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しおりを挟む向かう先はレクラスのお城だ。
マーサがいなくなってもう一週間だ。
なりふり構っていられない。
お城に着き最初に見つけたのは以前来た時に見た王子だ。ロイク殿下だったかな……執務室で仕事をしている。
バルコニーに降り立ち結界を解き風魔法で窓の鍵をあける。
私の気配に気が付き驚きながらもすぐに剣を取る王子。
話はできるだろうか……ここに来て失敗したかとも思ったけれども私が普通に会いに来て会えるはずはないから仕方がない。
窓を開けて中へ入る。
「何者だ!?」
「突然申し訳ありません。私は……トウカと申します」
ダンストン伯爵家の使用人としてではなく私としてここに来たのだからこう名乗った方がいいと思った。
「どうやってここへ……」
「お聞きしたい事がございます」
失礼は承知でこちらの話を聞いて答えて欲しい。
「行方不明になっている方々の事で何かわかっていることはありますか」
「お前は一体何者だ? なぜそんなことを聞く」
剣はまだ向けられたままで警戒されている……
「……私の友人が一週間前から家に戻っていなくて……わかっていることがあれば教えて欲しいのです」
そう言うとロイク殿下は剣を向けながらも私に同情しているような表情を向ける。
「……多くの者が行方不明になっている事は知っている。こちらで慎重に調べているから任せて欲しい」
口を挟むな……と言うことか。確かに慎重に動いているのに突然私みたいな者に台無しにされては……と考えるのが当たり前か……
「……わかりました」
そう言ってクルリと窓へ向かい三毛猫さんと一緒にバルコニーから飛び降りる。
「おいっ」
飛び降りたと思ったロイク殿下がバルコニーから下を覗くけれど私はいない。
結界を張って移動して今度はローズ姫を見つける。
同じようにして部屋へ入る。フワリと風が部屋に吹き込みローズ姫がこちらを振り返る。
…………泣いていたのか。
驚きで大きく見開かれた目からポロポロと涙が溢れる。
「ローズ姫、驚かせてしまい申し訳ありません。行方不明になっている方々の事でお聞きしたいことがあります」
「貴方は……? 一体どうやって……」
「申し遅れました、私はトウカといいます。マーサが……私の友人が一週間程前から家に帰っていないのです」
「マーサ……鉄の鍵のマーサ!?」
ローズ姫が更に驚いている。……マーサと知り合いなの?
「あなたっマーサがどこにいるか知っているの!? 彼女は無事なの!?」
……私が聞きたい事を聞かれてしまった……
「ローズ姫、私もそれをお訊ねしたかったのです……マーサとはお知り合いなのですか?」
私の言葉を聞いてポロポロと涙を溢しながら
「……マーサは私の大切なお友達なの……いなくなってしまって私……」
ローズ姫とマーサがどうして知り合って友達になったのかはわからないけれどマーサのためだったのか……
私が初めてお城を覗いた時も今も痛々しい程に泣いていて私も泣きそうになる……
「私は初めてレクラス王国に……この街に来たばかりの時にマーサに助けられました。それから彼女の宿屋にも連れていってもらってご飯も一緒に連れて行ってくれたりとてもお世話になったのです」
少しでも落ち着いてもらおうとマーサとの事を話したけれどマーサの笑顔を思い出して泣きそうになる……
「……わ、私……も、彼女に助けられたのよ……」
泣きながら少しだけ微笑むローズ姫。
お城からこっそり抜け出して一人で街へ行った時、男性にしつこく絡まれていたところをコラッ、とマーサが助けてくれたのだとか。
私と同じですね、と言いローズ姫と顔を見合わせて微笑む。
「マーサはいろいろな所に連れていってくれたし教えてくれたわ……おそらく……私が何者かは気が付いていたかもしれないけれど何も聞かずにお友達になってくれたの」
だから彼女が困っている時は私が必ず力になると決めていたのに…………と再び涙を溢す。
「……お、お父様やお兄様に……聞くことしかできなくて……それなのに何も教えてもらえなくて……」
……でも……もしかしたら少しでも私が知らないことを知っているかもしれない。
「私は……本当に何もわからなくて……これまで行方不明になっている方々は拐われたのですか? 一体どこに……何か見当はついていないのですか?」
「……マーサがいなくなる前に、お父様とお兄様が……お話しをしているのを少しだけ聞いてしまった事があるのだけれど……」
と、ローズ姫から一番聞きたくなかった言葉が……
「……人身売買…………?」
「ええ、確かにそうお話をしていたわ……だからマーサがいなくなってしまって私……どうしたらいいかわからなくて……」
ザワザワと不安が押し寄せてくる。人身売買の事なんて全くわからないけれど、一週間もあれば……嫌な考えが頭をよぎる。
三毛猫さんは私をジッと見つめている。
突然ノックの音がする。
ローズ姫がどうしようか迷っていると
「トウカ……」
私の名前を呼ぶ声が……
「ノヴァルト殿下……?」
ローズ姫が戸惑いながらもドアを開けるとそこにはノバルトとロイク殿下が……
「トウカ」
ノバルトが私の名前を呼んで真っ直ぐに私の目の前にくる。そして頬に手を伸ばして
「泣かないで……」
泣いてなんかいない……
ノバルトに抱きしめられて彼の服が私の涙で濡れていく……
「……っノバルト……お願い……っ」
泣きながらそう言うとノバルトの腕に力が入る。
「あぁ、わかっている」
少し落ち着いた方がいいと、ローズ姫とソファーに座るように言われた。
三毛猫さんは私の膝の上に乗り大丈夫? というように見上げてくる。ノバルトの顔を見たら……安心してしまった……
それからノバルトがお茶を入れてくれた。
ロイク殿下とローズ姫は驚いていたけれど久しぶりにノバルトがいれてくれたお茶と膝の上の三毛猫さんは私を落ち着かせてくれた。
「ノヴァルト殿、そちらの方は……」
ロイク殿下が少し遠慮がちに聞いている……
突然現れて乱暴な初対面を果たしてしまったからには何と言われても仕方がない……ノバルトに迷惑をかけてしまった……
「彼は……」
と言いかけてノバルトが私を見て微笑む。
「彼女は私の大切な人だよ」
彼女は私の大切な人だよ……私の大切な人だよ……
顔が熱くなりノバルトの方を見ることができない……
「彼女……? 確かに可愛らしい方ですが、髪は短いし服も男性ものだが……」
ロイク殿下、ごもっともです。
「それにまだ説明していただいていませんが彼女……? は私の部屋のバルコニーから飛び降りて消えたのですよ!?一体どうやってローズの部屋に……」
ノバルトが少し困ったように微笑んでいる。
ごめんなさい。
私はお二人の事はよく知らないけれど、ノバルトが大丈夫だと思うのなら私はいいよ、と頷く。
あんな説明のできない事をしたのに私がどうしたいか決められるようにここまで何も言わずに来てくれたのか……
「彼女は私の大切な人で特別な人なのだよ……だからお二人ともこれから見ること、聞くことは口外しないと約束して欲しい」
そう言うノバルトの方を見る事が出来ない。
ロイク殿下とローズ姫がよくわからないけれど……ノヴァルト殿がそう言うなら約束する、と頷いた所は見ることができた。
それでは、
「「!?」」
真っ直ぐで艶やかな長い黒髪がフワリと舞う。開いた目の色も黒だ。
黒髪に黒い目……? とロイク殿下とローズ姫が驚いている。
「やはり私はこちらのトウカが……」
そう言ってノバルトが私の髪を一房手に取り口付けをする……
私とローズ姫の顔は赤くなりロイク殿下は茫然としている……
「先ほどは突然押し掛けてしまい申し訳ありません。友人が心配で取り乱してしまいました……」
そう言って頭を下げる。
ロイク殿下はこめかみを押さえて、いや……いい、気にしないで……下さい。……ノバルトが大切な人とか言うから対応に困っている様子……すみません。
聞きたいことはたくさんあると思うけれど、今はそれどころではない。
後で必ず説明するからと約束をして行方不明になっている人達の事を聞く。
ノバルトが説明する、と言い思いもよらない人物の名前を聞く事になった。
この件にはコリンヌが関わっている、と……
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