。

「あぁ……ノア……そんなにしたら……」

思わずクリーンをかけそうになると

「着替えた方がいいのではないか?」

イアン様っ……

「私もそろそろ失礼する」

「そうかい? もっとゆっくり話がしたかったなぁ」

カイル様が残念そうに言う。

「今度はうちのノアも呼んでおいて欲しいものだな」

そう言って立ち上がるイアン様。
歩きだそうとするイアン様に、ノアお見送りしてあげて、とカイル様に言われる。私以外の使用人は下がるよう言われているから私だけ……

これはお話が出来るチャンスッ

イアン様達の前を歩き案内をすると後ろから

「ノア……大丈夫か?」

イアン様がそっと呟くように聞いてくる。
コクリと頷く私に

「すまない、すぐに連れ戻してやれなくて……」

そんなことない、ここまで来てくれた。リアム様は私の代わりに謝罪してくれた。胸が熱くなる……
少しだけ後ろを見て

「イアン様、ダンストン伯爵家にご迷惑をお掛けして申し訳ありません。私の自業自得なのに……来てくださってありがとうございました」

馬車の前でイアン様、ハリスさん、セドリックさんと向かいあう。

「ノア、確認したいのだが……」

ハリスさんが少し言いにくそうに聞いてくる。

「カイル様に身体を許しては……いないか?」

身体を許す……際どいことはされた……かも……いろいろと思い出して顔が熱くなる……
そんな私を見て息をのむ三人……違う違うっ!

「許していませんし、許すつもりもありませんっ」

それを聞いてホッとする三人……どれだけ心配をかけているのだ私は……
万が一、男女どちらかの性別がバレたとしても身体を許すつもりはないっ……そんな理不尽なこと……

「ならばノア、それは隠した方がいいかもな」

セドリックさんが首元をトントンと指差しながら言う。

? なに? 鏡がないからわからない……何のこと? とわかっていない私の表情をみて

「所有痕がついているぞ」

所有痕? 所有……痕……キスマークのことっ!? ウソ!?
首を押さえてもわからない……いつの間にっ……恥ずかしさでジワリと目に涙が溜まる。

そんな私を見てイアン様が自分のスカーフを外そうとするけれど、それをハリスさんが止める。

「それでは悟られてしまいます」

するとセドリックさんがスカーフを外して私の首に巻いてくれた。

「ほら、これで大丈夫。私にみっともないと言われたと言えばいいよ」

大丈夫だから、とそう言って頭を撫でてくれた……
スカーフを巻かれコクリと頷く私を見て三人が微笑む。

少し強引な手段を考えなければならないかもな……とイアン様が馬車に乗り込む時に呟いた気がした……


三人を見送り、カイル様のもとに戻りながら今朝私を助けてくれた使用人の男性のことを思い出す。

あの時の「大丈夫ですか?」はこの事だったのか……
他の人達にも見られているよね……
付けられたことに全く気が付かなかった……

カイル様はまだイアン様とお茶をしたテーブルについていて私が戻るとご苦労様、と言い

「そのスカーフは?」

やっぱり聞かれたからセドリックさんに言われたことを少しだけアレンジして

「悪い虫に刺されたみたいです。イアン様のお付きの方がみっともないからとスカーフを貸してくださいました」

カイル様はふぅん、と言いそれ以上は何も言われなかった。
ボンヤリとテーブルの上のカップを見ているようなイアン様の座っていた椅子を見ているような……何だか拍子抜けする。

「……イアンはまた……」

? カイル様が何か呟いたけれどもよく聞こえなかった。
私が首を傾げると

「イアンは相変わらずだったな。ところで……」

ニコリと笑顔を作り私を見る。

「イアンは君がノアだと気付いていたよね?」

!? お、おお落ち着け! イアン様とハリスさん、セドリックさんの演技は完璧だったっ……私も大丈夫だったはず! 

「気付いてはいないですよ。カイル様がくれた制服と下着とカツラのお陰で」

制服以外は使っていないけれど。

「そうかな? ……まぁ、もう少し楽しもうか」

今度は本当に笑っているようにみえる。

「さて、着替えを手伝ってもらおうかな」

それはちょっと……

「一人で着替えられますよね、私はこれで失礼します」

そう言って先輩メイド、ミアのようにスタスタと歩き出す。たまには反抗しなければ。

カイル様の機嫌がよさそうだったからそうしたのだけれど……後ろからはクスクスとカイル様の笑い声が聞こえてきた。


カイル様はやっぱり機嫌がよかったみたい……


    
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