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しおりを挟む自転車や車やバス、電車に飛行機の話をすると皆さん驚いていた。
皆さん興味深く聞いていたけれど、中でもローズ様は驚くだけではなくさらに詳しく教えて欲しいと言ってきた。
少し意外かも……と思いながらも子供のように目を輝かせて聞いてくるローズ様は可愛い。
絵も描いてと言われたので描いたけれど私は中の仕組みまではわからないので、絵も話せる内容も外側の形と燃料くらいのものだ。
「すまない……あまり周りの者達には言っていないのだが、ローズはカラクリが好きなのだ」
女性には珍しく……とロイク殿下が教えてくれた。
ほう……そうか……私の絵を見ながら仕組みを考え始めている……大丈夫かな……こんな話をして大丈夫だったかな……
ノバルトを見ると腕を組み顎に手を当てて私の描いた絵をじっと見ている……ちょっと待って……頭の中で組み立てないで……
この二人が組んだらあっという間に空の移動も可能になってしまうかも……
便利になるのはいいことなのかも知れないけれど……こういうのはこの世界のペースで発展していった方がいいような気がする……
ローズ様は特に陸を長距離移動出来て、人も物もたくさん運べる電車に興味があるみたい……食い付き方がオタクのそれだ……
オタクと天才……なんか不安になってきた……
不安が顔に出ていたのかノバルトが唇に人差し指をあて、こちらを見て微笑む。
また心を読まれたのか……ローズ様には言わないよって事かな……
ま、まさかもう完成していないよね? ノバルト……
それから家族の事を聞かれて両親と双子の弟がいることを話すとセオドアが
「双子か……たしか東のベゼドラ王国の王子も双子だったな」
そうなんだ。
「ああ、しばらく会ってはいないが見分けがつかないほど似ていたな」
ほう、うちの双子の弟達もそっくりで子供の頃はよく両親や友達をからかって遊んでいたな……
私だけはいつも見分けられていたから、そんなことをしていたら嫌われるよ、と叱っていたのになぜかシスコンに育つという謎の成長を遂げた可愛い弟達……懐かしい。
両親も普段は見分けがつくけれど、ちょっとした癖や雰囲気を入れ替わるように真似をされると混乱するようだった。
そんなことを思い出してフフッと笑いながら顔をあげると皆さんが優しい表情で私を見ている。
「ご家族のことを思い出しているのかしら? とても優しい表情をしているわ」
ローズ様も優しい表情をしている。
「はい……」
「トーカは……いずれ元いた世界に帰ってしまうのかしら……」
帰ることを考えてみるけれど……
「それが……どうやってこちらに来たのか……突然この世界に来てしまったので帰り方もわからなくて……もしかしたら突然消えてしまったりするかもしれないです」
アハハ、とあまり重い話に聞こえないように笑いながら言うとノバルトが私の手を握る。
まるでこの世界に私を繋ぎ止めておくかのように強く…………つ、強い……ちょっと痛いかも……でも温かい……
「ではご家族とはもう会えないかもしれないのですか? あちらの世界で心配されているのでは……」
ロイク殿下……そうなんです。そうなんですけど、
「こちらの世界に来てから一度夢の中で話をする事ができたので……本当にただの夢だったのかもしれないけれど、私の家族はどこへ行っても精一杯生きなさいと言ってくれました」
大切な人達に囲まれて好きな人を愛し愛されるような人生を……
ギュッとノバルトの手を握り返す……思わずそうしてしまったことに自分でも驚きながらノバルトの顔をチラリと見る……と……
……うっ……っ胸がっ……くるしっ……
甘く優しい微笑みに少しだけ染まる頬……嬉しそうな表情……ノバルトの気持ちが伝わって来るみたいで何だか……
どうしたらいいかわからなくてプイッと顔をそらしてしまう。
恥ずかしくて皆さんの顔もみることが出来ない……
そういえば、とローズ様が空気を読んで話題を変えてくれる。
「トーカは今ダンストン伯爵家で働いているのよね? トーカさえよければここにお部屋を用意することも出来るのよ。お客様としてお迎えするわ」
ローズ様……
「ありがとうございます。でも、今のお仕事も楽しいしダンストン伯爵家の皆さんにはとても良くしていただいているので引き続きお世話になろうと思います」
「そう……それでは今度マーサと三人でお茶会をしましょう」
私が街へ行くわ、とこっそり私に囁くローズ様……可愛い。
ロイク殿下は困ったコを見るように微笑む。
聞こえているみたい……きっとこっそり護衛をつけるのだろう。
ローズ様のお陰で落ち着きを取り戻す事ができた。
手は握られたままだけど……
「そうだわ、今度お城でパーティーがあるの! トーカにも来て欲しいわ、ご招待してもいいわよねっ、お兄様!」
ローズ様……いいこと思い付いた! みたいに言っているけれど……お城のパーティーかぁ。
ダンストン伯爵家でノシュカトとリュカ様をお迎えして大々的にお茶会をしたのでお城ではパーティーをするらしい……
「ローズ様、お誘いは嬉しいのですが、私はダンストン伯爵家で使用人として働いています。先日のお茶会でもたくさんの方にお会いしていますし……使用人としてでしたらお手伝いは出来ると思います」
ローズ様はフフッと笑い
「あら、でもそれは男性の姿よね? 女性の姿は誰も知らないのではなくて? 他国からの留学生ということにもできるし大丈夫よ!」
セオドアと目が合いお互い苦笑いをする。その設定で痛い目をみた事があるよねぇ……って……
「エスコートはノヴァルト殿下にお願いできますか?」
ロ、ローズ様びっくりするくらい話をどんどん進めていくな……ちょっと待ってください
「ちょ」
「トウカ、私にエスコートをさせてもらえないだろうか」
……と待って……が間に合わなかった。
「ノバルト……」
トウカ……と縋るような目で見つめられ……
ズルいっ……その目はずるいよノバルト……
お……おぉ……
「……お願いします……」
キャーッ楽しみね! とはしゃぐローズ様と断れなかった私……ロイク殿下をチラリ……すまない、と聞こえてきそうな表情……いいんです、大丈夫ですよ……
「トーカとダンスをするのは久しぶりだね」
ソウダネ……ノシュカト
「俺とも踊ってくれよ」
モチロンダヨ……セオドア
これ以上何かが決まる前に帰ろうと思う。
「そろそろ寮に戻りますね」
立ち上がろうとすると
「送るよ」
とノバルトも立ち上がる。
皆さんと挨拶をして、ローズ様からはまた後程パーティーの日程をお知らせするわ、と言われてお別れをした。
ノバルトとバルコニーからフワリと飛び立つ。
手はずっと繋がれたまま……
「パーティーのこと……少し強引だったね」
すまない、と眉を下げて微笑むノバルト。
「私、踊れるかな……しばらく練習もしていないし」
そう言うと抱き寄せられ身体が密着する。
「少し練習をしようか」
浮いたまま私をリードするノバルト
「ドレスは私に贈らせて欲しい……無理はさせないからね」
コルセットの事かな。有難い。
「ありがとう……ノバルト」
少しだけパーティーが楽しみになった。
フフッと笑うとノバルトも微笑む。
それからもう少し空のダンスを楽しんでから寮まで送ってもらった。
三毛猫さんにお城のパーティーの事を伝えなくちゃ。
一緒に来てくれるかなぁ…………
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