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しおりを挟む寮の部屋に戻り三毛猫さんを探す。
ここにはいないみたい、山の家かな。
今日の夕食は山の家で食べよう。
そう決めてゲートをくぐる。
庭を見ると三毛猫さんと熊さん親子とキツネさん親子……とノクト。
三毛猫さんとみんながじゃれ合っている中、ノクトが剣を構えて集中している。
ヒュンッと空気を切る音がしたかと思うと立て続けに剣を振るう。
まるで舞っているかのような優雅な動きに思わず見とれてしまう。
「トーカ?」
オリバーが温室から出てきた。
「お帰り、トーカ」
「ただいま、オリバー。植物を見てくれてありがとう」
「ノシュカト殿下にも頼まれているしな。俺も植物は好きだから」
そう言って微笑むオリバー。ノシュカトの話を聞いているうちにオリバーも植物に詳しくなり好きになっていったらしい。
「ノクト殿下の剣裁きは見事だな」
「うん、初めてみたかも。綺麗だね」
と、ノクトに視線を戻すとこちらを見て微笑んでいた。
「トーカ、帰っていたのか」
「うん、ただいま。ノクト」
皆で夕食を食べようということになり、熊さんとキツネさん達も来ているからマジック冷蔵庫から食事を外へと運ぶ。
二人も手伝ってくれたからあっという間に準備ができた。
「レクラスでの生活はどうだ?」
食事をしながらノクトに聞かれる。
きっといろいろとあったあの事件のことも知っているのだろうけれど……
「仕事も楽しいし、いい人達にもたくさん会ったよ。それから自慢の友達ができた」
エヘヘ、と笑うと二人も嬉しそうに笑ってくれた。
「兄上達にも会えたみたいだな。こちらに戻るのはもう少し先になるようだ」
あの事件の後始末とお城でのパーティーもあるしね……
「私もお城のパーティーに招待してもらったよ」
「パーティーにはどちらで参加するのかな」
オリバーに聞かれて一瞬考える……あぁ、
「女性としてだよ。男性の姿では伯爵家のお屋敷で働いているし、この前のお茶会でたくさんの貴族に会ってもいるからね」
「エスコートは兄上が?」
「うん、お願いしたよ」
「そうか、それならば安心だな」
私は安心だけどノバルトが恥をかかないか心配……
「トーカ、踊らないか。俺達はパーティーには参加できないからな」
ノクト……もしかしてノバルトが恥をかかないか心配して……
いや、私の練習に付き合ってくれるのか。有難い。
「ありがとう、お願いします」
そう言うと二人とも微笑んで頷いてくれた。
食事が終わり片付けてお茶をいれる。
一息ついてからまずはオリバーに手を差し出される。
オリバーの大きな手に私の手を重ねる。
知り合った頃にオリバーが言っていた事を思い出す。
身体が大きくて怖がられる……特に女性には……と。
オリバーが愛馬のグリアを撫でる優しい手、植物の世話をする優しい手、戦いの最前線でボロボロになっても最後までみんなの盾になろうとする強さ……
こんなに強くて優しい人はいないのに……
あ、でもザイダイバではモテていたなぁ、逞しい男性がモテるとか……
身体を引き寄せられオリバーの体温と逞しさを感じる。
「オリバー、ザイダイバでたくさんの女性に囲まれていたけれど……恋人とかできたのかな……?」
聞いた後に少し踏み込み過ぎたかなと思ったけれど
「恋人? いないよ。身体が大きくて女性に囲まれたのは初めてだったけれど」
と困ったように微笑み答えてくれたオリバー。
「ザイダイバに移住とか考えてたり……?」
ガイル様率いる騎士団との関係も良好なようだし、領地はお兄さんが継いでいるし……もしザイダイバで恋人が出来たり結婚を考えたりするなら優しいオリバーは女性の近くに住むことを考えそうだなと思って聞いてみた。
「? どうして? ザイダイバにはトーカが居ないだろう?」
……っぐ……キョトン顔のオリバー……天然かっ……
「トーカ、ダンスが上手くなったね」
さらっと話題が変わった……
「一番最初に練習に付き合ってくれたオリバーの教え方が上手だったからかな」
フフフッと笑いあうと……ふいに眉を下げ
「トーカ……無理はしていないか」
レクラスでの事かな……
「うん、無理は……ちょっとしたかもしれないけれど周りの人達に助けられたかな」
エヘヘ、と笑うと抱きしめられた。
「いつでも帰って来られる場所があることを忘れないで……」
ありがとう、オリバー……
「ところでトーカ、あの時のあの下着……レクラスで買ったアレ、誰にも見せていないよね?」
オ……オリバー……今いい感じの話をしていたのに……
不安そうな顔……本気できいているなこれは……
「……見せていないよ、というかあれ以来しまいっぱなしだよ」
タンスの肥やしとはこの事……あの後シュゼット様とお話をして一旦落ち着いたからね。
まぁ、気分も上がるし履き心地も良かったからその内普通に使うこともあると思うけれど。
「そうか……よかった」
そう呟きホッとしているオリバーにエスコートされてノクトの元へ。
ノクトの手を取る。
いつも涼しい顔で余裕な王子様をしているけれど、皆が見ていないところでたくさん努力をする人なのだと思う。
綺麗に整った顔に反して重ねた手の平は皮が厚く固い。
この国一番の剣の腕と言われるまでどれ程の努力をしてきたことか。
あと、意外と筆まめ。以前もらった手紙を思い出してフフッと微笑むとノクトが何だ? と首を傾げる。
「ノクト、手紙をありがとう。私からはあまり返せなくてごめんね」
時々ゲートのポストにノクトからの手紙が入っている。
愛馬のメイヒアのことやメリッサメイド長、メアリのこと、孤児院のみんなのこと。
私と関わりがあって私が気にしているであろう人達のことを書いてくれている。こういう気がきくのだ、彼は。
「読んでくれているならそれでいい」
そう言ってくれたけれど、手紙の後半は大抵ラブレターをもらっているような気にさせられる内容になっていく……結びの挨拶みたいにさらっと……
女性に手紙を送るときはそうしなくてはいけない決まりとかあるのかな……わからない……
不思議なことに会うとそんな気配はないような気がする。たまにあるかもしれないけれど手紙程ではない……
むしろ若干失礼なくらい笑われたりする。
「トーカ」
ふいに呼ばれて顔を上げるとノクトと目が合う。
「トーカ、早く帰ってこい」
そう言って微笑むノクト。私が帰って来る場所はこの国だと言ってくれている。
二人の優しさに胸が温かくなる。
「ところであの時のあの下着、誰にも見せていないだろうな」
おっ……とぉ……また油断した、いい感じだったのに……
「見せてないってば、あれからしまいっぱなしだし」
なぜこんなことを報告しなければならないのか……
ノクトはそうか、フッと笑い
「ならばそれは俺が預かっておこう」
なんでやねん。
「なんでや……」
……危ない……あまりのことに心の声をそのまま口にするところだった……
「どうせ使わないのだろう? 帰って来るまで預かっておく」
「だからどうして」
「手元に置いておくとうっかり使ってしまうかもしれないだろう」
何だろうこれ……私の知らない常識かなにか?
でもさすがに預けるのは恥ずかしすぎる、断固拒否だ。
「ノクト……なんか変態っぽいよ……」
「っ……なっ……」
はい、そこ心底驚かない。悪気がないことはわかっている。
「お、俺はただ……」
「わかっているよ、心配してくれているのでしょう? でも大丈夫だよ。ちゃんとこの家の私の部屋にしまっておくから」
「だからそれがっ……」
ギャーギャーと言い合いながらオリバーの元へ行く。
なんだこの色気も何もないやり取り……手紙の中のノクトはなんなのか……
このちょっとずれた心配の仕方……
繋がれたノクトの手の厚さとオリバーの人柄でチャラになってしまうから不思議だ…………
……ん? ……チャラ……に……なるか……?
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